83回 200911月の『人民日報』(2010417日)

 

116日】

●周永康が江西省を視察、全国公安庁局長座談会に出席

周永康中央政治局常務委員が江西省井岡山で開かれた全国公安庁局長座談会に出席し、その足で江西省を視察した。

周永康は中央政法委員会の書記で、政治、司法、公安関係所管のトップであり、この座談会は、孟建柱公安部長、最高人民法院院長、最高人民検察院院長など公安部門と司法部門のトップが勢揃いする重々しい会議のように思われた。さらにこの座談会が中国共産党の革命の聖地である井岡山で開かれたというからタダ事ではない会議かもしれないと思われた。

周永康は座談会に先だっておこなった江西省の視察で、「世情、国情、党情、社情の新たな変化を深く把握し、真剣に政法安定維持工作の新課題を研究、解決し、社会和諧の安定を促進するために新たな貢献をしなければならない」と述べており、座談会では社会の不安定要素に対する警戒を強めるよう全国の政法関係者に指示したものと思われる。

 

政法関係者の結束が強まったことは明らかだが、それは職務上の結束だけでなく、なんとなく「政法ファミリー」の結束のようにも見えた。

 

1110日】

●内需刺激策発表から1

昨年20081110日、世界的な金融危機の影響による中国の景気停滞への対応として、中国政府は4兆元の内需拡大策を発表した。それから1年が経ち、「8%成長は問題なくさらに発展のために努力しなければならない」とのこの1年を振り返る特集が組まれた。

2年で4兆元投入する内需拡大策は、これまでのところ4段階に分けて実施され、計3800億元が投入された。そして財政部が代理発行する中国初の地方債2000億元もすべて発行済みで、これらが世界も注目する「V字回復」につながったとしている。そして、1021日、温家宝総理が、積極財政政策と適度に緩和した通貨政策を継続することを発表している。しかし、生産過剰、インフレ、外需の回復の遅れが依然として懸念材料で、長期的には中国自身の構造転換の必要も指摘している。

 

1111日】

●胡錦濤が農村基層組織建設、農村基層民主発展で重要指示。習近平も同様に指示。

最近、胡錦濤総書記が農村基層組織建設、農村基層民主発展に関する重要指示を発した。「重要指示」というからには大事なことだろう。また同時に習近平中央政治局常務委員も関連する指示を発したことが伝えられたので、やはり大事なことなのだろう。

彼らが注目したのは河南省鄭州市の農村で実施されている「四議両公開」という基層での制度。「四議」とは、村の重大が事項については、(1)党支部の「提議」(提案)、(2)「2つの委員会」との「商議」(相談)、(3)党員大会での「審議」、(4)村民大会あるいは村民代表会議の「決議」を実行することを指す。「両公開」とは、(1)決議内容と(2)実施結果を公開することを指す。

1110日に鄭州市で開かれた「党の指導の村レベルでの民主自治システム工作経験座談会」で李源潮中央組織部長がこの「四議両公開」の工作方法などの経験を総括し、胡錦濤、習近平らの指示を伝えたようだ。

 

党の指導を保証し、村民の自治権利を保障する村レベルの民主自治システムとして大きく取り上げられた鄭州市の経験は、胡錦濤のお墨付きを得て、今後全国各地で展開されるのだろう。その目的は、村での党の指導を保証することが第一義であり、次に村民の自治権利を保障することである。村の重大事項も、党支部の「提議」が最優先される。この党支部の方針が出た後での、相談やら審議とは言っても、党支部の提議が覆ることはたぶんない。これが党の指導の保証という意味。胡錦濤が重要指示として、号令を発したということは、村での党の指導が大きく弱体化していて、手を打たないとマズイという危機感の現れだろう。

 

1112日】

●新しい社会組織が第3期科学的発展観学習実践活動に参加

昨今の市場経済化、構造改革の中で、民政部門に登記される社会団体、基金会、民営非企業単位などの「新しい社会組織」が拡大しており、それらが第3期科学的発展観学習実践活動(活動)に参加している状況が報道された。

民政部門に登記されている新しい社会組織は39.9万。そのうち、すでに終了した第1期と第2期の活動に参加したのは全体の3.9%に相当する1.61万にすぎなかった。しかし、第3期に入ると58.1%に相当する23.3万が参加した。

この23.3万の新しい社会組織のうち、党組織があるのが2.56万、党組織設置条件の党員数がクリアされているのに党組織が設置されていないのが4.26万、条件を満たしていないため設置されていないのが16.48万である。

李学挙民政部長は、新しい社会組織での活動が難しい理由として、組織の数や種類が多く、規模もまちまちで、人員構成が分散しているため組織化が難しい点、党組織がカバーする範囲や工作範囲が狭く、基礎的な工作能力が弱い点、民政部門に登記していない、または所管部門が異なる組織との協調が難しい点などを挙げた。

 

科学的発展観学習実践活動、すなわち胡錦濤政権の権威強化キャンペーンが進行しているが、新しい社会組織でも実施されている。共産党の一党支配にとっての権力リソースの1つは、末端まで張り巡らされた組織である。新しい社会組織にも党組織を設置して、権力リソースを拡大することは、共産党にとって急務である。その点で注目されるのは、第3期になって活動への参加組織が急増している点だ。これは自発的参加というよりも、むしろ党中央からの強制動員によるものと考える方が自然だろう。しかも、党組織さえない組織でも実施されているのも奇妙である。李部長が指摘するとおり、組織の弱体化は深刻な問題である。活動を通じた新しい社会組織に対する統制拡大、強化の一端といえる。

 

1116日】

●胡錦濤、APEC17回非公式サミット第2回会議で重要講話

シンガポールで開催されたAPEC17回非公式サミットに出席した胡錦濤国家主席が重要講話を行った。主な発言は以下の通り。

1.世界的な経済問題への対応

1)世界経済の全面的な成長回復を推し進める

2)持続可能な成長を促進する

3)包容的な成長の提唱(=民生社会問題の解決)

4)バランスのとれた成長を推し進める(先進国と途上国の格差)

2.地球レベルの問題への対応

1)多国間貿易体制の健全な発展を支持

2)気候変動への対応

3)地域経済の一体化を積極的に推し進める(=APEC参加国は発展段階が異なり、多様。@経済構造改革。ビジネス環境の改善、運営コストの削減。工商界とりわけ中小企業の難関突破を支援、Aインフラの個別分野での相互協力の強化。

4)非伝統的安全保障の脅威への対応

 

鳩山首相の「東アジア共同体」構想や、オバマ米大統領の日本での演説を踏まえ、胡錦濤国家主席がどのような講演を行ったかに注目した。APECという会議の性格からか、経済問題への発言に終始した。途上国の代表らしく、経済格差や民生分野での協力に重点が置かれた。また経済構造改革で、中小企業支援を示したことも特徴的で、ASEAN諸国に向けたものだとすれば、実利的な観点とも言えるし、政治的な観点とも言える。

基本的に胡錦濤国家主席は、鳩山首相の「東アジア共同体」構想も、オバマ演説も素通りした。オバマ演説は、この後のオバマ大統領の訪中の際に議論されるのだろう。しかし、鳩山首相の「東アジア共同体」構想に対する中国の認識は、多国間協議の場に出れば、所詮この程度のものだ。それよりも、中国自身の主体性を強調し、足場固めに力を入れている。

 

1117日】

●国務院が「図們江地域協力開発計画綱要」を正式に認可

図們江地域は、吉林省と北朝鮮の国境を接する辺りである。東北アジア地域の協力を推進するために、この計画が構想され、国務院が認可を与え進められる。

 

国のお墨付きで地域開発が進むことは大変喜ばしいことである。しかし、昨年20088月の「長江デルタ地区の改革・開放と経済社会発展をさらに推進することに関する指導意見」、昨年末の珠江デルタ地域の開発、今年2009年に入ってからも、5月に「福建省の海峡西岸経済区の建設加速を支持することに関する若干の意見」、6月に「江蘇沿海地区発展計画」、9月に「東北地区などの老工業基地振興戦略のさらなる実施に関する若干の意見」と「促進中部地区崛起規劃」、10月には「広西経済社会発展をさらに促進することに関する若干の意見」と、まるで中国の地図をパズルで埋めていくかのように、次から次へと出てくる地域開発計画のオンパレードである。

1つの地域が計画を提唱したり、国に認可されると、「俺も俺も」というあたりが中国に特徴的な地方主義そのものである。2000年代中期の「西部大開発東北振興中部崛起」の流れとまさに同じである。重点を決めて地域開発を進めようとしても、重点地域が増えれば、重点がないことに等しい。

 

1119日】

●温家宝総理がオバマ米大統領との会見で「『G2』という言い方には賛成しない」と発言。

温家宝総理が中国訪問中のオバマ米大統領と会見した。『人民日報』はこれに関する報道のリードの最初に、温家宝総理が「『G2』という言い方には賛成しない」と強調したことを掲載した。

賛成しない理由として、温家宝総理は以下の3点を挙げた。(1)中国は人口の多い途上国であり、近代化国家になるにはさらに長い道を進まなければならない。これについてわれわれは冷静でなければならない。(2)中国は独立自主の平和外交政策を励行しており、いかなる国や国家集団とも盟約を結ばない。(3)中国は世界における事情は各国が共同で決定すべきであり、1つや2つの国が決めることはできない。

オバマ米大統領の中国訪問の最後が温家宝総理との会談となったが、その報道記事の頭に「『G2』という言い方には賛成しない」と発言したことを掲載したことには驚きである。温家宝は、「G2」は時期尚早とも、考え方の違いから論外ともとれる3つの理由を挙げた。この発言は、中国をアメリカと肩を並べる国として扱われることは決していやではないが、ちょっと行き過ぎということへの警戒感があるという対外向けという側面もあるだろう。しかし、中国の国内メディアがこの発言を大きく取り上げていることから、アメリカが中国にひれ伏したような見方もあり、むしろ舞い上がっている国内を戒めるための報道のように思われる。