第25回 2003年9月の『人民日報』(2003年10月4日)

 

 「本業多忙で」(最近、私の一部周りで流行っている言葉です)、新たな更新が滞っています。「今日の『人民日報』」も掲載できない日もあります。『人民日報』自体には目を通しているのですが。10月は、中国の通信事情のことや政府機構改革のことを掲載したいのですが。そう言えば、11日から3中全会ですね。それまでには「本業」の原稿を終わらせておきたいのですが。

 今回も、先月「掲示板」に掲載してきた「今日の『人民日報』」をまとめてみました。私が関心を持った記事の特徴は自分で分析すると、指導者による人民寄り、私の言葉で言えば「弱者救済」よりの動きに注目しています。また、人民元切り上げ問題についての報道にも気がいっています。さらに、マイナーですが、軍に対する江沢民の影響力の強さをうかがわせる記事も気になっています。こうやってみると私自分の関心がよく分かります。

 

20030903

(1)胡錦濤が8月28日から9月1日まで江西省を視察

⇒江西省は全国でも指折り貧困地方です。胡錦濤は農村を調査し、彼が打ち出す「小康社会」(まあまあの生活ができるレベル)建設の重要性を強調しました。

 また、瑞金、興国といった1949年以前の革命の聖地「中華ソビエト共和国臨時中央政府」跡地を訪れ、革命に参加した老紅軍、老幹部、老党員と交流しました。これは、胡錦濤が新しい共産党の指導者として、共産党の歴史を重視していることを内外に示すための重要な行動です。革命の指導者である毛沢東を「人民のための奮闘する崇高な精神と高尚品徳」の持ち主として持ち上げています。自分(胡錦濤)もそうだということです。

 そして、「立党は公のために、執政は民のために」という胡錦濤の指導方針が革命の精神に通じるものがあることを強調することで、権威付けを試みています。

 

(2)黄菊副首相が、スノー米財務長官と会見

注目は人民切り上げ問題ですが、報道では触れられていません。

 

20030904

(1)周小川・中国人民銀行行長が投資加熱問題と人民元レート問題で発言

⇒最近の投資過熱状況がもたらす通貨供給量の増加に対し、中央銀行が十分対処できる政策を持っていると自身のほどを明らかにしました。9月1日から実施している預金準備率の引き上げはその具体策です。「投機は心配する可能性が高い」と盲目的な投資に対しては警告しています。

 また、人民元レート問題については、「人民元の価値が高いか低いかの評価をするのには時期尚早」と最近の切り上げ論議を一蹴しています。そして、切り上げを主張する根拠にされている中国の外貨準備高が大きいことについては、「われわれは、外貨保有の現状からみて、外貨準備高を加速的に増やすことを追求してはいない」として、現在の外貨準備高が適正であると主張しています。しかし、レートを決めるシステムの改革は重要議題であるとして、変動幅の拡大の可能性をほのめかしています。

 

(2)胡錦濤総書記が、中央党校の省部級指導幹部の「学習貫徹“三個代表”重要思想」専門研修班の開班式で重要講話

⇒「立党は公のために、執政は人民のためにということの本質を実行に移すことができるかどうが、『三つの代表』重要思想を理解したかどうか、真に実践しているかどうかを評価する基準である」と述べました。

 この研修は、省党委員会書記、省長、部長といった高級レベルの指導幹部に、「胡錦濤路線」を実践させるためのもので、ある意味胡錦濤への忠誠を誓うかどうかの踏み絵的な面がありそうです。中央党校の開班式ごときに、中央政治局常務委員6名(呉邦国は外遊中で欠席)が勢揃いするのは大げさです。

 

20030905

(1)来日中の呉邦国全人代委員長、小泉首相と会見、経済団体主催昼食会で講演

⇒小泉首相との会見で日中関係の深化と拡大のための3つのポイントを提起しました。基本的に小泉首相を立てています。首脳会談実現への中国側の意思は、ネックは靖国でしょうが、基本的に前向きです。「歴史を鑑とし、未来を向かう」という決まり文句も、前半部分が強調されがちですが、呉邦国の意識の中には、前半部分と後半部分はほぼ同格で、むしろ後半部分を胡錦統政権は重視しているように思われます。そのため「大局的、長期的な戦略的な高度から」という言葉に込められています。

(3つのポイント)

@    高層対話を保持する。直接対話が重要

A 経貿協力と人的交流を強化:「中国の発展は日本にとって脅威でなくチャンスであるとする小泉首相の言葉を称賛」

B    相手方の関心ある問題を慎重に処理する:「歴史問題を適切に処理することが中日関係の重要な基礎である。両国政治家の大局的、長期的な戦略的な高度が、『歴史をもって鑑とし、未来に向かう』をもとに、存在する問題を適切に処理することを希望する。歴史問題は過去でもあり現在でもある問題である」

 

(2)李肇星外交部長がパウエル米国務長官と、イラク問題と北朝鮮問題で電話会談

⇒李肇星は外遊先から電話をしています。

 イラク問題では、米国が国連主導の多国籍軍派遣を提案したことを事実上歓迎しています。

 北朝鮮問題では、中国が積極的に仲介することを表明しています。

 

20030907

(1)米国のパウエル国務長官が「米中関係は(米中接近した)1972年以来、最も良好な時期にある」と発言

 

20030908

(1)国家発展・改革委員会産業発展研究所の姜長雲研究員の論文を掲載

⇒各種開発区が無秩序に拡大していることに警告を発しています。その影響として5点挙げています。

@    耕地が非耕地に転用され、食糧生産能力を下げている

A    開発区への投資を引き入れるため、地価を下げたり、タダにするなど土地開発による収益が出ず、また不公平な競争が激化している

B    低水準の重複建設が進み、その地域の比較優位のある産業選択を重視せず、産業、製品の構造が低レベルである

C    土地確保のために、農民から安く土地を買い取り、それを高く売りつけるなど農民の利益を損ねている

D    汚職の発生、地方政府の負債が拡大している

中央の取り締まり政策が出ても、地方指導者が自分勝手に自分の(地域の)利益だけを考えて行動するため、政策の効果が出ていません。

 

(2)国防大学ケ小平理論研究センターによる「三つの代表」重要思想に関する論文が掲載

⇒この中に「江沢民」という言葉が11回も出てきています。これに対し「胡錦濤」は2回のみ。「三つの代表」重要思想は江沢民が作ったものだということが延々綴られています。軍にとって、江沢民はまだまだ絶対的存在です。

 

20030909

(1)人民ネット(『人民日報』のサイト)上で実施中の中国工会(労働組合)第14回全国大会に関するアンケート調査の紹介

⇒「全国大会に対し何に注目しているか」問いに対し、20つの回答から5つを選びネット投票しています。その上位5つは

  第1位「工会幹部が従業員のために適切に発言したり、仕事をすることをいかに保証するか」(14.27%)

  第2位「『工会法」の執行状況はどうなっているか」(12.43%)

  第3位「従業員が民主管理に参与する権利をいかの一層保証するか」(11.26%)

  第4位「工会組織が自身の改革を進める上での重点と難点は何か」(8.97%)

  第5位「新時期に各級工会組織がさらにいい作用を発揮するにはどうすべきか」(6.47%)

  第6位「工会はいかに下崗(リストラ)従業員の不安を排除し、困難を解くのか」(5.49%)

 この結果だけを見ると、工会、工会幹部が独立した活動ができないことが反映されています。そんな組織に失業者やリストラ従業員の面倒を見てもらうことへの期待は小さいように感じられます。

 

20030910

(1)温家宝総理が、今日10日の教師の日を控え、北京市の教師を訪問し、また農村中小学校優秀教師代表と高校教学名師の称号受賞者と会見

⇒たいした話題ではありませんが、人民に近づくことをアピールするためのパフォーマンスです。この中で、温家宝は農村の教育環境整備に力を入れると述べています。教育の重要性はどこの国も同じです。日本には教師の日なんてありましたか。たぶんないですね。中国は年に1度あり、この日は学校が1日、もしくは午後半日、お休みになり、教師の日を祝う活動があります。最近は休暇にするところも多いです。

 

(2)呉儀副総理が、外資系企業代表と会見し、市場の秩序がまだ整備されていない弊害を紹介

⇒一部の法律・法規が整備されていないため、偽物の製造、販売、知的所有権の侵害の現象が存在する。行政的な法の執行と刑事的な法の執行のリンクが十分でなく、地方保護主義が少数の地域にまだ存在する

 

20030911

(1)国務院常務会議で、東北など古い工業基地の振興戦略問題が研究されました

一部香港情報では、この秋開催予定の3中全会の議題になる経済政策の中で、東北地区の経済発展戦略も焦点の1つであるらしいのですが、この時期国務院常務会議で議題に上がったことは、そのことを裏付けているかもしれません。温家宝総理は先日遼寧省を視察していますし。

 

(2)「9・11」を特集

中国社会科学院米国研究所副所長の論文を掲載しています。2001年の9・11テロ以後も、米国自身、単独主義に苦しんでいるとしています。2002年1月に、イラクやイラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と批判したことで、同盟国や国際社会が米国から離反した。これを、ブッシュ外交の大失敗としています。また武力による威嚇、イラク戦争、北朝鮮核問題も取り上げて解説しています。

 

20030917

(1)胡錦濤がマレーシアの副首相との会見で、朝鮮半島の核問題に関する6カ国協議に言及

⇒「重要なことは、平和解決の方向を堅持し、対話の流れを進め、継続することである」と、マレーシアの副首相との会見で言及したのは、次回6カ国協議の開催をめぐり、中国が水面下で働きかけを進めていることの表れだと思います

 

(2)外資系企業、香港・マカオ・台湾企業の納税ランキングを発表

⇒第1位は上海フォルクスワーゲン(40億1468万元)でした。上位3社は上海の自動車会社です。注目はベストテンに、北京移動電話、浙江移動電話、江蘇移動電話、福建移動電話の中国電信(香港)の投資企業4社が入っていることです。沿海部の移動電話会社は大儲け。

 

20030918

(1)浙江省温嶺市横峰街道前洋村で、村民委員会主任(村長に相当)がリコールされ、辞職

⇒主任は就任以後、親族にガソリンスタンドを開業するための土地の便宜を図ったため、村民がリコールを提案し、村民大会でリコール投票が行われ、リコール賛成票が過半数を超え、リコールが成立しました。

 最近こうしたケースが増えています。村民が村のトップをリコールすることに抵抗がなくなっているのかもしれません。「民主主義」の教育の小さな成果と言えるでしょう。

 

(2)中小企業が、金融機関による中小企業向け融資に対し71.3%の高い満足度

⇒中国人民銀行が全国の金融機関1358社と中小企業2438社に対し行ったアンケート調査の結果です。

 申請しても融資が認められない原因は企業側にあると指摘しています。

 2003年6月現在で全国企業向け融資総額の51.7%を占めています。新規の融資については中小企業向けが56.8%を占めます。

 銀行の調査結果ですから、実際はどうでしょうか?

 

20030919

(1)第11次5カ年計画策定作業始まる

⇒2006年から実施される第11次5カ年計画策定に向けての編制準備工作テレビ電話会議が開かれました。

 

(2)朱夢魁の論文「貿易保護主義を警告する」を掲載

⇒人民元切り上げを迫る米、日を貿易保護主義と非難する論文

 実は昨日も人民元切り上げに関する記事が2本も掲載されていました。よく考えると、G7経済担当大臣会議で人民元切り上げを議題にするかどうかで注目されていますから、それに対応したものです

 

20030921

(1)国務院「農村教育工作をさらに強化することに関する決定」

⇒西部地域の教育振興や農村の教育管理体制の強化などについて国務院が力を入れて取り組むことを決定したものです。

 前日19日から2日間開かれた全国農村教育工作会議には温家宝総理が自ら出席し、講話をおこなっています。胡錦濤体制の人民重視の政策原則に沿った、農村における教育振興の強化の表れといえます。

 

(2)国際原子力機構第47回大会で、張炎中国代表大使が、採決を経ないで決議された北朝鮮の核問題に対する決議に対し、「バランスを失ったものである」と非難

⇒平和解決のために6カ国協議を進める立場として、北朝鮮非難の決議が採決されたことに、非難しました。

 

20030925

(1)温家宝総理が、カシヤノフ・ロシア首相と会見。共同コミュニケ発表。

シベリア石油パイプライン問題について、カシヤノフ首相が「ロシア政府は協議を履行し、承諾を必ず守る」と述べました。また共同コミュニケでも「2003年5月の両国首脳間で交換された共同声明に基づくエネルギー領域での協力を促進する。中ロの企業間で結ばれた石油パイプライン建設、油田開発、鉄道によるロシアの原油輸出拡大に関する協力を進め、天然ガス領域での協力を奨励する。」という文言が盛り込まれました。

 シベリア石油パイプラインについては、中国・大慶ラインと太平洋ラインをめぐる日中が綱引きをしています。そのため、コミュニケにも関連事項が盛り込まれました。それ以上に、温家宝との会見でも取り上げられたことが報道されました。

 これについては、日本の新聞も取り上げていますが、驚きなのは『人民日報』が会談内容としてこれほどの具体的な事柄を伝えていることです。絶対日本にはとられないぞという中国側の意気込みが感じられます。

 

(2)徐才厚中央軍事委委員兼総政治部主任が甘粛陜西の駐在部隊での調査研究で、「江沢民」の名前を連発

短い報道の中に「江沢民」が4回も出てきました。

「一層の『軍魂』意識を強めるには、党の軍隊に対する絶対的指導の堅持し、党中央、中央軍事委と江主席の指揮にしっかり従う」と述べています。

 まだまだ軍に対する江沢民の影響力は大きいです。

 

20030927

(1)曾慶紅がオーストラリア国防相と会見

⇒何でもない記事ですが、曾慶紅がなぜ外国の国防相と会見するのか。今年の3月以降、こういうケースが少なからずあります。曾慶紅は軍の肩書きは何もないのですが。やっぱり中央軍事委員会副主席の座をねらっているのでしょうか?

 

(2)「長城2003反テロ総合演習」実施。胡錦濤も参観、重要演説

⇒テレビで見ましたが、なかなか迫力ある演習でした。

 

20030928

(1)胡錦濤、董建華香港特別行政区長官への支持を表明

⇒香港工商界知名人士訪中団と会見し、@基本法の遵守、A董建華の支持、B香港経済の振興、提起。国家安全条例(23条立法)問題で指導力が問われている董建華へのさらなる援護射撃です。

 

(2)「社会信用体系」建設試点工作が一部の省・市、部門でスタート

⇒「社会信用体系」やそれに関わる「誠信」といった政治的キーワードが最近よく出ています。ちょっと注目です。しかし、なかなか意味が分かりません。また、後日レポートします。

 

20030929

(1)国土資源部など土地市場秩序の管理、整頓の進展状況を報告

⇒曾培炎副総理が出席し、4つのポイントを提示

@    土地違法行為を厳しく取り締まる

A    国務院の開発区の整理、整頓の規定をしっかり実行する

B    農民も失地、失業問題を高度に重視し、解決する

C    土地管理の諸制度を整備する

土地管理をめぐり、中央が四苦八苦しているようです。

 

(2)郷鎮企業の現状をまとめた農業部副部長の文章を掲載

⇒1980年代の中国経済の急成長のけん引車だった郷鎮企業に対する評価が1990年代に入り大きく変わってきました。郷鎮企業の限界が見えてきたのです。この記事では、新たな時代の変化に沿った郷鎮企業の役割が提示されています。

@    農業現代化に欠かせない

A    郷鎮企業の看板は失うことができない

B    農業現代化の歴史的任務をまだ達成していない

C    中小企業や私営企業が取って代わることができない

D    様々な問題があっても郷鎮企業を否定することはできない

E    第16回党大会で、都市と農村を結びつけるという郷鎮企業の役割が提起された

実はあまり説得力のない新たな役割です。何とか郷鎮企業の存在を認めさせようという農業部の悲壮感さえうかがえます。

中央では郷鎮企業の扱い方、主管部門をめぐって農業部と企業部門(かつての国家経済貿易委員会や中央企業工作委員会)の間で対立があります。たぶん、農業部として郷鎮企業は農業部の管轄であることを訴えるために、農村との強いつながりが郷鎮企業にはあるのだということを示したいのだと思います。