第78回 20088月の『人民日報』(201036日)

 

818日】

●温家宝総理が寧夏回族自治区を視察

815日から温家宝総理が寧夏回族自治区を視察した。1025日に自治区成立50周年を控えての視察である。今回視察ルポが掲載された。大きく4つの部分に分かれている。その内容は以下の通り。

1)循環経済の基地を建設する:

−寧東エネルギー化工基地の神華寧炭集団、石嘴山市の中色(寧夏)東方集団公司(冶金材料工業)を訪問した。

循環経済という科学的発展観にも沿った世界的な政策の最先端を寧夏が進んでいることをアピールしており、寧夏を持ち上げている

2)農民を豊かにする:

−専業合作社、干ばつ地域の水利プロジェクト大溝湾小流綜合管理、移動ビニールハウス建設基地、ジャガイモ生産基地を視察。

農村経済発展政策として最近力を入れている専業合作社を訪問し、アピール。また干ばつという寧夏が抱える問題に対処していることをアピール。

3)党と政府は我々を決して忘れない

−障害者、退職した教師を慰問

弱者や老人を重視していることをアピール。

4)回族と漢族の大衆はみな兄弟だ:

70戸の回族世帯が住む西吉県万崖村七組を訪問。訪問先で、回族の生活習慣や各種の礼儀作法について語り合い、生活状況について詳細に質問した。

−次に訪れた小山村では、村唯一の小学校で回族と漢族が一緒に勉強している話を聞き、温家宝は「回族と漢族の子どもが小さいときから一緒に成長し、みんながさらに団結することは本当にすばらしい」と発言。また「あなた方には飲み水の問題があります。ここは土地は多いが水は少ない。今年は特に干ばつだ。心配しないで。政府が支援して解決します」と約束。

−銀川市のイスラム寺も訪問

寧夏視察の最大の目的は、回族と漢族の融和をアピールすること。回族への理解を強調している。イスラム寺の訪問も同様の理由から。干ばつに対し、政府支援を約束したことは先述の通り、寧夏への理解をアピールしている。

 

自治区成立50周年を前に、総理という大物を視察に送ったのは、3月のチベット自治区でのラサ暴動、8月の新疆ウイグル自治区カシュガル市での公安襲撃事件など、民族政策への不満が高まっていることと大きく関わっていると思われる。ちなみに昨年の内モンゴル自治区60周年に際しては、後日胡錦濤総書記が訪問した。また2005年のチベット自治区成立40周年、新疆ウイグル自治区成立50周年では、私の記憶では大物指導者は前後に訪問していない。寧夏というところはさほど民族運動が活発ではないので、温家宝が行っても安心という点もあったかもしれない。しかし、回族への理解を示しておかなければ、安心地域の寧夏まで飛び火しかねないという危機感があるだろう。

大衆に人気といわれる温家宝らしさを演出する視察ルポである。

 

819日】

●オリンピックは中国の経済発展の分水嶺にはならない

北京オリンピック終了後の中国経済が落ち込むのではないかと世界各地で懸念されている。根拠を示して、そうした見方を打ち消そうとするのが、この文章の目的である。

北京オリンピックが分岐点にならない理由が2つ挙げられている。

1に、国家発展改革委員会マクロ経済研究院の王一鳴副院長の見解を引用している。王副院長は、ここ数年の中国の経済発展をけん引したものとして、@都市化、Aインフラ建設投資の規模が巨大であること、B個人消費構造のグレードアップ、C労働生産性の向上、D経済グローバル化への積極的な参与の5つの要素を挙げ、これらがオリンピック終了後も変わらないと見ている。

2に、北京市経済の総生産が全国に占める割合は3.6%に過ぎないため、オリンピックがもたらす総生産と投資の成長分が中国全体の総生産と投資に占める比率は小さい。

以上の理由から、北京オリンピックは経済成長の衰退への分岐点にはならない。

 

この日の人民日報にはこの文章以外に、中国の経済成長に関する文章が2本掲載されている。中国経済がどうなるか、大きな関心事である。この文章は、北京オリンピック自体が中国経済に影響しないことを示した。しかし、今後中国経済が落ち込むことを否定したものではない。だからこそ、「安定した速い」経済成長が今後の経済目標であるとして、経済過熱抑制の方針からの転換を強調する別の論文2本が掲載されている。

 

821日】

●広東省恵州市の科学的発展観の学習・実践活動試点工作の取り組みを紹介

党中央は、科学的発展観の学習・実践活動試点工作を実施しており、今年5月から第2段階に入っている。中央に李源潮をトップとする領導小組まで作って行っており、真剣だ。

しかし、この「科学的発展観」というのが、やっぱりよく分からない。

今日の『人民日報』に試点都市の1つである広東省恵州市の取り組みが紹介されていた。これを読むと、「科学的発展観」の理解が深まるかもしれない。そう考え、読んでみた。

 恵州市の取り組みには5つの特徴がある

1)思想解放を先導とする

毎週午後2回の学習制度を作り、『科学的発展と恵州の実践』『科学的発展観重要論述摘編』などの学習資料を学習し、思想解放の共通認識を作る。「組織的な宣伝発動」などの10項目、30項目の指標を制定し、処級以上の幹部を100点満点で評価する

2)大衆参加

以下の3つのチャンネルを使う。@インターネットや各種メディアを使って学習、討論、A組織的な実践活動の実施、B座談会を通じた各階層代表の評価、研討会を通じた専門家学者の評価、意見募集を通じた党代表、人民代表大会代表、政協委員の評価、メディアを通じた末端大衆やネットユーザーの評価

3)民生問題解決の実践

民生分野のホットイシューを、学習しながら、改善し、解決する。例えば、農民のマイホーム取得をめぐる問題に対して、土地使用権や建物所有権の登記に関する法規を制定し解決した。その他結婚をめぐる問題、教育問題、環境保護問題などを解決した。

4)指導グループがこの工作を重視する

すばらしい活動をした指導グループを表彰する

5)メカニズム体制の創新

@5カ年計画の改定、A科学的発展観の行動準則を制度化、B実施要項を制度化、C成績評価を制度化

こうした試点工作を実施した結果、今年上半期に珠江デルタ9市の中で上位の経済指標を達成した。固定資産投資が対前年同期比で56.8%増、外資の直接投資(実行ベース)が同42.5%増を達成した。また2007年の「環境保護責任審査」で広東省内第1位になった。

 

大衆参加や民生問題の解決の重視に力を入れていることがわかった。しかし、試点に選ばれたことで、党や政府の幹部が無駄な学習運動に借り出されていることが伺われる。旧態依然のやり方である。恐らくうんざりだろう。それでも、試点工作を実施したことで、民生問題が解決したのならば、試点工作を善しとしなければならないのだろうか。こんなやり方をしなくても、事の重要性を鑑みれば、民生問題を解決しなければならなかったはずである。

もう1つ興味深いのは、試点工作実施の成果として、提示されたものが、固定資産投資の伸びと外資導入の伸びであることだ。科学的発展観というのは、経済成長重視から持続可能な成長への転換に重点を移すものだったはず。固定資産投資と外資導入は経済成長重視の象徴的なデータである。これらをいの一番に成果として示すあたり、理念と矛盾している。それとも、科学的発展観の実践はこれでいいのだろうか。

 

831日】

●寧夏回族自治区の郷鎮の債務7.38億元が今年前半までに完済された 

県や郷鎮の財政債務は全国的に深刻である。それは住民に直接的な影響を与えており、十分な公共サービスを享受できず、地元政府への不満が高まり、社会不安を助長する要因の1つになっていると考える。私もここ何年か県や郷鎮の財政債務に関心を持ち、調べたことがあるが、債務のデータは公開されておらず、また債務発生のメカニズムも各地で様々であり、その全体像をとらえることは難しいと感じている。

そんなわけで、寧夏で郷鎮債務が完済されたという記事は私の関心を引いたので、その内容を整理しておきたい。

20057月末のデータで、寧夏全体の188の郷鎮で負債が発生しており、債務総額は7.38億元に達した。

その原因は、義務教育の普及、道路建設、農地の水利基本建設、村の緑化、基層政府建設など公益支出による。他方、郷鎮幹部が短期間に何度も交代し、新任の指導者は目先の発展にわずかな財政を使い新たな負債を発生させ、過去の負債を処理しないという悪循環による。

自治区の党委と政府が、2006年から7.38億元の郷鎮債務を3年間で債務を完済することを決定。基本線は、県や郷に返済能力がないため、自治区でまかなうというもの。

具体的な措置:(1)自治区の財政庁、教育庁など各部門が2.82億元の補助資金を市や県に捻出。2自治区財政から市や県に債務返済用の交付金2.03億元を拠出。(3)その年の返済目標を完成、または目標以上に返済した市や県に奨励金を支給、(4)その他(各市や県がこれ以上のプロジェクト支出を抑制し債務を減らす、資産を債務返還に転用する、話し合い財務を減らす。

新たな債務を発生させない措置:(12005年から郷鎮1人あたりの1年間の公用経費を200元から3000元に引き上げ、2村の運用経費を3000-5000元に引き上げ、(3)農村の財政・財務・財産管理を制度化、(42007年の市や県の一般性交付金を9億元に引き上げ、

さらに自治区政府が規定を作成:(1)規定違反の大量の新規債務を発生させた郷鎮の党委書記、鎮長は解任される、2新規債務を発生させた地方では、返済出来なければ直接の責任者を昇任させない、異動させない、昇給させない

 

結局、寧夏では、自治区レベルが本腰を入れて補てんして、返済した。しかし、対応策の中で、郷鎮で債務が発生するメカニズムを変えるような対策が採られたかどうかは、この記事だけでは不明だ。人事での罰則だけで、債務発生を防げるとは思えない。一般的な県や郷鎮の収入が増えなければ、公共サービスは供給しなければならないのだから、また債務が膨れあがり、自治区が補てんするという別の悪循環が残るだけだろう。

省レベル以下の地方の財政システムの改革が必要になる。しかし、財政システムの改革は、地方間(省と地級市、地級市と県)の利害対立が激しく、なかなか難しい。