第77回 20087月の『人民日報』(2008923日)
 
71日】
●地震災害救済先進基層党組織・優秀共産党員代表座談会で胡錦濤が重要講話
 
630日、四川大地震での救済活動で活躍した先進基層党組織・優秀共産党員の代表らが会した座談会が開かれた。司会は、中央政治局常務委員の習近平。
胡錦濤総書記が重要講話を発表したが、その中で私が注目したのは、次の発言だ。
「地震災害救済闘争が重大な段階的勝利を迅速に収めた原因は多方面にわたるが、最も重要な原因の1つは、党の強固な指導であり、各級党組織と広範な共産党員が大黒柱の役割を発揮した」
 
胡錦濤は71日が中国共産党成立78周年にあたることも念頭におき、共産党の指導の重要性、共産党の指導があったからこそ地震災害の救済活動が成功を収めたことを強調したものと思われる。胡錦濤政権が、救済活動を支持基盤強化に利用していることが、あらためて胡錦濤の発言で確認された。
中央が、党組織、党員を表彰したことで、地震災害救済も政治的には一段落したといえるだろう。前日の629日、国務院が「wen川地震災害復興政策措置を支持することに関する意見」を発表しており、今後救済は実務段階に入る。しかし、これで人々の地震への関心は次第に薄れ、北京オリンピック一色になるというわけだ。
 
●胡錦濤、ライス米国務長官と会見
 
630日、胡錦濤国家主席がライス米国務長官と会見した。胡錦濤は、第4回米中戦略経済対話を評価するとともに、米国政府の北京オリンピック支持、(すなわちブッシュ大統領の開会式出席)に感謝を表明した。
 
629日、新華社が、7月上旬に北京で党統一戦線工作部がダライ・ラマ14世の特使と面談することを配信した(その後71日に実施が明らかに)。発表のタイミングから、訪中するライス国務長官への「お土産」のようにとることもできる。米国は、中国当局とダライ・ラマ14世側が接触すれば善し、とするだろう。そのため、実際の面談は形式的なもので、その成果は今回もなし、ということになりそう。
 
72日】
2007年末の共産党員は7415.3万人
 
2007年末の共産党員に関する統計が発表された。
党員数は7415.3万人で、前年に比べ176.2万人増加した。これは2006年の対前年比増加数159.1万人よりも多い。この数字は純増減数である。
新規に入党したのは278.2万人で、2006年の新規入党数よりも14.7万人多い。特に注目すべきは、この新規入党者のうち、学生の割合が35.8%で、2006年の32.6%を上回った。学生の新規入党数の割合は、年々拡大している。
 
この学生には大学生のような高学歴者が多いと思われる。大学生は、自ら起業して自己目的を実現しようという人と、党や政府機関、その関連機関に就職して、高収入や安定、権力を得たいという人の二分化されているというのが私の印象である。後者の場合、党員であることが就職に有利だし、就職後の出世にも有利である。そのため、新規入党者のうち学生の割合が増えているのだろう。高学歴のエリートが入党してくると、これからの共産党も安泰といえる。高学歴の若い党員が、現実に沿った政権運営を担うと中国も変わるのだが。
 
74日】
●杜青林中央統一戦線工作部長がダライ・ラマ14世の特使と北京で会見
 
党中央統一戦線工作部長の杜青林が、中国側との面会(中国語で「接触」)のため北京を訪れたダライ・ラマ14世の特使と会見した。3月のチベット暴動以後2度目である。
杜青林部長は、「ダライ・ラマが、生きているうちに、国家のため、民族のため、チベット人民の福祉にとって有益なことをしたいのならば、@北京五輪への関与・破壊活動を支持しない、A暴力犯罪活動の煽動を支持しない、B「チベット青年会議」(中国語で「蔵青会」)の暴力テロ活動を支持せず、しっかり取り締まる、C全ての『チベット独立』の要求、祖国分裂の主張と活動を支持しないことを公開で、明確に承諾すべきである」(番号は佐々木が付す)と述べ、「4つの支持しない」を掲げた。
そして、中国側は、ダライ・ラマ側の積極的な表現があれば、年末までに次の「接触商談」(中国語)することができると述べた。
 
ダライ・ラマ14世側との交渉窓口は、党中央統一戦線工作部だが、これまでは副部長が対応してきた。今回、杜青林部長が対応したことは、北京オリンピックを前に、国際社会に対し、中国当局がダライ・ラマ14世側ときちんと話し合っているという印象を与えようとしたのだろう。特にオリンピック開会式にブッシュ大統領が出席してくれるアメリカに対しアピールしたのだろう。
中国当局は、今回のダライ・ラマ14世側と会ったことを、5月同様に「接触」と位置づけた。この接触の注目点は2つある。1つは、杜青林部長が、ダライ・ラマ14世を「ダライ・ラマ」とフルネームで呼んだことで、これは4月末に胡錦濤総書記がフルネームで呼んだことを踏襲するものであって、交渉相手としてのダライ・ラマ14世をたてている。
もう1つの注目点は、「チベット青年会議」を名指しで批判したことである。これまで中国当局は、悪いのは「ダライ・ラマ14世」としてきたが、チベット亡命政府の強行派と見られるチベット青年会議をわざわざ名指しして批判したことは、チベット亡命政府内の分裂を図ることで、ダライ・ラマ14世を弱体化させようとしたものと思われる。
私は、中国当局の今回の対応を、北京オリンピック向けのものと見ている。つまり、北京オリンピックが終了すれば、中国当局のダライ・ラマ14世側への対応は再び厳しくなるのではないかと考えている。杜青林部長は昨年までに6度開かれた「接触商談」の年内再開の可能性を示したが、その条件として提示した「4つの支持しない」を、ダライ・ラマ14世側がクリアすることは難しいだろう。ここからも中国側の本気度はいかほどのものだろうか、大方わかる。
チベット問題に限らず、さまざまな問題への胡錦濤政権の最近の融和的な対応が、北京オリンピック後どうなるのか、注目しなければならない。
 
75日】
628事件で甕安県の党委員会書記と県長が解任
 
74日、貴州省黔南布依族苗族自治州党委員会は、628事件で甕安県の党委員会書記と県長の解任を決定した。
前日3日に開かれた628事件処置状況報告会で、貴州省党委書記の石宗源が、628事件の背景として、以下の3点を挙げた。
(1)鉱物資源開発、それに伴う移民、立ち退きなどの工作の中で、民衆の利益を侵害することがしばしば発生していたこと
(2)矛盾の紛糾、集団抗議行動に対応する過程で、幹部のやり方が乱暴で、簡単に対応し、自由に警察力を用いたことで、幹部と民衆、警察と民衆の関係を緊張させてしまったこと
(3)指導幹部と公安・警察が長期にわたって、職責を尽くさず、汚職を行い、社会治安を悪化させたこと
石宗源書記は、同県の公安局の元政治委員と局長の党の処分を建議した。
 
628事件、すなわち628日に、15才の女子中学生の死亡をめぐり、発生した貴州省甕安県での数万人が参加したいといわれる抗議行動への地元政府の対応に対する処分が下った。貴州省当局は、日頃から民衆に対する甕安県当局の対応に問題があったことを認め、県幹部と公安関係者を解任した。とりあえず、県当局の責任にすることで、騒ぎを収め、解決を図ったということである。
しかし、石宗源書記が挙げた3つの背景がなぜ起きているのかという抗議行動発生の根本的な原因の説明はない。そもそも県の政治システムの問題であって、幹部のクビをすげ替えれば、解決する問題ではない。またそれは、甕安県だけの問題ではなく、全国の県レベルではどこでも抱えている問題である。中央はこの事件を大変重く受け止めた。それは、北京オリンピックを成功させるためだけでなく、今後、県レベルの政治システムの改革に向けた取り組みにつなげるかどうか、見ていかなければならない。
 
715日】
●馬恩「都市開発事業において、党・政府のトップを管理する」という論文を掲載
 
中国各地で見られる都市開発は、都市の発展の一側面である一方、汚職や強制立ち退きといったマイナス面もしばしば見られる。
この論文では、都市開発の構造を、「政府−関係住民−デベロッパー」の三角関係と位置づけ、この関係をいかにバランスをとって都市開発を進めるべきか、4方面から論じている。
(1)「書記」がプロジェクトを仕切るのではなく、「行政首長」が責任を負う。しかし、重点プロジェクトについては、「党委員会常務委員会」が検討、審議する。「党委常務委」は、重大プロジェクトの提案に対し決定権を持つだけでなく、「政府」のプロジェクト実施中の行為に対し監督を行う。常務委と書記が「政府−関係住民−デベロッパー」の三角関係のバランスをとらなければならない。
(2)地方の党・政府のトップグループや幹部の業績評価では、耕地などの資源保護を評価の対象とする。都市開発事業の重点プロジェクトに対する評価では、収益の周期、税収への貢献、就業への貢献、立ち退き後の安定、投資の一単位あたりの専有面積・資源エネルギー消耗、生態環境保護などを定量化し、プロジェクトのGDPへの貢献率を評価する傾向を改める。
(3)都市建設事業のプロジェクト提案の公開操作を進め、民主的な手続きによって地方の党・政府のトップの行為を制限する
(4)汚職、収賄などの規律・法規の違法行為に対し、査察を強化する。プロジェクト建設の状況を、地方の党・政府のトップの経済責任に対する会計検査をする。世論の監督と地域のメディアによる監督を行う。
 
この4つの方面のうち、(2)、(3)、(4)はどれもまっとうな内容である。(2)は、科学的発展観の考え方に沿っており、整理されている。例えば、地方の業績評価を、GDPへの貢献以外の要素に求めている。しかし、問題は、実際に機能したかどうかの検証・評価作業である。その中心となる組織への言及はない。
他方、私が注目したのは、(1)が、プロジェクト実施中の、各組織間の利害調整を行うのが、党常務委と書記であるとしている点だ。つまり、党の役割の重要性が指摘されている。しかし、汚職などで潤っているのは党書記や党常務委メンバーである。そんな彼らが調整能力を発揮できるのか。突き詰めれば、「(1)」と「(2)〜(4)」の間に、大きな矛盾があることは確かである。
 
717日】
●「党全国代表大会・地方各級代表大会代表任期制暫行条例」施行
 
昨年10月に開かれた中国共産党第17回全国代表大会には、全国各地で選ばれた2213人の代表が参加した。彼らの任期は5年である。しかし、大会に出席するだけで、その後の任期中には何もしていないのがこれまでだった。これは、例えば中国共産党上海市委員会の代表大会代表といった地方の代表も同じ状況である。
もちろん任期中に何かしたいという代表もいただろう。しかし、何かしたくてもどのように活動したらいいのかわからない。制度がないからだ。それではいったい何のための代表かという存在理由が昨今問われるようになってきた。第17回党大会で、党代表の任期制を実行するという制度化の提案が行われた。それが具体化されたのが、「党全国代表大会・地方各級代表大会代表任期制暫行条例」で、716日に公布、施行された。
代表の権利と職責は以下の8点である。
(1)当該党の代表大会期間中の党の委員会と規律検査委員会の報告の聴取と審査
(2)当該党の代表大会期間中の重大問題の討論と決定への参加
(3)当該党の代表大会での採決権、選挙権、被選挙権の行使
(4)当該党の委員会と規律検査委員会、および選出単位の党組織が党の決議や決定を貫徹して執行しているかどうかの状況の調査
 (5)当該代表大会、または当該党の委員会に対し、経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、党の建設の重大問題での意見や建議を提出する
 (6)当該党の委員会と規律検査委員会、およびそのメンバーに対する監督
 (7)当該党の代表大会、または当該党の委員会の組織活動への参加
 (8)当該党の代表大会、または当該党の委員会の委託を受け、関連工作を完成させる(第6条)
 党代表にできることは、次の6項目である。
(1)党代表大会開催期間中の提案(第8条)
(2)党代表大会閉会期間中、個人、または連名で、書面によって党の代表大会に対し、職権の範囲内で提案を提出することができる(第9条)
(3)当該党の代表大会と委員会の委託を受け、当該地区の重大な政策決定、重要事項に対する調査研究を行う(第10条)
(4)適当な方法で、末端党員と民衆との関係を強化し、党の決議や決定の執行過程で直面した問題を調査し、末端党員と民衆の意見と建議を報告する(第11条)
(5)招きに応じて、当該党の委員会全体会議などの会議に列席し、意見を発表することができる(第12条)
(6)当該党の委員会の手配に基づき、当該地区の重要幹部に対する民主推薦と、当該党の委員会、規律検査委員会の指導グループ、構成メンバーに対する民主評議に参加し、当該党の委員会常務委員会の活動に対する評議に参加することができる(第13条)
 
 主に、代表大会の期間中と閉会後の、代表の権利と職責、そして具体的にできることが示されている。とりあえず、制度はできた。これが実際に運用されるかどうかが重要だ。基本的に当該党のレベルでの活動になるが、農民や労働者など象徴的な代表はこれらの職責を行使する能力はないだろう。そうすると党や政府の重要なポストに就いている代表が対象になるだろう。
 しかし、例えば全国代表大会の代表になっている人の多くは、省レベルの代表大会の代表でもあり、主要な活動は実際のポストがある省レベルであり、全国レベルの代表としての権利や職責を行使する時間も関心もないだろう。また、権利や職責の行使の仕方次第では、逆に自分のポストを失うことになるかもしれない。そう考えると、自分のポストよりも一つ上のレベルでの代表としての活動には個人的にリスクがある。それは、そもそも代表が専従職ではないところに問題がある。各地方レベルの党や政府の要職に就いている人が代表になっていることが問題である。
 制度はできた。そのことを長期的な成功の第一歩として積極的に評価するか、それとも短期的に機能しない制度であると否定的に評価するか。これからも具体的な成果を集めてみるが、私の評価は後者だ。