第29回 2003年11月の『人民日報』(2003年12月4日)

 

 新聞自体は目を通しているのですが、コンスタントに更新ができませんでした。浅い読みでの短い記述とはいえ、本業の関係で、なかなかあらためて文章にする時間がとれないのが現状です。それでも最近は、定期的に掲示板に目を通していただいている方がいることがわかり、ちょっとでも更新したいと思うわけです。

 もうじき共著本に行政体制改革に関する拙稿が掲載されますので、このサイトでご案内したいと思います。

 2003年11月の『人民日報』では、3中全会、中央経済工作会議といった経済関連の需要会議が続いたため、経済関連の記事に目がいきました。

 その他では、台湾問題、東北振興に関する記事にも注目しました。

 

20031105

(1)江沢民・胡錦濤など軍指導者が第15回全軍院校会議代表と会見

⇒江沢民は、軍事変革に伴う院校体制改革を進めること、軍事変革に沿った教育を進め、人材を育てることを指示しました。

 胡錦濤の発言は掲載していません。

 久しぶりの江沢民のお出ましです。私の見方は、やはり軍のトップは江沢民で、胡錦濤はまだ出る幕なしといった感じです。現在江沢民主導で進められている軍事変革については人員削減を伴うため、その第1対象となると見られる陸軍などの反対が強く、江沢民の地位も危ういという見方をする識者もいます。私は軍事問題の専門家ではないので専門的な分析はできませんが、政治的には軍における江沢民の影響力は胡錦濤に比べるとまだまだ大きいと見ています。

 

(2)3中全会での「決定」に関するシンポジウムの議論を紹介

⇒「決定」が新たに提起した理論を5つにまとめています。

@    人民を基本とすることを堅持し、全面的、協調的、持続可能な新たな発展観

A    「5つの統一計画、5つの堅持」を統一する新たな理論

B    混合所有制経済を大いに力を入れて発展させ、株式制を公有制の主要な実現形式とする観点

C    非公有制経済の市場参入を拡大し、他の企業と同等の待遇を受ける観点と政策

D    都市と農村の二元経済構造体制を徐々に改善していく観点と構想

 この日の『人民日報』にはたぶん有名なエコノミストだったと思いますが、範恒山氏の関連論文も掲載されています。内容は、非公有制経済の発展を妨げる要因の分析です。これも興味深い。

 

20031106

(1)人民日報・新華社など主要メディアが「職業精神を発揚し、職業道徳を謹んで守り、隊列イメージを維持する」と題する自律公約を発表

⇒主要メディアが報道活動における方針、姿勢を表したものです。内容はこれといって具体的なことがあるわけではない決意表明のようなものです。

 5ヵ条の公約からなるのですが、注目は第1条の「新聞工作の党性原則を堅持し、世論の動向を正確に把握する」です。

 この重点のポイントは前半部分にあります。具体的な記述として「4つの基本原則と中国の特色ある社会主義基本政治制度と経済制度を堅持し」が冒頭に示されています。この表現が冒頭に来ることは、胡錦濤体制が進める現在の政治文明建設推進とは相容れないように感じられます。

 やはり胡錦濤体制が進めるマスコミ改革には、主要メディアは消極的であるといわれており、反発も見られます。第1条のような文言が出てくることは、1つの胡錦濤体制への反発と見るのは読み過ぎでしょうか。

 

(2)国務院常務会議で、今年の経済状況を分析し、来年の経済工作を研究

⇒時期的に見て、この議題はまもなく開かれる中央経済工作会議と無関係ではありません。

 中央経済工作会議は毎年年末に開かれ、来年の経済工作が議論され、確定します。今回の国務院常務会議で、議論されたことは、中央経済工作会議での決定事項に反映されるでしょう。

 国務院常務会議で共通認識を得たことは9点あるようですが、第1が農民収入をいかに増やすか、そして再就職問題をどう解決するかということです。これが現政権の再重要課題という認識で、中央経済工作会議でも最大の議題となるでしょう。

 

20031112

(1)胡錦濤がキッシンジャー元米国務長官と会見

⇒キッシンジャーといえば、1972年の米中接近の立て役者です。彼が中国に来れば必ずと言っていいほど最高指導者が会見します。彼の功績に対し敬意を払うと同時に、アメリカ国内で今も親中派として影響力を持っていると考えているからです。

 さて、今回の対応といい、ここ1週間くらい米中関係の良好さを強調する記事が多いです。なぜかなあと思っていたのですが、最近陳水偏台湾総統が米国に立ち寄りました。これに対し、中国は台湾を非難しています。しかし、不思議なことに米国を非難することはないように見受けられます。これは、台湾問題を米中間の争点にしたくないという胡錦濤政権のスタンスを表しているのかもしれない。だから、あんまり変なこととしないでくれよ、米国さん。っていう感じでしょうか。キッシンジャーとの会見も、米中関係が良好であることを示すと同時に、ブッシュに対しあんまり変なことしないでくれ、というメッセージを託したかもしれません。

 

20031113

(1)国務院常務会議で来年初の経済センサスを実施することについて研究

⇒国家統計局が実施

 GDPの計算とデータ発表制度の改革の必要から実施されます。

 昨年のGDP成長率は、全国で8%でしたが、省レベル成長率では軒並み9%やら10%を超えるなど地方のデータの集合体が全国のデータというわけにはいきません。これが、中国の経済統計に対する不信感を招く原因の1つです。経済センサスの実施が何らかの改善につながればいいのですが・・・

 

20031114

(1)国家発展・改革委員会中小企業司と広東発展銀行が中心となって、北京、上海、広州、深セン、大連など10都市で中小企業融資実験工作をスタート

⇒中国の課題である中小企業向け融資の拡大のための実験です。これがうまくいけば中小企業振興が進み、新たな成長点をなるのでしょうが、うまくいくでしょうか。注目したいです。

 

(2)「腐敗の道は死亡の道」

⇒何とも、恐ろしいタイトルです。河北省党委員会辧公室主任で省国税局局長だった李真が汚職の罪で13日死刑判決を受けました。

 このタイトルが物語るとおり、当局は死刑を見せしめとして汚職を減らそうという方針なのです。そのため、高官の汚職は大体死刑判決です。

 当局の意図したとおり、汚職が減ればいいのですが、なかなか減りません。でもって死刑判決を連発しているわけですから、中国では司法は政治の道具になっている側面がある点は否定できませんし、なかなか司法改革も核心のところが進みません。

 

20031118

(1)国務院台湾事務辧公室が、陳水扁当局が住民投票を通じて台湾独立を進めようとしていることを非難する談話を発表

⇒最近、米国も絡んだ台湾問題が扱われることが多くなっています。陳水扁が米国に立ち寄ったこともあるし、それ以上に台湾の総統選挙まであと5ヶ月になりましたので、そろそろ「口撃」が始まったのでしょうか。

 

(2)李長春、井崗山精神大型展覧会を視察し、「江沢民」と言及

⇒あまりに取り上げる記事がないので、重箱の隅をつついたようなコメントを。

 「江沢民」に言及する一方で「胡錦濤を総書記とする党中央」という文言にも言及し、バランスをとっています。

 これをもって、李長春がやっぱり江沢民派、などと言うつもりはないのですが・・・。

 

20031126

(1)曾慶紅がブラジル国防相と会見

⇒またまた曾慶紅が外国の国防相と会見しました。国家副主席としての仕事なのか、江沢民の代役なのか。曾慶紅が中央軍事委員会主席の座をねらっていると言われてもしようがないですね。

 

(2)中央政治局が第9回集団学習を開催、テーマは15世紀以来の世界の主要国家の発展の歴史

⇒おもしろいテーマが設定されています。これまで現実的なテーマがほとんどだったので、何となく知的な香りがします。歴史上主要国家の発展に学ぼうという趣旨ですが、自分たちも歴史上の主要国家になるという心意気です。15世紀というのがミソかもしれません。

 

20031127

(1)国家統計局が2003年のGDP成長率見通しを8.5%と発表

SARSの影響はほとんどなし

 

(2)東北振興に関する連載、特集を掲載

⇒『人民日報』は昨日(20031126)から東北振興に関する連載を始めました。また今日は第14面で特集が関連シンポジウムでの専門家の講演を発表。東北振興が俄然注目されてきました。このタイミングですが、国務院に東北振興弁公室が開設されたのに合わせてのもののようです。

西部大開発、沿海発展、そしてこの東北振興を政府は重視する旨これまでも発表されています。しかし、西部も、東部も東北も重視となると、全部重視するということだし、それは裏返せばどこも重視しないということでしょうか。

 

20031128

(1)677の新聞・雑誌の発行停止を発表

⇒地方などの党・政府機関が、それぞれ新聞や雑誌を発行しており、それを基層、つまり農村の党や政府機関が強制的に、義務として購読しなければならないため、その購読費用が地方財政を圧迫し、結果的に農民の負担を大きくしています。基層に行けば行くほど、その義務は大きく、場所によっては100種類を超えるところもあります。しかし、そうした新聞や雑誌は、あまり内容がなく、ただ購読するだけで、読む人もいないのでムダなわけです。

 今年7月15日にそうした新聞や雑誌を整理する通達が党中央と中央政府から出て、これまで整理が行われてきました。今年末で677の新聞や雑誌が発行停止されることになりました。

 党や政府はこうした政策を、農民の負担軽減という人民の立場に立った政策という胡錦濤政権の方針に沿ったものと位置づけています。

 

20031129

(1)全国2046の開発区の整理、廃止を発表

⇒多くの地方で違法に土地利用、開発区設置の審査、認可権を下方委譲していました。その結果、各地方で、農地を潰して、開発区を設置してきました。その結果、農業生産に影響を与えたり、投資のない遊休地が増えています

 その背景には、「一部の地方指導者には経済成長を追求して盲目的に土地開発を批准する者がいる」と指摘されるように、開発区を作ると投資が増え、その地域の経済発展を促すという大きな誤解する地方指導者が多数いるわけです。しかし、投資が来る場所は限られていますから、田舎の開発区に投資が来ることはあり得ません。

 昨夜、北京の国家行政学院の先生を話をしました。国家行政学院というのは、行政系統の中央、地方の幹部を半年とか3カ月とかの一定期間集めて、中央の政策を勉強させる機関です。ここに来る省レベルよりも下の「地市級」の幹部は、省レベルや中央レベルの幹部に比べ、知的水準が低いということです。そのため、中央の方針を理解できていないということです。

 そのことを考慮すれば、多くの地方の幹部は、「なぜ開発区を作ってはいけないのか」という中央政府の説明自体が理解できていないのです。つまり、悪いことだと分かっていないのです。汚職などもそうでしょう。賄賂をもらうことを悪いことだと理解していないのです。そのため、中央がいくら禁止令を出しても、その意味が理解されていないので、いつまで経っても、ストップしないのです。それを改善するには、幹部も中央の政策を勉強する機会、時間を与えることが大切だということです。

 

(2)中央経済工作会議開催、2003年の経済工作方針を決定

2003年の経済工作方針を決定する上でポイントは次の6点です。

 @マクロ経済政策の連続性と安定性を保持する

A「三農問題」を立派に解決することを全党の工作の最も重要なものとする

 B構造調整という主線をしっかりつかむ

 Cチャンスを失わず経済体制改革を深化させる

 D国際・国内の2つの市場、2つの資源を十分利用する

 E人民に大衆自身の利益の問題を真剣に立派に解決する

 2003年の経済工作の具体的項目は次の通りです

@農業の基礎的地位を揺るぎないものにし、強化し、あらゆる方法で農民に収入を増加させる

A産業構造を調整、優化し、区域経済の協調発展を促進させる

B新規就職と再就職を力を入れて促進し、社会保障システムを整備する

 C消費需要を拡大するよう努力し、都市と農村の住民の生活水準を高める

D積極的な財政政策と安定した貨幣政策を引き続き実施し、財政金融工作を立派に行う

E経済体制改革の推進を加速させ、引き続き市場秩序を整頓し、規範する

F対外開放をさらに拡大し、対外貿易、対外投資工作を立派に行うよう努力する

G統一して計画し各方面に配慮し、社会事業の発展の推進を加速させる

過熱気味にも関わらず、財政出動で経済成長を維持しなければならない状況に変わらないようです。他方で「人民を基本とする」ことを原則とするからこそ、胡錦濤政権は雇用拡大、三農問題や西部大開発や東北振興の優先順位を高く設定しています。

しかしそのためにはやはりお金が必要です。上記の問題を解決する手段として構造調整などの重要性も主張されていますが、結局は資金調達の問題です。胡錦濤も早く成果を見えるようにしなければならないので、どこまで解決困難な上記の問題を最優先にできるか。実際には大変難しいと思います。