第42回 全国人民代表大会設立50周年記念大会での胡錦濤演説(2004年9月16日)

 

2004年9月15日、全国人民代表大会設立50周年記念大会が開かれ、胡錦濤党総書記が重要講話を行った。この大会には歴代の全人代常務委員会常務委員長である李鵬、喬石らも出席していた。しかし、江沢民の姿はなかった(この時期南方の軍の視察に行っているという情報もある)。

「人民代表大会制度はわが国の根本的な政治制度である」、この50年間の党の人民代表大会制度に対する一貫した原則的な見解である。さらに胡錦濤は「人民代表大会制度の堅持と整備は、社会主義民主政治の発展、社会主義政治文明の建設の重要な内容である」という見解を示している。中国政治を見る上でこの講話で語られていることを整理しておく必要があるだろうと思う。また翌9月16日から開かれる中共中央委員会第4回全体会議(4中全会)の前日の講話ということで、無視できない。

大きく3部に分かれているようなので、それに沿って、メモ程度に内容を整理してみる。

 

1.人民代表大会の歴史の回顧

 ここでは割愛する

 

2.人民代表大会制度を「堅持する」ことの意義

具体的に何を指すのだろうか。以下の3点に言及している。また私の気を引いた部分を付記しておく。

(1)「人民民主を十分発揚させ、人民が主人公であることを保障しなければならない」

―人民代表大会制度の堅持と整備を通じて次の点の実現を挙げる。@民主制度の健全化、A民主形式の多様化、B公民の秩序ある政治参加の拡大、C法律や規定に依って、各種のチャンネルや形式を通じて、国家の事務を管理し、経済、文化事業を管理し、社会事務を管理することを人民に保証する。

(2)「法に依って国を統治するという基本方略を堅持し、社会主義法治国家建設の道を絶えず推進する」

(3)「党の執政能力建設を強化し、党の国家事務に対する指導を改善し、党の指導水準と執政水準を高める」

―各級人民代表大会、及び同常務委員会は自覚して党の指導を受けなければならない。

―党は国家事務に関する重要な主張のうち、全国人民代表大会の職権範囲に属し、人民全体が一体となって遵奉する必要のあることは、建議として全国人民代表大会に提出し、法定手続きを経て国家の意志としなければならない。

 

3.人民代表大会の課題

 次に、人民代表大会が現在抱えている課題4点に言及している。また私の気を引いた部分を付記しておく。

(1)立法工作の強化、改善、立法の質の向上

(2)人民代表大会の監督工作の強化、改善、監督の実効の強化

―現在の問題:@法があっても依拠せず、法を執行しても厳しくなく、法に反しても追求しないという現象が一部の地方や部門に依然存在している、A地方保護主義、部門保護主義、執行が難しいという問題が発生している、B一部公職にある者が職権を乱用し、ワイロをむさぼって法を曲げ、法を執行して法を犯し、党と国家のイメージに著しい損害を与え、国家と人民の利益に著しい損害を与えている。

(3)各級人民代表大会と人民大衆との関係を密接にし、人民代表大会の影響力をうまく発揮する

―人民代表大会は各方面の代表によって組織される広範な代表性を備えた国家権力機関であり、党と国家の大衆との重要な架け橋であり、人民大衆が意志を表出し、秩序ある政治参加を実現する重要なチャンネルである

(4)各級人民代表大会、及び当常務委員会の組織制度と工作制度建設の強化

 

4.雑感

 人民代表大会設立を記念する内容のはずなのに、党と人民代表大会との関係、党の役割といった中国共産党について一貫して語られており、何の講話だったか一瞬忘れてしまうような内容である。もちろん、翌日に政治問題を主要議題とする4中全会を控えているためその影響もあるのかもしれないが、現政権の政治関心が党、党の執政能力強化にあることがよく表れた内容だ。それだけ、党の執政能力に不安を抱えていることの裏返しと言えるだろう。

 人民代表大会を人民大衆の政治参加のチャンネルであると位置づけている点も興味を引くし、またここ最近の監督機能の強化の成果が出てきていることも事実である。しかし、党は人民代表大会をあくまでも党の方針を正当化するために国家の政策に転換するための機関として位置づけており、独立した立法機関としての機能としての限界がそこにはある。あくまでも党の執政能力強化の一環である。

 その中で特に関心を引くのは、3−(2)に記した地方と部門の問題だ。4中全会の主要議題である党の執政能力強化については何が言いたいのかよく分からないのだが、どうやら中央の意向に従わない地方や部門にいかに中央のいうことを聞かせるか、これが焦点なのではないかと思っている。中央は地方や部門を十分統制できていないのが現状なのだろう。それが昨年夏以来のマクロ調整で中央が地方を統制できていないことにも表れている。江沢民も1990年代初期、地方に対する中央の権威確立で困難な時期を経たが、胡錦濤もまた同様にその悩みを抱えているのだろう。今回の胡錦濤講話に各級人民代表大会や同常務委員会といった地方に中央の意向に従うよう求める文言が入ったのもそうした影響があるものと思われる。