第34回 2004年3月の『人民日報』(2004年4月3日)

 

 2004年3月は、全国人民代表大会が開かれ、また台湾総統選挙も実施されるなど動きのあった月でした。前者については、年度末の仕事と重なり片手間にしか見ていませんでした。片手間程度でいいぐらいあまり内容のない大会だったのかもしれませんが、憲法改正があり、これからもう少しじっくり分析したいと思います。

 私が注目したのは、1つは台湾総統選挙です。選挙前に軍事行動など選挙そのものへの直接的な行動をとらなかった中国が選挙後どのような行動をとるか注目しています。また、西部大開発や東北振興など「区域経済」発展政策にも注目しました。中央は1つの地域に偏らないバランスをとった発展政策を選んでいるようです。経済的にも、政治的にも。

 

20040318

 

(1)「小康社会を全面的に打ち建てる壮大な目標を実現するカギ」と題する論文を掲載

16回党大会で提起された小康社会、つまりまずまずの生活ができるレベルの社会を全面的に打ち建てるという目標に関するものです。内容はふつうのものですが、関係部門のすく測定した小康社会の基本的な水準目標を提示しています。

 @1人あたりGDPが3000米j以上

A都市住民1人あたりの平均可処分所得が2020年までに18000米j

B農村住民1人あたりの平均純収入が800米j

Cエンゲル係数が40%以下

D都市住民の1人あたり住居面積が30平方b

E都市化率が50

F世帯あたりのコンピューター普及率が20%以上

G大学進学率が20

H1000人あたりの医者の数が2.8

I都市住民の最低生活保障率が95%以上

 

(2)江蘇省南京市人民代表大会が拍手による採決から挙手、投票による方式に変更

これまで「意見がなければ拍手を」という採決がまかり通っていた南京市人民代表大会で採決方法を変更する決定をしました。

 拍手採決では「異なる意見が熱烈な拍手に埋没してしまい、異なる意見を持つ人民代表大会代表の民主的意見が剥奪されている」という意見が反映されましたようです。

 全人代ではずいぶん前からですが、広東省や山西省、遼寧省などでも電子投票器が使われています。この記事は電子投票器の採用を「民主化された採決」と評しています。そして、採決方式は新しい時代の民主の特性を備えなければならず、「拍手」の廃止は社会主義民主政治の進歩を体現すると評しています。

 正直言って、なんとレベルの低い話を大げさに、さも価値のあるかのように報じているのだろうと失笑してしまいました。これもどのような立場で見るかによって、評価も人それぞれです。この記事によれば中国には未だに大部分のところで「拍手採決」が行われているのですから、これも政治改革の一歩だと高い評価をすることもできるでしょう。しかし、そうした評価はこの10数年変わらず今も連発されています。これはつまり、いつまでたってもハイハイができた赤ちゃんに対し「上手、上手」といってあやしているのと同じではないかと思うのです。立ち上がること、よちよち歩きすらできない中国の政治改革なのです。私は中国の政治改革の評価基準はやはり政権交代を前提とするかどうかにあると思います。政権交代を議論しない政治改革への評価はやっぱりダメと言わざるを得えません。それを第一歩だとか評価するのはどこか偽善のような気がします。民主化に向かった政治改革として私にとって納得できるような改革はまだまだはるか先のことにように思います。

 

20040319

 

(1)中央政治局常務委員会会議で憲法に関する研究

先頃閉幕した全人代で憲法が改正されました。それにちなんだ会議です。

 

(2)国有独資商業銀行の株式制改造実験における任務が確定したことが判明

国有独資商業銀行株式制改革試点工作領導小組がこの実験を進めています。上記のことは、小組辧公室責任者の発言で判明しました。彼によれば、改革の重点工作10項目が作成されたようです。

 改革は、中国銀行と中国建設銀行で進められています。国有資産管理のモデルケースとして注目されています。

 

20040320

 

 台湾総統選挙、陳水扁が逃げ切り勝ち

なぜ3万票の差がついたのか? ほとんど差がないわけで、紙一重、互角、何とでも言えるでしょう。この差を説明するのは、にわか解説ではなかなか難しいです。6日の世論調査で連戦リードから陳水扁リードに数字が変わったところが、やはりキーポイントになったのかもしれませんが、差が3万票だから昨日の発砲事件が陳水扁政権の下での結束の必要性を強め、陳水扁に票が流れたのかもしれません。

中国はどう対応するでしょうか。前回の選挙では台湾独立志向の陳水扁が当選したため、対話の相手にならないという判断から、次回2004年の選挙で非陳水扁の候補者が当選するまで政治交渉をストップし、非陳水扁陣営とのパイプを維持する、経済交流を進め、台湾企業の投資を支持し、三通を拡大するという政経分離の方針をこの5年間進めてきました。今回の結果により、この方針が今後5年間継続されるというのが私の現在の見方です。陳水扁相手の政治交渉の再開はないでしょう。そして非陳水扁陣営との交流を密にして行くでしょう。経済交流を進め、台湾企業の投資を保護し、また台湾企業家とのパイプも強めていくでしょう。そして5年後の次期選挙で台湾独立派の当選を阻止するという戦術です。

 現在の胡錦濤ですが、彼自身が必要以上に台湾との関係強化を重視していないと思われます。私がそう考える理由は、1つは現在胡錦濤にとっての最優先課題は国内問題の解決で、農民の所得増加や失業者の再就職問題の方がはるかに重要です。中台統一は二の次です。もう1つの理由は、胡錦濤にとって中台統一は自らの権威確立にとってのカードになっていないということです。前任の江沢民は権威確立のために、ケ小平がやり残した課題である中台統一をカードにしました。それが過去2回の台湾総統選挙での積極的な関与につながっています。それに対し今回の選挙で中国が抑制的な態度をとったのは、過去の教訓もありますし、また胡錦濤の相対的な無関心もあると思います。

 中台間の関係に大きな変化はないと思いますが、この選挙結果が中国の国内政治には影響を与えるかもしれません。私が懸念することは、抑制した態度をとったことで陳水扁を当選させてしまったということで、党内に胡錦濤に対する批判が起こるかもしれません。その際、江沢民と軍の態度が重要です。江沢民は台湾関与を積極的に進めてきましたし、軍は過去2回の選挙前に台湾沖で軍事的な圧力をかけたわけで、中台問題が軍の存在理由の1つになっているからです。江沢民や軍が胡錦濤批判の最先鋒になる可能性はあるかもしれません。そのとき、胡錦濤体制は不安定な状況に陥るかもしれません。今しばらく中国側に見解を待ちましょう。

 

20040323

 

(1)国務院が「西部大開発をさらに推進するための若干の意見」を発表

「西部地区の小康がなければ、全国の小康はない」として、次の10のポイントを提起しています。

 @生態建設と環境保護を推進する、Aインフラ重点プロジェクト建設を速める、B農業と農村のインフラ建設を強化する、C産業構造を調整する、D重点地帯の開発を加速させる、E教育、科学技術、衛生など社会事業を強化する、F経済体制改革を深化させる、G資金チャンネルを拡大する、H人材育成の強化、I法制建設のスピードを加速させる。

 昨日22日の『人民日報』に、19日から20日に開かれた西部開発工作会議の記事が掲載されました。そこで重要講話を行った温家宝総理は「国の西部大開発に対する支持は弱まることはない、西部地区の経済社会発展の速度はゆるむことはない」と言及しました。東北振興も注目されていますが、全人代でも西部、中部、東北の均衡発展が言われましたし、温家宝もあえて西部大開発を持ち上げています。東北振興が注目されることへの西部や中部の反発も強いのでしょうし、また注目されているほど中国当局の中では東北振興の重要度は高くないのかもしれません。少なくとも中央は東北よりも西部重視のようです。

 

(2)国家発展改革委員会責任者への過剰投資に関するインタビュー掲載

2004年1月と2月の2ヶ月間でも、@地方投資は64.9%増、A製造業30業のうち16産業で投資が2倍増、うち鉄鋼業が172.6%増、建設資材業が137.4%増

 対策:@中央の政策や手配を遵守する、A信用貸款の審査、監督管理を強化する、B用地管理を強化する、C産業の盲目投資、低水準の重複建設の勢いを止める、D政府の投資(党や政府の機関や国有企業の事務棟や訓練センターなどの建設)管理を強化する

 昨年来、過剰投資が問題で、中央が警告を発しているにもかかわらず、今年に入っても過剰投資は続いているようです。対策も出されていますが。これをどうやって実行するのか、結局これが実行されないので今の事態に至っています。中央の統制能力はこの程度かということです。

 

(3)新華社、台湾住民投票の結果に対する記者の論評を発表

たぶん3月20日以降最初の論評です。総統選挙の結果には触れず、住民投票の結果に対するものです。

 「(住民投票でノーを突きつけられたとき)陳水扁のペテンは拙劣な原形をあらわにした」と総括しています。

 320住民投票に対する位置づけは、陳水扁の『台湾独立スケジュール』の重要な一環であり、その目的は最終的な『台湾独立住民投票』に道を開くための条件作りである」としており、それ故に中国は当初から非難してきたわけです。

 「住民投票を利用して、台湾をある一部の人がでっち上げようとした『台湾独立ロードマップ』は最終的に必ずや失敗に終わるだろう」と締めくくっています。

 

20040324

 

(1)国務院東北地区など老工業基地振興指導小組第1回全体会議開催

とうとう東北振興が動き出しました。

 私はきちんと追っていなかったのですか、この小組は昨年2003年12月2日付の国務院発の文件で設立が確認されています。小組の組長は温家宝、副組長は曾培炎です。この小組は閣僚級の偉い人ばかりから成る組織です。実際の事務を取り仕切るのは、小組辧公室です。これについてはまだ設立していないようです。

 この小組の今年の重点工作は以下の4点です。@体制、システムを新しくする=所有制改革、A産業構造を高度化する、=支柱産業、農業、第3次産業、B対内、対外開放を拡大する、C就業、社会保障工作を立派に行う=吉林、黒龍江への社会保障システム完備の試点工作の拡大

 昨日23日の項で、西部大開発のことを挙げました。今日東北振興が出てくるとなると、西部の会議をやって、東北の会議をやるというバランスをとった対応といえるでしょう。やっぱり始動が速い分西部の方が具体的です。東北振興も辧公室が固まらないのと動き出せません。

 

(2)日中通商代表団の篠原氏へのインタビュー記事掲載

この代表団は、最近日本経団連が派遣した企業のトップらから成る視察団で、北京と上海を視察したそうです。

 インタビューの関心は、11年連続で中国の貿易パートナーのトップにある日本と今後どのように協力を拡大するか、また「政冷経熱」(政治は冷めているが、経済は熱い)日中関係の現状で「政冷」は「経熱」に影響を与えるか、といったことにあったようです。

 ここで問題にしたいのは、メディアが日中関係を「政冷経熱」と表現しているのをどう見るかということに対する篠原氏の回答です。「みんなが周知しているように『政冷』の主な原因は靖国神社参拝問題である」とおっしゃっています。

 中国の新聞ですから、篠原氏の回答すべてを掲載しているわけではないでしょう。上記の回答の前後には篠原氏ももっといろんなことを発言されていると思います。実際、この回答の後には、「政治家にはいろんな考え方の人がいる」と発言されています。

 しかし、「政冷」の主な原因は靖国参拝問題なのか、みんなそう思っているのか。中国がそう思っているだけでしょう。日本人はみんながそう思っているわけではありません。中国側に問題があるから「政冷」だという人もいるわけです。

 都合のいいところだけ掲載するのは中国当局の常套手段です。日本の経済界の代表がそのように言っているように掲載することで、政治家と経済界を分断させるというやり方も中国当局の常套手段です。しかし、このやり方は別の見方をすれば、悪いのは小泉首相だけで、ほかの日本人たちとはうまくやっていきたいというようにもとれるわけです。これも中国当局の常套手段です。

 こうしたやり方の何が問題かというと、これによって中国の人々に誤解を与えることです。日本に関する報道には本当に注意を払わなければなりません。

 

20040325

 

(1)中央規律検査委員会と中央組織部が、各地方、各部門が期限を設けて党政指導幹部が企業で兼職していることを整理するよう要求する通知を発したことが判明

これを実施することはなかなか難しい。当局側の意向もあるが、企業にも歓迎しているからです。まだまだ企業活動を公平に行うための、法制度整備も不十分ですし、また整備されたものを遵守しようという意識改革も進んでいません。となると当局とのコネがものをいうので、企業にとっては党や政府の幹部が兼職してくれると都合がいいわけです。

 

(2)北朝鮮訪問中の李肇星外交部長が、金正日と会見

表敬的な金正日との会見よりも、むしろ姜錫柱外交部第一副部長との会見が重要で、両国の友好協力に関する意見交換。核問題でも協議しました。

 

20040331

 

(1)新華社記者が論評「台湾観察:信任危機」を発表

新華社の台湾専門記者の範麗青と李凱の台北からの論評です。

 台湾総統選挙後の台湾社会で不信任間が広がっているとしていますが、その指摘で興味深いのは次のところです。

 「信任危機は、陳水扁当局に対してだけでなく、異なる政治人物、およびその支持者の間の相互警戒、相互用心である。島内の民衆は政治によって『両極化』してしまった」

 つまり、単に陳水扁側を非難するだけでなく、党内が陳水扁と連戦とで真っ二つに割れているという見方です。もちろん、全体のトーンは陳水扁側批判なのですが、こうした台湾社会に対する認識を示しているのは、可能な限り記者が台湾社会を冷静に見ており、それをきちんと伝えているという点で興味深いと思います。

 

(2)中央政治局が第11回集中学習を実施。テーマは農業問題

講師は農業大学の程序教授と農業部農村経済研究中心の柯炳生教授。テーマは「現在の世界の農業発展状況とわが国の農業発展」です。

 この記事以外にも、@国務院緊急通知、放置された荒れた耕地をできる限り早く回復して生産に向かわせることを要求、A国務院、農民の積極性を結集し、あらゆる方法を講じて穀物生産を増加することについての有力な措置をとることを決定、B中央財政が農機具購入のために4000万元を補填すること、といった農業関連の記事が掲載されています。

 胡錦濤体制が農業問題を重視していることの現れです。