第46回 李克強はポスト胡錦濤として浮上するか?(2004年12月23日)

 

 20041213日、党中央は遼寧省党委員会書記、つまり遼寧省のトップに河南省党委員会書記の李克強を転出させる人事を発表した。李克強、聞き慣れない名前かもしれないが、香港や日本のマスコミの間ではポスト胡錦濤の1人として注目されている人物である。私も注目をしてきた。その李克強が今回遼寧省のトップに移動したことは何を意味するのか。

 

●なぜ李克強が注目されるようになったのか

 李克強は200211月の第16回党大会あたりから注目されるようになったが、なぜだろう。それは彼の経歴にある。

 1982年に北京大学を卒業後、中国共産主義青年団(共青団)第11期中央委員会常務委員に選出され、1983年7月には共青団中央学校部部長に、同年12月には共青団中央書記処候補書記、その後同書記と共青団内で昇進した。他方、胡錦濤は共青団中央書記処書記を経て、1984年に共青団中央のトップである書記処第一書記に就いている。1984年ごろから李克強と胡錦濤の接点が生まれ、共青団中央の仕事を通じて両者の関係は深まったものと推測される。その後、李克強は1993年3月に胡錦濤と同じ共青団中央書記処第一書記に任命された。

 共青団出身の胡錦濤が党のトップになって、共青団出身者の要職登用が指摘されるが、その中で李克強は直接胡錦濤と共青団中央書記処内で接点があり、また共青団のトップに就いたという共通点があることから注目をされるようになった。

 また、1955年7月生まれで現在49歳という若い。河南省代理省長に就いたのは1998年6月と43歳の若さだった。その後河南省党委書記に就き、今回遼寧省党委書記就任が将来性を買われてのものということができる。

 経歴と若さ、そして胡錦濤との接点が、李克強をポスト胡錦濤と言わしめているのである。

 

●遼寧省党委書記就任の意味

 河南省トップから遼寧省トップへの移動は李克強にとっては出世と見ていいだろう。2006年から始まる第11次5カ年規劃(長期計画)では、東北振興政策が重点項目の1つになることは確実である。この東北振興では多額の財政資金が東北三省に投入される。もちろん大型の国有企業改革の解決が東北振興の目的の1つであり、李克強にとってこれは難問題である。しかし、中央から資金がふんだんに投入されることは確実であり、東北三省のうち経済条件の最もいい遼寧省であることから、大きな失敗は考えにくい。李克強にとっては成果だけが見込める。これまでの東北三省のトップは東北振興のために尽力したものの十分な成果を収められなかった。そして社会保障改革を全国の実験地として朱鎔基主導で進めてきたのが東北三省である。そうした先人の努力の結果が東北振興政策につながった。お膳立てができた段階で李克強は遼寧省のトップに就いた。まさに「おいしいとこ取り」である。

 これも深読みすれば、将来を嘱望されている李克強に傷を付けないように条件のいいところに配置し、実績を積ませ、成果を挙げさせ、2007年秋の第17回党大会では晴れて中央入りさせようという胡錦濤の配慮も伺われるのである。

その点から言えば、このまま河南省のトップにいても李克強にとってはいいことはない。約1億の人口を抱えながら、内陸地区に位置し貿易や海外からの投資も望めず、石炭以外にこれといった産業もない。河南省は指導者が大きな成果を収めることの難しい地方である。こんなところに長くいては出世に響く。実際李克強の在任中、河南省はさほど経済発展せず、また炭鉱の事故が起きるなど、彼に対する評価は高くない。そのため、李克強にとっては遼寧省党委書記への転出は河南省を出る絶好のチャンスだった。しかし、河南省党委書記であったことを悲観することはない。現在党内序列第8位の李長春も河南省党委書記の後、広東省党委書記を経て、共産党の最高峰である中央政治局常務委員会に入ったのだから。

 

●ポスト胡錦濤になれるのか―1つの予測

 それでは、李克強はポスト胡錦濤として党のトップである総書記になれるのか。 まず、2007年第17回党大会で党総書記になることは絶対ない。胡錦濤の再選でほぼ間違いないし、万が一胡錦濤が失脚などしても、党内序列上位25名からなる中央政治局委員になっていない李克強にそのチャンスは全くない。可能性は2012年の第18回党大会での人事で検討されなければならない。しかし、そのためには、第17回党大会で李克強が中央でどこまで昇進するかにかかっている。常々言っているように人事は水物で、しかもこれから10年近く先の話であり、確実な予測などできるはずがない。

 2002年第16回党大会で胡錦濤が総書記に就いたとき、中央政治局常務委員も胡錦濤以外は総入れ替えとなったが、新たに常務委員になった8人は全て中央政治局委員からの順当な昇格だった。曾慶紅ですら中央政治局候補委員だった。つまり、それまで中央政治局委員になっていなかった者が常務委員になることはない。こうした順当な昇格という傾向にあることを前提に、1つの予測をしてみたい。

 次の表は現在の中央政治局常務委員、委員の第17回党大会時と第18回党大会時の年齢である。2007年の第17回党大会で70歳を超える羅幹は引退確実で、69歳の黄菊、呉官正の引退も可能性は高い。羅幹だけ引退の場合補充は1名で政治局委員の中から選ばれる。黄菊、呉官正も引退の場合、常務委員の定数を9名で維持するならば補充3名だが、これも政治局委員から補充される。もちろんケ小平が将来の総書記育成のために49歳の胡錦濤を常務委員に異例の抜擢をするというウルトラCをおこなったような権威が第17回党大会時の胡錦濤にあれば別だがそれは無理だろう。よって第17回党大会時の李克強の常務委員入りはない。委員入りがいいところだろう。

 次に2012年の第18回党大会時だが、ここでは現在の常務委員は全員引退する。よって第17回党大会での補充者が年齢によって引退するかどうかがカギになる。王兆国のような第18回党大会で引退する委員が補充されていれば、常務委員は完全総入れ替えになり、李克強にもチャンスが生まれてくる。しかし、第17回党大会で6061歳になる劉雲山(現在党中央宣伝部部長)、張徳江(広東省党委書記)、陳良宇(上海市党委書記)などが常務委員に補充されていれば、彼らが総書記候補として有望だろう。

 さらに2017年の第19回党大会まで展望すれば、李克強は62歳となり当然総書記候補だろう。しかし、第18回党大会で同じ年齢ぐらいの人が当然常務委員入りしているだろうから、彼らとの競争になり、必ず李克強が総書記に就くとは言えなくなる。

以上の推測からすれば、李克強にとって総書記への道は実はかなり厳しい。また遼寧省では東北振興がスタートし、遼寧省党委書記に就いた李克強にとってプラス面が大きいことはすでに述べたが、国有企業改革など解決の難しい問題を抱えていることは確かであり、うまく対処できなければ逆にマイナス評価の対象となってしまう。李克強に対するポスト胡錦濤への期待は私も強く持っているが、冷静に見てみるとそう簡単なものではない。


 

参考:李克強と現在の中央政治局常務委員、委員の年齢

 

17回党大会時

2007年)

18回党大会時

2012年)

李克強

52

57

 

【常務委員】

 

 

胡錦濤

64

69⇒引退

呉邦国

66

71⇒引退

温家宝

65

70⇒引退

賈慶林

67

72⇒引退

曾慶紅

68

73⇒引退

黄菊

69⇒引退

呉官正

69⇒引退

李長春

64

69⇒引退

羅幹

72⇒引退

 

【委員】

 

 

王楽泉

62

67⇒引退

王兆国

66

71⇒引退

回良玉

63

68⇒引退

h

64

69⇒引退

劉雲山

60

65

呉儀

68⇒引退

張立昌

68⇒引退

張徳江

60

65

陳良宇

61

66

周永康

64

69⇒引退

兪正声

62

67⇒引退

賀国強

64

69⇒引退

郭伯雄

65

70⇒引退

曹剛川

71⇒引退

曾培炎

68⇒引退

王剛

65

70⇒引退