第71回 経済偏重の日中関係―日中共同プレス発表の分析(2007年4月12日)

 

 2007411日から13日まで温家宝首相が来日した。安倍首相と会談後、その成果は日中共同プレス発表として出た。今回はこの共同プレス発表について分析し、私なりのポイントと感想を記すことにする。

 

●ポイント

 共同プレス発表のポイントは以下の4点である。

(1)戦略的互恵関係とは何か、そしてそれを実現するため具体策が示された。

(2)東シナ海ガス田問題ではこの秋までに共同開発についての具体的な案を出すことで一致した。

(3)台湾問題について言及された。

(4)北朝鮮の拉致問題解決への中国の協力について言及された。

 

●感想

安倍政権発足以降二度目の首脳訪問となるため、日中両国は昨年10月の安倍首相の訪中以降の日中関係の改善、発展の成果を具体的に示すことを迫られていた。その結果戦略的互恵関係を実現するための取り組みが具体的に示されたことを評価したい。安倍首相訪中時の共同プレス発表にはなかった医療や農業、中小企業などの領域で具体策が示されたことは、関係改善の流れに乗った「便乗領域」と言える。

しかしその具体策をざっと眺めてみると、そのほとんどが経済や民間交流といった非政治領域についてである。例えば東シナ海ガス田問題では具体的な成果は示されなかった。「この秋までに」具体的な案を出すとしているのは、今年9月に予定されている安倍首相の二度目の訪中を想定したものだが、共同開発の範囲をめぐって調整がつくとは思えない。また北朝鮮の拉致問題についてはこれまでの中国側指導者が明言してきた「理解と同情」だけでなく、「協力」が示された。しかしこれが拉致問題は日朝二国間の交渉で解決されるべきと考えてきた中国の姿勢の転換を意味するかどうかは分からない。私は日朝二国間の交渉の実現に協力するという程度のことで、それならこれまでと変わらないと思っている。

 結論として、日中関係が経済に偏重していることに変わりはない。狭義には一度目の首脳交流以降の成果を、広義には日中関係の改善、発展の成果を短期間で示すには非政治領域しかない。温家宝首相も安倍首相も今回の首脳交流で成果を示すことを迫られていた国内政治情況が反映された結果と言える。

他方戦略互恵関係を実現するための政治領域での取り組みで合意することは難しいことも再確認された。首脳、閣僚の対話と交流が進むことを歓迎するが、それを通じて政治領域での取り組みが示されていくかどうかは実のところ分からない。温家宝訪日は関係改善の第二歩と位置づけられている。さらなる関係改善、深化も大事だがそんなに楽観視はできない。今後第三歩があるかどうかの方が気になるところだ。

 

(資料)日中共同プレス発表の主な項目

 

四、戦略的互恵関係構築に関する共通認識

(1)戦略的互恵関係の基本精神

・アジア、世界の平和、安定、発展のために建設的な貢献を行う

・二国間、地域、国際など各レベルでの相互利益協力を全面的に発展させ、二国間、アジア、世界に貢献する

・相互に利益を獲得し、共同利益を拡大する

 

(2)戦略的互恵関係の基本的中身

@相互支持、平和発展、政治的相互信頼の増強

A相互利益協力の深化、共同発展の実現

B軍事対話・交流の強化、地域安定維持に共同で取り組む

C人文交流の強化、両国国民の相互理解と友好感情の増進

D協調と合作の強化、地域・グローバルな課題への共同対処

 

五、戦略的互恵関係構築のための具体的な協力

(1)対話交流の強化と相互理解の増進

@首脳交流

A日中経済ハイレベル対話システム

B外交当局対話

C軍事交流

D人員往来、青少年交流

E文化交流

 

(2)相互利益協力の強化

@エネルギー・環境保護協力

A農業協力

Bトキ

C医療領域での協力

D知的財産権

E中小企業博覧会

F情報通信技術領域での協力

G金融領域での協力

H刑事司法領域での協力

 

(3)地域・国際問題での協力

@国連改革

A6カ国協議での協力

B投資交流

C経済協力

 

六、東シナ海問題への対処のための共通認識

 

七、旧日本軍遺棄化学兵器