第35回 2004年4月の『人民日報』(2004年5月4日)

 

 今月は、過剰投資に対する記事を中心に注目しました。まだインフレには至っていないと経済部門は表明してきましたが、第1四半期の経済統計が発表され、一向に固定資産投資の伸び率が収まらない状況が明らかになり、党中央は対策に乗り出しました。結局、金融措置を打ち出し、銀行の貸し出しをコントロールすることで、投資を抑制する政策を打ち出しました。これからが党中央の腕の見せどころです。

 もう1つの関心は、香港の行政長官と立法会の選出方法の改正をめぐる全人代の対応です。結局、全人代に改正の必要性があるかどうかの決定権があることが確認されました。これは、香港だけの問題ではなく、統一後「一国二制度」が適用される台湾にも関係しますし、さらには大陸自身の政治改革の行方にも関わってきます。党中央のスタンスが明らかになったわけです。これをもって現体制が政治改革に消極的だというようなことを言うつもりありませんが、現在進める政治文明建設も一定のところまでは改革を進めるだろうが、限界があると考えざるを得ません。

 

20040401

 

(1)国務院第3回学習講座開催、憲法を学習

先日の全国人民代表大会で憲法が改正されましたので、その学習会が各地で行われています。後日、「新政治を読む」で憲法改正について考えてみたいと思います。

 

(2)胡錦濤、シラク仏大統領と電話会談

台湾問題、EUの武器売却禁止解除、中EUの関係拡大などが議題になりました。

 相変わらずフランスと仲がいいですね。中国にとって米国に一国主義に対抗していく上で、似たようなことを考えているフランスは大切です。フランスは台湾総統選挙前に台湾の独立に反対を明言して、中国に対しセコンドをうってくれましたし、「六・四」事件以来の(たぶん)武器売却禁止解除は中国にとっても有利ですし。

 

20040403

 

(1)全人代常務委員会第8回会議開催

主な議題は、対外貿易法修訂草案の審議、香港基本法の附件1第7条と附件2第3条の解釈に関する審議ですが、後者に注目です。

 香港で高まっている行政長官の直接選挙などを求める政治改革の声が高まっています。これに関連して、これ以上政治改革を進めないようにするために、香港基本法の解釈を全人代が行おうというのがこの審議の目的です。どのような審議結果になるか、それに香港世論がどう反応するか、また「一国二制度」という点では無関係ではない台湾世論の反応にも注目したいと思います。

 

20040407

 

(1)全人代常務委第8回会議、香港基本法の附属文書1第7条と同2第3条の解釈を採択

この2条は、香港特別行政区の行政長官と立法会の選出方法の改訂についての規定です。

 現行の規定では、2007年以降この2つの選出方法について「もし改訂の必要があれば、立法会全議員の3分の2以上の採択を経て、行政長官が同意し、全人代常務委員会に報告し、行政長官選出については認可し、立法会については記録に載せることを経る」とあります。

 今回の会議で問題となったのは次の4点で、その解釈がの後ろです。

 @2007年以降」は2007年を含むのか含む

 A「もし必要ならば」は、必ず改訂をしなければならないのか改訂してもいいし、しなくてもいい

 B誰が改訂が必要かどうかを確定し、誰が改訂議案を(立法会に)提出してもいいのか全人代常務委員会が確定し、特別行政区政府が提出する

 C改訂しない場合、現行の規定に沿って行う/『人民日報』評論員評論:基本法の解釈権は全人代常務委員会に属する

 今回解釈が出されたことは、香港特別行政区内で行政長官と立法会の選出方法について変更したいと思っても、まずその入り口で、その変更が妥当かどうかを全人代常務委員会が判断して、OKを出さなければ、変更ができないということです。 今日の『人民日報』の評論員の関連論文では、中央が終始決定権を有するという原則、地方には自らの政治体制の原則を自分で決定したり、変更する権利はない、とまで言い切っています。

 つまり、北京の中央がしっかりと香港の政治を握るということを意味しています。しかし、基本法と付属文書を見ると、行政長官と立法会の選出方法の変更については北京の十分コントロールができるような規定になっています。ですから何を今さらそれにダメを押すように今回全人代常務委員会がわざわざ解釈を発表しなければならないのだろうと思うのですが、そこに香港で起こっていることに対する北京の危機感を感じずにはいられません。昨年来の国家安全条例採択の失敗がその最たるものです。

 こんなに危機感を持っているのだとすると、2月のケ小平の「一国二制度」に関する論文再掲載は、私は台湾総統選挙向けでもあるかと思いましたが、香港向けだったと解釈する方が妥当かもしれません。

 

20040409

 

(1)喬暁陽全人代常務委副秘書長が香港で基本法解釈について説明

基本的には決定を繰り返すだけでしたが、一部過激なことを言っています。

 「高度の自治は、完全な自治ではなく、最大限度の自治ではなく、基本法が授権した範囲内の自治であり、基本法の授権を逸脱して高度の自治を重視することはできない」

 このくだりは厳しく、はっきり言っています。自治といっても限定された自治だと言っているのです。これを聞くと、台湾の人は、「一国二制度」は信用ならん、統一なんかするものか、と思うでしょうね。私はやっぱりそうだったかと思いました。

 

(2)国際副刊で中国脅威論を特集

 特集を組んだ趣旨は、日本や米国、フランスで中国脅威論が後退しているということを紹介するためのものです

 この中で日本の中国に対する見方の特徴を3点挙げています。

 @メディアと専門家・学者が相互に協力し、素早く反応をし、深く掘り下げ、世論に対し極めて大きな影響力を持っている

 A中国研究の歴史が長く、研究する人も多く、中国に関心を持つ人が多い

 B中国に対する見方が大きな流れに流されやすい

 これを見ると、中国研究者の責任を感じます。おもしろいのはBでしょう。ここで挙げた大きな流れというのは、女子十二楽坊が人気になるように、日本人は新しいものに飛びつき、スターを追っかけることが好きで、中国の芸能スターをえらく持ち上げるということです。信念、確固としたものがないということの裏返しです。悲しい。

 

20040412

 

(1)新時代の中国工人(労働者)許振超に関する記事掲載

新しい時代の労働者像として許振超を紹介しています。

 中国語で「工人」というのは、肉体労働者を指します。しかし、この許振超は、学習型、創新型、現代技能を掌握する優秀な産業労働者として描かれています。「工人」像の転換が見られます。

 「三つの代表」重要思想を、幅広い階級を代表するという共産党の「国民政党」化の理論的根拠と見るか、それとも実際の社会を動かす富める者、企業家など富裕層を支持基盤とする「企業家政党」化への転換の理論的根拠と見るか、見解が分かれるように、新しい時代の「工人」を、これを既存の「工人」に付加されたものと見るか、それともこれからは中国経済を支える産業労働者重視の姿勢と見るか、難しいところです。

 

(2)広東省の党組織建設工作が成果を収めているという記事

昨年3月から本格的に進められている広東省での党組織建設工作が成果を収めているというものです。

 非公有制企業のうち党組織設置の条件を備えている(党員が何人以上だと党組織を設置していいとか)企業8412社の100%で党組織が設置され、また非公有制企業の党員約17万人の100%が党組織の管理を受け留用になったとのこと。逆に言えば、これまで非公有制企業には必ずしも全部に党組織は設置されていなかったし、党員も十分掌握できず、管理できていなかったということもできます。

 また、社区でも90%以上のところを党組織がカバーするようになりました。

 この成果を「流浪党員」が「家」を持ったと評価しています。

 新しく発展している非公有制企業や社区といった組織に党組織を作ることが全国的に奨励されています。その目的は、やはり共産党が隅々にまで組織を設置し、人々を管理しようという意図からだと思います。 

 他方、組織側も党組織を置いておいた方がトクだという意識もあるでしょう。記事によれば、外資系企業や民営企業の経営者が党組織設置に対しては元々偏見を持っていたとしています。それが100%設置を実現しているのですから、経営者側の賛同がなければ不可能でしょう。それでは、何がトクなのか、この記事ではそこまでは言及していません。

 

20040414

 

(1)胡錦濤が陜西省を視察

視察の中心は農業問題と西部大開発です

 

(2)曾慶紅がチェイニー米副大統領と会談

議題の1つは二国間関係(政治、経済)でもう1つの議題が台湾問題でした。

 曾慶紅は台湾に対する基本認識として「世界には中国は1つであり、台湾は中国の一部であり、台湾島内の選挙結果によってこの事実が変わることはない」と述べました。そして、米国に対し「承諾していることを履行し、台湾への武器売却を停止し、『台湾独立』勢力に対し、謝ったシグナルを発しないよう希望する」と述べ、注文をつけました。

 選挙が終わった今、台湾に対する米国の関与として、武器売却を警戒しているということでしょう。かなり具体的です。

 チェイニーは「1つの中国政策を堅持し、『台湾独立』を支持しない、台湾海峡の現状を変えようという行動をどちらか一方がとろうとすることに反対する」と述べました。これは、これまでの発言と変わらず、再確認したまでです。

 

20040416

 

(1)江蘇鉄本鋼鉄有限公司の建設鋼鉄プロジェクト法規違反で、国務院が専門プロジェクト検査組を派遣

このプロジェクトは、江蘇省常州市付近のとある鎮に生産能力が840万d、総投資105億元に上る鉄鋼企業を作ろうというもので、2003年6月に着工した大型プロジェクトです。しかし、着工にあたり、現地政府が不法に土地収用の許認可を与え、企業の管理能力を問われ、また企業も環境保護法に違反しているため問題化したものです。

 国務院はこの事件を「典型的な現地政府と地方関係部門の過失法規違反で、企業の法規違反の嫌疑がかかる重大事件」と位置づけました。

 この背景には、過剰投資問題があります。まさに鉄鋼分野への低水準の重複投資が今問題になっています。昨日発表された第1四半期の経済統計でもその傾向はいっこうに収まっていません。そのため、国務院はこの事件を大きく取り上げ、徹底追求することで過剰投資を戒めようというねらいがあります。

 普通に考えて、日本の町ぐらいの行政単位が鉄を作って町おこしをしようということには無理があります。これが見せしめとなるかどうか、国務院の監督能力が問われます。

 

(2)建設部が建設企業の格付け申告の手続きを7月1日から軽減することが判明

建設企業の格付け自己申告の手続きが、これまでいくつものステップを踏まなければならなかったのですが、今回直接建設部または省級建設主管部門への申告だけで済むようになり簡素化されます。

 この自己申告のことはよくわかりませんが、7月1日から行政手続きの項目や方法を規範化した行政許可法が施行されるため、各部門や地方政府がそれに合わせて様々な許認可事項などの簡素化、見直しを行っているようです。

 

20040420

 

(1)インフレ懸念の経済論評

⇒中国の物価の現状は、第1四半期の消費者物価指数が2.8%増で昨年第4四半期から上昇傾向にあり、今年1月の食品物価指数が8%、住居価格指数が3.1%、サービス価格指数が2.9%となっています。

 国家発展開発委員会マクロ経済研究院副院長の陳東hはこの状況を「物価上昇は注目しなければならないが、現在すでに典型的なインフレが出現していると言うことはできない」とインフレ懸念を否定しながらも、インフレへの警戒を呼びかけます。

 まだインフレ状況にないという根拠はとして、次に3点を挙げます。

@最近6ヶ月の指数増はインフレ警戒線である3%以上を持続していない

A価格上昇は原材料(投資品)の領域で消費財に及んでいない

 B消費財のうち、家電や日用品はデフレ状況にあり、穀物や食料品の価格上昇はもともと低すぎる販売価格を引き上げたことや2003年の穀物減産や供給不足によるものである

他方、陳副院長は、第1四半期の固定資産投資が43%増は、物価上昇、インフレを引き起こす可能性があり、警戒しなければならないと言います。

 物価上昇を抑制する方法として、

 @原材料価格の物価上昇を抑える、一部業種の過剰投資を抑制し、中央銀行や銀行監督管理委員会の銀行融資に対する各種措置を実行する

 A市場の需給バランスを整える、農業と穀物生産を強化する

 B@やAに対する監督を強化する

 インフレ懸念が出てきました。

 

(2)浙江省杭州市下城区の社区の党建設

 ⇒下城区では、「楼」、すなわちビルごとに党支部を設置しました。その名も「××楼道党支部」。区下には、481の「楼道党支部」が設置されています。

 これは、社区において党支部設置が進められている一例の紹介です

 下城区の社区の党員は、これまで企業などを離退職したお年寄りがほとんどでした。しかし、現在は私営企業家、レイオフされた人、外地からの流入者が増えてきています。

 下城区全体で17529名の党員のうち、社区党員が12213名を占め、3年前に比べると7000名増えています。1社区に平均180名の党員がいることになる。そのため、党員管理が難しくなり、「楼道党支部」を設置することになったわけです。

 民衆の所属が「単位」中心から「社区」中心に移行する現状に合わせた措置といえます。

 

20040422

 

(1)金正日朝鮮労働党総書記来訪

⇒中国側の公式発表がありました。当事国以外のメディアはすでにいろいろ報道していますが、中国の発表は次のようなものでした。

 胡錦濤は、まず中朝関係について江沢民と金正日との間で合意された「16字方針」(伝統を継承し、未来に向かい、善隣友好、協力を強化する)を確認しました。そして「新しい時期の中朝関係の発展を促進」し、国交55周年にあたり「新たな状況の下で中朝協力を新たな水準に高める」と述べました。また、北朝鮮の最近の成果を評価しました。核問題では、朝鮮半島の平和と安定、非核化、対話による平和解決というこれまでの中国の立場を再確認しました。金正日は、非核化が最終目標であることを堅持し、6ヵ国協議への積極参加を表明しました。

 温家宝は、経済貿易協力について意見交換し、中国企業が北朝鮮側と各種形式の相互協力を進めることを奨励することを表明しました。

 そのほか、中国から北朝鮮に対し、無償援助が提供されました。

 こうした公式発表に、日本や韓国での報道を当てはめて、金正日訪中の全体像を作っていくのですが、中国の公式発表の内容は、前回の金正日訪中時の発表もそうでしたが、他の外国要人の来訪記事に比べ、具体的で詳しい気がします。例えば無償援助のことも、中国は北朝鮮以外の国にもしていると思いますが、露骨に「無償援助」と出たのを見たことはありません。なんとなく、これ見よがしというか、嫌みというか、わざと北朝鮮だけにつらくあたっている、見下しているような印象を受けます。中国は北朝鮮が嫌いなのでしょうか。

 訪問の意義は、(1)胡錦濤と金正日の信頼関係の構築、(2)核問題、次回6ヵ国協議向けての意見交換、(3)経済援助の要請、といったところでしょうか。(1)については「新しい」を強調しており、中国が北朝鮮との関係を変えようとしていることが改めて浮き彫りになりました。(2)次回協議開催に向けて合意されたことはよかったことです。中国はこの枠組みをベースに、朝鮮半島の安定を確保したいわけですから。(3)無償援助はやむなし。これで北朝鮮が国際社会とのチャンネルを維持してくれるのならば、そして金正日政権が安定してくれるのならば。

 

(2)第1四半期の経済統計に関する国家統計局の見解

⇒基本的に20040420(1)と同じ内容です。

 それにしても、固定資産投資のアンバランスがすごいです。製造業の投資が75.8%増です。鉄鋼が107.2%増、セメントが101.4%。建設ラッシュが続いていることがわかります。それでも経済過熱議論は意味がないとも言っています。

 

20040430

 

(1)過剰投資に対する引き締め策を相次いで発表

⇒とうとう中央が過剰投資に対する引き締めに乗り出しました。

 4月26日の中央政治局の会議で、現在の問題が、固定資産投資が大きすぎること、一部の産業の投資の伸びが速すぎること、融資の増加幅が大きすぎる、石炭、電力、石炭、輸送供給不足、と総括されました。この会議で、本格的な引き締め実施が確認されたのです。

 これに先立ち、25日から貨幣貸し付け総量の増加を抑えるため、預金準備率を0.5ポイント上げ、7.5%にしましたので、具体的な金融政策と中央政治局レベルの権威によって、引き締めを実施しようというのが当面の打開策と言えます。

 27日には、国務院が、鉄鋼、電解アルミニウム、セメント、不動産の固定資産投資項目の自己資本比率を適度に引き上げる通達を出しました。現在の固定資産投資が銀行融資に過度に依存しているためです。

 28日の国務院常務会議で江蘇鉄本鋼鉄有限公司の違法建設項目に関する引責人事と土地市場の管理整頓の研究が行われました。前者は20040416で紹介しましたが、政府や銀行関係者8名が処分されました。この違法事件に対し「国のマクロ統制の統一性と権威性、有効性を維持する」よう求めており、この事件が単なる引責人事は見せしめ的な要素があることを示しています。

 29日には、国務院辧公庁が、@全国で土地市場の管理整頓を行い、土地管理を厳格にすることに関する決定を緊急通知と、A各地・部門・関係単位に建設中、建設予定の固定資産投資項目の整理進行を要求する通知を発しました。