第63回 2005年9月の『人民日報』(2006年1月2日)

 

 しばらく「今日の『人民日報』」をまとめていなかったので一気にまとめました。

 

20050901

(1)チベット自治区成立40周年祝賀幹部大会開催、賈慶林中央政治局常務委員兼政協主席が挨拶

 

(2)特約評論員「平和発展の道をしっかりと進もう」を掲載

93日の抗日戦争勝利記念日に関連した評論。

 

(3)金煕徳「『歴史摩擦』が韓日関係に衝撃を与える」を掲載

金は中国社会科学院日本研究所研究員

 

20050902

(1)チベット自治区成立40周年祝賀大会、賈慶林が重要講話

40年来の中央からチベットへの財政投資は968.72億元に上る。中央政府の支援なしに現在のチベットはないということを言いたいようだ。

 

(2)「中国の軍備管理、軍縮、拡散防止努力」白書を発表

1995年以来の同様の白書の発表で、10年間の中国の努力を列挙している。

 あまり軍や軍事力について関心のない者にとって、いかに中国が積極的に軍備管理、軍縮、武器拡散防止に努力してきたかを主張する白書を読むのはちょっと辛い。

 なぜ今この白書が発表されたのか。ここ数年、毎年中国は軍事力関連の白書を発表している。

@20041227日「2004年の中国の国防」

 A2003123日「中国の核拡散防止政策と措置」

 B2002129日「2002年の中国の国防」

 大体12月に出ているため、今回の白書が発表された時期が9月というのは早い。興味深いのは、Aが温家宝首相の訪米を控えた時期であることであり、Bが米中次官級軍事協議の開かれた日と同じであることだ。このことから今回の白書発表も胡錦濤の訪米に合わせたと推測される。

 中国の外国への武器輸出や軍事力増強に対し米国が強い懸念を示していることから、今回の白書では中国がいかに武器輸出の管理を徹底してやっているか、軍事費は世界的に見て低水準だといったことをアピールして、米国の疑念を払拭したいという意図があると言える。

 

20050904

(1)抗日戦争勝利60周年、反ファシスト戦争勝利60周年記念式典が開催され、胡錦濤、温家宝ら常務委員9名、江沢民が出席

93日にも抗日戦争勝利60周年、反ファシスト戦争勝利60周年を記念する行事が行われた。

 記念式典で胡錦濤が行った重要講話の主な内容は以下の通り。

@前文

A抗日戦争回顧

B抗日戦争の意義

C抗日戦争勝利の意義(2番目に長い

D抗日戦争と反ファシスト戦争の相関

E抗日戦争勝利から60年の回顧

F現在の中国(1番長い

G日中関係の重要性

H結文

最後のところでわざわざ日中関係について言及していることに注目したい。「過去を忘れず、教訓をくみ取ってこそ歴史の悲劇の再演を回避することができる。日本の政府と指導者が歴史に対し、人民に対し、未来に対し高度な責任を負う態度に基づいて、日中友好を維持し、アジア地域の安定と発展を維持するという大局から出発し、厳しく慎重な態度で歴史問題を処理し、侵略戦争に対し表したお詫びと反省を行動に結びつけることを希望する」と述べている。

ポイントは、歴史認識の重要性、実際の行動(つまりは靖国神社参拝の中止を含めた)を求めている点であり、しかもこれまで表してきた「お詫びと反省」についてはそれを認めた上で実際の行動を求めている点である。

いろんな問題があっても胡錦濤政権が対日関係を重視していることを伝えるメッセージだと前向きに取らえたい。抗日戦争勝利60周年記念行事もこれで一段落で、胡錦濤政権が今後日中関係の改善に力を入れることを示唆するサインととらえたい。今後の胡錦濤政権の「実際の行動」に注目したい。

他方、全く別の見方をすれば、講話の半分ぐらいを抗日戦争のことに割き反日感情をあおったため、日中関係に触れたのはそれに対するフォローとも取れる。それにしてもフォローしておかないと日本の対中感情がさらに悪化してしまっては困るという意識が働いたのかもしれない。そうだとしたら、胡錦濤政権に多少は対日関係重視の気があるということだろう。

演説で最も長く触れられたのが現在の中国のことで中国共産党の統治の正当性を述べた部分である。結局胡錦濤政権が抗日戦争勝利60周年を現在の共産党統治の正当性、また胡錦濤政権の基盤強化に利用したということである。それに日本が利用されたということにはやはり釈然としないものが残る。

 

20050908

(1)国家建設銀行が湖北省に対する第115カ年長期計画のための政策性貸款協議に同

協定名は「中部勃興促進開発性金融協力協議」。一例出ると他の中部地区に属する省が「オレも、オレも」と手を挙げるだろう。結局全部の省・自治区・直轄市に政策性貸款を出すのだろうか。

 

(2)国務院常務会議がアルミ産業に対する政策を採択

昨年も経済引き締め政策でその対象となったアルミ産業。今ごろになって「アルミ工業発展専項規劃」と「アルミ工業産業発展政策」が審議され、原則採択されました。会議は現在の中国のアルミ産業は世界で競争できないものと切り捨てています。アルミ産業への過剰投資の統制が目的でしょう。

 経済引き締め政策では不動産業ばかりに目がいっていたので、アルミ産業への過剰投資のことはすっかり忘れていたが、今頃になって取り上げられるのはアルミ産業の状況がかなり悪いということだろう。

 

20050909

(1)劉雲山中央政治局委員兼中央宣伝部長が95日から8日まで青海省を調査

西部大開発について強調。

 

(2)政治協商会議に関する特集を掲載

政治過程に積極的に参加し、大きな影響を与えている瀋陽市政治協商会議を「瀋陽現象」として取り上げている。

 

20050910

(1)湖南省長沙市で一部省市就業再就業工作座談会を開催。黄菊中央政治局常務委員兼副首相が総括報告

今年1-8月期の就業人口の新規増加は870万人で、目標の87%に相当。しかし、今後の就業状況は厳しい。その理由は以下の通り。

  @労働年齢を迎える新規人口がピークを迎えることと農村の余剰労働力の就業転移規模が増加することによる労働供給超過

  A国際石油価格の上昇

  B貿易保護主義の台頭

 就業問題、再就職問題は解決がなかなか難しい。湖南省長沙市で開かれたのはこの地域の就業状況がいいからか、悪いからか。

 

(2)中央規律検査委員会と監察部が主催で、単独派遣規律検査監察駐在機構統一管理工作会議を開催

政治改革の一環

 

20050911

(1)国有資産監督管理委員会が「上場企業の株式流通改革における国有株管理に関連する問題に関する通知」を発表

 

(2)全国政務公開監督検査調査研究工作報告会を開催

全国政務公開領導小組では7つグループが7月から全国13の省市区で監督検査調査研究を実施。その報告が行われた。

 

20050912

(1)曾慶紅中央政治局常務委員が香港での歓迎セレモニーで重要講話

10日から曾慶紅が香港を訪問している。どうしてこの時期に曾が香港にいるのかちょっと気になる。曾は党の序列第5位で、香港担当なので香港視察は不思議ではないが、何故今なのか。

 曾は香港特別行政区主催の歓迎式典で「繁栄香港、調和香港を、心を合わせて協力して建設しよう」と題する重要講話を行っている。ディズニーランドHKの開園に合わせていったのか。

 

(2)樊吉杜の評論「地域の平和を促進する重要な選択」を掲載

樊は中国社会科学院米国研究所副研究員で核拡散防止に関する論評。

 

20050921

(1)徐才厚中央軍事委員会委員が「新時期新段階のわが軍の歴史使命に関する胡錦濤の重要論述を全面的に貫徹するよう深く学習しよう」と発言

国防大学高級幹部理論研討班開会式での挨拶。次のように述べている。

 「胡主席の重要論述は、わが軍の歴史使命に関する毛沢東同志、ケ小平同志、江沢民同志の重要思想を受け継いだもので、また時と共に進み、党の軍事指導の重大な創新であり、新世紀新段階の国防軍事建設規律に対するわが党の認識を示す新境地に到達した。全軍部隊は、胡主席の重要論述の重大な理論価値と実戦意義を十分認識し、学習貫徹の自覚性をしっかり強化しなければならない」

 胡錦濤の軍に対する考え方を「重要論述」に高め、歴代最高指導者と同列に扱い、その学習を促している点に注目すると、軍における胡錦濤の影響力も世間で言われているほど悪くないのではと思うのだが。

 

(2)外交部が東シナ海ガス田開発で中国の正当性を主張

 

20050922

(1)20日から21日まで全国実施公務員法工作会議を開催、曾慶紅中央政治局常務委員が重要講話

来年11日からの公務員法施行を前に、全国の組織部長、人事担当副省長クラスなどが集められ、中央から指示を受けた会議。

曾慶紅は前中央組織部長として公務員法制定を取り仕切ってきたので重要講話を行った。

 

(2)人民代表大会信訪工作強化改善座談会を黒龍江省ハルピン市で開催

 

20050926

(1)23日から25日まで呉邦国中央政治局常務委員兼全人代常務委員長が上海市を視察

「上海は全国の重要な経済センターであり、わが国の国民経済において全局面を左右する重要な地位を占め、国の経済建設に重大な貢献をなした。ここ数年上海市は中央の方針、政策を真剣に貫徹し、経済は速い成長を維持し、財政収入は大幅に高まり、構造調整は新たな進展を得、都市の様相は変化し続け、人民の生活水準は絶えず高まっている」と述べた。

 ポイントは中国経済における上海市の重要性を高く評価している点。昨年来の中央の経済引き締め政策に真っ向から反対してきたと言われる上海市で、党中央ナンバー2の呉邦国が上海市の中国経済への貢献度を高く評価したことは、上海市の中央との一体感を感じさせる。

 こうした呉邦国の発言は、彼が元上海市のナンバー1だったことと関係があるだろう。しかしそれは呉邦国が上海閥の一員で江沢民派だから、上海市を取り立てて評価しているという見方はおそらく短絡的だろう。私は今の呉邦国が江沢民派の一員として行動しているとは思わない。むしろ胡錦濤と「対抗勢力」との間に入って、調整役を担っているように思う。そのため、上海市に対する高評価も胡錦濤とうまく折り合いをつけてもらおうという仲介に入ったというような感じに見える。

 

(2)羅幹中央政治局常務委員ら中央代表団が新疆ウイグル自治区のイリに駐屯している武警部隊を慰問

羅幹を代表とする新疆ウイグル自治区成立50周年に関連する中央代表団が新疆ウイグル自治区に派遣され、各地の視察を行っている。羅幹は新疆における独立勢力の活動に対し次のように述べている。

 「現在の新疆は総合的な情勢はよい。しかし注意しなければならないのは、現在国際情勢に深刻な変化が発生し、三股勢力が絶えず破壊活動を進めており、新疆の社会安定に影響を与える要素は依然存在する」。

 他方「胡錦濤総書記が武警部隊第1回党代表大会代表と接見したときの重要指示の精神に照らし、部隊建設の創新発展を絶えず進め、突発性の事件への対処、反テロとの闘争と防衛作戦の能力を絶えず高め・・・」と述べ、胡錦濤の指示に沿った対応を指示している。

 

(3)「インターネット新聞情報サービス管理規定」公布

これはインターネットのニュースサイトに対する管理強化のための規定。

 

20050927

(1)温家宝首相が日中経協訪中団と会見

温家宝は日中関係重視を表明。

 

(2)中央先進性教育活動領導小組第9回会議開催、賀国強中央政治局委員兼中央組織部長が指示

この教育活動に対しては頻繁に会議を行っている。各企業や大学などでも学習活動が本格化しているようだ。

 

20050929

(1)国務院常務会議開催、第4四半期の経済社会発展工作を研究配置し「装備製造業の振興加速に関する国務院の若干の意見」を討論、原則採択

現在の経済社会状況の問題点として以下の4点を挙げている。

@農業問題が依然際だっている

A固定資産投資の規模が大きすぎる

B貿易の輸出入のアンバランスが過激

C大衆利益に関わる問題の速やかな解決が必要

この認識が近く開かれる中央委員会全体会議の基調となるのだろう。

 

(2)新疆ウイグル自治区訪問中の羅幹中央政治局常務委員が新疆生産建設兵団、ウルムチ石化の幹部、従業員を慰問訪問

兵団のこれまでの貢献を高く評価し、「突撃隊」としての役割を強調し、「胡錦濤同志を総書記とする党中央の指導の下」での今後の貢献を求めた。

 何となく兵団に対し媚びを売っているというか、なだめているというか、過剰な言及のように思える。

 

20050930

(1)中央政治局会議開催、中央委員会第5回全体会議は98日から11

 

(2)93日の抗日戦争勝利60周年、反ファシスト戦争勝利60周年に関する胡錦濤の重要演説学習座談会の特集を掲載

掲載論文の日本批判の厳しい論調に変わりはない。しかし、今日が930日で、明日から10月。101日が国慶節でその後一週間は連休で、それが終わるとすぐ5中全会なので、この特集を最後に一連の「反日」キャンペーンも終了するかなあ、という期待をしている。