第70回 全人代の政府活動報告を書いたのか(2007年4月9日)
2007年3月に開かれた全国人民代表大会。温家宝首相が行った政府活動報告が先日公表された。全人代終了後この報告を党や政府の各機関が学習する際、報告そのものだけでなく、解説書が使われる。そうした解説書は全人代終了後から書店に並ぶ。報告だけではよく分からないので、私もよくそうした解説書を購入するが、数種類あるので各項目について執筆者が明記されているものを選ぶようにしている。
今年も書店に数種類の解説書が並んでいたが、そのうち選んだのは国務院研究室が編集した『十届全国人大五次会議《政府工作報告》補導読本』である。ここ数年、政府活動報告の解説書は国務院研究室編集のものを選んでいるは、項目ごとの論文の執筆者が明記されており、国務院研究室という国務院直属の研究機関が編集しているので内容もしっかりしているだろうと思うからだ。ただしその執筆者がいったい誰なのか、どこの所属なのか、気になってきたので、今回それを調べてみることにした。その際、昨年の執筆者と比較してみることにした。
この作業によって執筆者の多くが国務院研究室所属であることが分かった。国務院研究室については主任、副主任ぐらいまではサイトで分かるのだが、司レベルの担当者までは分からない。国務院研究室は国務院の政策決定に一定の役割を果たしているだろうし、政府活動報告そのものも分担執筆している可能性が高い。そのため今後執筆者の発言や論文に注目し、国務院の関心事や方向性を知ることができる。もう1つは国務院研究室所属以外の執筆者による項目については、国務院研究室にその分野の専門家がいない可能性があり、弱い分野であることが推測できる。3つめに昨年との比較で、項目の設定の仕方で政府活動報告のポイント、さらに現在の国務院の関心を推測することができる。以上のようなことを考えた。
●執筆者一覧
下記の表は2007年の解説書で分類された項目をベースに2006年と2007年の執筆者の一覧表である。2006年は2007年の項目に近いところをあてた。また執筆者の所属は、中国語の検索サイトから調べ、各人について直近の所属を採用したつもりだが、サイト内の記事の掲載時期が一定ではないため、役職が重複するケースもあるが、ここでは細かい正確さを求めていないので、特に調整していない。また部門しか記していないものは国務院研究室の内設部門である。
項目 |
2006年 |
2007年 |
前年の総括 |
邱暁華 |
李暁超(国家統計局国民経済綜合統計司長) |
マクロ経済 |
張立群 |
程建林(国家発展改革委員会綜合司) |
三農問題 |
孫梅君 |
孫梅君(農村経済研究司) |
経済構造 |
程建林 |
趙承? |
エネルギー・環境 |
|
張立群(国務院発展研究中心宏観経済研究部第一研究室主任) |
経済体制改革 |
党小卉 |
連啓華(国家発展改革委員会経済体制綜合改革司副司長) |
対外開放 |
姚堅 |
姚堅(商務部辧公庁副主任) |
社会事業 |
劉応傑 |
劉応傑(綜合研究司長) |
就業・社会保障 |
趙承 |
ケ文奎(社会発展研究司長) |
区域発展 |
|
張定龍(秘書司長) |
人民生活 |
李暁崗 |
|
矛盾・問題 |
汪同三 |
汪同三(中国社会科学院数量与技術経済研究所長) |
今年の目標 |
韓長賦 |
寧吉普i党組メンバー) |
国民経済 |
劉樹成 |
劉樹成(中国社会科学院経済研究所長) |
財政政策 |
王保安 |
王保安(財政部綜合司長) |
通貨政策 |
肖炎舜(マクロ経済研究司処長) |
|
投資 |
胡哲一 |
王敏 |
消費 |
李継尊 |
|
不動産 |
|
張紅晨(主任秘書) |
農業 |
|
李炳坤(副主任) |
社会主義新農村建設 |
李炳坤 |
郭?(農村経済研究司長) |
農村総合改革 |
郭? |
黄守宏(農村経済研究司長) |
エネルギー・環境 |
郭克莎 |
張泰? |
産業構造 |
侯雲春 |
侯雲春(副主任) |
自主創新 |
鄭新立 |
郭克莎(マクロ経済研究司長) |
区域協調 |
張定龍 |
範恒山(国家発展改革委員会地区経済司長) |
民生問題 |
|
丘小雄(副主任) |
和諧社会 |
|
喬尚奎? |
教育 |
袁自煌 |
袁自煌(教育部政策研究与法制建設司副司長) |
衛生 |
ケ文奎 |
宋大偉(社会発展研究司) |
市場 |
陳文玲 |
|
文化 |
侯万軍 |
李暁崗? |
就業・社会保障 |
劉文海 |
劉文海(社会発展研究司副司長) |
城郷社会救助 |
|
朱耀垠(民政部政策研究中心副主任) |
安全生産 |
唐元 |
唐元(工交貿易研究司副司長) |
民主法制 |
李岳徳 |
李学忠? |
国有企業改革 |
馬傳景 |
馬傳景(工交貿易研究司長) |
非公有制経済 |
|
張昌彩(国家発展改革委員会宏観経済研究院) |
財税体制改革 |
向東 |
向東? |
金融体制改革 |
肖炎舜 |
胡哲一(マクロ経済研究司長) |
対外開放 |
王検貴 |
王検貴(マク済研究司副処長) |
対外貿易成長方式 |
|
陳文玲(綜合研究司長) |
外資利用 |
|
江小娟(副主任) |
政府改革 |
|
楊書兵(信息研究室主任) |
社会安定 |
張大平 |
|
国防・軍隊建設 |
張海燕 |
蔡紅碩(中央軍事委辧公庁副主任) |
HK・マカオ |
|
郭立仕 |
外交 |
岳暁勇 |
岳暁勇(中国現代国際関係研究院教授) |
(注)「?」は所属不明。
●国務院研究室のスタッフ
上記の表から国務院研究室のスタッフを整理しておく。なおカッコ内は2007年の執筆項目で、2006年に執筆した場合は⇒印の前に執筆項目を記した(「十一五」は第11次五カ年規劃についての特集項目を書いたことを示す)。
主任 魏礼群
副主任 侯雲春(産業構造⇒産業構造)
副主任 丘小雄(前文⇒民生)
副主任 李炳坤(社会主義新農村建設⇒農業)
副主任 江小娟(十一五⇒外資)
党組メンバー 寧吉普i十一五⇒今年の目標)
主任秘書 張紅晨(不動産)
【秘書司】
司長 張定龍(区域協調⇒区域経済)
【綜合研究司】
司長 陳文玲(市場⇒対外貿易)
司長 劉応傑(社会事業⇒社会事業)
【マクロ経済研究司】
司長 胡哲一(投資⇒金融)
司長 郭克莎(エネルギー・環境⇒自主創新)
処長 肖炎舜(金融体制改革⇒通貨)
副処長 王検貴(対外開放⇒対外開放)
【工交貿易研究司】
司長 馬傳景(国有企業改革⇒国有企業改革)
副司長 唐元(安全生産⇒安全生産)
【農村経済研究司】
司長 郭?(農村綜合改革⇒社会主義新農村建設)
司長 黄守宏(農村綜合改革)
孫梅君(三農問題⇒三農問題)
【社会発展研究司】
司長 ケ文奎(衛生⇒就業、社会保障)
副司長 劉文海(就業、社会保障⇒就業、社会保障)
宋大偉(衛生)
【信息研究司】
●以上から分かること
(1)ここに掲載されている執筆者は各項目についての専門家であり、その発言や論文には注目したい。
(2)前年に関する部分については個別項目で国務院研究室以外の専門の部・委員会所属者が多く執筆している。今年に関する部分についてはだいたい国務院研究室所属者が担当しているが、教育や国防、外交など特殊な項目については外部に依頼している。ただしこれが恒常的な傾向か、一時的な傾向かはさらに過去との比較が必要である。
(3)国務院研究室所属者の多くは2006年と2007年で同一項目、関連項目を執筆しており、専門がはっきりしたエキスパートが集まっていることが推測される。
(4)エネルギー・環境、区域経済、不動産、民生問題、和諧社会、非公有制経済、対外貿易・外資利用等の項目が新設されており、現在の政権が最近重視している分野と一致している。政府活動報告は記述がおおざっぱなので、特にこうした注目項目については解説書を読んでよりよく理解したい。
以上のことから、正直驚くような発見ができたわけではないが、この解説書の執筆者が政府活動報告の草稿を実際に執筆したことが推測される。それは彼らが自分の考えをそのまま草稿にするのではなく、他から国務院研究室に集まってくる情報を集約する役割があるのだろう。そのため胡錦濤政権の方向性を知る上で彼らの名前を頭の片隅に置いて論文や発言を見たときにはチェックするのがいいだろう。
●2007年全人代の政府活動報告の主な内容
一、2006年工作回顧
二、2007年工作の全体的配置
経済社会発展における矛盾と問題
(1)経済構造の矛盾
(2)経済成長方式が粗放
(3)民衆の利益に及ぶ突出した問題の解決がうまくいっていない
(4)政府自身の建設に存在する問題
【参考】2006年野政府工作報告で示された経済社会生活における困難と問題
(1)穀物の増産と農民の増収の難度が強まる
(2)固定資産投資の伸び率が依然高すぎる
(3)一部の産業の過剰投資の悪影響が顕著
(4)民衆の直接的な利益に及ぶ少なくない問題がまだうまく解決されていない
(5)安全生産の状勢が厳しい
三、経済の立派に速い発展の促進
(1)マクロ調整統制の強化と改善を堅持する
(2)現代農業の発展と社会主義新農村建設の推進
(3)エネルギー節約と消耗、環境保護、用地の節約・集約に力を入れてしっかり行う
(4)産業構造の高度化と自主創新の推進を加速させる
(5)地域協調発展をさらに推進する
四、社会主義和諧社会建設の推進
(1)教育、衛生、文化、体育など社会事業発展を加速させる
(2)就職と社会保障の工作を強化する
(3)安全生産工作を強化し、市場秩序を整頓し規範化する
(4)社会主義民主法制建設を推進する
―最も重要なことは民主法制の建設を強化し、社会の公平正義を促進すること:@法に基づく行政の全面的推進、A行政監督のさらなる強化
(5)社会の安定調和を維持する
五、改革の深化、開放の拡大
・国有企業改革
・独占産業改革
・非公有制経済の発展
・財税制改革
・金融体制改革
・対外貿易の発展
・外資利用
・企業の対外投資
六、政府自身の改革と建設の強化
―政府工作の3つの基本準則:@科学的民主的政策決定の実行、A法に基づく行政の推進、B行政監督の強化
―政府自身の改革と建設の強化とは:@人を基本とする、民衆のための執政を堅持し、最も広範な人民の根本利益をうまく実現し、うまく維持し、うまく発展させることを出発点と到達点とする、A国情から出発し、党の指導、人民が主人公、法による国の統治の有機的統一を実現する、B社会主義市場経済体制を絶えず完全にし、経済社会の全面的協調的持続可能な発展を促進することを堅持する、C政府管理の制度と方式を作り上げ、政府工作の透明度と人民民衆の参与度を高めることを堅持する
―現在・今後の目標:@政府職能の転換を中心とし、行政権力を規範化し、政府組織構造と職責分担を調整、高度化し、政府の管理とサービス方式を改善し、政務公開を大きく推進し、電子政府と政府サイトの建設を加速させ、公務員の資質を高め、行政効能を全面的に高め、政府の執行力と信用力を強化する
―今年の目標:@マクロ調整統制体制を完備し、政企分離を堅持し、行政審批制度改革を深く推進し、審批項目を削減し、事務効率を高める、A社会管理と公共サービスを強化し、基本的公共サービス能力を強化し、人民民衆が大きく不満を持っている問題を着実に解決する、B法により行政行為を規範化し、清廉な政治建設と反腐敗闘争を深く展開し、教育、制度、監督、重い懲罰と腐敗を予防するシステムを完備する
今年の主要任務の比較
|
2007年政府活動報告 |
2006年政府活動報告 |
1 |
マクロ調整統制の強化と改善を堅持する |
経済の安定した速い発展を引き続き維持する |
2 |
現代農業の発展と社会主義新農村建設の推進 |
社会主義新農村建設をしっかり推進する |
3 |
エネルギー節約と消耗、環境保護、用地の節約・集約に力を入れてしっかり行う |
産業構造調整、資源節約、環境保護に力を入れる |
4 |
産業構造の高度化と自主創新の推進を加速させる |
地域協調発展を引き続き推進する |
5 |
地域協調発展をさらに推進する |
科教新興戦略と人材強国戦略を実施し、文化建設を強化する |
6 |
教育、衛生、文化、体育など社会事業発展を加速させる |
改革・開放をさらに推進する |
7 |
就職と社会保障の工作を強化する |
民衆の直接的な利益に及ぶ問題の解決を高度に重視する |
8 |
安全生産工作を強化し、市場秩序を整頓し規範化する |
民主政治建設を強化し、社会安定を維持する |
9 |
社会主義民主法制建設を推進する |
|
10 |
社会の安定調和を維持する |