82回 200910月の『人民日報』(2010411日)

 

1025日】

●温家宝総理がASEAN+中国サミット、ASEAN+日中韓サミットに出席

温家宝総理が、タイで開かれているASEAN+中国サミット、ASEAN+日中韓サミットに出席している。これには鳩山首相も出席している。

私の関心は、鳩山首相が就任以来、声高に唱える「東アジア共同体」を、この会議に関する報道でどう伝えるのかという点にあった。

ASEAN+中国サミットの報道では、4月に100億jのASEAN・中国投資協力基金を設立し、ASEAN諸国に対し150億jの信用貸与、ASEANの未発展国に対し2.7億元の特別援助を提案していることを挙げ、ASEANへの影響力を誇示している。また温家宝総理が、2011年から2015年までの「中国・ASEANの平和繁栄に向けての戦略的パートナーシップ聯合宣言の実現に向けての行動計画」の制定を提唱したことを伝えている。ここでは東アジアの地域統合、地域協力については一切触れられていない。ここには鳩山首相は参加していなので、当然かもしれない。

報道によれば、ASEAN+日中韓サミットでは、各国が手を携えて金融危機を乗り越えていかなければならないという共通認識が示された。東アジア共同体について言及はなく、参加者の共通認識として「積極推動東亜合作」(積極的に東アジアの協力を進める)と伝えた。

この一連の会議についての取材記者のコメントと、他国の報道ぶりを紹介すれば、「東アジアは手を携えて舞台を組み立て、合作の声を集めよう」と題する記事が掲載されている。「さらに広範な東アジアの合作の未来に期待をもって見ている」「手を携えて国際的な金融危機に対応することが、すでに東アジアの合作を拡張し、深化させる契機となっている」などと論評し、韓国の学者の見解とベトナムの新聞の記事を紹介している。しかし、そこには鳩山首相の東アジア共同体構想については全く触れられていない。

 

温家宝総理が出席する一連の会議に関する報道での、鳩山首相が連呼する「東アジア共同体」の扱いは、こういうことである。直接的に鳩山首相の名前や「東アジア共同体」というタームをあげなくても、それらを支持した報道内容であるとして、事実上鳩山首相の提唱する「東アジア共同体」構想を評価するという見方もできるだろう。しかし、私には、これらの報道ぶりからは、鳩山構想を意識はしているが、決して支持はしてはいない、むしろASEANでの中国の影響力の大きさを誇示することで、日本の付け入る隙間をなくそうと躍起になっているようにすら見える。所詮中国はその程度でしか見ていないように思うのだが。

 

1026日】

●評論「専用採訪証は世論が監督するのか、それとも世論を監督するのか」

 広東省東莞市党委宣伝部が、取材を行うメディアの記者に対し「専用採訪証」(専用取材証)を発行することなどを盛り込んだ規定案を鎮や街道に対し公開し、意見聴取を行っている。この規定は、市内の各鎮や部門が記者の取材に対し便宜を図るための具体的な措置を規定している。その中に、当地で取材活動に従事する記者は地元(東完市)宣伝部が発行する専用採訪証を持つことを義務づけ、毎年審査を受け、年初に発行されるとする。そして「規定に違反した記者は、専用採訪証を回収され、特に厳格に法律責任が追求される」とある。他方、国のメディアの所管部門である国家新聞出版署も記者証を発行しており、それには「各級人民政府は本証をもって取材する新聞工作者に便宜と必要な保証を提供しなければならない」とある。「まさか国の所管部門の規定が東莞市の規定に及ばないで役に立たないことはあるまい」と東莞市の措置に疑問を投げかけた。

 専用採訪証発行の権限を地元政府が握ることは、記者の取材を制限する権利を握ることに等しい。地元政府は世論による監督の対象であるのに、記者の取材権を制限することは世論監督の障害になるとする。「政府と大衆世論の間に衝突が発生したとき、この『専用採訪証』が与えた権利は、世論による監督に影響力を発揮させるのか、それとも政府の立場に立って世論を監督するのか」と問いを投げかける。

 最後に「党と政府は、情報公開、メディアによる世論の監督を提唱している。調和していない声をなくし、不安定要素を解消する最も有効な方法は、開放の心を持って世論に接し、民情に順応し、政務管理を改良することであって、メディアにいかなる『専用採訪証』でも発行することではない」と締めくくる。

 

 東完市がメディア取材の規制のために、専用採訪証を発行しようとしたことは明らか。これがメディアを通じた世論監督の障害になるとして、異議を唱えたのがこの論評といえる。メディアによる行政に対する世論監督を重視する姿勢を示すものである。他方、この評論からもう1つ読み取れるのは、メディア、特に地方のメディアの所轄をめぐる国家新聞出版署と地元政府(宣伝部)との争いのようにも見える。国だろうが、地方だろうが、メディアの規制をしていることには変わりない。だとすれば、である。

 さて、東アジアサミットについての報道もあった。「中国の総合的な国力が大きく成長し、国際的な地位が高まっても、中国は発展途上国の1つであり、終始アジア大家族の平等な一員である」「開放包容、段階を追って進める原則に従い、共通認識を凝集し、合作を深め、東アジア共同体の構築という長期的な目標に向かってたえず邁進しなければならない」との温家宝総理に発言が伝えられている。「東アジア共同体」の文言があり、一定の支持を示しているようだが、中国が突出した影響力を発揮することへの警戒感を和らげようとする発言であり、「東アジア共同体」もその延長上のものとしてあげたのだろう。鳩山首相の狙いと同じなのかどうかは分からない。