第24回 2003年8月の『人民日報』(2003年9月4日)

 

 8月5日から掲示板に、「今日の『人民日報』」としてその日の『人民日報』に掲載された記事から私が気になったものを2つ紹介しています。これが続けば、これから毎月、1カ月分をまとめて行きたいと思います。基本的に掲示板に載せたものをそのまま転載するだけです。

 

 

20030805

 

(1)温家宝が黒龍江省、吉林省に言って、国有企業関係者と座談会を行いました。
⇒毎年避暑地北戴河で開かれる会議が中止になったようなので、避暑を兼ね涼しい東北地方を訪れ、国有企業改革にカツを入れにいったのでしょう。

(2)外交部スポークスマンが、北朝鮮が6カ国協議を受け入れたことを歓迎するコメントを発表。
⇒ここまでのプロセスでは、中国は大活躍です。

 

20030806

 

(1)黄菊副首相が扇千景国土交通相と会見
⇒黄菊がこれまでの民間交流の成果を評価し、今後の拡大について言及しました。これは、中国が日本人の15日間以内の中国訪問に対しビザ免除の方針を打ち出したことと関係した発言でしょう。注目の新幹線問題については触れていませんし、この問題で成果はなかったと思いますが、日本の一大臣が筆頭副首相と会見できたわけですから、扇大臣にとってはメンツが保て、万々歳でしょう。

(2)温家宝が米シティーバンクの幹部と会見し、人民元の安定が世界経済にとって有利であると発言しました
⇒首相が、今注目の人民元切り上げ問題について、初めて公式の場で言及しました。これが中国の立場です。

 

20030807

 

(1)国務院常務会議で、「人民銀行法」改正案、「商業銀行法」改正案、「銀行業監督管理法」草案がそれぞれ通過
⇒私は専門ではありませんが、大事な法律の改正だと思います。詳細は明日以降掲載されるでしょう

(2)北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議に関する各国の態度について、駐在記者がレポート
⇒日本について、日本(政府)が核問題と拉致問題を分けて、拉致問題を「人道問題」として日朝二国間協議で先行解決を目指すことを表明しているとあるが、正しい記述ではないですね。

 

20030808

 

(1)「農民収入増加に対するSARSの影響に関する国務院の意見書を公表
⇒7月23日に発表されたものが公表されました。SARSは、ここ数年農民の収入源となってきた牧畜業や第2次・第3次産業、都市への出稼ぎに大きな影響ダメージを与え、今年の農民収入の増加目標の達成が難しいと総括しています。

(2)公安部が、「人民に便利な、人民が利する」30項目の規制緩和措置を発表
⇒胡錦濤政権が唱える「人民のための執政」の方針に基づき、公安部が提出したものです。条件付きですが戸籍の移動の自由や、自動車免許証の取得制限を65歳から70歳に延長とか、パスポートの申請・受け取りができる都市を拡大など、人々の日常生活に関わる諸規制を緩和したものです。もちろん、30項目はよく吟味すると政策的で、どこまで人々の生活を便利にするかわかりませんが、公安部さえも胡錦濤の方針に対応していることがわかります。

 

20030809

 

特にありませんでした。

 

20030811

 

(1)温家宝総理が福田官房長官と会見しました
⇒日本の報道では、温家宝が小泉首相の靖国参拝問題が原因で現段階では自分の訪日は難しいと言及したように伝えられていますが、『人民日報』ではそのことには触れられていません。興味深い言及は「戦略面から二国間関係を扱い、把握し、関連の問題、特に歴史問題と台湾問題をうまく処理しなければならない」という部分で、対日関係を戦略的にとらえようという姿勢を鮮明にしています。また小泉靖国参拝問題への言及はこの言及の後半部分で示唆されています。
 温家宝の発言は、これまでの姿勢と新たな姿勢を並列させており、どちらを重視ということではないのでしょう。ことさらに歴史問題を強調する必要もありませんが、これを無視してもいけないということです。また、温家宝を対日強硬派と位置づけるのもナンセンスです。
 それにしてもNo.2の呉邦国が近々訪日するわけですから、「小泉要素」というのはどれくらい強いものなのでしょう。私の個人的な見方は、新たな二国間関係の志向が歴史問題よりもウエートが高いような気がします。

(2)戴外交部副部長が今年上半期の中国外交を回顧
⇒「率直で誠意があり、開放的で、国際協力を重視し、責任を負う」という新政権の外交政策を世界に示すことができたと高く評価しています。特に重要な成果として、4月の米朝中の三カ国協議を北京で開催したことを挙げています。

 

20030813

 

(1)中央政治局が第7回集団学習を実施。テーマは「世界の文化産業発展状況とわが国の文化産業発展戦略」
⇒「三つの代表」重要思想にも出てくる「文化」という言葉、意味のわかりにくい言葉です。この集団学習では、現在進められている「三つの代表」重要思想学習の中心であり、また経営改革の対象となっているメディアについてりかいを深めるためのものだと思います。

(2)鉄鋼業の猛烈な発展の背後にある危険を警告する
⇒今年上半期の鉄工業への投資が対前年同期比で45.9%増という過熱状況になっていることを警告する記事。投資の原因は、@不動産投資の増加、A大規模なインフラ建設の増加、B自動車、発電設備、工作機械などの製造の増加などによる鋼材需要が増えていることによるもの。国家発展・改革委員会は、世界的な鋼材供給の過剰な状況で、短期的な戦略から国内の投資が増えていることに継承を鳴らしています。

 

20030814

 

(1)新しい日本の防衛白書に対する論評

⇒有事三法案とイラク復興支援特別措置法案が国会で採択されたことを取り上げ、日本が一貫して掲げてきた「専守防衛」の原則がが棚上げされ、自衛隊が「海外派遣型」の軍隊に転換したと非難しています。

 

 

20030815

 

(1)湖南省党委員会書記と安徽省党委員会書記の論文を掲載
⇒その内容は、胡錦濤の路線を支持するもので、ある意味地方のトップが胡錦濤に忠誠を誓う意味で書いた論文。そこで、胡錦濤が重要講話を行った7月1日まで遡って、地方のトップが胡錦濤に忠誠を誓ったと見られる論文を探してみると、天津市党委書記(8月4日)、海南省党書記(7月18日)のものがありました。この後、増えていくのでしょうか。

(2)人民元切り上げに反対する米『ビジネスウイーク』誌記事を掲載
⇒人民元切り上げの主張が米、日で高まっていますが、『人民日報』では切り上げの弊害を伝える外国の新聞、雑誌の記事を最近積極的に紹介しています。切り上げの弊害を言っているのは、中国だけでないことを伝えるためです。

 

20030817

 

(1)全国再就職工作座談会が開かれ、胡錦濤が重要講話
⇒昨年9月の再就職工作会議以来の再就職工作の実施状況を確認し、さらに再就職工作を進めるために地方幹部にカツを入れるための会議。胡錦濤政権の最重要課題の1つに位置づけられる再就職工作。今年7月までに(たぶん今年1月から)、新たな就職口が370万人増加し、レイオフされた労働者(下崗)の再就職は210万人になりました。胡錦濤は重要講話の中で7項目の措置を指示しました。

20030818

 

特にありませんでした。

 

20030819

 

(1)国務院が農村信用社改革実験工作を深化させることに関する座談会で黄菊副総理が講話
⇒農村信用社というのは農村の金融機関で、個人貸し付けや農業投資を行っています。その機関の改革を8つの省・直轄市で実験的に行っており、さらにそれを進めようとカツを入れる会議です。農村信用社の改革は、農業生産の発展と農民収入の拡大という目的はあります。再就職工作もそうですが、この改革も「弱者救済」に力を入れる胡錦濤政権にとって重要なものです。
 興味深いのは、再就職工作も農村信用社改革工作も、江沢民派と言われる黄菊副総理が取り仕切っている点です。「弱者救済」政策重視は、アンチ江沢民路線であり、それを担わされる黄菊は副総理としての任務とは言え、複雑な気持ちかもしれません。

(2)徐才厚・人民解放軍総政治部主任が北朝鮮を訪問し、趙明録朝鮮国防委員会第一副委員長と会談
⇒基本的には通常の高級軍事代表団の相互訪問の一環です。しかし、団長が徐才厚というハイレベルの軍人ですから、通常の相互訪問というだけではないのは容易に想像がつきます。当然、6カ国協議を控え、事前協議を行っているはずです。趙副委員長との会談では、伝統的な軍事的友誼関係を再確認し、江沢民と金日成との間で合意した中朝関係16字方針を確認しました。中朝間の軍事関係は健在であることを示しており、6カ国協議での中朝連携の強さをうかがえます。

 

20030820

 

(1)地方指導者人事:甘粛省党委員会書記に蘇栄、青海省党委員会書記に趙楽際
⇒蘇栄の前職は青海省党委書記、1年10ヶ月という短い在任期間でした。55才という若さ故に、将来を嘱望されており、もう1期地方指導者を経験し、次期17回党大会では中央入りか、沿海部の地方指導者への抜擢でしょう。胡錦濤、温家宝も在職した甘粛省への移動だけに、期待がうかがえます。
 趙楽際は、青海省長からの横滑りです。青海省一筋の人で、経済分野の要職を歴任してきました。56才とまだ若く、将来が期待できそうです。

(2)江沢民の国防・軍隊建設思想を賞賛する記事が1面に掲載
⇒江沢民健在をアピールする長文の記事です。これまでの江沢民の軍事方面での活躍を回顧しています。

 

20030821

 

(1)中央組織部が、幹部に対する大規模な「三つの代表」重要思想学習の訓練活動実施を指示
⇒今年から5年かけて、県・処クラスの党委員会、人民代表大会、政府、政治協商会議の幹部に対し、大規模な学習訓練活動を受けるよう指示しています。5年間に、職場を離れて、計3ヶ月以上の訓練が義務づけられました。また、幹部のみならず、企業経営管理者や技術専門家にも訓練を課しています。

(2)人民元切り上げ問題で特集掲載
⇒米ドル、欧州ユーロ、日本円についてそれぞれの専門家が、為替事情を解説し、最後に人民元の切り上げについて説明されています。諸外国の切り上げ圧力の目的は人民元の為替管理の自由化にあるが、いったん管理体制を緩めたら逆戻りはできないとして、政策的な調整で乗り切りたいという中国側のねらいが説明されています。私は難しい話はよくわからないので、詳しくは原文をあたってください。

 

20030822

 

(1)劉洪才・中央対外連絡部副部長ら代表団が8月19日から北朝鮮を訪問中であることが判明
⇒劉副部長は崔泰福朝鮮労働党中央書記局書記と会談し、6ヵ国協議について「朝鮮は辛抱強く、開放的な態度で会議をうまく進めることを希望する」と述べました。

(2)胡錦濤が韓国大統領と電話会談
⇒6ヵ国協議について協議しました。胡錦濤は小泉首相には電話するでしょうか?ないでしょうね。

 

20030823

 

(1)全国人民代表大会常務委員会第4回会議開催、27日まで
⇒中国人民銀行法(修正案)、中国商業銀行法(修正案)、銀行業監督管理法(草案)といった金融改革にとって重要な法律の修正案、草案が審議されます。
 中国の経済は難しいですね。でも経済分析は、市場経済の枠組みを導入しようという明確な目標がありますから、経済学の手法で分析して、その中で中国特有の問題を抽出しようというやり方で研究を進められているように思います。その意味で、「共通言語」が存在してます。それに比べ、政治分析は、中国は「特殊な国」というところから出発していますから、なかなか難しいですね。でもそろそろ政治分析も「共通言語」を使うことを容認していってもいいのではないかと思いますが・・・と思う今日この頃です。みんなそう思って暗闇をさまよっているのでしょうが。

(2)李肇星外交部長が、6カ国協議についての意見交換のため、21日に駐北京北朝鮮大使と会談、23日にパウエル米国務長官とロシア外相と電話会談を実施
⇒日本にはいつお呼びがかかるのでしょうか。寂しいですね。

 

20030825

 

(1)中国社会科学院数量経済・技術経済研究所の汪同三所長の論文

⇒今年上半期の消費の増加率が8%だったのに対し、投資の増加率が31.1%と極端に大きいことを挙げ、その問題性を指摘しています。

 

20030826

 

(1)胡錦濤がイラン外相と会見し、イランの核問題に対する原則的立場を表明
⇒いかなる形式の核兵器拡散に反対し、核エネルギーの平和利用に関する国際協力を支持し、イランが国際原子力エネルギー機構との協力強化を決定したことを賞賛する。

(2)税務問題の特集を掲載
⇒各地方での税務強化の様子を伝え、当局の税金取り立てを強化の姿勢を表してる。最も広範な人民の根本の利益を実現するための財政保証にとって、税収強化が不可欠だということ。

 

20030827

 

(1)温家宝総理が中央テレビを視察
⇒「各級政府はテレビメディアが世論の宣伝と世論の監督作用を発揮することを支持しなければならない」
 「世論監督を強化し、さまざまな不良現象を暴露し、政府の工作に対し批判・建議を提起し、各級政府が工作を改善するよう促さなければならない」
 温家宝自らが中央テレビを視察し、政府への監督作用に力を入れるようカツを入れました。是は中央テレビを通じて、各地方のテレビ局に対しても指示をしているわけであり、今後しばらく各テレビ局が政府批判を含めた積極的な報道を進めていくことでしょう。

(2)6ヵ国協議に関する特集を掲載
⇒各国駐在記者による各国の対応、核問題の年表、昨日中国国内メディア限定で行われた王毅外交部副部長へのインタビュー全文からなり、興味深いです。

 

20030828

 

(1)全国人民代表大会常務委員会で「行政許可法」が可決。採決の票数を公表。
⇒賛成151票、反対0票、棄権1票。このような採決の票数が国内のメディアで公表されたのはたぶん初めてではないでしょうか。驚きです。胡錦濤政権の情報公開の方針を反映したものか、今回だけの特例か、次の採決を楽しみにしましょう。
 この法律ができたことで、@行政審査・認可手続きが簡素化される、A行政許可の範囲と設定権限が規定された、地方や部門の保護主義を打破できる、B行政許可の手順が公開され、ブラックボックスな部分があきらかになり、また不正も減るだろう、C経済グローバル化やWTO加盟への適応から手続きの透明化の要求に応える、などのメリットがあると呉邦国は言います。以下に運用されるか、期待しましょう

(2)6ヵ国協議始まる
⇒特に目立った報道はありません。

 

20030829

(1)江沢民が国防科学大学創立50周年を記念して、題字を書きました
⇒題字の内容は「厚徳博学 強軍興国」です。中央軍事委員会トップだけに、大学も胡錦濤よりも江沢民に題字頼むあたり、軍隊ではまだまだ江沢民健在です。

(2)6ヵ国協議についても、大きく取り上げていません

⇒1つの記事には、「多くの二国間の接触が実現していることは、相互尊重、平等協議の精神を体現しており、分岐を減らし、共通認識を追求することに有益であると評価しています。この評価に、この6ヵ国協議に対する中国のスタンスが表れていると思います。