88回 201058月の『人民日報』(2011212日)

 

20100507

●東北4省・自治区の行政トップによる協商制度がスタート

黒龍江省と吉林省、遼寧省、そして内モンゴル自治区の党と政府のトップが集まり、「東北4省・(自治)区行政首長聯席会議が初めて開かれ、「東北4省・区合作行政首長協商システム」の設置で合意した。

内モンゴル自治区を除く3省では、これまで立法面など多種にわたる協力を展開してきており、2004年からは瀋陽、大連、長春、ハルビンの4市が市長サミットを開いている。

会議では、総額3000億元を投資し、東北の石炭などのエネルギー資源を南に送るライン、そして中国とモンゴル、中国とロシアの間に数千キロメートルに及ぶ鉄道ラインを建設し、現在の現東北と南北を縦貫する主軸である「チチハル=大連経済ベルト」と「遼寧沿海経済ベルト」のT字型発展から、さらに地域経済の一体化、相互利益の発展を進める計画が提起された。

省・区を跨いだ地域の協力のカギは、行政障壁を有効に打破し、産業協力を促進することである。例えば、黒龍江省と遼寧省の大連特殊鋼、撫順特殊鋼、北満特殊鋼は製品構造が似ているため、省を跨いだ全国最大の特殊鋼集団に再編し、5年で大きく発展した。(吉林省の)第一汽車では一部の重点項目の生産工場を遼寧省沿海の経済ベルトに移し、(上海の)大衆汽車集団と協力して15億元を投資し、大連に30万台の乗用車のエンジン生産工場を建設し、港に近く交通に便利で、第一汽車の市場での販売環境が大きく改善された。

 

東北4省・区の行政トップの聯席会議が開催されたのは画期的なことだと思う。こうした聯席会議は、長江流域や華南地区でこれまで開かれたが、その時、党や政府のトップが一同に介したかどうか。私の記憶ではそれはなかった気がする。トップが集まって、特に経済分野での協力を進めようというのだから、その本気度がうかがわれる。しかし、じり貧の東北4省・区だから、背に腹は代えられないという状況の現れともいえる。長江流域や華南地区に比べ東北4省・区は地味なので、これくらいやって注目を集め、存在感を示さなければという危機感もあるのかもしれない。

こうした会議は必ずしも定期的に開かれてはいない。しかし、継続的に開かれれば、その意味は小さくないし、新たな地域協力のモデルになるかもしれない。

ここで興味深いのは、これまで聞き慣れているのは「東北3省」だが、これに内モンゴル自治区が加わって「東北4省・区」となっている点だ。内モンゴル自治区は、2000年以降、西部大開発が注目されたときには「西部」を名乗っていた。今回は「東北」。ご都合主義だなあと思うが、嗅覚の効く指導者が優秀なのか。

もう1つ興味深いのは、すでに特殊鋼企業の再編や、自動車企業の協力など、省を跨いだ企業の協力が実績を上げている点だ。これらは行政の力によって実現したものだ。ならば今さらこんな聯席会議を開かなくてもと思うのだが、これらの成功例は11の省を跨いだ協力である。そうすると、この聯席会議のポイントは、内モンゴル自治区が加わったことであり、また4省・自治区が一緒になって大きな成果を上げることを目指すことなのだろう。しかし、4つの省・自治区の利害調整はそうは簡単にはいかないのではないか。

 

20100607

●党・政府のトップの任期を守ろう、って、他人事のような気がします。

仲祖文署名の文章「選任制の指導幹部は任期の安定を保持しなければならない」が掲載された。「仲祖文」は「中央組織部の文章」という意味で、この文章は中央組織部によるものだ。

文章の主旨は、党や政府の指導幹部には5年の任期があるのに、地方ではそれに満たないで人事異動を行っていることを問題視し、任期を守ろうということだ。

昨年中央組織部が公表した「幹部職務の任期規定を厳格に執行し、幹部の法定任期内の安定を維持することに関する通知」には、選任制について次のようなルールがある。

(1)党・政府の指導者の任期は15年で、任期内は安定を維持しなければならない。

(2)市、県、郷の党・政府の指導グループのメンバーは任期を全うすべきで、特殊な理由がなければ任期終了前に異動させてはならない。工作の特殊性から異動が必要ならば、任期内の異動は1回を超えてはならない。党と政府の正職(トップ)は一般的に同時に異動してはならない。異動は指導グループメンバーの3分の1を超えてはならない。

(3)市、県、郷の党・政府の正職(トップ)が任期の3年未満で異動する場合は、一級上の党委組織部門に報告し、審査、認可、同意を得なければならない。

現在、地方各級の党・政府指導グループが集中的に異動の時期を迎え、幹部の異動が頻繁で、任期が全うされていない現象が起きている。

 

2012年秋に第18回党大会を控え、地方では末端レベルから党や政府の指導者の異動が始まっている。そのため、中央組織部として、地方に対し、勝手なことはするなよ、と注文をつけたかったのだろう。

周知のことなのかもしれないが、私はこの文章によって、省レベルは何年、県レベルは何年というような個別の言及はないが、「地方各レベル」として、党と政府の地方の指導者の任期が5年と決まっていることがわかった。しかし任期5年を守っているところはない。どこかの国のトップのように1年で交代というようなことはないと思うが、末端に行けば行くほど5年以上やっているだろう。

中央のねらいは、地方の人事の制度化をしたいのだろう。しかし、市、県、郷になると中央組織部は関知しておらず、現場が好き勝手に人事異動を行っているので、制度化は無理な話である。工作の連続性、安定性を確保し、政策の実現を高めるためといった制度化の理由を挙げているが、無理なことを分かって、単に形式を整えるためという感じがする。

 

20100609

●労働者の代理人として「工会」は機能するのか

中華全国総工会、すなわち中国の労働組合の中央組織によれば、2009年末までに全国で締結された賃金に関する集団契約は51.2万件に達し、これは企業90.2万社、労働者6177.6万人をカバーしている。そしてこれをもって、賃金に関する集団協議工作の急速な展開に伴い、労使双方が参加する賃金決定メカニズムが普遍的に構築されているとしている。

関連の署名評論「賃金集団協議はいかに障害を打破するか」も掲載されている。それによれば、中華全国総工会から最近、賃金集団協議を突出させて推進し、労働者、特に第1線の生産ラインの労働者の労働報酬を引き上げるよう求める緊急通知が発せられた。

集団協議は、労働者の賃金を企業が一方的に決めるのではなく、労働者にも集団発言権があり、その代表者は工会(「労働組合」のこと)であり、工会が労働者の賃金決定過程で重要な役割を発揮することを意味するとして、工会の重要性を強調した。

しかし、集団協議には障害も存在し、その対応が急がれる。第1に「企業が語らないこと」。利益追求の企業が協議によるコスト拡大を嫌うのは当然。労働法や公司法の関連条項に不備があるため、協議の法的保障が必要。

2は「労働者が語らないこと」。労働力が過剰であるため、労働者は妥協を強いられる。地方政府が労働市場を整備し、就業機会の拡大、選択肢の拡大を図ることが必要。

3は、「工会が語らないこと」である。協議の実戦経験に乏しく、人材も不足している。工会は(労働者の)権利維持機能を履行し、広範な労働者の信頼を獲得し、専門的な知識を有し、交渉力を高めるべきである。また、健全な組織がないことも問題。大きな問題は、工会の主席、委員が、労働者の代理人であるとともに、企業の従業員でもあることで、結果的に保身に走る。そのため、一部地方で工会幹部の専従化が試行されている。

集団協議の問題解決には、法的支持、党・政府の支持が必要で、特に協議の当事者として工会の責任は重大であるとしている。

 

「中華全国総工会」、そしてその傘下にある各企業の「工会」は、御用労働組合と見なされているが、この署名評論が労働者の賃金交渉で工会が重要な役割を果たすべきという内容だったので注目した。

賃金に関する集団契約に関するデータだが、これだけでは、多いのだか、少ないのか分からない。しかも、署名評論の内容からして、このデータにある集団契約が、必ずしも労使間の協議を経て締結されたものではないような、問題の多い契約ということも言える。データ提示が、協議メカニズムの構築に成功していることを証明していない。

署名評論から、第1線の生産ラインの労働者の間で賃金が低いことへの不満が相当たまっていることが伺われる。そのため、止むに止まれず中華全国総工会が緊急通知を出したようだ。しかし、中華全国総工会が出す緊急通知の強制力はどのくらいあるのだろうか。当地の最低賃金を上げることを通知するのは、地方政府の関連部門である。その中で、中華全国総工会の通知は、一般的な労組の要請程度のものなのだろうか,それとも工会も「官製」機関なので即引き上げということになるのだろうか。

このような組織なので、集団協議で、工会が労働者の代理人としての役割を果たすことは難しい。署名評論の原因分析はまさにその通り。問題は工会に自律的な地位が与えられていないことで、工会が集団協議の交渉役になりうるのか。外資系企業内での交渉ではなく、当地の地方政府がバックについている国内企業内での交渉でこそ、その真価が問われるといえるだろう。

 

20100615

●地方政府は好き勝手やっている。

日本の会計検査院にあたる審計署が、北京、河北、山西、黒龍江、上海などの17の省レベルで、2008年度と2009年度上半期の財政管理に対する会計検査を実施した。その結果が以下のとおりだ。

(1)7つの省レベル政府、59の省以下のレベル政府・開発区で、投資を誘致するために、税金の減免や還付の政策が打ち出され、政府奨励、財政による補てんなどの名義で税金や土地譲渡金などの財政収入を企業に返納した金額が125.37億元。

(2)4つの省レベル政府と10の省以下のレベル政府・開発区で、住宅購入補てん、自動車購入補てん、人材名義などで、2万人以上の企業の高級マネージャーに個人所得税を返納した金額が4.63億元。

(3)12の省レベル、26の地区レベルの関連部門で、得るべき土地譲渡収入と鉱産資源補償費、鉱物探索権・鉱物採掘権の代金などの非税収入が794.16億元。

(4)17の省レベルで、規定外で国庫に入れて予算管理を受けるべき非税収入が625.38億元。

 

審計署の検査で、地方政府が好き勝手に企業や企業家にお金をバラまいていることが分かる。地方振興のため、それとも地方政府が企業や企業家と「同盟」関係を結び、自らの安定を図ろうということか。政府との癒着だから、地方の関係当局が取り締まるのは難しい。しかし、一部とはいえ、審計署が厳しく検査し、それを公開し、人々が意識を高めることが重要なのだろう。

 

20100617

●新世代の農民工もやっぱり農民工

中央社会主義学院の魏暁東教授による「新世代農民工の市民化問題を立派に解決しよう」と題する文章が掲載された。都会に出稼ぎにきた農民工の子供が成長し、「新世代」として都市で生活する中で、新しいさまざまな問題が出てきていることを分析している。

新世代農民工の特徴は、(1)文化程度相対的に高い、(2)考え方が鋭い、(3)公平と民主の意識が強い、(4)都市生活や職業環境にあこがれ、市民になりたいという願望が強い。

他方、(1)新世代農民工の文化水準や労働技能水準が都市の発展要求に到達していない、(2)戸籍、住宅、医療、子女教育、老人年金などの公共サービスが受け入れる都市側で追いついていない、などの現実もある。

こうした現状に対し、3つの注意を喚起する。第1に、これまでの工業化、都市化、近代化の中で発生していることなので、きちんと対応しなければならない。

2に、新世代農民工の素質(知識水準や労働技術水準など)は、旧世代農民工よりも高いが、都市が求めている水準よりもはるかに低いので、職業訓練など長期的な対応が必要だ。

3に、新世代農民工を市民化するには、本人の条件もさることながら、公共サービスの提供など都市の受け入れ能力が重要。大中都市では限界があるので、小都市や県域の地方が受け入れれば、低コストで経済発展に貢献してもらえる。

 

中央社会主義学院の教授なので、体制よりのオーソドックスな見方だと言える。新世代農民工を受け入れることで、公共サービスのコストが増えることから、都市が受け入れに積極的になれないことはよく理解できる。それ以上にこの文章で感じたことは、市民化、つまり都市住民にすることの必要性は認識していながらも、彼らを新世代「農民工」と呼ぶあたりに、やっぱり新世代でも「農民工」なんだ、ということ。「農民工」という言葉には何となく、差別的なニュアンスが感じられる。大中都市にも許容範囲があるので、小都市や県域の地方に行けというのは、農民工に居住の自由がないということである。流入を制限するのではなく、流入の許容範囲を広げることがスジだろう。政策に影響を与える層が、差別的に「農民工」を扱う限りは、市民化をはじめ、問題解決は進まないような気がする。

 

20100701

●民衆が幹部を選ぶことがいいことなのか

コラムに「民衆が幹部を選ぶ権利が重くなっている」が掲載されている。

(事例1)四川省宜賓では300人の民衆評議委員バンクから無作為に24人が選ばれ、正科級職の予備人選候補者の投票に参加した。

(事例2)江蘇省宿遷市宿豫区で、幹部候補者に対し民衆が可否を決めた。

長期にわたり、幹部任用にあたり、民衆の参加権、決定権、知る権利が欠如していたため、指導者の気に入った人しか任用されないといった弊害が見られた。

民衆に幹部任用の決定に参加する権限を付与することで、初めて制度上、一部の幹部の不良傾向を是正することができ、上に対して責任を負い、下に対して責任を負うことを統一することができる。

 

71日は中国共産党成立記念日。民衆の政治参加を宣伝するコラムである。

上級指導者による任用の弊害をいかに是正するか。これは非常に重要な課題だ。その回答が民衆の幹部任用への参加ということだ。

しかし、本当にそうなのだろうか。政府機関の係長クラスの任用で、いちいち民衆に投票させるというのはどうなのだろうか。何でも選挙すればいいというものではない。確かに予備選考の段階でのことなので、最終的には然るべき上級者が決めるのだろうが、それにしても、何でも民衆を参加させるという発想は、民主的な手段の誤った解釈、過剰な導入である。中国でこういうケースは少なくない。これらをすばらしいと宣伝するわけだが、本来民衆に投票させなければならないことは他にあるのではないか。

共産党の一党支配が揺らぐことになるレベルはマズイが、この程度のところなら痛くもかゆくもないし、民衆の政治参加を奨励しているフリができる、と見るが。

 

20100720

●人民解放軍の上将昇進者が11名も

上将昇進式が開かれ、胡錦濤中央軍事委員会主席から証書が手渡された。

今回上将に昇進したのは、以下の11名。カッコ内は、(現職着任時期、現職)(生年月、20107月現在の年齢)で、出所は『中国組織別人名簿2010』と『産経新聞』20091231日。(3)の中央候補委員以外の10名は中央委員。

 

(1)章沁生(09.12-副総参謀長)(48.562才)

(2)童世平(09.12-総政治部副主任兼中央軍事委紀検委書記)(生年月不明、62才)

(3)李安東(09.12-総装備部科学技術委主任兼副部長)(46.764才)

(4)劉成軍(07.9-軍事科学院院長)(49.61才)

(5)王喜斌(07.9-国防大学校長)(48.262才)

(6)房峰輝(07.6-北京軍区司令員)(51.459才)

(7)王国生(07.6-蘭州軍区司令員)(47.263才)

(8)趙克石(07.6-南京軍区司令員)(47.1163才)

(9)陳国令(07.2-南京軍区政治委員)(50.50才)

(10)張陽(07.9-広州軍区政治委員)(51.858才)

(11)李世明(07.9-成都軍区司令員)(48.1261才)

 

11人も大量に上将に昇進させた理由として、純粋に軍のリーダー構成の若返りのためという側面と、胡錦濤が軍での支持基盤を強めるためという側面があるだろう。後者については、2012年開催予定の第18回党大会を見据えて今から手を打っておこうということなのか、それとも現在軍での支持基盤が弱くて政権運営で困っているのでテコ入れするためなのか、はたまた軍の突き上げでやむを得ず応じたいのか、判断はつかない。

総参謀部については、4人の副総参謀長のうち、上将は(1)と馬暁天(07.9-)(49.8生、61才)の2名で、どちらも胡錦濤によって昇進し、年齢も高くない。

総政治部については、4人の副主任のうち、上将は(2)と劉振起(05.12-)(46.5生、64才)の2名だが、劉は年齢的にも上がりポスト。(2)の方がこの先有望。

総後勤部については、政治委員は上将だが、3人の副部長には上将はいない。

総整備部については、政治委員が上将で、5人の副部長のうち、上将は(3)1名だが、年齢的にも上がりポスト。

(1)から(5)のうち(3)以外は、今後も胡錦濤をサポートしていく立場にありそうだ。

(6)から(11)は、大軍区のトップらで、瀋陽軍区の司令員以外の大軍区のトップはみんな上将となった。50才代の上将は、将来の軍を背負っていくリーダーといえる。

 

20100820

●共青団幹部って、外部招へいなのだ

中国共産主義青年団(共青団)浙江省委員会が、全国に対し省内126の非公有制企業の共青団書記を公募することを発表した。企業の重要な幹部育成として、年収5万元から15万元を準備するとのこと。候補者が揃ったところで、「民主的な選挙プロセス」を経て、決定する。

 

地方の非公有制企業の共青団書記を外部から招へいするということに驚いた。書記の任務は、団健全化の組織体系の構築、団員の思想導入の強化、技能訓練の展開、団員の業務時間外の文化生活の充実、企業管理層との交流などだが、これらを外部の人材に任せるということだ。おそらくこれまでは大半が内部からの抜擢だと思われるので、この外部招へいはレアケース、新しい試みなので、記事になったのだろう。

こうした方針は共青団内のイシューではなく、共産党の影響が大きいだろう。それは非公有制企業に対する監督機能の強化という側面があると思われる。それは、裏返せば何か浙江省の非公有制企業の中で何か問題が起きているということだろうか。それとも非公有制企業との関係強化のための長期的な意図を持った布石だろうか。