第31回 2004年1月の『人民日報』(2004年2月20日)

 

 1月は、新しい年の始まりで、新鮮な気持ちを持つ一方で、年度末に突入するわけで、職業柄原稿を書かなければならないというプレッシャーがかかるわけです。そのため、1月は掲示板への記述も滞りがちでした。

 中国も22日が春節で、活発な動きもあまりありませんでした。

 

20040101

(1)国務院常務会議で投資体制改革案が審議され、採択されました

投資主体の多元化への対応として、改革案が採択されたのでしょう。経済成長の大半を投資に頼らなければ中国にとっては体制な改革です。

 

20040104

(1)国務院、18の安全生産督査組を組織、各地に派遣し、安全生産工作の督査を行なうことを決定

炭鉱やガス田などでの最近の度重なる事故に対応するため、国務院が検査グループを組織して、各地に派遣し、検査しようというものです。けっこう権限を持っていて、派遣された側もびびる存在です。国務院も今回ばかりは本腰を入れて対応しようということでしょう。これによって生産上の環境が整備されることが期待されます。

 

20040106

(1)財政部と国家発展・改革委員会が、国及び中央部門による農業関連費用徴収15項目を削減・免除することを発表

削減は農民の負担重視にとってプラスに働くでしょう。しかし、農民にとって本当の負担になっているのは、国や中央部門ではなく当地の政府が規定した非合法な費用項目です。国務院は同時に、省レベルの財政部門と価格部門に当地が規定している農業関連費用項目を削減、免除するよう求めました。しかし、当地政府にとって財政不足を補うために非合法な項目は必要なわけですから、なかなか削減できないのが現状です。

 

(2)国務院、中国銀行と建設銀行の株式制改革の実施を決定

とうとう国有独資商業銀行の4つのうちの2つに対する改革実施です。金融体制改革の目玉の1つですから、今後の改革を注目したいです。

 

20040107

(1)全国貫徹実施行政許可法工作会議が開かれ、温家宝が重要講話

この会議のために社説を発表しています。それによれば、「1つの法律を実施するためにこのようなハイレベルの会議を開くことは歴史上まれである」とその意義を強調しています。そして、行政許可法の執行は、法に基づく行政を目指すものとしています

 温家宝の重要講話で行政許可法の施行が契機となり、以下の改革が進むと述べました。@政府職能の全面履行

A政企分離を実行する

B科学的民主的政策決定を堅持する

C政府管理方式の新しいものを作りだす:「創新」

行政許可、すなわち行政の権限を規定した法律が施行されます。行政改革も1つの大きな壁を越えた感じです。

行政改革はそれだけでは政治改革にはなりません。ここでいう政治改革とは、政権交代を伴った制度への転換が伴う改革ですが、現在の中国では考えられません。しかし、だからといって行政改革を軽視することはできないでしょう。

もちろん市場経済化への貢献という側面はあります。しかし、私の関心は、行政改革という限定された改革が、政治改革にどうつながっていくかということです。関係あるということは誰でも言えますし、たぶんそうだろうと思います。しかし、それがどう関わっているかということを実証することはなかなか難しく、これまでごく一部の人しかしてきていません。この点が1つの政治研究の課題だろうと思います。

 

20040108

(1)胡錦濤、ブレジンスキーと会見

ブレジンスキーは米民主党カーター大統領の補佐官でした。胡錦濤との会見記事よりも、『人民日報』とのインタビュー記事がおもしろく、米国の外交政策について語っています。

 そこからわかることは、なぜ彼を招へいしたのか。1つの見方は、大統領選挙本番突入で、民主党候補が対外政策、また対中政策をどう考えているかをするために、たぶんまだ民主党内で影響力のあるブレジンスキーを呼んだのではないかということです。

 

(2)軍総政治部、「三つの代表」重要思想を学習実践し、中国の特色ある軍事変革に積極的に身を投じる教育運動を広く展開することを求める意見を通達

またまた江沢民ネタです。江沢民の軍隊建設思想や軍事変革をしっかり学習するよう求める意見で、いつものことですが、軍における江沢民はまだまだ健在と思わせます。

 

20040109

(1)東北老工業基地振興に関する記者会見

東北三省の省長が出席して、振興の必要性を訴えました

 

20040110

(1)温家宝、全国軍を擁護し愛し、政治を擁護し人民を愛す工作会議(8〜9日)で重要講話

毎年旧正月が近づいてくると、党は、人民は、軍隊のことを思っていますよ、擁護しますよというメッセージを送るために、「2つの擁護」工作を宣伝します。旧正月は中国人にとってとても重要な行事なので、この時期には豊かな気持ちになって旧正月を迎えてほしいと党は毎年貧しい農民にお小遣いや衣類、布団などを送ります。送られた方も、どうもありがとう、私のことを気にかけてくれていると党に好感を持つのです。旧正月が近づくとみんな優しくなるのですね。毎年見ていると、「またか」という感じですが。

 ですから、北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議についても、1月中に開かれるということはあり得ないわけです。外交部の関係者も、北の核よりも、旧正月にどう過ごすか、帰省の切符を手に入れることの方が大切なのですから。『人民日報」を見ていても、「心ここにあらず」といった雰囲気が感じられます。気のせいでしょうか?

 さて、余談はここまでで、この会議で温家宝が講話をしましたが、江沢民の軍隊建設思想については触れられていません。また、江沢民が進める軍事変革については1度触れただけです。会議の性格から当然かもしれませんが、江沢民色の弱い演説でした。

 

20040112

(1)江沢民が「硬六連」に気を配っている話

『人民日報』のトップに掲載されたので目につきました

 「硬六連」とは「戦争準備の思想がしっかりし、戦闘のやり方がしっかりし、軍事技術がしっかりし、軍事政治規律がしっかりした第六連隊」のことです。第六連隊は1939年3月に設立し、100回以上の戦闘に参加し、1964年に中央軍事委員会から「硬骨頭六連」(硬骨漢な第六連隊)と命名され、栄誉称号を授与されました。

 この記事は、1月22日が命名40周年を記念して掲載されたものですが、それだけなら何でもない記事ですが、やはり江沢民が全面に押し出されているということで注目できます。

 この記事からわかったことは、江沢民は昨年2003年10月20日に浙江省の第六連隊を視察していることです。人民日報には掲載されませんが、江沢民は中央軍事委主席として軍隊視察を行っているということです。

 江沢民の軍における影響力は大きいようです。

 

20040114

(1)中国共産党中央規律委員会第3回全体会議開催

規律を守ろう、腐敗に反対しようという心構えを確認する会議です。規律を重んじ、清廉潔白を重んじる共産党にとって重要会議の1つです。

 この会議、昨年は旧正月後の2月中旬に開かれていますから、今年は1ヶ月以上も早く、また旧正月前の開催です。その違いにあまり意味は見いだせませんが。

 昨年と異なるのは、昨年は規律検査工作を「三つの代表」重要思想と関連づけていましたが、今年は「立党は公ために、執政は人民のために」という現在の胡錦濤体制の原則に関連づけています。その時々の路線、原則を反映しているわけです。

 会議としては、あまり意味がないですね。年初の年中行事です。

 

(2)2003年の全国規模以上の私営工業企業の就業者数は16.1%増、税収は全体の36.2

私営企業の経済全体への貢献が示されています。

 特に、税収への貢献は3分の1に達しています。これでは共産党も私営企業を無視、軽視できないです。

 

20040122

(1)胡錦濤、河北省を視察

春節恒例の中央指導者による貧困地区の視察です。

 今年は胡錦濤が河北省の貧困家庭を訪れました。昨夜の中央テレビのニュースはこれを長く報じました。胡錦濤がナマ声で「党、政府はみなさんのことを思っている」と話していました。村民たちが頷きながら彼の話に聞き入っていました。胡錦濤が貧困家庭で餃子を作っている場面も長く流れました。餃子を作りながら、胡錦濤が「党や政府はみなさんのことを思っており、・・・」なんて話をしているのは、ちょっと場違いで、滑稽でした。

 こうした春節の指導者の貧困地区の視察は毎年の恒例で、胡錦濤は2021日の春節前でしたが、たぶん他の指導者の誰かは春節を挟んでどこか地方の貧困農村を訪れていると思います。まさに、人民重視を体言しているわけです。

 今日、日本滞在中のある中国人政治学者に会って、3時間ぐらい話をしたのですが、そのとき私は彼に「胡錦濤の人民重視は、パフォーマンスか、それともマジか」と質問したところ、パフォーマンスではない、という答えが戻ってきました。

 毛沢東時代は、官と民が低レベルの平等だったが、トウ小平時代は先富論によって経済発展し、中間層などが台頭してきたが、官と民、東部と西部の経済格差が拡大した。江沢民時代もその状況は同じだった。結果、経済格差が社会の最大の不満となった。そして登場した胡錦濤は、経済格差の問題は否応なく避けることができない。だから、胡錦濤体制はこの問題に真剣に取り組んでいる。人民重視はまさにそれが体現された結果であると、彼は話してくれた。

 この意味は私の解釈ではさらに2つの意味があるだろう。1つは文字通り最大の課題に取り組むこと、もう1つの意味は胡錦濤体制を確固としたものにするには政治的に前政権を否定することしかないということだ。どちらにしても、胡錦濤はマジで人民重視を実施しているという見方で、胡錦濤執政を見ていくことも必要かなあと思う春節です。

 

20040131

(1)全国鳥インフルエンザ予防・治療総指揮部設立。総指揮に回良玉副総理

鳥インフルエンザの対策本部ができました。昨年のSARSへの対応の遅れを教訓に、早め早めの対処が望まれます。今回は早い段階で中央マターとして対応されているのですが、地方はその深刻さを自覚して、対応できるかどうかが今回もカギになります。

 

(2)温家宝、アーミテージ米国務副長官と会見

アジア歴訪中のアーミテージが中国を訪問しています。中国は温家宝との会見をセットし、重視しています。

 温家宝との会談では、米中関係と台湾問題が議論されたと伝えられています。もちろん朝鮮半島問題も議論されているでしょうが、中国の最大の関心事は台湾問題、とりわけ陳水扁台湾総統が提起している住民投票に対する米国の対応です。

 中国側の見解として、米国の対応を、@1つの中国政策を堅持する、A米中間の3つのコミュニケを遵守する、B台湾独立を支持しない、Cいかなる一方的な台湾の現状を変える言動、行動にも反対する、と整理しています。中国はこれ、特にBCをもって、米国が住民投票を支持していないと判断しています。

 1995年の李登輝訪米に反対するために、台湾海峡でミサイル発射実験を行ったり、福建沿岸で上陸演習を行うなど軍事的圧力をかけたものの、アメリカが第七艦隊に台湾海峡を通過させるという中国への圧力をかけたことで、中国が対台湾軍事圧力をストップせざるを得なかったことで、中国は今回の台湾に対する圧力をアメリカの支持の下で進めたいと必死なわけです。

 しかし、中国が示す上記4点は、必ずしもアメリカが住民投票に反対の立場を表しているわけではない、極めてあいまいな見解だ、と私は思います。ブッシュ政権も台湾に対し明確な反対を表明することはできません。

 温家宝、戴秉国外交部副部長以外に、曹剛川国防部長と陳雲林国務院台湾辧公室主任がアーミテージと会談したしたことはまさに焦点が台湾問題にあることを示しています。