第51回 4月の反日デモを中心とする日中関係に関する『人民日報』の報道とその見方(2005年6月23日)

 

 これから何回かに分けて、最近の日中関係、中国の対日政策について、書いてみたいと思います。まず、1回目は、掲示板「チャイナ論壇」から私が書き込んだものだけを、日付順にそのまま抜き出してみたいと思います。そこには、その時々の私の本音を書いているので、原文をできるだけそのまま抜き出します。掲載のスピードを重視したため、事実関係が多少間違っているかもしれませんが、それは次回以降で修正します。

 

20050412

今回、対日抗議デモが起きた原因については実はよく分からない。ただ、なぜこの時期にデモが起きたかということと、長く続いている歴史認識問題とは切り離して考えないといけないと思う。

 4月3日に四川省成都を皮切りに、9日に北京、広東省の広州市、深セン市で対日抗議デモが起きたことには2つの伏線がある。第1に2月22日に島根県が「竹島の日」制定条例を可決したことを機に韓国で対日抗議行動が起きた。そして、ノムヒョン大統領が日本に植民地時代の反省と謝罪を求めるという対日政策の見直しを宣言したことである。韓国での対日感情の悪化に触発された中国の反日組織が中国もその流れに乗ろうと考えたのである。第2に今年秋の常任理事国入りに向けて日本政府の活動が活発になり、さらにアナン国連事務総長が日本の常任理事国入りを支持したことで、常任理事国入りが現実のものにあることを恐れたのである。

常任理事国に反対する海外の華人団体から国内の反日団体に国内での署名活動の実施を求められ、捜狐(SOHO)など3大ポータルサイトで3月23日から常任理事国入り反対の署名運動が始まった。4月に入り日本の文部科学省が教科書検定で「歴史教科書を作る会」の教科書が合格したこと、さらに同作る会にアサヒビールなどの日本の大企業が寄付をしていたという情報が中国国内のサイトに流れたことなどから、日本に否定的な感情を持つ人々の間に反日感情が高まり、「中国民間保釣連合会」など実績のある反日団体が日本に抗議するためのデモの機は熟した判断した。

 3日、9日、10日と一般市民の動員が期待できる土日をねらったデモの決行は反日組織の計画的なものだったように思われます。案の定、野次馬的に一般市民の参加者が便乗して、あのような大規模デモにふくれあがりました。一般市民が野次馬的に参加する背景には、これまでの共産党による反日宣伝、教育の効果があって、相対的に他の目的に比べ反日が目的のデモならば一般市民が参加しやすかったのだろうと思います。

 今回のデモはこれまでの反日行動とはちょっと異なると思っています、それは一昨年西安で起きたデモのような貧富の格差や失業といった国内矛盾による当局への不満の表出に利用されるといった国内要因はないように思います。ある意味純粋な日本批判のためのデモということです。しかし、それは日本にとってはより深刻なことです。

 こうした純粋な日本批判デモが起きた背景には、1つには最近では小泉首相の靖国神社訪問などに代表される日本政府の歴史認識への不満という昔からの要因もあるでしょう。それがあるきっかけで爆発したという側面です。しかし、より注目しなければならないのは、経済発展と国際社会での政治的影響力が大きくなった中国が日本を対抗相手として強く意識しているという側面です。それは「常任理事国入り反対」というスローガンに現れています。東アジアのリーダーは中国なのです。それを妨げようとする日本の行動にはとにかく反対するわけで、それが反日行動につながり、歴史認識問題や尖閣の問題などとにかく日本を叩くことのできるネタは何でも使ってやれ、という感じです。

 ここから分かることは、実はもう日中関係の争点は歴史認識問題ではないのです。中国にとって日本が問題なのは、国際社会における上か下かという問題なのです。ですから、中国は日本の問題を国際化し、「アジア」の中でアジア諸国と一緒になって日本を叩こうとしています。インドでの「中印の発展なくしてはアジアの世紀はない」という温家宝の発言はまさにそのことを裏付けています。「『アジアに信頼される国になれ』って言うじゃない、でも一番信頼できないのは一党支配体制のアンタですから、残念」って言いたくなります。おそらくアジア諸国はそのことを分かっているので、そうは中国の思い通りにはならないと思います。

 デモですが、中国政府が日本政府に謝罪することはないでしょう。謝罪すれば中国国内で弱腰と叩かれますから。しかし3日、9日、10日と大規模デモを共産党は事実上容認したことで、反日組織とか国内のメンツはたてたということで、今後は日本政府をたてる方向に向かうのではないかと楽観視しています。17日に町村外相も訪中しますから、共産党はデモをリードする組織に対し、デモ中止の圧力を強めるでしょう。すでに広東省では来週のデモの中止が発表されていますが、これは共産党の圧力の結果だと思います。大学当局は学生のデモ参加を厳しく取り締まるのではないかと思います。こうして今週末の大規模デモは実施されないのではないかと期待しています。これで一応デモ騒ぎは収束に向かう、というのが私の楽観的シナリオです。

 しかしそれで日中関係が良くなるわけではありません。今年は戦後60周年にあたる都市で少なくとも9月18日までは日本に対する風当たりは強いでしょう。また常任理事国拡大論議も秋までは続きます。決して予断を許しません。そう考えると、無理に「友好」という名の必要以上にベタベタした日中関係を求めることはやめて、個々の問題で中国と国益重視で粛々と交渉していくことが普通の外交関係を築くことになるのではないかと思います。

 

20050416

 今日16日、上海でデモが起きてしまいました。夕方のニュースを見ているとまたまたショッキングな映像が流れていました。

 私自身は、16日(土)と17日(日)のデモは当局の圧力により全国的に回避されるのではないかと思っていました。期待も込めて。実際に、17日に町村外相が訪問する北京では絶対にデモを起こしてはならないと当局が必死になって警戒し、抑え込んでいます。当局もやればできるのです。つまり、9日はやっていなかったということになります。

 しかし、一抹の不安もありました。それは、純粋な反日という目的からではなく、北京や広州の動きに乗り遅れてはいけないという動機から、地方の大都市でデモが起きるのではないかと。それが上海で的中してしまいました。先週は上海でもかなり当局が警戒したのでデモは起きませんでした。しかし当然この1週間で北京や広州でのデモの様子や関連の情報が多くの上海の人々に伝わっています。そうすると「なぜ私たちの上海ではデモをやらないのか」と当然思うでしょう。それは先週そう思った人よりも今週はもっと多くの人が思ったに違いありません。その結果、今日の上海のデモは、たぶん事前にデモを当局に申請した団体が予想した以上に参加人数がふくれあがり、規模が大きくなったのだと思います。

 そうするとおもしろ半分に参加する人も大勢いたはずです。テレビの映像を見ると、日本の5月のメーデーの行進のような和気あいあいとした様子も感じられます。他方、彼らは無責任です。そのため一部の人、特に若い人が反日という雰囲気に乗じて過激な行動に出て、上海総領事館に石やペットボトルを投げ込んだり、日本料理屋の看板を壊したり、日本製の車を襲撃したのだと思います。そこに真の反日の意思からではなく、無責任な若者のうっぷん晴らしのようにしか感じられません。

 上海市の当局は、1回ぐらい(デモを)やらせとかないとマズイかなあ、16日だと町村外相訪問の前日だし、また北京から上海は離れているし、影響ないだろうと思って申請を許可したのかもしれません。

 このような状況では、明日以降もデモは各地で起きる可能性があります。それは反日の意図からではなく、「他の地方でやっているのだから、うちの地域でもやろう」という意味のない競争意識から起きるのです。東北三省や南京、重慶のような日中戦争と関係の強い地域では、今後発生しそうな気がします。しかし一度デモが起きた地域では、今回の流れでのデモはもう起きないのではないかと思います。

 今後注目しなければならないのは、明日の町村外相の訪中の結果であり、それを中国がどう報道するかです。その受け取り方次第で、新たな段階のデモが企画されるかもしれません。そうすると北京でもう1回デモが起きる可能性も否定できません。12日の唐家セン国務委員の発言は重要でした。共同通信社社長との会見で「まず肝心な問題は靖国神社だ。・・・関係改善にこの問題は避けて通れない」と言ったことは、中国側が町村外相の訪中を前に、デモにまで発展した日中関係の悪化に対し、国内を平定するための条件を出してきたことを意味しています。しかし町村外相が、小泉首相が靖国神社を今後参拝しないと明言するとは思いませんし、私自身も明言する必要はないと思います。そもそも、今回のデモはこの靖国問題は全く関係ないからです。日中関係改善とデモの問題は別なのです。そう考えると日中双方の意見は食い違い、明日の結果はどうなるか、その後のデモの展開は、と考えるとあまり明るい見通しは持てません。

 

20050419

唐家セン国務委員が町村外相と会見

⇒詳細は日本の新聞にも掲載されています。

 唐家センは、日中関係発展のカギは、これまでも、そしてこれからも歴史問題であり、台湾問題であるというこれまでの主張を繰り返しています。

 そして、今回の反日デモの件に関わると思われる点では、われわれは両国関係の改善、発展に対し誠意をもってきた、日本側にも同様の誠意を表現するよう希望すると述べています。

 町村外相の発言については、1995年の村山首相の表した歴史問題に対する反省の態度に変化はないと述べたとしています。

 中国側が相変わらず今回の反日デモと歴史問題、台湾問題を結びつける点に変わりはありません。彼らにしてみれば結びつけないわけにはいかないので、当然といえば当然ですが。このまま反日デモをめぐって両国政府が収束に向かおうとするのはいいことですが、日中間の本質的な問題は何ら解決するわけではないので、またこうした騒動は起こるでしょうね。

 また「『誠意を表せ』って言うけど、表さなければならないのは中国ですから、残念」って感じです。上海政府が損害を受けた日本料理店などに補償をするようですが、それをよしとするかどうかは、総領事館の被害に対する補償をするかどうかで見なければなりません。日本料理屋って、中国人が経営してるんでしょう。それは、中国人民が政府に不満を持たないようにするためですから。

 町村外相の発言を丁寧に紹介したのは、昨日の李肇星会談で、町村外相が反省とお詫びを述べたと中国側に都合よく報じたことと相殺させるためですね。日本側に批判されたからそうしたのかどうかは分かりません。

 

20050419

中日関係情勢報告会が開かれ、李肇星外交部長が報告

⇒反日デモ騒動の幕引きをねらう、党中央の強いメッセージが述べられました。

 主な内容は以下の通り。

 @第2次世界大戦後、日本政府は反省とお詫びの態度で被害を受けた国民の感情を理解し、尊重することを表した。

 A近年の日本の対中政策では消極的な面が次第に突出し、新たな動向が出現した。誤った態度と方法をとっている。中国人を含めた多くのアジア諸国民の強烈な不満を引き起こしている。

 B友好的につきあい、協力して双方が勝つ(ウィンウィン)ことが、両国民の根本利益に符合する唯一の正確な選択である。「歴史を鑑み、未来に向かう」精神を継続する。

 C中日関係の改善、発展には正確に歴史を認識しなければならない。台湾問題は中国にとって核心的利益に関わることである。一つの中国の原則を堅持することが中日関係の政治基礎である。

 Dわれわれは中央の一連の重大な決定と配置をしっかり貫徹し、安定団結の政治局面を自覚的に維持し、法制観念を強化し、冷静に理知的に合法的な秩序をもって自らの感情を表現しなければならない、許可を経ていないデモなどの活動に参加してはならない、社会の安定に影響を及ぼすことをしてはならない。

 外交部長の報告ですが、当然胡錦濤総書記の意向を受けて行われた報告です。ここでの内容は幹部、地方当局、反日活動家・組織、大学当局らも無視することはできません。

 内容には一方的な点もありますが、とにかく党中央がデモはダメだとはっきり人民に伝えたわけで、これでひとまず一連の反日デモ行動は収束に向かうことになると思います。今週末はたぶんないでしょう。

@やBは日本に多少配慮を示したように見えるのですが、Dからわかるように党中央は社会安定の側面から収束させなければならないと考えたようです。そのため、Cに見られるように日中関係に対する記述は相変わらず一方的なもので、歴史認識問題と台湾問題という今回のデモとは直接関係のないこれまでの原則論を繰り返すのみです。さらに、今回顕著なのはAのように日本に対する悪い感情は中国だけでなく、アジア諸国まで言及している点で、都合よくアジア諸国を利用しています。これでは、今後も何かのきっかけがあれば、再び中国国内で対日抗議行動が起こる可能性は高いでしょう。

それにしても、今回は反日がターゲットになりましたが、中国人の意見表明手段の実に未熟なこと。これはまさに中国の政治体制、すなわち共産党による一党支配体制の弊害です。なかなか話はできません。とりあえず反日デモは収束されるでしょうが、日中関係の改善は難しいと言えそうです。

 

20050421

(1)何振華の文章「調和社会構築から見た発展」を掲載

⇒ペンネーム何振華(中華をいかに振興するかという意味だと日本のどこかの新聞が報じていました)の文章第3弾です。

 社会の安定を求める文書ですが、反日デモ収拾をうまく利用して、社会安定を宣伝するキャンペーンになっているようにすら思えます。

 

(2)小泉首相が村山談話に基づき日中関係を改善することを表明したことを報道

⇒昨日の自民党と民主党の党首会談に関する新華社東京支局からの報道です。

 小泉首相の発言として「これまで一貫して日中関係を重視する外交を展開しており、(歴史問題において)村山談話と同じ認識を持っている」を紹介

 岡田代表の発言として「日中関係の発展がうまくいっていないのは靖国神社参拝をやめない小泉首相に責任がある」を紹介。

 日中首脳会談を控え、小泉イメージを高める目的もあるが、岡田発言からはむしろ日中首脳会談でヘンな発言をしないように小泉首相への圧力とも言える。

 

(3)『環球時報』から「安定がなければ何事もうまくいかない」を転載

⇒気になった内容は以下の通り。

 @プーチン大統領の支持率の高さは経済発展と国家の安定を第一としているからだ。

 A現在の中国人は幸運にもここ20年近く世界の発展の潮流の先頭にあり、改革・開放を推進し、その過程で安定を保持しており、世界からうらやましがられている。

 Bしかし発展は順風満帆に進むわけではなく、われわれは冷静な態度で出現する問題や矛盾に対処しなければならない。

C内部の安定団結が第一である。

安定第一を強調している。

 

(4)天津、上海、広州などで中日関係情勢宣講団が報告会を開催、24日まで大都市で開催

⇒中国人民は日本人民に対し友好の感情を抱いており、中国は全面的小康社会建設の重要な時期にあり、全局的、戦略的見地から日中関係の重要性を十分認識し、うまく処理しなければならない、と報告された。

 デモが起こったところなどで開催し、地方の党や政府の幹部や学生などが集められています。推測ですが反日団体やサイトの関係者もいたのではないでしょうか。

 参加者はこの報告会が、胡錦濤の指示で行われていることを理解していますから、国の最高指導者のメンツを立てるためにも、また自分の出世のためにも、反日デモの起こさせるわけにはいきません。デモを主導するリーダー格を抑えればデモは起こりませんから、これで何とか収束するかなあ。

 

(5)新華社評論員「戦略チャンスを大切にし、さらなる大きな発展を求めよう」を掲載

⇒これも戦略チャンスを生かすには安定が大事というメッセージ。

 

(6)「いかに愛国的感情を表現するか」呉敬レン、呉建民へのインタビューを掲載

⇒いくつも出た記事の中で一番おもしろかった。

 著名な経済学者呉敬レンは今回の反日デモに対し次のように述べています。

 @国を愛し、日本の右翼に反対する最も有効な方法は国家の生産力発展、国力の増強、人民の生活水準の向上の3つの目標を実現するよう努力することである。

 A日本の右翼勢力に対する義憤の感情を表してもいいが、一部の行動ではわれわれの目標を最も有効に実現できない。

 B動機は何であれ中国と友好でありたい人はみんなわれわれの友人である。どうどうたる大国の国民として、われわれは少数の日本の右翼分子を理由に、もともと友人となるべき日本人を排斥してはならない。それは全く賢明ではない。

 C日中間の経済交流は両国関係に影響を与えている。このような影響が日中関係改善の動力になるべきである。

 元外交官の呉建民の発言は以下の通りです。

 @反日を愛国と同等とすることは見識が極端で、狭い。

 A日本の右翼と日本人民を区別しなければ、われわれ自身の巨大な利益に傷害を与える。

 B過激な行動は愛国を語るものでもない、それは中国の法律に違反し、国際法に違反する。外交的大使館や団体(使団)は国際法の保護を受けるものである。われわれの大使館が海外でガラスを割られれば、その国の人をどんな風に見るだろう?

 2人の識者の見解は、『人民日報』に載せてもいいのかなあというぐらい、反日デモでの過激な行動を明確に批判しています。こうした見解にはサイトなどで反対意見も出そう。しかし、まともな見解を述べてくれており、ホッとします。

 

(6)徐歩青「日本は『ドイツ』を鏡とすべきだ」という文章を掲載

⇒とはいっても、日本の歴史認識を批判することは忘れていません。ドイツを見習えという文章です。正直、大きなお世話だという感じです。

 

 以上のように多くの関連記事が掲載されました。国際社会の批判、国内安定の観点から、本格的に党中央が反日デモの拡大阻止に乗り出したわけです。各地で報告会を開くなど、大規模に展開されており、私が知る限り日本のことでこれだけ大げさにやったのは知りません。これまでの反日デモが党中央にとって相当衝撃を与えたようで、危機感を持ったのだと思います。

 

20050422

公安部、反日デモ活動に対する談話を発表

⇒すでにマスコミでも騒がれている「あれ」です。談話を読むとなかなかおもしろいです。気になった部分を紹介しましょう。

 @愛国的な熱情は理解できる。

 A極めて少数の社会で仕事のない人々が公私の財物をたたき割り、社会秩序を乱すなど違法活動を行い、わが国のイメージを損ねたことは法律が許さないことである。

 B公安機関の許可を経ずに、インターネットや携帯電話のショートメールを通じてデモを組織することは違法行為である。広範な民衆や学生が法に従って行動することを希望し、許可を経ていないデモ活動に参加してはならない、またインターネットや携帯電話のショートメールを利用してデモを煽動する情報を流してはならない。

 この談話から注目される点は3点で、そこから考えたことは以下の通りです。

 第1に、違法活動を行ったのが「極めて少数の社会で仕事のない人々」であるとした点です。成都でつかまった人のほとんどは失業者などと報じられていますが、デモ全体としてはどうなのでしょか。あの映像を見ていると必ずしもそうとは言えないような気がします。学生もいましたし、普通の人もいました。私には、当局が違法活動の罪を社会的弱者に押しつけることで、一般の人々や学生らを免罪にして、目先の社会的安定を確保しようとしたようにしか見えません。長期的に見て正しい選択だったか。

 「社会で仕事のない人」というのは、普通に考えると国有企業などの失業者や農村で強制的に土地を収用され農業ができなくなった人たちを連想します。そうした人たちを生み出した原因は、当局の政策の失敗にあります。そうした人たちに違法活動の罪を押しつけたことは、当局に対する反感を生むことになりはしないでしょうか。胡錦濤は民衆に近い政策「親民路線」を打ち出しています。社会的弱者に気を配ることで支持を得てきたのに、あっさり社会的弱者を切ってしまった、ということでしょうか。それは今後の胡錦濤政権を不安定にする別の要素になりはしないかということが懸念されます。

 第2に、デモ発生のプロセスでインターネットや携帯電話のショートメールが大きな役割を果たしたことを認めたことです。今回、反日団体のサイトの役割が大きく取り上げられていますが、私はサイトの役割は大きくないと思っています。「中国民間保釣聯合会」とか「愛国者同盟網」などのマニアックなサイトを一般の人や学生が見るでしょうか?普通に考えればそんなサイトにアクセスするわけがありません。掲示板なんてこまめにみんなが見ているわけがありません。サイトの役割を過剰評価してはいけないと思います。

 特定の関係者がメールや携帯電話のショートメールで無差別にデモの情報を流していたにすぎません。それを見た一部の人が興味を持ってデモ会場に参集したまでです。デモのきっかけなんて、その程度でいいのです。その後何も知らない人を雪だるま式に動員すればいいんですから。

 第3点は、一般大衆や学生にデモの参加を禁止した点です。自分の利益のことしか考えない今の中国の普通の人々や学生たちが、当局の命令に反して自分の不利益になるデモに参加するとは考えられません。これで、今後のデモの拡大はまずないと言えるでしょう。私は確信しました。

 明日、日中首脳会談が開催されます。日中双方ともいろいろ問題があっても、これ以上の関係悪化はプラスにならないと自覚しています。その点に期待して、いい会談になることを期待したいと思います。

 

20050426

(1)全国宣伝部長座談会開催

劉雲山部長が4方面の重点工作を指示しましたがそのうち気になるのが4番目。その内容は以下の通り。

 「中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争の勝利60周年記念活動の宣伝を誠心誠意組織し、愛国主義を核心とする民族精神と改革創新を核心とする時代精神を大いに高揚し、中華民族の偉大な復興を実現し世界平和と発展を促進させるための崇高な事業を促進し、努力奮闘するために全国各民族人民と国内外の中華青年たちを激励し動員する」

 日中関係改善に向けて、動き出した矢先ですが、抗日戦争勝利60周年の宣伝工作の指示がでました。今回の指示が「やるぞ」という指示か、「抑えろ」という指示か、この記事だけではわかりません。「具体的な行動を見てみよう」です。50周年の時ほどの「ひどい」宣伝活動はやらないと思いますが、今後かなり反日の宣伝が増えてくると思います。やっぱりなかなか改善には向かいそうにありません。

 

20050428

(1)日中間の「3つの政治文件」の特集

3つの政治文件とは、@1972年の日中共同声明、A1978年の日中友好条約、B1998年のこと。

 この3つの文件を再録し これらに対する関係者の論評が掲載されている特集。

 この3つの文件に記載されている歴史認識と台湾認識をもう1度日本に対し確認する、これに則って外交活動をしろと言わんばかりの特集のように感じられます。

 明日以降を見なければわかりませんが、なんとなくこれで宣伝活動は終わるのかなあ、という締めの特集記事のような気がします。ちょうど中国もゴールデンウイークに入りますし、区切るにはいいタイミングです。

 

20050510

(1)胡錦濤国家主席がロシア祖国防衛勝利60周年記念式典に出席、プーチン露大統領と会見

胡錦濤が式典に次のようなことを言った。

 「中国人民は頑強不屈の精神とみんなが心を合わせればどんな困難でも克服できるという力で凶暴残虐な日本の軍国主義侵略者に打ち勝ち、世界の反ファシスト戦争勝利に大きな貢献をしてきた」

 プーチン大統領との会見でも次のような発言を行った。

 「今年は中国抗日戦争勝利60周年でもあり、当時のソ連の軍隊と人民が抗日戦争勝利のために貴重な支援を提供してくれたことをわれわれは永遠に忘れない」

 式典の性格から中国の立場上、抗日戦争のことを言わなければならないことは理解しますが、なんかいい気分しませんね。抗日戦争勝利60周年のキャンペーンはすでに始まっていると見るべきで、日中関係の改善はほど遠い。

 私も言いたいことがいっぱいあるので、来週あたり仕事が落ち着いたら、一気に書きたい気がしますが、中国との関係、改善しようということが無理な話で、そうした幻想は持たない方がいいですね。価値観の違う国と関係をよくしようとしても、限界があるのですから。この30年近くの日中関係でわかったはず。

 東シナ海のガス田開発もすでに中国が施設を建てている状況で、共同開発のための話し合いをするなんてナンセンスです。いったん施設建設を中止させてから話し合いをしないと、中国は交渉中も開発進めるのですから。歴史の共同研究もナンセンスで、日中関係の改善という政治に利用される歴史研究なんて研究じゃないですから。

 その場しのぎの方策が多すぎる感があります。私は日中関係を無理してまでよくしなくても、ふつうに悪くない外交関係を維持していけばいいじゃないかと思うのですが。

 

20050523

(1)胡錦濤総書記が日本の与党幹事長と会見

胡錦濤の主な発言は、次の2点。

 @「両国関係が困難に直面している状況下で両国の与党間の対話と交流を強化することが中日関係の改善と発展の推進に積極的な意義を持つ」

 A「歴史を鑑み未来志向で、歴史問題と台湾問題を正確に処理することが長期的に健全で安定した発展につながる」

 日本の与党幹事長ごときに胡錦濤が会うとは、胡錦濤が日中関係を重視していることが伺えると見ていいでしょう。しかも、靖国に言及したことを掲載していませんから、中国国内を刺激しないようにとの配慮があるのでしょう。

 そうは言っても、日本の与党幹事長が胡錦濤に会っても日中関係の大勢には影響ないでしょう。会わないよりも会った方がいいという程度で。

 

20050524

(1)外交部、日本の指導者が繰り返し靖国神社参拝問題で中日関係改善に不利な言論を発表していることを非難

昨夜の外交部の談話です。この談話と呉儀が大連に行ったことで、小泉首相との会談のドタキャンの理由は、「緊急の公務」ではなく、やっぱり靖国問題だったということになりそうです。もちろん、昨夜呉儀さんが大連で「緊急の公務」をおこなったかもしれませんが、常識的に見てそれはないでしょう。今後も中国側は「緊急の公務」だったと言い続けるでしょう。

 このドタキャンは、その重要性から考えて、胡錦濤の指示によるものだろうと思います。なぜ胡錦濤をそうさせたのか。22日の武部・竹柴与党幹事長との会見がカギを握っていて、会見の結果を受けた決定だと思います。

 日中間には台湾問題や歴史認識問題、教科書問題などいろいろ問題はありますが、少なくとも昨年来中国側は問題を小泉首相の靖国神社参拝に絞っています。つまり、この問題さえクリアにしてくれれば、日本との関係はこれ以上悪化しない、悪化させない、というのが中国側のスタンスだと思います。もちろんその延長上には首脳の相互訪問や日本の安保理常任理事国入りへの支持などがあります。

 昨年11月の日中首脳会談、先日の反日デモ騒ぎの時も、胡錦濤、唐家セン国務委員、李肇星外交部長らが小泉首相の靖国神社参拝問題をとりあげ、参拝しないよう日本側に伝えてきました。4月23日の日中首脳会談では、胡錦濤が日中関係発展の5項目主張を提起し、歴史問題(=靖国参拝問題)や台湾問題で「実際の行動」を示すよう求めてきました。それは「参拝しない」という表明です。中国側によれば小泉首相もこの5項目主張に同意したのです。しかし、5月16日の衆議院予算委員会での小泉首相の「他の国が干渉すべきでない」、参拝時期については「適切に判断する」といった発言が、「実際の行動」に反する行動をとってしまった、つまり5項目主張をほごにしたということです。胡錦濤にしてみれば、せっかく改善の方向性を見つけるための提案をしたのに無にしやがって、って感じです。それでも与党幹事長会談まで待ってみよう、何か日本側から「おみやげ」がないかと思ってわずかな期待があって本来格下と思われる与党幹事長に会ったのに、やっぱり「おみやげ」はなかった。それなら、中国側、そして胡錦濤の不満を態度で示そうと胡錦濤が指示した策が、呉儀のドタキャン帰国だったというのが私の見方です。

 短期的に日中関係を改善したいなら簡単で、小泉首相が「総理在任中は靖国神社を参拝しない」と公式の場で言えば済みます。しかし、それはムリでしょう。できるならとっくの昔にやっているはずです。

 それでは、解決策はないのか?私の結論は「ない」です。これまでもそうでしたがこれからも長期にわたり日中関係はギクシャクした関係が続きます。まあ、それはそれでいいではないかと思っています。ガス田や貿易やそんな個々の問題は外交ルートで交渉すればいいわけでそれは靖国問題に関係なく可能だと思います。

 問題は日本側ではなく、むしろ中国側だろうと思うのです。少なくとも小泉政権が発足してからの日中関係はずっといい状態ではありません。この関係を解決するために中国側が持ち出すのが、決まって歴史問題、特に靖国参拝問題です。それは日中関係の原則であるからと中国側は言いますが、結局中国は日中関係改善の策として、歴史問題しか挙げられない、袋小路に陥っているのです。「原則」というのは言い訳にしかすぎません。残念ですが中国には別の解決策を提示する能力がないのです。それは胡錦濤などの指導者の問題か、ブレーンの問題か、わかりません。しかし、ほかの出口を見つけることができないのです。ある意味哀れみすら感じます。

 そう考えると、日中関係が今後改善するとは思われません。でもいいじゃないですか。粛々と、個々の問題を解決し、普通の外交関係を維持していけば。そのことで経済活動が縮小することはありません。現にそうした状況はないわけですから。

 

20050525

(1)李学江の評論「でたらめな弁解」を掲載

李学江は人民日報国際部記者です。

 一昨日の呉儀ドタキャンの原因が日本にあることを説明するための文章

 この中で李学江は4つの話を展開しています。

 @「小泉首相は『日本側は胡主席が提出した中日関係発展のための5項目主張の精神に基づき、日中友好協力関係を積極的に推進したい』と表明した」。

 A5月16日の小泉首相の衆議院予算委員会の答弁は、A級戦犯を「殉国の英雄」であり、尊敬すること、現在日本は軍国主義分子との明確な境界線を引きたくないこと、日本は光り輝かない歴史を徹底的に精算したくなく、その歴史と決裂したくないことを意味している。それは国際正義と人類の道議の問題であり、内政干渉ではない。

 B日本政府は自らを戦争の最大の被害者にしている。

 C歴史に対する取り組み方がドイツとは違う。

 要は日本の歴史認識はなっていないということです。@で4月23日の日中首脳会談で胡錦濤が提案した5項目主張に小泉首相が同意した、すなわち歴史問題や台湾問題で日本が中国の満足のいく行動をとることに同意したということから出発しています。Aは中国を怒らせ、呉儀のドタキャンをもたらした最大の要因が5月16日の小泉首相答弁だったことを表しています。B第二次世界大戦での悪者は日本であることには戦後60年たった現在も変わらないし、中国はそういうスタンスで今後も行くぞということを表しています。Cはドイツを引き合いに出すことで、やっぱり日本の歴史認識はなっていないことを強調しているわけです。

 昨日の今日ですから、中国側のスタンスに変わりはありません。

 ここで1つ考えてみたいのは、日中首脳会談での胡錦濤5項目主張に対する小泉首相の対応です。こんな提案、特別なものではないのです。中国の指導者は外国首脳と会談すると必ずと言っていいほど関係発展のための提案を行います。もちろん中国にとっては意味ある提案をしているのでしょう。しかし、これはコミュニケとか共同声明とかのように事前に両国が打ち合わせしたものではなく、中国側が勝手に言っているだけのものです。相手国は寝耳に水で、え〜、って感じだと思うのです。だからこうした提案が後々意味を持ってきて、今回のようにしつこく言われるのなら、会談の時こうした提案が出たら、雰囲気で同意したり、納得するのではなく、きちんと「ご意見はよくわかった、もってかえって検討します」とか言って、安易な同調はしない方がいいのではないかと思うのです。たぶん会談だと雰囲気でいい話のように聞こえちゃうんじゃないかと思うし、また同意しないと気まずくなるのではと思うのかもしれない。しかし、その代償は大きい。その場が気まずくなってもいいじゃない。いいものならば、あとで同意すればいいだけなのだから。

 もう1つ中国が出してくるドイツの歴史認識や戦後賠償に対する評価。これは本当にすばらしいものなのか。中国が日本に圧力をかけるためにうまく利用しているだけの部分があるような気がします。これについては、少し勉強してみようと思います。そして国際正義や人類の道議、っていったい何なのでしょう。

 

20050526

(1)于山の評論「大国の夢を見て、小さなやり口を施す」を掲載

尖閣列島問題について、1972年の国交正常化と1978年の友好条約締結時に棚上げするという共通認識があった。しかし、日本側が島に灯台をたてるなど先に事を起こしたのであって、それに中国側は抗議し、民間が活動しているだけだ。

 日本に非があることを主張?