第26回 課題に変わりなし:16期3中全会の分析(2003年10月16日)

 

 2003年10月11日から14日まで、中国共産党第16期中央委員会第3回全体会議(16期3中全会)が開かれました。だいたい年に1度開かれる共産党にとっては重要な会議です。昨年11月の第16回党大会、今年3月の全人代という前体制の影響力が反映された会議の後、最初の大きな会議であるため、胡錦濤が何か新しい方針を打ち出すのではないかという期待が持たれた。

 現時点では個々の文献はまだ発表されていない。そのため、コミュニケなどを参考に16記3中全会をレビューしてみよう。

 

●16期3中全会の議事

 この会議の議題は、次の3つである。

@中央政治局工作報告の聴取、討論

A「社会主義市場経済体制を整備する若干の問題に関する中共中央の決定」の審議、採択

B「憲法の一部内容を修正することに関する中共中央の建議」の審議、採択

 

16期1中全会以来の工作報告

 胡錦濤が行った中央政治局工作報告に対しては、「新局面」を切り開いたとして、昨年11月以来、胡錦濤体制が積極的に政治運営に取り組んでいるという評価がされたようだ。

 

●「社会主義市場経済体制を整備する若干の問題に関する中共中央の決定」の審議、採択について(以下「決定」)

 1993年11月に開かれた14期3中全会で、公式に社会主義市場経済体制を打ち立てることが宣言され、その後社会主義市場経済体制がそれなりに機能してきたが、約10年たって、「整備」する段階になったので、このような「決議」を採択するに至ったというのが、流れである。

 もう1つは、胡錦濤体制の施政方針演説的な意味合いもある。昨年11月に第16回党大会が開かれ、江沢民から政権を委譲され、今年3月の全人代で朱鎔基が退き、新体制として、実質的に初めて開く党の会議である。そこで、胡錦濤体制として解決すべき経済問題を明らかにした。

 

(1)社会主義市場経済体制を整備する背景

 コミュニケによれば、胡錦濤体制は、

@    経済グローバル化と加速する科学技術の進歩という国際環境への適応

A    小康社会を全面的に建設するという新情勢への適応

の2つの課題に対応しなければならない。

しかし、会議の翌日(2003年10月15日)の『人民日報』に掲載された関連の「社論」(以下、「社論」)は、現在中国が抱える問題として、

@    経済構造が不合理である

A    分配関係がうまくいっていない

B    農民収入の増加率が低下している

C    就業矛盾(需給バランスの欠如)が突出している

D    資源環境の圧力が大きくなっている

E    経済全体の競争力が弱い

の6つを挙げている。そうした問題が起きている原因として

@    社会主義初級段階にあること

A    経済体制が整備されていない

B    生産力の発展が多くの体制上の障害に直面している

の3つを挙げている。

 

(2)社会主義市場経済体制の整備の主要任務

 以上の問題を解決するためには、これまで運用されてきた社会主義市場経済体制をもっと整備しなければならないというのが、今回の「決議」採択のポイントになる。しかし、コミュニケでは、その主要任務がてんこ盛りにただ羅列されているに過ぎない。実際の「決定」も50項目ぐらいになっていると言われているので、たぶん羅列されているだけだろう。ただし、大きく分けると以下の7点にまとめられている。その中にてんこ盛りの項目を入れ込んでみたい。

@    公有制を主体とし、複数の所有制経済が共に発展する基本経済制度を整備する

―国有企業改革、国有資産管理、非公有制企業の発展、財産権制度の整備、私有財産権の保護

A    都市と農村の二元経済構造を徐々に改めるのに有利な体制を確立する

―農村の土地家庭請負経営制度、耕地保護制度、都市化、農民の労働機会の創出

B    地域経済の調和のとれた発展を促すシステムを形成する

―西部大開発、中西部改革、東北地区など古い工業基地の振興、東部の現代化

C    統一、開放され、競争があり、秩序のある近代的市場体系する

―資本、要素市場の整備、

D    マクロコントロール体系、中央と地方の合理的な行政分配、行政管理体制、経済法律制度を整える

―市場主体、審査・認可制度改革、政府の経済管理職能の改革、投資、税収、金融、財政などの管理体制改革

E    雇用、所得分配、社会保障の制度を整備する

―就業政策、収入格差縮小政策

F    経済・社会の持続可能な発展を促すシステムを確立する

―人材育成、教育、公共衛生、

このように、途中で拾い上げるのが嫌になってくるほど個別の問題点が出てくる。

 この項目を見ていると、これまで言われてきた中国の抱える問題が、懲りもせずまたまた語られているに過ぎないという印象である。しかし、そんな分かったような印象だけを語ってもしようがないので、1つの比較をしてみたい。

今回の「決定」は、1993年11月の14期3中全会の「社会主義市場経済体制を打ち建てる若干の問題に関する決定」に匹敵する重要な決定であると中国当局は宣伝している。しかし、現在はすでに市場経済化も進んでいるし、またさまざまな条件も異なっているため、10年前の決議と内容が異なるのは当然のことであり、それと比較をしてもあまり意味がない。

むしろ、政治的に見て、昨年11月の16回党大会政治報告や今年3月の全人代報告といった旧体制下で作成された報告と比べることで、発足後1年経った胡錦濤体制の経済問題への認識が旧体制の認識と違ってきたかどうかを考察した方が意味があるだろう。

なお、第16回党大会の政治報告と今年3月の全人代の政府活動報告の分析を私はこの連載の第10回、第13回でしている。

 

結局は、第16回党大会、全人代報告を踏襲した「決定」

 第16回党大会の政治報告については、第4章「経済建設と経済体制改革」が比較の対象になるだろう。ざっと比較をしてみたが、そこにはさほど大きな違いは見られない。例えば、3中全会開催前に香港紙などが会議の重要課題になるとして取り上げた東北地区などの古い工業基地の振興や、また私有財産権の保護については、すでに第16回党大会の政治報告で言及されている。

 全人代報告についても、これから5年間に取り組む課題が8項目にわたり提起されているが、むしろ全人代報告の方が内容が詳しいとすら感じる。強いて挙げれば、私有財産権保護については触れていないことぐらいか。

 「決定」はまだ全文が出ていないが、コミュニケで見る限り、目新しい部分はない。そして、第16回党大会政治報告を基本的に踏襲している。つまり、中国が抱える問題、解決のためにとるべき方策に、変化はないということだ。これは胡錦濤体制がこの1年間何もしなかったというのではない。中国には解決の難しい課題が多いということだ。そして、第16回党大会報告は、現段階での中国の問題点をきちんと描いた「いい作品」だということも言えるだろう。

もう1つ指摘しておきたいことは、胡錦濤体制の特徴付けをするために、この「決定」を見たのでは、たぶん分からないだろう。実際に何をやっているのか、毎日の活動状況を見ていく中で、特徴を抽出するしかないだろう。

さらに、胡錦濤体制にも言えることで、いつまでも問題を列挙するのではダメだということだ。もう、それは聞き飽きた。つまり、胡錦濤体制は、実際に政策を実施していく段階にすでに入っているということだ。その意味でこの会議をスタートとしなければならない。

 

●「憲法の一部内容を修正することに関する中共中央の建議」の審議、採択について(以下、「建議」)

 憲法改正については、コミュニケでは多くは語られていない。しかし、ポイントは(1)「3つの代表」重要思想を盛り込むこと、(2)私有財産権を保護することを盛り込むこと、にあると言われている。

 (1)については、問題なく盛り込まれるだろう。

 (2)については、第16回党大会政治報告、そして「決定」でも言及されたことから、全体の方向として、盛り込まれる。しかし、問題がどのように盛り込まれるかという点で、これから来年の全人代までの間に、論議を呼ぶことになるだろう。「私有財産権」という言葉が盛り込まれることはあり得ない。それは、社会主義と抵触する言葉だからだ。おそらく、「中国人民の財産を保護する」といったあいまいな言葉で私有財産権保護を盛り込むことになるだろう。しかし、共産党の正当性にもつながることなので、党内で激しい論議がかわされることは必至である。

 

まもなく、「決議」、「建議」の全文が発表されるだろう。そのときまた分析してみたい。