第56回 2005年8月の『人民日報』(2005年10月1日)
この月は、先進性保持教育活動や軍との関係など胡錦濤の政治権威に関連する記事に注目しているようです。
また新疆ウイグル自治区での新疆生産建設兵団の反乱という香港情報があったので、黄菊と曾慶紅の新疆視察にも注目しました。この香港情報が事実でなければ、深読みしすぎということです。真偽のほどは・・・。
20050801
(1)7月29日から31日まで胡錦濤総書記が山西省を視察
⇒視察では、抗日戦争老兵士を慰問し、八路軍関連施設を参観しました。また農民増収などで農村を視察しました。さらに太原鋼鉄有限公司、太原第一機床廠など企業を視察しました。
科学発展観、調和社会建設を強調しました。
(2)江西省で幹部の信訪面会活動が活発に行われ、6月だけで18013件に及ぶ
⇒信訪活動がどうもヤバイようです。このように幹部が積極的に信訪に対応している事例が紹介される一方で、昨日の『人民日報』に掲載された国家信訪局スポークスマンのインタビューは、法にも続いた秩序ある信訪を呼びかける内容でした。それは当局が無秩序な信訪が行われ、それに警戒感をもっていることを公式に認めたものといえます。
スポークスマンの発言には「ごく少数のものが『上訪』のかけ声をかけて非法の地域を越えてつながった集まりを組織する、ごく少数のものが『権利維持』の名の下に高すぎる不合理な要求を提出する。これらが人民大衆の正常な生産生活秩序を乱し、正常な社会秩序を乱した」とある。最近ではなりを潜めた感のある胡錦濤の代名詞である「親民路線」のまさに申し子とも言える「信訪」が社会を不安定にする要素となってきており、ここにも「親民路線」の限界が見られます。これから当局は信訪を厳しく取り締まっていくのだろうなあと思われます。
(3)解正軒の文章「国防軍隊建設において科学発展観の実現を堅持しよう」を掲載
⇒8月1日は人民解放軍の創設記念日なので、それにちなんだ文章が掲載されたわけです。それによれば「科学発展観は我が党の社会主義現代化建設に対する指導思想の新発展であり、新段階、新世紀の国防軍隊建設に対し、重要な指導意義を備えている」と述べています。
「科学発展観」という言葉は胡錦濤の代名詞のような言葉で、それと国防軍隊建設を結びつける文章で、軍が胡錦濤を持ち上げようという意思が働いているように見えます。
20050802
(1)第1回米中戦略対話開催
⇒中国側は戴秉国外交部副部長が、米国側はゼーリック国務副長官が出席しました。
20050803
(1)7月27日から8月2日まで黄菊副首相が新疆ウイグル自治区を視察
⇒経済発展、西部大開発、政治安定に関する発言が掲載されています。
他方、香港の亜州時報在線の報道では、最近新疆生産建設兵団内で武装衝突事件が発生したということです。これに関連して、7月29日に自治区人民代表大会が副主席に胡偉を決定しています。胡偉は共青団中央書記処書記で、中央が胡錦濤に近い幹部を自治区に送り込んで混乱収拾に乗り出したと見ることが可能かと思います。
この事件発生が事実ならば、黄菊の新疆視察は、通常の視察ではなく、事件収拾のための指示を伝えに行ったものと考えられます。黄菊は新疆生産建設兵団を視察し、これまでの貢献を称え、今後の新疆の安定、発展、反映に新たな貢献をするよう指示しています。
(2)袁鵬の評論「米中戦略対話の啓示」を掲載
⇒8月2日開かれた第1回米中戦略対話に対する論評です。
この中で「議会、国防省、CIAを代表とする米国の伝統的保守勢力の対中態度には依然根強いイデオロギー要素と冷戦思考の色彩がある。しかし米国全体でいえば、客観的で理性的に中国の発展に向き合うというのが主流意見である」と米国の対中姿勢を分析しています。
こんな感じで日本のことも見てくれたら、今とは違う日中関係になっていたかもしれません。
20050804
(1)李肇星外交部長がライス米国務長官と電話会談
⇒米中関係と両国が共同で関心を持つ問題を協議とありますが、やはり6カ国協議に関する意見交換でしょう。
(2)李学文の評論「日本の右翼の意欲はいかなるものか」を掲載
⇒李学文は人民日報国際部記者です。
日本で、8月2日に発表された防衛白書が中国脅威論をあおったこと、また同日、国会が裁決した戦後60周年の決議に50周年の決議で盛り込まれた「植民地統治」や「侵略戦争」文言が入らなかったこと、決議に賛成した国会議員の一部が8月15日に小泉首相に靖国神社参拝を求めていることなどを批判しています。
そして、日本の右翼団体が8月1日付の『読売新聞』と『産経新聞』に靖国神社参拝を呼びかける一面広告を掲載したことを紹介しています。
そして、右翼が中国脅威論を強調して軍事力を拡大し、戦争の準備の口実にしている、戦争犯罪者への参拝を呼びかけて軍国主義の道を再び歩もうとしていると非難しています。
20050805
(1)広東省人民代表大会が「政務公開条例」を採択、省レベルでは初めて
⇒10月1日からの施行です。
(2)文化部など5部委「文化領域の外資導入に関する若干の意見」を制定
⇒WTO加盟で文化領域への外資導入が拡大するため、国内業界の保護とか西側文化流入の歯止めの意味がありそうです。
20050808
(1)河北省搶州市の「三選一保」工作システムに関する中央組織部政策室の調査報告を掲載
⇒村幹部の後継者不足問題を解決するモデルとして、河北省搶州市が「三選一保」システムを実施し、問題を克服している。
「三選一保」とは
@「選抜派遣」:多チャンネル、多層から選抜され派遣された幹部が農村基層幹部に就任
A「選抜育成」:大規模な教育、養成を実施
B「選抜招聘」:村内外の農村の人材を採用する
C「保証」:高い報酬、養老保険の充実、出世ルートの確保など
基層幹部工作のモデルケースとして、今後取り上げられ、各地で同様の取り組みが実施されるのだろう
(2)「実践の中で我が国の基本的経済制度を堅持し、完備しよう」と題する国務院研究室課題組の報告書を掲載
⇒非公有制経済に対する正確な認識を持つための報告で、その内容は以下の通り
@公有制を主体とし、多種の所有制経済の共同発展という基本経済制度が重大の理論と実践の創新である
Aいかにして公有制経済を強固にし、発展させるか
Bなぜ非公有制経済の発展を奨励し、支持し、導かなければならないのか
C各種所有制経済の相互促進と共同発展を積極的に進めよう
結局、私営経済の発展に力を入れるよう求める報告だが、この時期にこうした報告書が出るのは、私営経済に対する偏見みたいなものが依然として、当局、社会の中に多いからのか。第11次5ヵ年計画の綱要が10月に発表されるが、その中で私営経済の発展が重視されることを示唆する、世論形成する意味があるのだろうか。
報告によると再就職の90%以上を個体、私営など非公有制企業が受け入れているということだ。非公有制企業の役割は大きい。
20050809
(1)「非公有資本の文化産業への参入に関する国務院の若干の決定」
⇒「文化領域の外資導入に関する若干の意見」に続く文化分野への参入規制政策です。
文化領域への西側の思想、自由な思想の流入を防ぐ意味がありそうです。
(2)国務院扶貧開発領導小組、軍総政治部の連名による「部隊の扶貧開発工作への参与をさらに強化することに関する意見」が出たことが判明
⇒平時の経済社会活動への軍の参加を意味しています。貧困解決、開発は胡錦濤政権の三農や弱者重視の方針に沿ったものです」。軍の参加は軍の胡錦濤支持の表れであるように思いますが、今流行の軍の胡錦濤への不満充満論評からすれば、軍はこれでいいのだろうか。
20050810
(1)国連の会費の徴収と使用
⇒「もし日本が常任理事国になれなかったら国連分担金を払わなくなるかもしれないと日本の外相が言っているが、国連の分担金の徴収や使用はどうなっているのか」という天津の読者からの投書に答える形をとっています。
日米の分担金負担率などを示しながら、現状を説明していますが、最後に「日本が分担金を払わないと国連を脅しても、他の国から同情や支持を得られない」と締めくくっています。
明らかに日本の常任理事国入り反対の方針に沿った記事です。しかし、おもしろいのは、日米の分担金負担率は明記しても、中国自身の負担率などのデータについてはいっさい触れていないことです。中国は常任理事国なのに分担金の負担はたいしたことがないので、国民に対し公表できないのでしょう。しかし、標記の説明をするには、自国のことを例に挙げるのが読者の理解を助ける一番の近道だと思います。
(2)国家歴史博物館で南京大虐殺展示がスタート
⇒今日から『人民日報』の理論面で「抗日戦争勝利60周年と反ファシスト戦争勝利60周年」という連載もスタートしました。
まあ次から次へといろんな「反日」企画を思いつくものだとあきれてしまいます。どうぞ勝手にやってください、って感じです。
200500812
(1)国務院が東北地区資源型都市の持続可能な発展座談会を開催(於大連)、温家宝首相が重要コメントを寄せる
⇒温家宝首相の重要コメントは、「資源枯渇地区の貧困、失業、環境問題を解決することは、科学発展観、調和社会の実現、小康社会の実現という重要で軽視できない任務である」として、その対応を指示しました。
(2)呉広義の文章「危険な『靖国文化』」を掲載
⇒呉は中国社会科学院世界経済与政治研究所研究員です。
靖国神社に対する評価は別として、靖国神社を紹介してくれている点ではいい文章だと思います。これを読んで明治以来強国になろうとしてきた日本と現在政治大国として国際的な影響力を高めようとしている中国がよく似ていることに気づいてくれる中国人がどのくらいいるでしょうか。
20050813
(1)8月10日から11日まで日中教師歴史教学経験交流会開催
⇒こうした日中間の民間交流に関する記事が最近よく報道されています。民間交流を軸とした日中関係改善を強調していますが、他方小泉政権の孤立化戦略も示しているように思われます。
(2)胡錦濤、楊業功同志先進事跡報告会に参加、報告団全体メンバーと会見
⇒楊は第二砲兵の某基地の司令員です。新時期の共産党員の先進性を保持した典型であり、新しい形の指揮員の突出した代表として評価されています。
胡錦濤としては自分が進める共産党員先進性保持教育活動の軍における典型例として楊と取り上げ、軍における教育活動を活発化させたいという狙いがあります。このことが軍で教育活動が進んでいないことを示しているかどうかは不明です。また過去の軍人を称えることで胡錦濤の軍主席としての存在感を高め、軍内の支持を得たいと考えているようにも思われます。
20050824
(1)8月19日から23日まで胡錦濤が河南省、江西省、湖北省を視察
⇒第11次5ヵ年計画と科学発展観に関する調査研究を行い、武漢の駐屯部隊も視察しました。
こんな短期間に3つの省を視察しているのは異例です。最近、この3つ省で指導者の交代とか、幹部の汚職とか、民衆暴動事件とか、何かあったかのだろうか、と考えてしまいます。
(2)全国人民代表大会常務委員会第17回会議開会、個人所得税法の修正作業がスタート
⇒課税控除額を800元から1500元以上に引き上げる提案をしています。
中低所得層の負担を軽減することがねらいとされています。中低所得層の負担軽減はいいのですが、そもそもこれまで所得800元以上の課税もちゃんと行われていませんでした。私の知り合いはけっこう収入はすごく多くても所得を800元にして課税を逃れていた人がかつてはけっこういました。最近はきちんととっていたのかもしれませんが。
それにしても、個人所得税に手をつけ始めると、納税者の政治的権利の主張も高まりますから、税の取り方についてどう修正していくのか、注目です。
(3)中央先進性教育活動領導小組第8回会議開催、賀国強組長兼中央組織部長が指示
⇒7月の胡錦濤総書記の山西省視察時の重要指示である先進性保持の長期的効果的システムの構築を賀国強があらためて指示しました。当時の胡錦濤の山西省視察の記事にはこの重要指示は掲載されていません。
20050825
(1)8月19日から24日まで曾慶紅政治局常務委員が新疆ウイグル自治区を視察
⇒先進性教育活動の状況視察が重点とされています。また石油関連施設を視察し、新疆生産建設兵団の幹部、従業員と面会し歴史的貢献を賞賛しました。
先月末にも黄菊副首相が新疆を視察しています。1ヶ月の間に2人の中央政治局常務委員が視察するのはきわめて異例のことです。今の時期、ほかの政治局常務委員も各地を視察しているので、曾慶紅の新疆視察は予定通りのものだとしても、黄菊の視察はやはり突発的なものだったと言わざるを得ません。やっぱり新疆で何かよからぬことが起きていたと思われても仕方ありません。新疆生産建設兵団の反乱という香港情報はあながちハッタリではなさそうです。今回も曾慶紅が兵団を訪れ、えらく持ち上げているのが示唆しているように思います。
(2)国務院常務会議開催、今年の経済体制改革工作を総括、改革深化の重点任務の配置を討論
⇒引き続き推進すべき改革として以下の4点を挙げています。
@経済構造調整と成長方式の転換にかかる改革
A政府職能転換にかかる改革
B人民大衆の根本利益を保証することにかかる改革
C対外開放にかかる改革