第27回 2003年10月の『人民日報』(2003年11月4日)

 

10月の「今日の『人民日報』」は、これまた「本業多忙」により、途絶え気味になってしまいました。しかし、日中関係や3中全会に関わる報道に注目してみました。

 

20031001

(1)胡錦濤、中央政治局第8回集団学習で、法治、社会主義政治文明を強調

⇒講師は林尚立(復旦大学国際関係与公共事務学院教授)、李林(社科院法学研究所研究員)

 胡錦濤は、「政治文明建設の正しい方向を堅持する最も根本は、@党の指導、A人民が主人公、B法による国の統治、を有機的に統一することである」と述べました。

 胡錦濤政権の政治改革は大体「政治文明建設」と等しいと考えていいと思います。その根本の第1に来るのがやはり「党の指導」です。

 胡錦濤が言う政治文明建設は具体的に、@民主的な形式、手続き、秩序を持った政治参加の拡大、民主選挙・政策決定・管理・完治竪、A政策決定の科学化、民主化、B法治主義、C司法体制改革、D政府の役割改革、効率的な行政管理体制、E監督システムの整備などが挙げられます。

 

20031004

(1)温家宝総理、10月1日、2日に陜西省と安徽省の洪水被災地を慰問

⇒1998年の洪水被害の陣頭指揮で一躍有名になった温家宝総理。総理になってもいつも洪水被災地のことを思っています。国慶節の休み返上で被災地を慰問することで、人民のことをいつも考えているというアピールです。

 

(2)李肇星、8月4日の黒龍江省チチハル市で起こった旧日本軍の遺棄化学兵器で死亡者が出た事件で、日本政府の対応が遅いことや、日本の指導者が不適切な発言をしていることについて、駐北京日本大使に不満を伝える。

外交部スポークスマンが、最近日本の裁判所で旧日本軍の遺棄化学兵器にかかる裁判で中国人の訴えが認められた件で、日本政府が控訴したことに対し、批判を表明

⇒最近、旧日本軍の遺棄化学兵器をめぐって、中国側が日本側に対し攻勢に出ています。もちろん解決を急がなければならない問題ですが、ようやく処理が始まったばかりですから分布状況すら十分把握できていないため、処理が進まないのはやむを得ません。日本政府も多くの予算をかけて、処理作業を進めています。

 それはさておき、最近の中国での対日イメージの悪化は少し気になります。この旧日本軍の遺棄化学兵器をめぐる問題もそうですし、広東省珠海市での「例の問題」もそうです。しかし、後者については、『中国青年報』というもともと反日色の強い新聞が取り上げたもので、これは意図時です。最近の「対日新思考」の台頭、九州での中国人による殺人事件などの犯罪多発で日本での中国人へのイメージが悪化していることに対し業を煮やし、対日イメージを悪くするのにいいネタがあったので取り上げたのでしょう。次元が違う問題で日本を批判する、『中国青年報』の日本報道レベルの低さを露呈しています。しかし、これが中国です。

 「対日新思考」のような考え方が強まっているように日本では伝えられていますが、そんなに簡単に中国の対日観が変わるものではありません。何かをきっかけに日本を批判してやろうという歴史問題を軸とした対日強硬派が台頭する素地はまだまだ大きく存在しているのです。現政権も日本との関係を悪化させたくはないでしょうが、こんな報道が出て、世論で批判が高まると、中国政府も日本に対し強く出なければならないというジレンマもあるでしょう。それにしても、珠海問題を外交部の記者会見で質問して、外交問題にしてしまったのは誰でしょうか?

 

20031005

(1)胡錦濤総書記が10月1日から4日まで、湖南省を視察

⇒温家宝総理だけではなかった。胡錦濤総書記まで国慶節休み返上で地方視察をしていました。党の作風を正すこと、中西部の経済発展を進めることを強調し、人民重視の原則に沿った視察でした。

 これで一番迷惑を被ったのは、湖南省当局であり、胡錦濤の視察先の人たちでしょう。胡錦濤がこなければ、ゆっくり休暇を楽しめたのに。でも、胡錦濤が来たことがいろんなチャンスをもたらすことも確かです。損得計算をすると絶対的にプラスですね。

 

(2)日中友好協会が、旧日本軍遺棄化学兵器被害に対する一審判決に対し、日本政府が控訴したことを批判

⇒裁判結果、日本政府の控訴それ自体はさておき、日中友好協会がまたも中国政府の代弁者の如く、日本政府批判を行いました。自著でも触れたことがありますが、日中友好協会は日中関係をよくしたいと思っているのでしょうか?私には日中関係を悪化させる結果しかもたらさないように思います。歴史ある日中友好協会ですから、もっと日中関係をよくするためにやるべき仕事はあるのではないでしょうか?それは、中国当局の見解のオウム返しに日本政府を批判することではないはずです。

 

20031008

(1)温家宝、小泉首相と会談

⇒掲載分量は多くありませんでした。

 「中日関係は新たな重要な発展の時期を迎えている。中国政府は日本との長期的、安定した善隣友好協力を継続したい」と述べたあと、その条件としてと言いたげに歴史認識について発言しました。

 「歴史問題を正確に認識し、向き合うことが中日関係をスムーズに発展させる鍵となる問題である」「歴史を鏡とし、未来に向かう」、「当面はとりわけ日本側は旧日本軍遺棄化学兵器の問題を正視し、うまく処理しなければならない」

 おきまりの文句を語るものの、歴史問題をここでは遺棄化学兵器に問題に限定しています。言わなければならない、でもあまり言いたくない。そんなジレンマが感じられる掲載です。

 

(2)温家宝日中韓三国首脳会談で、4つの提案

⇒@三者委員会の設置、A中日間FTAの研究の深化、B物流、質監督検査・検疫での協力システムの構築、C東北振興戦略での三国の協力関係の構築

 @、Aはいいとして、Bは具体的な取り組みを提案しています。Cで挙がった東北地方の経済振興は現在の胡錦濤政権の売りの1つになろうとしています。11日からの3中全会で取り上げられるか、または11次5カ年計画の重点になるのかもしれません。意味なく出てきているのではありません。

 

20031011

(1)今日11日から始まる中共16期3中全会開催関連の文章を掲載

⇒@社会主義市場経済体制の整備が会議の重要課題、A経済のグローバル化と科学技術の速い進歩に対応し、小康社会建設のために、改革を進めなければならない、B市場経済は後戻りできない、C第11次5カ年計画は「計画」ではなく、「規劃」に改名される、D企業の生産活動、農業生産活動は行政命令によるのではなく、市場の需給関係によるべきである

何が争点になるかよく分からない3中全会ですが、この文章は会議開催を前に、党の見解を表したものだと思います。

市場経済をどのように発展させるか、胡錦党政権の所信表明演説になるのでしょう

 

(2)中国ネットメディアフォーラム開幕

⇒このフォーラムはどうでもよく、掲載記事の興味を持ちました

 新聞関連や商業関連の重点サイトへのアクセスがアクセス全体の95%以上を吸収しており、ネット世論に影響を与える重要な要素となっていること、ネットユーザー7000万人のうち24歳以下の青少年が80%を占めることを伝えます。

 よくネットサイトの掲示板やチャットなどでのネットーユーザーの発言が活発であることを根拠に、中国の世論の動きを紹介する報道があります。私はこの見方には懐疑的です。

 中国以外の国の世論を語るとき、ネットの掲示板の動きを紹介することがあるでしょうか。日本の小泉政権の良し悪しを語るとき、ネットを話題にすることがあるでしょうか。中国では政治世論調査ができないので、それの代替としてネットの掲示板やチャットの動きを伝えますが、それは世論を代表しているわけではありません。しかも、この報道でネットユーザーの80%が24歳以下の青少年であることが、世論を代表しているとは言えません。彼らが政治をまともに見る眼をもっているとはとうてい思えません。ネットの過剰評価は禁物だと思います。

 

20031012

(1)外交部スポークスマンが、インドネシア・バリでの日中首相会談についてコメント

⇒温家宝が、歴史への正確な対処を明確に要求し、84事故への対応を要求しました。しかし、両国の首脳の相互訪問については交渉はありませんでした。

 歴史問題について言及したことだけ報じています。「歴史を鏡にし、・・・」の決まり文句に言及しています。

 小泉首相の訪中問題は実際には意見交換されていますが、中国外交部は交渉なしとしています。これが中国側のスタンスです。バリでの記者会見では、小泉首相が靖国参拝の継続に言及していますから、当分小泉首相の訪中はないと見るべきでしょう。小泉首相が言うほど中国側は彼の靖国参拝を理解しているとは思えません。小泉は行くということは理解しているかもしれませんが。

 

(2)3中全会関連文章「改革、向縦深地帯挺進」掲載

⇒改革の課題てんこ盛りで、国有企業改革、投融資体制改革、政府職能転換、失業者対策、社会保障改革などが挙げられています。たぶん決議はこうしたてんこ盛りなのでしょう。

 

20031016

(1)有人飛行船「神舟5号」の打ち上げに成功

⇒米国、ロシアに続く世界3番目の有人飛行船の打ち上げ成功です。「中国の宇宙飛行史上、重大な通過点であり、我が国の経済実力と総合国力を集中的に体現したものである」と評しています。打ち上げに立ち会った胡錦濤も「偉大な祖国の誉れであり、・・・中国人民が世界の科学技術の最高点に到達する過程での重大な歴史意義を持つ一歩である」と大喜びです。

 この打ち上げの意義は、1つには軍事的な意味があるでしょう。それは、ロケット打ち上げ技術とミサイル運搬技術が密接に関係している点と、宇宙開発の進歩がGPSなどの技術を発展させる点です。しかし、このような技術が、中国の国防にとって必要なものなのでしょうか。私には国防の域をはるかに越えた技術にしか思えません。そう考えると、こんな必要外の宇宙開発にかける費用を内陸開発や貧困削減に充てることができるのではないでしょうか。行き着くところは、日本の対中ODAの問題です。必要外の宇宙開発に金をかけるのならば、対中ODAの削減を含む見直しを提案してもいいのではないでしょうか。

 もう1つの打ち上げの意義は、中国に与える影響が大きいという意味で私はこちらの方が重要だと思うのですが、国威発揚でしょう。中国の当局だけでなく、人民の喜び様は、まさに「祖国の誉れ」だと感じている証拠でしょう。これが、当局にとって大切なのです。そして、米国、ロシアについで、第3番目というのが国際社会での存在感を高める上で重要です。科学技術分野で世界のトップレベルに肩を並べたという自信につながります。

 しかし、客観的に見て、そんなにすごいことなのか、中国だけが一人大喜びしているだけに見えてしまうのもまた滑稽です。宇宙ステーション計画など進んでいますから、宇宙技術の開発は世界的に見て重要なものかもしれませんが、私のような素人は、ムダにしか思えませんし、そのことで世界をリードしていると言えるかどうかは疑問です。逆に言えば、そういうニッチなところで抜きんでるしか、自らの存在感を示せないのかなあ。こう感じるのは、私の無知でしょうか、それとも日本人としての負け惜しみでしょうか。

 

(2)海軍艦艇編隊が、米国、ブルネイ、シンガポールにむけて出発

⇒米国との軍事交流が進んでいます。

 

20031018

(1)2003年第3四半期までのGDP成長率は8.5%増

⇒特に第3四半期だけでは9.2%増で、邱暁華国家統計局長は「SARSの影響はすでに脱した」と述べました。

 それにしても高い成長率で、若干過熱気味なところがあります。

 『人民日報』に掲載された関連論文は、農民収入が伸びないことや失業問題が深刻なこと以外に、信用貸款の規模の拡大が速すぎること、製品在庫と資金が増えており、投資と消費、都市と農村、工業生産とエネルギー、運輸などのアンバランスが問題となっていると指摘します。その中で特に、地方の投資増長が速すぎ、低水準の重複建設が目立っており、鉄鋼やコンクリート、自動車、紡績など明らかに過剰な伝統産業で問題となっていることを指摘しています。

 盲目的な投資と地方政府の干渉が問題と言えます。

 

(2)胡錦濤が、APEC首脳会議出席などのため、タイ、オーストラリア、ニュージーランドに外遊