81回 20095月の『人民日報』(2010411日)

 

57日】

孟建柱の論文「民衆訪問制度を新たに構築し、民衆工作能力を高めよう」を掲載

 国務委員兼公安部長の孟建柱の論文が掲載された。200812月末から3カ月間、全国の公安機関が実施した「『大訪問』人民を愛する実践活動」を総括した論文である。

 この活動の成果として「公安民警と人民大衆との親密度が高まり、公安機関と人民大衆との距離が縮まったことで、健全な民衆訪問工作の長期的で効果的なメカニズムの構築し、民衆工作の能力と水準をしっかりと高め、多くの深い啓示をもたらした」とする。

 人民を愛する活動の方法として、次のことを行った。@社会状況と民意を理解し、民衆が困っている時に救いの手をさしのべる。A企業の動きを掌握し、企業の心配や困難を取り除く。B矛盾やもめ事を解決し、治安の隠れた弊害を整理する。矛盾やもめ事として、農村の土地のもめ事、都市や農村での家屋の立ち退き、基本建設用地、国有企業の合併再編、中小企業の生産経営の困難、労使紛争などの経済社会領域での社会の調和と安定に影響を及ぼす萌芽的な、発展的な問題を挙げる。C指導者が率先して訪問し、警察と民衆の相互作用を強化する。

 長期的で効果的なメカニズムの構築として以下のことをあげた。@健全な公安機関の民衆との連絡工作制度を構築し、民衆訪問工作の常態化、制度化をさらに進める。公安部と省レベルの公安機関の指導幹部は毎年末端に入り、民衆を訪問し、調査研究する時間を1カ月以上はとる。市や県の公安機関の指導幹部は本職の仕事と結びつけ、経常的に民衆訪問工作を展開する。A法を執行して事件を処理し、民衆にフィードバックする制度を積極的に進め、公安工作の透明度をさらに強化する。直訴を止めない訴訟を取り消していない、そして省都を訪れ北京にまで行く常習的な直訴世帯には、積極的に入り口に行って答礼訪問し、すぐに直訴事項の処理の進展状況をフィードバックする。B民衆工作の教育訓練制度を健全化し、完備し、末端の民警が新情勢下での民衆工作を立派に行う能力をさらに高める。C健全な民衆工作の実績効果の評価メカニズムを構築し、正確な工作の方向性をさらに樹立する。D健全な愛民実践の典型の養成・表彰メカニズムを構築し、警察と民衆の調和的な良好な雰囲気をさらに作る。

 

 公安部主導のキャンペーンの総括を、孟建柱公安部長自らが行っていたので注目した。公安警察に対する民衆の不信感が強く、昨今公安警察をねらったと見られる民衆による抗議行動が増えている。そのため民衆との関係を改善することを目的とするキャンペーンである。

 「末端に入れ」というこのキャンペーンの対象はまさに末端の公安機関である。末端の公安機関と民衆との関係が悪いこと、そして末端で起きるさまざまなもめ事を解決する公安機関の能力が低いことをも問題視していることをこのキャンペーンは示している。特に注目されるのは、国有企業の合併再編や労使紛争が取り上げられている点だ。最近の末端でのもめ事は土地問題がよく取り沙汰されるので、余計に目立つ。国際的な金融危機の影響もあるのだろう。

 今後の公安機関の民衆訪問の制度化については、民衆へのフィードバックを強調している点が注目される。公安機関の「上から目線」が民衆の反感を買っているということで、民衆を重視しようということだろう。

 こうしたキャンペーン、また孟建柱の論文は、末端の公安機関が引き起こす問題への公安部の危機感の表れである。問題は末端にあり、中央から見れば末端批判である。中央の公安部の思いは末端の公安機関に伝わるのだろうか。

 

58日】

仲祖文の文章「幹部推薦における選挙買収行為を厳正に取り締まろう」を掲載

仲祖文は「中央組織部の文章」を表している。中組部が幹部選出における選挙買収行為を戒める文章である。

中組部の現状認識では、「ここ数年、指導者グループの交代、幹部の交代の際、常に一部の人たちが各種の不当な手段で選挙買収活動を行っている。選挙買収行為をしっかりと取り締まり、風紀が正し作風を正す選挙人環境を作り出すことが幹部選抜任用工作の重要、かつ切迫した任務である」として、問題の深刻さとその対応の必要性を強調する。

具体的な選挙買収行為として、「幹部の交代の中で、宴会、贈り物、消費活動の手配、電話、ショートメールを通じて、仲介人を直接訪問、委託、そそのかし、表に立って取りなしてもらう、そして同窓生、同郷人、同僚、戦友などの懇親活動の実施を通じて、その人に推薦過程で(みんなに)自分を紹介してもらい選挙買収工作を行ってもらう」ことを挙げる。

 

党大会が近いわけでもないのに、中央組織部が今ごろなぜ選挙買収の話を出してきたのかはよく分からない。事実として、こうした選挙買収が多発していて、悪質だと認識されており、その解決が迫られていることはわかる。人的ネットワークに投票の行方が左右されている中国の現状ということだ。しかし、こうした選挙買収行為が存在すること自体が、選挙制度が健全に機能している証拠というのはひねくれたものの見方だろうか。

それと、やはり次期党大会に向けた地方の末端での人事が始まることに備えたものでもうあるだろう。もうしした時期なのである。

 

521日】

浙江省党委常務委員会で56人の幹部任用に「票決制」を実施

 浙江省の党委員会常務委員会で、初めて無記名投票による56人の幹部が選ばれた。これにより、浙江省では省、地級市、県の党委常務委での幹部任用が「議決制」から「票決制」に移行した。

 これまでの「議決制」では、常務委で討論し、口頭で評決してきた。「票決制」では、常務委員が11票をもち、無記名投票で「同意、不同意、棄権」を選択する。

 「票決制」のメリットは、常務委におけるトップの「隠れた権力」が制約され、集団による決定機能が発揮される。また候補者について観察が必要になり、投票により自分の意見が表明できることで、常務委員の民主性や責任感が高まる。実際に「票決制」の実施により、書記(トップ)も1票なので、影響力が低下したという。

 票決対象の幹部は、省の指導者が兼務する場合や、(元の職務を保留したまま)出向してきた幹部、軍から転職した幹部以外の省所管の幹部である。

 専門家も、不正な任用を回避できること、幹部任用で重要な要素の1つである最終的にどのように決定するかということについて、民主的で、合理的であることなど評価している。

 

 党委常務委員会の役割の強化、党内民主の拡大、幹部任用の透明化などを実現するために、浙江省党委員会が実施する幹部任用制度の改革の一環である。トップの権力を縮小できる点、つまりトップによる恣意的な幹部任用を阻止するためには有効な制度だろう。マルをつけるだけの投票では、みんなが遠慮なく自らの意思を表明しやすい。

 しかし、ここでの幹部が具体的にどのようなポストなのかがはっきりしていない。票決対象の幹部から、「省の指導者が兼務する場合や、(元の職務を保留したまま)出向してきた幹部、軍から転職した幹部」は除かれるわけだから、重要ポストは票決制ではない可能性がある。とりあえず、仕組みができたことを評価し、これから徐々に重要ポストに反映されることを期待するか。仕組みができても、重要ではないポストだけに適用され、重要ポストには及ばないだろうと見るか。私は後者だが。

 

528日】

中央国有企業100社が20万人に大卒者を受け入れ

大卒者の就職難が社会問題になっている。これを解消するために、中央企業、すなわち国務院国有資産監督管理委員会(国資委)所属の国有大型企業100社の今年20096月卒業の大学生の採用数を、昨年の7%増の203616人とする計画であることが明らかになった。具体的な採用計画は以下の通り。

 中国航空工業集団公司:前年の2倍となる12000

 中国石油天然ガス集団公司:前年の3796人増の13986

 中国商用飛機有限公司:当初の436人から1362

 中国鉄建股分有限公司:前年の4060人増の13000人超

 一部の企業は、コスト削減のため、正規採用はしないが、「見習い(ポスト」を設置し、経営状況の好転後に正規採用するという。

 中国移動通信集団公司:全国に100の「青年就業見習い基地」を設置し、1万人の大卒者を採用し、見習いの機会を提供し、専門的な補修訓練を行う。

 中央企業の意識は、「成長を維持するには、中央企業が大きな梁となる。就業を促進するには、中央企業が前面に立つ」という意気込みである。しかし、「社会的責任を担うべく、新規採用人数を増やした」や「国が投資を拡大し、大量の仕事を提供してくれたので、われわれも大学生をもっと募集しなければならない」などの声も紹介されている。

 国家資産監督管理委員会の李主任は、国資委がこの措置を発表し、監督を強化し、中央企業各社の2009年の募集計画の実施を確保するという。

 

 大卒者採用数の拡大のために、中央企業にノルマを課すという感じである。大卒者は多い。しかし民間企業ならば、今年のような国際的な経済危機となれば、当然コスト計算を行い、新規採用を手控える。そこで新卒者の受け皿となるのは国有企業である。国有企業の社会安定作用は今も健在といえる。ここには国有企業不要論はない。

 

531日】

党中央辧公庁と国務院辧公庁が「村民委員会選挙工作の強化と改善に関する通知」を通達

ここ数年、村民委員会選挙で、次のような問題が深刻である

(1)一部の地方の村民委員会選挙で、競争行為が「不規範」で、賄賂が深刻で、選挙の公平性に影響がでている。

(2)一部の地方で村民員会選挙の法律放棄や関連政策が厳格に執行されていないため、選挙民の参加意欲に影響がでている。

(3)一部の地方で、村民委員会選挙で生じる矛盾やもめ事がスムーズに解決していないため、農村社会の安定に影響がでている。

そのため、中央が暴力や威嚇などの投票妨害、賄賂、投票用紙の偽装、ウソの選挙結果発表などの違法行為を厳しく取り締まるという指示を行ったのがこの「通知」である。

通知は次のように構成されている。

(1)村民委員会選挙工作の強化と改善の重要な意義を十分認識しよう

(2)村民委員会選挙の事前の各準備工作をしっかりと強化しよう

(3)村民委員会選挙の順序を法に基づき制度化しよう

(4)村民委員会選挙の事後工作をしっかりと立派に行おう

(5)村民委員会選挙での賄賂などの法規・紀律違反行為をしっかりと取り締まろう

(6)村民委員会選挙工作に対する組織的指導を強化しよう

これらについて、上級の党委員会、特に郷鎮人民代表大会と県級人民代表大会常務委員会に告発し、それらが選挙を監督するよう指示している。

 

国内外で中国の民主の象徴と見られている村民委員会選挙に関する中央の指示として重要な「通知」である。これから全国的に村民委員会幹部の改選時期を迎えるので、それへの対応である。この通知をもとに、関連の法律法規の制定や改正が行われるのだろう。

「通知」の内容は、選挙の不正が深刻なので、それへの対応というものである。深刻さを見ると、村民委員会選挙が成熟した結果、発生しているという印象を持つ。一般的に選挙過程で当然考えられるロジックが中国の農村でも展開されているのだろう。そのこと自体は評価しなければならない。

この「通知」のポイントは、誰が取り締まるかということだ。「通知」によれば、それが人民代表大会というあたりが独特だ。なぜ議会なのか。この通知には取り締まりの機関として司法機関は出てこない。人民代表大会が中立の立場で取り締まることができるのか。確かに中国では司法機関も中立かということもあるし。中央が最末端の村民委員会のことまでどの程度本気なのか。後続の報道を注視していこう。