第69回 「地方各級人民政府機構設置・編制管理条例」から見えること(2007年3月21日)
●行政コスト負担と本条例
2月14日の国務院常務会議で「地方各級人民政府機構設置・編制管理条例」が採択された。地方の各行政レベルの人民政府の機構設置、編制管理に関する条例である。この条例に注目するのは、最近、県レベルや郷レベルの財政について勉強していると、過剰債務が大きな問題となっている。その原因は支出に見合った財政収入が確保できないという収入側の問題なのか、それとも支出そのものが多すぎるという支出の問題なのか。恐らく両方だろうが、後者について言えば、行政コストの負担があるようだ。行政コストもいろいろあるが、この条例に関連することで言えば、行政機構の数とそこで働く人員数が多すぎることで経費や人件費がかかることが挙げられる。それでは、行政機構の数やそこで働く人員数はどのように規定され管理されているのか。この条例が1つの手がかりになるだろう。そこでこの条例の内容を整理しておく。
●語句の確認
(1)「地方各級」:次の3つの行政レベルの人民政府が対象となる。
@省レベル(省・自治区、直轄市)
A県レベル(県・人民政府)
B郷レベル(郷・鎮)
(2)「編制」:本条例第28条によれば「行政機構と事業単位の人員数と指導者職位の数」を指す。
(3)「県級以上各級人民政府機構管理機関」:省レベル、県レベルについて以下の通り。
省レベル:「●●省機構編制委員会」
県レベル:「●●県機構編制委員会」
ちなみに中央は「中央機構編制委員会」
●関心のある内容
第1章 総則
第6条「県級以上の各級人民政府は、機構の編制、人員の給料、財政予算を相互に制約するシステムを構築し、機構設置、編制確定では財政の負担能力を十分考慮しなければならない」
―機構と人員の定数がコストと関係していることが分かる
第7条「県以上の各級人民政府行政機構は、下位の人民政府行政機構の設置、編制管理工作に絶対に関与してはならないし、下位の人民政府にその業務の対口の行政機構を設立するよう求めてはならない」
―下位の人民政府の自由度を高めたいという意図がある
第2章 機構設置管理
第10条「地方各級人民政府行政機構の職責が同じ、もしくは近いものは原則1つの行政機構が責任を負う。行政機構間の職責区分に異議があれば、主導的に話し合い(協商)で解決しなければならない。話し合いで一致すれば当級人民政府機構編制管理機関に概要を報告し記録に残し調査して確認する(備案)。話し合いで一致しなければ当級人民政府機構編制管理機関が調停意見を提出し、機構編制管理機関が当級人民政府に決定を報告する」
―機構編制管理機関が機構設置の重要な役割を果たしていることが分かる。ただし、機構編制管理機構が他の行政機関から独立した組織なのか、それとも他の行政機関からの出向者から構成されているのかによって評価は変わってくる。
第11条 地方各級人民政府による議事協調機構の設置
第12条 県以上地方各級人民政府の議事協調機構による事務機構(辧事機構)の設置
第13条 地方各級人民政府行政機構による内設機構設置
―以上の設置行為には統制条件が挙げられている。無秩序に機構を増やしたくないという意図が見られる。逆に言えば、これまで無秩序にこうした機構が増えていた実態が反映されている。
第3章 編制管理
第16条 「地方各級人民政府の行政編制の総定数は省級人民政府が提出し、国務院機構管理機関(注:中央機構編制委員会)が審査しチェックし(審核)、国務院が認可する」
第18条 「地方各級人民政府は行政編制の総定数範囲内で本級人民政府関係部門の行政編制を調整することができる」
―総定数は上級政府が管理しているが、その枠内での運用は当該政府が権限を持っている。
第5章 法律責任
第26条「以下の行為があれば機構編制管理機関は批判を通達し、期限を区切って改正を命令する。経緯がひどい場合は直接の責任主管者とその他の直接の責任者に対し法的処分を科す。」
(1)勝手に行政機構を設立、撤廃、合併、あるいは規格、名称を変更すること
(2)勝手に行政機構の職責を変更すること
(3)勝手に編制を増加、あるいは編制の使用範囲を変更すること
(4)編制の定数を超えて財政負担人員を配置、編制の定数を超えた人員のために財政資金を審査して割り当てる、あるいはその他の資金を流用して経費を手配し、人員を偽って報告することで編制を占用したり財政資金を無断借用すること
(5)勝手に職数を超え、規格を超えて指導者メンバーを配置すること
(6)規定に違反して下位人民政府行政機構の設置や編制管理工作に関与すること
(7)規定に違反して機構、編制を審査認可すること
(8)機構編制の管理規定に違反するその他の行為
●行政改革と財政改革
日本には「行財政改革」という言葉があるように行政改革と財政改革はセットで行われる。そこには行政システムと行政コストが関係している。中国ではこれまでたびたび政府機構の削減や許認可の簡素化といった行政改革が行われてきたが、その際行政コストと関連づけられることはほとんどなかった。多くは行政効率や職能転換、WTO加盟といったものとの関連づけがされてきた。しかし膨大な財政赤字を抱えていることや行政の肥大化などが指摘されていることを考えれば、行政改革が財政と無縁であるはずがない。
今回取り上げた条例は行政機構や人員の無秩序な増加を抑えるための法規だが、随所に財政との関連が指摘されている。ここにやっぱり行政コストの負担が財政を圧迫している、だから行政改革をしなければならないのだと分かる。
しかし県レベルの政府は中国全土に膨大な数が存在する。これを1つ1つ定数以上の機構や人員が配置されているかどうかチェックすることは不可能である。ましてや責任者の責任追及などは考えられない。そうすると定数を無視した機構や人員の配置に変わりなく、行政コストが大きくなり、財政を圧迫し、それが住民への規定(税金)外の負担増につながるという構図を変えることは難しい。今共産党の統治リスクの1つは県や郷のレベルの財政赤字、そしてそれが生み出す過剰債務である。