第72回 意外だった外交部長の交代(2007年4月27日)

 

2007426日、外交部長の交代が発表され、李肇星から楊潔chi(竹かんむりに褫のつくり)に交代した。また外交部長の他に、国土資源部長、水利部長、科学技術部長の交代も発表された。

新外交部長に就任した楊潔chiは、外交部副部長であり、かつ外交部副部長の中では戴秉国以外の唯一の中央候補委員であることから、外交部長への昇格は予想されていた。しかし、この秋に第17回党大会を控え、閣僚人事は通例によれば来年3月の全人代で行われると思われた。そのため、この時期に4部長が一度に交代したのは大変な驚きである。今回は、この人事について私が思うことを述べることにする。

 

●サプライズだった外交部長の交代

省部長クラスの幹部は65歳の定年制が厳密に適用されており、65歳に達したら区切りのいい党大会後の全人代を待たずに交代するケースが増えている。今回交代した4部長は、李肇星(194010月生)、孫文盛(19422月生)、徐冠華(194112月生)、汪恕誠(194112月生)と全員65才を超えており、定年制度が厳密に運用されているということが言える。しかし、200510月にすでに65才に達し、その後約1年半もの間外交部長であった李肇星のこの時期の辞任は実に不可解なことである。

他方、李肇星がこの時期まで外交部長であったことは理解できた。過去に外交部長を歴任した銭其シン、唐家センが65歳を超えても党大会後の全人代まで外交部長の座にあったからである。これについて私は外交部長が閣僚の中でも特殊で重要なポストなので、定年年齢を多少超えても、党大会後の全人代で交代する、そして副首相または同等の国務委員に昇格し、さらに5年間外交を指導すると考えてきた。そのため最近ことあるごとに私は20073月の全人代で李肇星が国務委員に昇格すると予想してきた。しかしこの予想は見事にはずれてしまった。これにより李肇星の国務委員昇格はなくなり、現外交部副部長として党大会を迎える戴秉国が国務委員に昇格するだろう。この場合、外交部長未経験者が昇格するという初めてのケースになる。今回の外交部長の交代はまさにサプライズだったと言える。

 

●外交部長交代の政治的意図

外交部長が65才定年を免除されている特殊な閣僚であることに変わりはない。なぜならば、200510月以降に外交部長を交代させるタイミングがあったからだ。例えば、200512月に交通部長、200612月に農業部長がそれぞれ交代している。この二度のタイミングで外交部長を交代させてもよかった。しかしそれをせず、この時期に外交部長を交代させたということから、そこに政治的意図があるのではないかと考える。

外交部長ほどの重要なポストの人事は、最高指導者である胡錦濤の意向が反映されていると見るのが自然だろう。そうするとこの時期の外交部長の交代に来年の全人代まで待てない胡錦濤の焦りのようなものを感じる。その焦りというのは、胡錦濤自身が今の段階で第17回党大会の主導権を握ることができていないと考えているのではないか。つまり胡錦濤が主導権を握ることを妨げる勢力が存在するということだ。例えば、上海市党委員会書記に習近平を就けた勢力や天津市党委員会書記に張高麗を就けた勢力である。これらの勢力を「太子党」グループというか曾慶紅グループと言うかは慎重であらねばならないが、少なくとも胡錦濤が望まない人事がここ数カ月行われていることから、必ずしも胡錦濤の権力基盤は盤石でないと思われる。ただし、今回の外交部人事で言えば、李肇星と戴秉国が胡錦濤グループと胡錦濤への対抗グループの「代理戦争」と言えるかどうかは確定できない。しかし、この時期に胡錦濤が外交部長を交代させる力を示す必要があったのだろう。それは決して権力があるから代えることができたというのではなく、強引に押し切って何とか形勢不利の状況を転換させたいという焦りからであろう。すでに権力基盤が盤石ならば来年3月の全人代まで待てばよかった。しかしそれができなかった。

17回党大会の主導権、それは第1が人事の主導権、つまり胡錦濤の接近をより多く中央の要職に抜擢することであり、第2に施政方針で和諧社会、弱者救済色の強い方針を打ち出すことができるかという点である。

今回の人事で不利が一転するわけではない。苦しい政権運営を迫られていると私は見ている。

 

●戴秉国の位置づけ

新たに就任した外交部長の楊潔chiは駐米中国大使を歴任したことのある知米派の人物で中国外交の中心が対米外交であることから順当な起用である。その上の立場で恐らく国務委員として外交部副部長の戴秉国が昇格するだろう。彼はロシア・東欧に強い外交官であり、知米派の李肇星が国務委員になるよりも、楊潔chiとのバランスがとれる点がメリットだろう。しかし、戴秉国は外交部長を経ていないので国務委員として外交全般を統括することに長けているかどうかは不明でデメリットだと思う。その点では私は順当に李肇星の方がよかったのではないかと思っている。しかし政治的背景があるので如何ともし難い。

他方胡錦濤の権力基盤的には、胡錦濤と戴秉国との関係はよく分からないが、本来李肇星が国務委員に昇格すれば戴秉国は定年引退のはずだった。それが一転して、戴秉国の政治生命は5年延びたわけである。それを意気に感じないはずがない。胡錦濤の側近部下は宣伝イデオロギー部門に強い人材は多いが、経済と外交に通じた人材はほぼ皆無である。楊潔chi50才という若さを考慮すれば、戴秉国は胡錦濤のために外交分野で主導権を発揮するだろう。胡錦濤にとって1つ不得手分野を克服したと言える。

最後にその他の3名の部長交代は、部署がさほど政治的な重要性をもたないので、順当な定年交代という以上の意味はないと見ている。