第４１回　�ｹ小平生誕１００周年記念大会での胡錦濤演説と４中全会（２００４年８月２６日）

まもなく中国共産党中央委員会第４回全体会議､いわゆる４中全会が開かれる。すでに「党の執政能力建設」が議題になるということが発表されている。党の執政能力建設というのも何のことなのかわかりにくいのだが、とにかく党の重要な会議の議題になっているので勉強しておかなければと思い、何かないかなあと物色している最中だ。

　８月22日、�ｹ小平生誕100周年を迎え、この日を前後して�ｹ小平の功績を称賛する催しが中国だけでなく、世界各地の中国人コミュニティーで開かれており、またマスコミも特集記事を掲載するなど、大騒ぎである。この８月22日に北京では記念大会が開かれ胡錦濤党総書記が重要講話を行った。４中全会直前の政治的な行事での胡錦濤自らの講話とあって、４中全会の議題である「党の執政能力建設」について何か触れないか、その講話に４中全会の方向性を見いだそうとするのはごく自然なことだろう。今回は、この胡錦濤講話について考えてみたい。

●�ｹ小平の功績

　講話は、出生から1978年12月の党の第11期３中全会までの経歴から始まっているが、ここではその後の改革開放の始まった1978年12月以降の記述を中心に見ていく。こうした講話は、単なる回顧や称賛ではない。そこにその時々の政権の政治的意図が含まれている。現政権は自らの正当性を高めるために、過去からの連続性を強調するものである。胡錦濤とて例外ではない。それ故に、毛沢東時代を事実上否定し、現在の市場経済化の道につながる改革開放以後の�ｹ小平の功績への評価に注目しなければならない。

（１）思想解放、実事求是

　毛沢東時代を否定し、新しい時代を切り開いた�ｹ小平の功績はこの８文字に代表される。その成果として次の10点を挙げている。どれもこれまで指摘されてきたおなじみの成果である。

�@初級段階論の提出

�A生産関係よりも生産力の重視

�B知識､科学技術の重視

�C農村生産請負制の導入

�D先富論の提唱

�E市場経済の導入

�F民主の制度化、法律化

�G幹部終身制の導入

�H統一戦線の強調

�I一国二制度の提唱

（２）民衆重視

（３）勇敢な決断

１つは、1980年代末から1990年代初頭の国内外で発生した政治風波（すなわち天安門事件とソ連・東欧の社会主義諸国の崩壊）に際し、４つの基本原則（�@社会主義の道、�A人民民主独裁、�B共産党の指導、�Cマルクス・レーニン主義、毛沢東思想）を堅持し、国の独立、尊厳、安全、安定を守り、経済研説を中心とし改革開放を堅持し、中国の特色ある社会主義を正確な方向に導いたことであり、もう１つは南巡講話を行ったことで、改革開放を加速させ､市場経済化を本格化させた。

（４）平和と発展を提唱

　国際認識についても毛沢東時代からの脱皮を図り、戦時から平和と発展の時代への転換、閉鎖から対外開放と対外交流の拡大への転換、独立自主外交を提唱した。他方で、第三世界、発展途上国の立場から覇権主義を批判した。

（５）幹部終身制の廃止を提唱

　幹部の終身制の廃止を提唱したことで、第二世代（�ｹ小平を中心）から第三世代（江沢民を中心）へのスムーズな権力移譲を成功させた。そして無私で何ものをも恐れない堅忍不抜の意志をもっていると称えている。

●現政権との関係

　以上のような�ｹ小平の功績への評価は現政権とどのような関係を持っているのだろうか。�ｹ小平の功績は�ｹ小平理論と呼ばれるが、現政権の方向性は�ｹ小平理論の延長上にある、継承であるというのが、現政権の基本スタンスである。具体的にどのような部分に見られるだろうか。ざっと胡錦濤演説を見る限り目についたのは以下の通りである。

１つは民衆重視の姿勢で、現在胡錦濤が強調する「親民路線」と相通じるものがある。親民路線は�ｹ小平理論の継承の結果である。それは覇権主義批判も同じで、米国中心の国際秩序への反発は�ｹ小平時代から続いている。

　また幹部終身制廃止への言及は意味深である。これは権力に固執する江沢民への当てつけのように思える。�ｹ小平のように第三世代から第四世代への権力移譲を急ぎたい胡錦濤の焦りのようなものを感じる。

●「三つの代表」重要思想が基本原則

　胡錦濤演説の後半は、�ｹ小平の功績を受けて、現政権が何をめざすのかについて言及している。

１つは�ｹ小平理論と社会主義初級段階論の継承であり、もう１つが「三つの代表」重要思想を堅持することである。「三つの代表」重要思想はマルクス･レーニン主義、毛沢東思想、�ｹ小平理論を継承したものであり、根本指針であると位置づける。

　そのために堅持しなければならないことを５点挙げている。

（１）思想を解放し、事実に即して真理・真実を探求し（実事求是）時共に進み、絶えず理論武装と理論創出を強化する

（２）科学発展観を樹立し、確実なものにする

人を基本とし、全面的で､協調的で、持続発展可能な発展観を樹立するために次のことを

�@経済発展を中心とする

�A民主：党の指導を堅持し、人民を主人公とし、法によって国を治める。民主選挙、民主的政策決定、民主的管理、民主的監督を挙げる。

�B民族精神、教育、科学技術、文化など精神世界を豊かにする

�C市場経済化、生産力の発展

�D発展と安定の関係（失業や所得格差などの大衆に密着した問題）をうまく処理するため、大衆を重視する

（３）一国二制度の方針

台湾独立に反対

（４）独立自主の平和外交

外交における平和と発展の重視、覇権主義テロへの反対

（５）党の執政能力建設

課題は、１つは党の指導水準と執政水準の向上であり、もう１つは腐敗を拒み、リスクを防ぐ能力を高めることである。そのために以下の５点に取り組む。

�@党の思想、組織、作風、制度の建設を全面的に強化し改善する

�A「三つの代表」重要思想を貫徹する

�B党の指導方式や執政方式を改革、改善し、民主集中制を堅持、改善し、指導グループと幹部グループの建設を推進し、党の基層組織建設を強化する

�C公のための立党、人民のための執政、広範な人民の根本利益を活動の出発点と到達点とし、人民のために権力を用い、人民のために情をつなぎ、人民のために利益を謀り、党は人民と血肉の関係を保持する

�D社会主義市場経済に適応した教育、制度、監督、そして腐敗を取り締まり防ぐシステムを打ち建て、反腐敗闘争を展開する

●胡錦濤が言いたかったこと

　最後に胡錦濤演説が言いたかったことをまとめてみると、１つは「三つの代表」重要思想の堅持、もう１つは民衆重視という２点が胡錦濤の政治方針であることを示すことにあったように思われる。そして、その政治方針に箔をつけるために、これらの政治方針が�ｹ小平の功績の継承であることを利用したと言える。それは胡錦濤の権力がまだ強固なものではないことを表しており、時に皮肉混じりに江沢民批判をしたということも言えるだろう。

党の執政能力建設という４中全会の議題もここから出発しなければならない。環境が変化する中で、「どのような党を、どのように建設するか」という命題に対する答えとして、「三つの代表」重要思想は提起された。しかしそれは指針であり、具体的に何をするのかについての回答は体系的にはまだ示されていない。「三つの代表」重要思想の延長上にあるのが党の執政能力建設である。決して新しく出てきたものではない。胡錦濤演説では具体的なことは示されていないが、党内民主、民衆重視、腐敗撲滅が軸になることが予想される。第三者から見れば、体系的に具体策が出ないと「抽象的な議論」と評価されないかもしれない。しかし、個別の方策はこれまでにも見られないわけではない。第16回党大会の江沢民の政治報告などは比較的具体的なことも書かれている。

４中全会では党の執政能力建設に関する決議が採択されるだろう。それを機に、改革が進む可能性が予想される。４中全会そのものよりも、むしろその後の展開の方に注目しなければならない。