84回 200912月の『人民日報』(2010417日)

 

121日】

●党中央が5つの省・自治区の党委書記人事を決定

人事は次の通りである。

河南省党委書記:廬展工(57才)《前職》福建省党委書記、〈前任者〉徐光春(65才)

福建省党委書記:孫春蘭(59才)《前職》全国中華総工会副主席兼党組書記〈前任者〉廬展工

遼寧省党委書記:王a(59才)《前職》吉林省党委書記〈前任者〉張文岳(65才)

吉林省党委書記:孫政才(46才)《前職》農業部長〈前任者〉王a

内モンゴル自治区党委書記:胡春華(46才)《前職》河北省長〈前任者〉儲波(65才)

 

これらの人事に少し意味づけをしておこう。河南省、遼寧省、内モンゴルの前任者は65才の定年年齢に達した。福建省と吉林省の前任者は移動である。

河南省の廬展工は福建省の同職からの移動である。過去の福建省党委書記の次の移動先は北京市だったり、中央だったりで、それに比べると、河南省への移動は多少格落ちの感がある。しかし57才なので、年齢的に少なくとももう1回の移動がある。福建省での9年間の実績から第18回党大会前後に中央の台湾関連部署への移動の可能性があるかもしれない。

福建省の孫春蘭は背景が読めない。59才なのでこれが上がりポストと思われるので、ちょっといい場所をもらったといえる。

遼寧省の王aも59才なのでこれが上がりポストだろう。吉林省よりもいい場所が与えられたといえる。

吉林省の孫政才は農学博士号をもつ優秀な人材である。43才の若さで農業部長になったため、定年までまだ最低25年あり、今後多くのポストを渡り歩かざるをえない。吉林省は農業省なので、専門を生かせるポストといえる。今後が期待される。

内モンゴル自治区の胡春華も46才と若い。胡錦濤と同じ共青団中央のトップを務めており、共青団出身者の期待の星である。そのため、地方を渡り歩き実績を積まなければならない。民族自治区域でのキャリアも必要で、すでにチベット自治区での経験が豊富なため、傷がつかないよう問題の少ない、しかも昨今のレアメタルブームで景気のいい内モンゴル自治区への移動となったことが推定される。

 

128日】

●中央経済工作会議が終了。来年の経済政策は。

125日から開かれた中央経済工作会議が7日終了した。

来年の経済政策が確定する重要な会議だが、すでに10月の国務院常務会議、11月末の中央政治局会議で、その方向性は固められており、集められた中央官庁や地方のトップや経済担当者への中央の方針の伝達、指示のための会議といえる。

キーワードは、(1)内需拡大、(2)経済発展方式の転換の2つである。胡錦濤は「経済発展方式の転換を加速させることの重要性と緊急性」を強調し、社論も「物資を投入し、外延拡張に頼った伝統的経済発展方式をこれ以上続けることはできない。経済発展方式の転換はもう待ったなしである」と述べている。

来年の経済工作の主要任務は、次の6点である。
1)マクロ調整水準を高め、経済の安定した速い発展を維持する

積極的な財政政策と適度な緩和された金融政策を引き続き実施する

財政政策の実施重点をはっきりさせる

2)経済構造調整を強化し、経済発展の質と効益を高める

内需拡大を重点とする

・個人消費需要の拡大、消費を経済成長のけん引とする

・都市化を積極的に確実に推進し、都市発展の質と水準を高める

・戦略的新興産業を発展させ、産業構造調整を推進する

省エネ、排出削減を推進し、過剰な資源生産を抑制する

基本的な公共サービスの平均化を推進し、産業の秩序ある転移を導き、地域強調発展を促進する

3)「三農」発展の基礎を突き固め、内需増加の空間を拡大する

4)経済体制改革を深化させ、経済発展の動力と活力を強化する

5)輸出の安定成長を推進し、国際収支のバランスを促す

対外貿易発展方式の転換を加速させる

外需政策の連続性と安定性を維持し、市場の多元化戦略をさらに実施し、伝統市場を安定させ、新興市場を開拓し、輸出製品の等級、付加価値、競争力を高める

6)民生分野の保障、改善に力を入れ、社会の安定を全力を挙げて維持する

 

現在の中国の経済がバブルの状況にあると指摘する声も多い中、会議は「積極的な財政政策と適度な緩和された金融政策を引き続き実施する」として、来年もこれまでの政策を継続することを表明した。この日の『人民日報』には「現在の経済成長は主に政府の投資に頼って導かれ、民間投資、消費需要に活力を奮いおこさせ、さらなる努力が必要である」として、この方針を支持する経済学者のコメントが掲載されている。

他方、「今はインフレ圧力は大きくないが、その恐れは高まっている」そして通貨供給量も大幅に増加していることも併せて、不動産価格、株価の上昇をもたらし、バブル崩壊のリスクもあり、・・・通貨政策を注視していかなければならない」とのコメントも掲載されている。

カギとなる経済発展方式の転換は、具体的には外需に頼らず内需を拡大させることであり、そのための投資は上記(1)から(6)に向けようというのが、来年の経済政策である。そのうち(5)からは、決して外需を否定することは読み取れない。欧米や日本頼りではなく、新規の国際市場の開拓などに力を入れるということだろう。

 

129日】

●中央経済工作会議の結果を周知するための評論員論文の連載開始

論文の冒頭に「(会議は)認識を統一し、大局を把握し、行動を協調することに対し重要な指導的意義を備えている」とあるように、中央工作会議が来年の経済政策について中央の方針を各中央官庁や地方に周知徹底させる目的を持っていることが分かる。

昨日の会議の報道で、いろんな情報がてんこ盛りになっていたが、胡錦濤政権が何を重要だと考えているのかを再確認するために、この評論員論文が取り上げるテーマの順番に注意する必要があるだろう。そう考えると、当然第1回のテーマが最重要と考えていることと推測できる。

1回の論文のタイトルは「マクロ政策の基本的な方向を維持しよう」だが、「マクロ政策の連続性と安定性を維持し、積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策を引き続き実施し、新たな情勢と新たな状況にもとづく政策の即応性と弾力性を高めることに力を入れなければならない」ということについて解説している。「マクロ政策の連続性と安定性」とは、後段の「積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策を引き続き実施」のことなので、この部分が中央経済工作会議の伝えたかった最も重要なメッセージということだ。そこには昨日の報道で連呼された「経済成長方式の転換」「内需拡大」という言葉は出てこない。

他方で、「新たな情勢と新たな状況にもとづく政策の即応性と弾力性を高めることに力を入れなければならない」とあり、インフレ圧力が高まりバブル崩壊の危機が高まっていると認識すれば、「積極的な財政政策と適度に緩和した金融政策」から引き締め政策に転換する可能性があることもメッセージとして伝えている。そのため、政策よりもむしろ胡錦濤政権の情勢、状況判断を注意深く観察していかなければならない。それには、政治局常務委委員の地方視察や『人民日報』に掲載される経済分析記事がこれまでにも増して重要なヒントとなるだろう。