第62回 共青団出身者に対する評価―胡錦濤の支持者たり得るか(2005年12月25日)
ここ数週間、現在アジ研で実施中の「胡錦濤政権と第11次5ヵ年計画の課題」というプロジェクトの原稿を書いていた。その際いわゆる「共青団派」の動向を取り上げたのだが、そのために資料を作成したので、ここに公開したい。
胡錦濤は2002年11月に開かれた中国共産党第16回全国代表大会(第16回党大会)で江沢民に代わって中国共産党のトップである総書記の地位に就いた。しかし、前任者の江沢民は総書記辞任後も国家元首の地位にあたる国家主席と軍のトップである中央軍事委員会主席の地位にあり、さらに共産党の序列上位9名によって構成される最高意思決定組織である党中央政治局常務委員会に上海市党委書記の時の直属の部下(中央に登用された者を「上海閥」と呼んでいる)を多数送り込み、政治的影響力を確保しようとしたことから、第16回党大会における胡錦濤の権力掌握は限定的なものだった。
その後胡錦濤が権力を確立する過程として、2003年3月に国家主席に、そして2004年11月には中央軍事委員会主席に就いた。総書記就任から2年で胡錦濤も江沢民がそうだったように中国の最高指導者として党、国家、軍の三権を掌握するに至った。
他方、江沢民が上海閥を重要ポストにつけて権力基盤を強化したのと同様に胡錦濤が腹心を重要ポストに送り込むことができるかという点も胡錦濤の権力掌握度を測る上で重要である。胡錦濤の腹心は、中国共産主義青年団(共青団)や貴州省、チベット自治区での活動期の部下や同僚になる。胡錦濤の出身母体の1つである共青団の出身者で、政治的にハイレベルな地位に登用された人たちはまとめて「共青団派」と称され、第16回党大会以降共青団派の重要ポストへの登用が目立つと言われている(例えば『日本経済新聞』2005年2月7日、『朝日新聞』2005年9月23日、林邁克「胡錦濤最新権力部署」『広角鏡』no.397〈2005年10月16日-11月15日〉、寇健文『中共青英政治的演變:制度化輿権力転移1978-2004』〈五南:台湾、2005年〉など)。そこで今回、共青団出身者の登用状況を把握するために、調べてみることにした。
以下の資料は2005年10月末現在によるものであり、出所は中国の部委員会、地方政府、地方党員会などの公式サイトを主参考にし、またラヂオプレス編『中国組織別人名簿』各年版を副参考にした。地方の副職者については完全な経歴が判明しないケースも多くわかる範囲でデータ化したため、傾向を知るということを主な目的とする。各資料の人名の後の記号は「※:中央政治局委員、◎:中央委員、○:中央候補委員」を示す。
このプロジェクトの成果は、アジ研より来年2006年2月頃公刊される予定である。刊行の詳細は今後本サイトで紹介したい。
●胡錦濤の腹心
まず、胡錦濤の腹心として、@共青団書記時代(1982年12月〜1984年12月)、共青団書記処第一書記時代(1984年12月〜1985年11月)、A貴州省党委員会書記時代(1985年7月〜1988年12月)、Bチベット自治区党委書記時代(1988年11月〜1992年9月)に一緒に仕事をしたと思われる人たちについて、現在の役職とその就任時期を調べてみた。その結果が以下の資料1〜資料3である。
資料1:共青団書記時代(1982年12月〜1984年12月)
共青団書記処第一書記時代(1984年12月〜1985年11月)
当時の役職 |
氏名 |
現在の役職 |
現職就任時期 |
書記処第一書記 |
王兆国※ |
中央政治局委員 |
02年11月 |
書記処書記 |
劉延東◎ |
中央統一戦線工作部長 |
02年12月 |
書記処書記 |
李海峰 |
国務院僑務弁公室副主任 |
94年9月 |
書記処書記 |
克尤木・巴吾東 |
政協常務委員 |
03年3月 |
書記処書記 |
陳hao蘇 |
政協常務委員 |
03年3月 |
書記処書記 |
何光wei |
国家旅游局長 |
95年11月 |
書記処候補書記 |
張宝順○ |
山西省党委書記 |
04年2月 |
書記処書記 |
李源潮○ |
江蘇省党委書記 |
02年12月 |
書記処書記 |
宋徳福◎ |
元福建省党委書記 |
|
書記処候補書記 |
李克強◎ |
遼寧省党委書記 |
04年12月 |
中央組織部長 |
李学挙 |
民政部長 |
03年3月 |
中国青年報社長 |
李至倫 |
監察部長 |
03年3月 |
中央国際連絡部長 |
蔡武 |
国務院新聞弁公室主任 |
05年8月 |
中央学校部副部長 |
袁純清○ |
陜西省党委副書記 |
01年1月 |
資料2:貴州省党委書記時代(1985年7月〜1988年12月)
該当者なし
資料3:チベット自治区党委書記時代(1988年11月〜1992年9月)
当時の役職 |
氏名 |
現在の役職 |
現職就任時期 |
副書記 |
熱地◎ |
全人代副委員長 |
03年3月 |
副書記 |
多吉才譲◎ |
全人代副委員長、民族委員会主任 |
03年3月 |
副書記 |
巴桑 |
中華全国婦女連合会副主席 |
98年9月 |
副書記 |
毛如柏 |
全人代副委員長 |
03年3月 |
副書記 |
丹増 |
雲南省党委副書記 |
02年4月 |
副書記 |
田聡明◎ |
新華社社長 |
00年6月 |
副書記 |
張学忠◎ |
四川省党委書記 |
02年12月 |
●共青団出身者の登用状況
共青団出身者の重要ポストへの登用状況を把握するため、@国務院の部委員会(中央省庁に相当)の正職と副職、A省レベルの首長や副首長、B省レベルの党委員会の書記と副書記について共青団出身者の人数を調べてみた結果が資料4〜資料8である。
資料4:国務院部委員会の正職(部長、主任)
氏名 |
役職 |
共青団での役職 |
李至倫 |
監察部長 |
-85中央組織部長 |
李学挙 |
民政部長 |
85中国青年報社長⇒中央辧公庁主任 |
呉愛英 |
司法部長 |
山東省昌wei地委書記 |
杜青林◎ |
農業部長 |
-84吉林省書記 |
孫家正◎ |
文化部長 |
-83江蘇省書記 |
資料5:省レベルの党委員会書記
氏名 |
現職地 |
就任時期 |
共青団での役職 |
張宝順○ |
山西省 |
05年2月 |
85中央書記処書記 |
李克強◎ |
遼寧省 |
04年12月 |
93中央書記処第一書記 |
李源朝○ |
江蘇省 |
02年12月 |
85中央書記処書記 |
銭運録◎ |
貴州省 |
01年1月 |
82-83湖北省書記 |
楊傅堂○ |
チベット自治区 |
04年12月 |
87山東省書記 |
王楽泉※ |
新疆ウイグル自治区 |
04年12月 |
82山東省副書記 |
資料6:省レベルの首長(省長、自治区主席、直轄市長)
氏名 |
現職地 |
就任時期 |
共青団での役職 |
季允石◎ |
山西省 |
02年12月 |
84江蘇省書記 |
楊晶○ |
内モンゴル自治区 |
03年4月 |
93内モンゴル自治区書記 |
韓正◎ |
上海市 |
02年11月 |
91-92上海市書記 |
李成玉○ |
河南省 |
03年1月 |
78-83寧夏回族自治区書記 |
黄華華◎ |
広東省 |
03年1月 |
85広東省書記 |
張中偉◎ |
四川省 |
00年1月 |
-78四川省温江地委書記 |
宋秀岩○ |
青海省 |
04年12月 |
83-89青海省書記 |
馬啓智◎ |
寧夏回族自治区 |
97年12月 |
-83寧夏回族自治区副書記 |
資料7:国務院部委員会の副職(副部長、副主任)
部委員会 |
氏名 |
就任時期 |
共青団での役職 |
人事部 |
万学遠 |
97年5月 |
上海市副書記 |
|
沈躍躍○ |
03年6月 |
浙江省書記 |
国土資源部 |
Yun小蘇 |
04年8月 |
81-甘粛省酒泉地委副書記 |
文化部 |
孟暁駟 |
97年 |
83-87文化部機関団書記 |
衛生部 |
陳嘯宏 |
05年1月 |
北京中医学院薬学系総支部書記 |
資料8:省レベルの党委員会副書記
地名 |
党委員会副書記 |
||
氏名 |
就任時期 |
共青団での役職 |
|
北京 |
強衛○ |
01年3月 |
北京市 |
天津 |
黄興国○ |
03年12月 |
73-76浙江省象山県副書記 |
河北 |
季允石◎ |
02年12月 |
84江蘇省書記 |
内モンゴル |
楊晶○ |
03年4月 |
内モンゴル自治区書記 |
遼寧 |
張行湘○ |
97年11月 |
81-83遼寧省鞍山市副書記 |
吉林 |
全哲沫○ |
02年4月 |
85-86吉林省書記 |
黒龍江 |
栗戦書○ |
04年10月 |
86-90河北省 |
上海 |
韓正◎ |
02年5月 |
91-92上海市書記 |
|
殷一cui○ |
02年5月 |
82-84華東師範大歴史系書記 |
浙江 |
夏宝龍○ |
03年12月 |
82-83天津市河西区団書記 |
福建 |
王三運○ |
02年11月 |
90-92貴州省団書記 |
江西 |
呉新雄○ |
02年9月 |
73江蘇省江陽長江服装廠支部副書記 |
山東 |
孫淑義○ |
01年1月 |
78-85山東省副書記 |
|
姜大明○ |
01年1月 |
93-98中央書記処書記 |
|
杜世成○ |
04年4月 |
72-73山東省黄県公社副書記 |
河南 |
李成玉○ |
99年2月 |
78-83寧夏回族自治区書記 |
|
支樹平○ |
00年12月 |
90-94山西省書記 |
広東 |
黄華華◎ |
93年5月 |
85広東省書記 |
|
劉玉浦○ |
04年1月 |
82-86中央国家機関委書記 |
広西 |
劉奇葆○ |
00年10月 |
85-93中央書記処書記 |
海南 |
羅保銘○ |
01年8月 |
85-92天津市書記 |
四川 |
張中偉◎ |
97年3月 |
72四川省温江地委書記 |
|
劉鵬○ |
02年3月 |
91四川省書記 |
チベット |
列確◎ |
95年4月 |
73-75チベット自治区江孜県書記 |
|
胡春華 |
03年11月 |
中央書記処書記 |
陜西 |
袁純清○ |
04年10月 |
中央書記処書記 |
|
楊永茂○ |
03年12月 |
83-85黒龍江省副書記 |
青海 |
宋秀岩○ |
01年2月 |
中央書記処書記 |
寧夏 |
馬啓智◎ |
93年3月 |
73寧夏回族自治区書記 |
資料9:省レベルの副首長(副省長、自治区副主席、副市長)
地名 |
副省長・副主席・副市長 |
||
氏名 |
就任時期 |
共青団での役職 |
|
天津 |
黄興国○ |
03年12月 |
73-76浙江省象山県副書記 |
|
孫海麟 |
98年5月 |
天津市 |
河北 |
才利民 |
98年1月 |
|
|
宋恩華 |
02年1月 |
黒龍江省 |
山西 |
梁賓 |
03年1月 |
山西省 |
内モンゴル |
烏蘭 |
04年11月 |
内モンゴル自治区 |
黒龍江 |
栗戦書○ |
04年10月 |
86-90河北省 |
|
王東華 |
98年1月 |
|
浙江 |
茅臨生 |
04年4月 |
浙江省 |
安徽 |
趙樹叢 |
03年1月 |
92山東省 |
江西 |
呉新雄○ |
02年9月 |
73江蘇省江陽長江服装廠支部副書記 |
山東 |
林廷生 |
98年4月 |
山東省書記 |
|
陳延明 |
98年4月 |
山東省昌灘地区副書記 |
|
謝玉堂 |
03年1月 |
山東省栖霞県宣伝幹事 |
|
趙克志 |
01年2月 |
山東省莱西県書記 |
|
王仁元 |
02年6月 |
山東省長島県公社書記 |
|
王軍民 |
02年6月 |
山東省烟台市書記 |
|
孫守璞 |
03年4月 |
山東省牟平県書記 |
湖南 |
徐憲平 |
03年1月 |
湖南省 |
貴州 |
肖永安 |
03年1月 |
|
雲南 |
秦光栄○ |
03年1月 |
84-87湖南省副書記 |
チベット |
胡春華 |
03年11月 |
中央書記処書記 |
|
洛桑江村 |
03年1月 |
チベット自治区書記 |
新疆 |
張慶黎 |
05年1月 |
中央工農青年部 |
|
宋愛栄 |
05年1月 |
新疆ウイグル自治区副書記 |
|
胡偉 |
05年7月 |
01-05中央書記処書記 |
以上より共青団出身者の登用状況を整理すると、資料9のようになる。
資料10:共青団出身者の登用状況
区分 |
共青団出身者数 |
全体 |
共青団出身者の割合(%) |
|
部委員会 |
正職 |
5 |
27 |
18.5 |
副職 |
5 |
118 |
4.2 |
|
省レベル |
党委書記 |
6 |
31 |
19.4 |
首長 |
8 |
31 |
25.8 |
|
党委副書記 |
29 |
165 |
17.6 |
|
副首長 |
26 |
236 |
11.0 |
(注)部委員会副職についてはデータが少ないため参考程度にとどめる。
さて、この割合が多いのか、少ないのか、判断しがたい。省レベルの首長が4分の1に達しているのは多いのかもしれない。部委員会正職と省レベル党委書記は2割に満たない。数的にはずば抜けて多いというわけではないように思われるのだ。
●2種類の共青団出身者
今回の整理で、現在重要ポストに登用されている共青団出身者を2つに分類できることが分かった。1つは胡錦濤が共青団中央で活動した時期(1982年11月から1984年11月まで)に共に共青団中央で活動していた人たちであり、もう1つは地方の共青団幹部だった人たちである。
後者の多くは過去に胡錦濤と直接接点があるわけでもなければ、第16回党大会以前にすでに現職に就いている者もいる。省レベルの副職について言えば、とんでもない地方の組織の共青団出身者もいる。この部類に該当する共青団出身者が多いからといって胡錦濤の権力基盤強化にプラスに働くかどうか判断は難しい。彼らが「胡錦濤と同じ共青団出身者なので胡錦濤を支えていこう」と考えて行動するかどうかははっきり言ってわからないし、胡錦濤が彼らを共青団出身者だからと特に考慮してその任に就かせているかもわからない。むしろ共青団の地方幹部というのは伝統的にその地方のエリートであって、胡錦濤政権かどうかに限らず、エリートの出世過程に沿って出世したにすぎないだろう。彼らを胡錦濤を支える「共青団派」として一緒くたにしてカウントしていいものかどうか。特に地方幹部の共青団出身者に対する評価には慎重でありたいと思う。
やはり胡錦濤を支える共青団出身者として重要なのは、前者の胡錦濤が共青団中央で活動した時期に共に共青団中央で活動していた人たちだろう。その人数は決して多くないが、彼らは共青団出身ということで、思想教育とかスローガンを打ち出すなど政治動員に長けており、資料1からわかるようにいわゆる政法部門に偏って配置されている。反面専門知識を必要とする経済問題などには精通していないため、経済部門に人材を輩出できないという短所もある。
実は関係の希薄な共青団出身者の数を議論するよりも、数少ない胡錦濤の側近が誰かを見極め、彼らがどういった地位に今後昇っていくかにもっと注意をしなければならない。その方が胡錦濤の権力基盤の安定度を知るには重要である。その点で言えば、江沢民が権力基盤確立のために上海市党委書記時代の側近を中央に引き上げたのは見事であった。胡錦濤の真の側近の動向に注目が必要だ。