第53回 2005年6月の『人民日報』(2005年7月1日)

 

 私の仕事が5月でようやく一段落つき、日中関係以外の話題にも目がいくようになりました。そんな中、目についたのが党員に対する思想教育に関する記事です。胡錦濤の方針、例えば調和社会の構築などを周知徹底させることが目的ですが、ちょうど先進性保持教育活動が第1段階から第2段階に入るというタイミングにもあたりました。

 その他、不動産市場の統制なども気になりました。

 

20050601

(1)任仲平「社会主義調和社会の構築を論ずる」を掲載

『人民日報』中央評論(部)の論文ですから重要です。調和社会構築についての見解が述べられています。

 

(2)東風汽車公司の元総経理である苗wei(土ヘンに于)が湖北省武漢市党委員会書記に就くことを党中央が承認

国有企業のトップが湖北省の省都である武漢市のトップに就くというこれまでのおそらく例のない人事かと思います。

 

20050602

(1)中央政治局第22回集団学習開催。テーマは「経済グローバル化の趨勢と現在の国際貿易の発展の新特徴」

講師は中国人民大学教授黄衛平と社科院裴長洪研究員

 EUと米国との間で、中国製繊維製品の問題が起きていますから、いいタイミングでの学習会です。

 

(2)国務院常務会議開催、「石炭工業の健全発展を促進することに関する国務院の若干の意見」の審議、原則通過、農村の税費改革試点工作の研究

国務院が本格的に石炭工業の改革に乗り出すようです。斜陽産業と言われながらも、エネルギー需要に応えなければならない状況で今後どう発展させていくのか、また炭鉱事故が全国各地で頻発する中で安全性をいかに確保するか、一定の指針が出るものと思われます。

 農村の税費改革工作は、農民の収入増加という当局が今一番力を入れている課題ですから、実験レベルから全国展開になるのかもしれません。

 

20050603

(1)教育部が「2005年高校学生思想政治状況調査」を公表

今年で14回目。「六・四」を前に大学生の思想状況が当局寄りであり、安定していることを示すための年中行事的な報告。その内容は、例えば

@中国共産党の指導、「三つの代表」重要思想の支持、社会主義調和社会構築、科学発展観への共通認識、胡錦濤政権への信任、

A西部大開発、三農問題、就業・社会保障等の政策に対する評価が昨年よりも高まっている

B中国共産党が中国の特色ある社会主義事業の指導的核心であると思う大学生が増える傾向を維持している

C60%近い学生が「金銭が人生の幸福の決定的要素である」との意見に同意しない

 

(2)国際面に日本批判記事が目白押しで掲載

特集ではないが、靖国参拝、教科書問題、沖ノ鳥島領土問題、A級戦犯、戦争責任問題と「バランスのとれた」記事が配列されている。

 そんなに日本が憎いか?

 

20050606

(1)薄煕来商務部部長が米商務長官と会談

繊維摩擦、知的財産権、米中貿易不均衡などを協議。

 中国の報道には珍しく、具体的なやりとりが掲載されているように思えます。

 

(2)崔天凱外交部アジア司長が「新安全観」に言及

シンガポールでの第4回アジア安全大会の席上で

 「新安全観」とは1990年代末にすでに提起されたもので「互信、互利、平等、協作」を核心とする総合安全観です。

 しばらくなりを潜めていたのですが、久しぶりに見ました。

 

20050607

(1)建設部不動産業司長への不動産市場のマクロ調整に関するインタビューを掲載

少数の地方政府が投機性不動産価格の上昇問題の重要性を理解していない、財政収入のために高値で土地を競売している地方政府もある

 「上海が病気になると、全国が薬を飲む」という一部地域が原因の問題で全国一律に調整措置を受けなければならないことに不満を持つ地方もあるようだ。しかし中央政府は全国一律の措置は出していない。あくまでも投機性不動産価格の高騰をいかに抑えるかが狙い。

 調整のカギ:@政府が中低価格の住宅供給を保証する、A投機性住宅需要を抑制する、B不法なディベロッパーや仲介機構に対する処罰を強化する。

 中央と地方の製作の食い違いだけでなく、地方間の温度差も見られる。やっかいな話です。

 

(2)湖北省の郷鎮機構改革が成果

農業税の廃止がすすみ、事務の簡素化が可能になったり、事務の社会化が進み、郷鎮機構幹部が平均で52.7人から38.6人に減、機構数も「七つの站、八つ所」が削減され仲介組織に移行している。

 

20050608

(1)全国農村税費改革試点工作会議開催、温家宝首相が講話

農民の負担軽減のために進められている税費改革。その成果として、例えば陜西省では今年農業税8.4億元分を廃止した代わりに省政府から農業支持資金12.1億元が支給された(対前年比2.4億元増)、また湖南省では今年農業税を廃止し農民負担が13.6億元削減する見通し、農業支持資金も昨年より10%増となる。

 温家宝は「改革は新たな段階に」と述べ、そのポイントは、郷鎮機構、農村義務教育、県郷財政体制を主な内容とする総合改革試点を積極的に確実に進めていくことにあると指摘しています。

 そのほか、温家宝はマクロ経済情勢と経済工作に関する重大問題について意見を発表したようです。税費改革も大事ですが、こっちの意見の方に興味があります。

 

(2)中国政府が「国連改革問題に対する中国の立場に関する文件」を発表。

こんなのを出して、逆に中国自身の今後の動きを制約してしまうのではないでしょうか。でもそれを気にせず、臨機応変に対応するのも中国か?

 

20050609

(1)江沢民が、上海市の製作した陳雲銅像に題字を書く

久しぶりに江沢民が登場しました。上海市が作った陳雲の銅像に題字を書いたこと、それが報道されたこと、なんかきな臭いものを感じます。

 陳雲というかつてのケ小平のライバルと目された人の銅像の題字を、すでに引退したが権力にしがみつきたかったかつての最高指導者に書かせた上海市の行動は、胡錦濤への当てつけというか、対抗意識というか、そんなことを勘ぐらせます。

 しかし、上海市が、その銅像の除幕式に胡錦濤や温家宝の後ろ盾と見られる宋平を呼んでいるあたりが、抜け目がありません。

 中央と地方がいい関係ではないようなので、ちょっと勘ぐってみました。

 

(2)国務院常務会議開催

「国家中長期科学技術発展規劃綱要(草案)」の審議と「東北老工業基地がさらに対外開放を拡大することを促進することに関する実施意見」の討論、原則通過

 

20050610

(1)駐国連記者による「安保理改革は膠着状態に陥っている」を掲載

安保理改革が、G4とコンセンサスグループが対立するという膠着状態に陥っている原因を4点挙げているが、そこにある主張は以下の通りです。

@G4の提案に反対

 Aコンセンサス・グループの主張を支持

BG4の提案に反対するために米国を取り込む

C日本の常任理事国入りに反対

 

(2)日中韓共同編集歴史書中国語版刊行

中国と韓国ではけっこう盛り上がっているようですが、日本ではいまいちな話。

 しかし、日本語版はすでに2万部が印刷され、需要に追いつかなく、1.5万部の増刷をしているらしい。中国では1020万部売れる見通しとか。

 「歴史の真相が書かれており、三カ国の青少年と東アジア人民が歴史を知るための権威的書物になる」というものの、「はいはい」っていう感じ。「歴史の真相」とはいったい何なのでしょう?

 

20050614

(1)陳雲同志生誕100周年記念大会挙行、胡錦濤が重要講話

共産党トップ7全員が参列する記念大会になりました。昨年のケ小平生誕100周年記念大会の時のような政治的な発言があるかと思い、胡錦濤の重要講話を眺めてみましたが、これといって取り上げる部分はありません。

 

(2)全軍の共産党員先進性保持教育活動テレビ電話会議で、徐才厚中央軍事委員会副主席が講話

会議は全軍団以上の党委機関での活動を総括し、これから基層での教育活動の配置を進めた

 この先進性保持教育活動は全党員が胡錦濤に対する支持を表明するための活動で、軍でも実施されてきた。徐才厚がこの教育活動を支持していることは徐才厚が胡錦濤支持を表明ともとれるか。

 

20050616

(1)国務院常務会議開催。エイズ防止治療工作強化の研究、「解放軍文職人員条例」(草案)などの審議、討論、原則採択。

「文職人員」というのは社会の人材を軍隊建設に従事させるための条例のようです。シビリアンコントロールの導入とかそういう次元の話とはおそらく違うのだろうと。それにしても軍人の抵抗があっただろうと推測されます。

 

(2)唐家セン国務委員が国連改革問題に関する中国政府の立場を説明

1415日に北京で開かれた中国-アラブ諸国協力フォーラムでの発言

 多くの国々と一致を見た改革でなければならないというG4の提案を批判する中国政府のこれまでの立場に変化はありません。

 しかし、現在の国連安保理の構成がアラブを含めた途上国の代表性に欠けている点にも触れ、アラブ諸国に反G4の立場をとるよう働きかける狙いもあります。

 

20050622

(1)李肇星外交部長が訪問先でイスラエル大統領と会見

李肇星外交部長が中東を訪問中です。20日にPLO議長、イスラエル外相と会談しています。

 ちょうど18日から米国のライス国務長官が中東を訪問しています。このタイミングが偶然か、故意かは分かりませんが、中東和平をめぐる米中の駆け引きが見られます。

 交渉による平和解決というこれまでの中国の主張に変わりはありません。

 

(2)6月30日から7月7日まで胡錦濤国家主席が、ロシア、カザフスタン、イギリス訪問することを発表

上海協力機構首脳会議、先進国8カ国+中国・インド・ブラジル・南ア・メキシコ首脳会議などに参加が目的

 

20050623

(1)王光亜国連大使、意見の相違のある安保理改革案に反対票を投ずると表明

「特にアフリカの代表性と発言権を優先する」と述べています。

 最近指導者がいつも以上にアフリカからの賓客に会っていることが報道されています。経済協力との引き替えに、G4の改革案に反対するよう説得しているものと思われます。

 

(2)李肇星外交部長がイラク問題国際会議で3点を主張

3点とは、@政治上のイラク人によるイラク統治、A安全上の総合管理、B経済上の「造血」システムの回復――です。特に@米国のやり方への反対を表明しています。中東問題解決にも一枚噛みたいわけです。積極的です。

 これまで中国はイラクに対し、2500万jを支援し、債務を帳消しにしています。

 

20050624

(1)第2期共産党員先進性保持教育活動工作会議開催、賀国強中央組織部長が講話

党員に対し胡錦濤政権の方針を徹底させるための思想教育活動の第2期の工作が7月からスタートするので、それを前に関係者に周知徹底させるための会議。工作は12月に基本的に終了する。

 第2期は、都市の基層、郷鎮機関が参加対象で、第1期に比べると、党員数が多く、流動党員も多く、基層組織数も多い。また困難が存在する組織が多いため、けっこうやっかいな工作になるかもしれない。そのため、対象の指導者はしっかり責任を持ってやれとゲキを飛ばすわけです。

 

(2)于山「小泉の弁解はつじつま合わせになっていない」

小泉首相が説明する靖国神社を参拝する理由を弁解として、それに反論する文章です。

 弁解としてあげているのが以下の3点で、それに反論しています。

 

 弁解@:「日本と韓国、中国との関係の中で、私は靖国神社参拝は核心ではなく、核心はともに未来に向かい、歴史を正視し、いかに友好関係を重視するかである」

 反論@:4年間も日中両首脳の相互訪問がないこと、先日の日韓首脳会談が冷めたものだったことは、靖国神社参拝問題が核心だからではないか。

 

 弁解A:「どの国でも、国のために命を失った人に対し追悼を示すことは自然のことである」

 反論A:シュレーダー独首相など他国の指導者が追悼を示しても何も言われないのに小泉だけが言われる。千鳥ヶ淵や硫黄島で追悼しても何も言われない。靖国神社参拝が問題だからだろう

 

 弁解B「日本には日本の考え方があり、相違を承認し、友好を増進することが国と国との間では重要である。今後理解を得るために努力しなければならない」

 反論B:これまで何度も弁解してきたがいっこうに誰も理解していない。首相経験者、日本の主要紙、世論調査が靖国参拝に反対している。

 

 中国は、日中関係改善の条件を、靖国神社参拝中止の1点に絞ってきていることが伺われます。

 

20050627

(1)2月19日に胡錦濤総書記が省部級主要領導幹部の社会主義調和社会構築能力向上専題研討班の開班式で行った重要講話の全文を掲載

いわゆる「調和社会」構築という胡錦濤政権の重要な政策方針の1つについて、胡錦濤自らが体系的に語った講話の全文です。

 4ヶ月遅れでの全文公表、某かの意味づけがあるのかと言われれば、ちょっと思いつきません。

 

(2)呉邦国全人代常務委員会委員長、唐家セン国務委員が高村日中友好議員連盟会長と会見

全人代常務委員会の会議が始まっており、呉邦国も忙しい中を、高村さんに会ったようです。非小泉の議員や政党、組織を重視する、台湾の陳水扁を孤立させるのに似たやり方で、小泉首相の孤立を図ろうという今の中国の対日戦略の1つです。高村は当然ポスト小泉の1人ですから、呉邦国との会見が成立したのでしょう。

 会見内容はさほど厳しくもなく、歴史問題と台湾問題を日本側がうまく処理することが日中関係改善のカギであるという原則論を述べたまで。高レベルの指導者が会ってくれる訳ですから、聞く方は「ごもっともなことです。私こそが小泉さんを説得して見せます」ぐらいの気概を持って帰国するのでしょうね。

 

20050629

商務部副部長が知的財産権犯罪取り締まり状況を報告

工商部門が商標侵害で24189件、罰金1.57億元で取り締まったとか、出版物や音楽などのコピーで1.67億件取り締まったとか、いかに中国当局が力を入れて取り締まったかを強調するために、たくさんの数字が並んでいます。

 昨夜の中央テレビのニュースでも、コピー製品を積み上げ火をつけて燃やして処分する映像が流れました。毎年コピーされたCDをブルドーザーで踏みつぶしていく映像が流れますが、知的財産権保護が中国ではいっこうになくならないということです。数字をいくら挙げても、むなしさを感じるだけです。きっとまた来年も同じような映像が流れるのでしょうね。

 知的財産権ってある意味文化だと思います。中国は何千年の歴史とか言われて文化を重んじるはずの国なのですが、人の文化、他国の文化なんていうのはきっとどうでもいいのでしょう。まあ、自分の文化が一番だと思っているから、ほかの文化は文化じゃないぐらいに思っているのでしょうけど。文化の相互理解、難しいですね、どんな場面でも。

 

20050630

新華社が報じた安徽省池州市での集団事件を掲載

この事件は6月26日に発生しました。

 車に乗っていた4名と歩行者劉亮の間で言い争いになり、劉亮が殴られケガをし、現地の派出所の警官が殴った4名を補導し、処理したという事件です。

 しかし「少数の不法分子の煽動」で「真相を理解していない一部の群衆」が派出所に集まり、4人を差し出すよう求めた。その後「真相を理解していない一部の群衆」は増え、彼らは「少数の不法分子の煽動」で殴打、破壊、略奪、放火などを引き起こし、多くの武装警官や公安民警にケガをさせ、多くの野次馬も集まった。VTRによると現場の武警と公安民警は強い抑制を維持した。・・・結局、殴った4名は拘留され、不法分子10人が逮捕されたというもの。

 こうした事件が新華社で報道され、『人民日報』にも掲載されるのは、私が知る限り異例です。しかし、この報道は事件を報じたものではありません。なぜ車の4人と劉亮は言い争いになったのか、不法分子とは何者か、彼らの煽動の目的は何か、といったことにはいっさい触れられていません。記事の中心は不法分子による騒ぎで、公安当局が節度を持って行動し、事件を収拾したという、当局の対応を讃える内容になっています。

 この事件、すでに昨日日本の新聞にも掲載されましたし、香港のニュースサイトでも出ています。

 新華社の報道で特徴的なのは「不法分子の煽動」という言葉です。こうした問題が起きたときに中国当局が必ず使う決まり文句で、「架空の彼ら」に罪を押しつけることで事件の真相をうやむやにし、これ以上の反響を押さえようというやり方です。「不法分子の煽動」の仕業となれば、国内的にはこれ以上の追求はやめようということになるわけです。

 それにしても、先日ビデオまで流れた河北省定州市で起きた農村での暴動も『新京報』という北京のタブロイド紙に写真まで入って報道されました。こんな記事載せてもいいのかということで驚いたわけです。これを情報公開が進んだ結果と思うのは大間違いだと思うのです。

 先日ある人とこのことについて話をして、なるほどと思ったのですが、河北省のケースではワシントンポストのサイトでVTRが流れたため、中国当局は国内で沈黙することができないので、とりあえずタブロイド紙での報道を認めたのだろうという見方です。今回もそうかもしれません。すでに香港や日本で報道されたので、これ以上憶測ばかりが先行しては、逆に中国国内の不安定につながってはマズイと。そのため、「少数の不法分子」を出してきて、この事件を報道したというところでしょうか。それではなぜ今回はタブロイド紙ではなくて、『人民日報』だったのか。そのあたりは分かりません。また、こうした事件は過去にも海外では報道されていて、なぜ今回だけ当局が報道したのか、という点についても分かりません。しかし、海外での報道がここに来て、当局にプレッシャーを与えているという気はします。