第12回 消えた表現―第16回党大会閉幕(その3)(2002年12月2日)


(続き)

 次に、党大会の3つめのポイントである党規約改正について、見ておこう。何が変わったのだろうか。そして、それをどう解釈したらいいのだろうか。


党規約追加部分

党規約は大きく2つに分かれている。1つは前半の「総綱」であり、党の在り方、社会認識などが説明されている。もう一つは後半で、党員資格、組織などの細かい規定53条からなっている。第16回党大会での党規約の改正は、主に前半の「総綱」部分である。改正のポイントは江沢民報告で示された現状認識を党規約に反映しようとするものである。

以下、〈カッコ〉部分が新たに加わった部分である。

 
 ※「中国共産党は、中国の労働者階級の前衛隊である、〈と同時に中国人民と中華民族の前衛隊である〉」

 ⇒【解説】現在の社会には、肉体労働者と農民、知識分子、幹部、軍人を含む「労働者階級」以外の階級、すなわち「新たな社会階層」が発生し、大きなシェアを占めるようになってきた。そのため、中国共産党が利益を代表する、すなわち「味方」につける階級を拡大するために、加えられた。


 ※「中国共産党は、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、★小平理論、〈そして“三つの代表”重要思想〉を自らの行動指針とする」


  「〈第13期4中全会以来、江沢民同志を主要代表とする中国共産党人は、・・・・・“三つの代表”重要思想を形成した。・・・・・〉」

⇒【解説】江沢民が毛沢東や★小平と並び称され、また「三つの代表」重要思想が共産党の行動指針として、マルクス・レーニン主義や毛沢東思想、★小平理論と並べて、加えられた。



 「〈新世紀新段階において、経済・社会発展の戦略目標は、すでに初歩的に到達した小康レベルを強固にし、発展させ、党創立100周年には10数億の人口がさらに高いレベルの小康社会を打ち建て、恩恵を受けていることである〉」

⇒【解説】江沢民報告で打ち出された発展目標である全面的な「小康」社会の実現が盛り込まれた。


 
「〈わが党の最大の政治的優勢は大衆と密接に結びついていることであり、党の執政後の最大の危機は大衆から離れることである〉」

⇒【解説】大衆から離れていっている党の危機感が盛り込まれた


「〈党指導機関と党員指導幹部に対する監督を強化し、党内監督制度を絶えず整備する〉」

⇒【解説】江沢民報告でも取り上げられた「党内民主」の実践が盛り込まれた


※ 
第1条「年齢が満18歳の中国の労働者、農民、軍人、知識分子、〈そしてその他の社会階層の先進分子〉は・・・・・中国共産党に申請、加入することができる」

⇒【解説】「その他の社会階層の先進分子」の入党を認めた。


 第3条「党員は下記の義務を履行しなければならない:(1)マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、★小平理論、〈そして“三つの代表”重要思想〉を真剣に学習し、・・・・・」


※ 第31条「・・・・・党の基層組織の基本任務:・・・・・(2)組織党員は、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、★小平理論、〈そして“三つの代表”重要思想〉を真剣に学習し、・・・・・」


※ 第34条「党の各級指導幹部は・・・・・以下の基本条件を備えなければならない:(1)・・・・・〈“三つの代表”重要思想を真剣に実践し、〉・・・・・」

⇒党員の条件として、「三つの代表」重要思想の学習、実践が盛り込まれた。


※ 第32条「・・・・・〈非公有制経済組織の中の党の基層組織は、党の方針政策を貫徹し、企業が国の法律・法規を守るよう導き、監督し、労働組合、中国共産主義青年団等の大衆組織を指導し、従業員大衆を団結、各方面の合法的権益を維持し、企業の健全発展を促進させる〉・・・・・」

⇒非公有企業の合法的地位が認められたことに対応し、それに対する党の指導強化が盛り込まれた


 以上が党規約の主な追加部分である。江沢民個人の存在が毛沢東や★小平と並んで盛り込まれたのは予想以上の展開だった。そして追加の多くは江沢民報告に沿った「三つの代表」重要思想にかかるものだった。



党規約削除部分

次に削除された部分に注目してみよう。以下〈カッコ〉部分は、削除された部分である。


 「マルクス・レーニン主義は、・・・・・〈資本主義制度が克服することのできない固有の矛盾を分析し、社会主義社会が資本主義に取って代わり、最後には必ず共産主義社会に発展すると指摘している。『共産党宣言』が発表されてから100年あまりの歴史が証明しているように、科学社会主義理論は正しく、社会主義は強い生命力を備えている。社会主義の本質は、生産力を解放し、生産力発展させ、搾取を消滅させ、最終的に共同富裕に到達することである〉。」


 ※   「〈社会主義には発展過程において、曲折と反復があるが、社会主義が必ず資本主義に取って代わることは、社会の歴史発展の後戻りできない全体的な趨勢である。〉」

⇒【解説】共産党のレゾン・レートル(存在理由)とも言える伝統的マルクス主義理論の表現、すなわち歴史は必ず社会主義が資本主義に取って代わり、そして最終的に共産主義を実現するという表現がそっくり削除されてしまった。

もちろん、上記部分が削減された後には「党の最高理想と最終目標は共産主義の実現である」「中国の共産党人が求める共産主義の最高理想は社会主義社会の十分な発展と高度な発展の基礎の上に初めて実現するものである」との表現が新たに盛り込まれた。しかし、伝統的マルクス主義理論とは異なるニュアンスを感じる。

これは深読みかもしれないが、そこには「資本主義」を「取って代わるべき悪しき対象」と捉えない配慮が見られる。これは、経済発展を第1とし、それに伴い非公有制経済、そして新たな社会階層の役割を評価する「三つの代表」重要思想を党の活動指針として全面的に押し出そうという現在の共産党の方針に沿ったものである。伝統的マルクス主義理論の表現の削除が、中国共産党が「共産党」でなくなった、なくなろうとしていることを如実に表していることを軽視することはできない。他方、それでも最終目標に「共産主義の実現」を掲げておかなければならないところに共産党の看板を掲げる政党の性を感じずにはいられない。



(次回、「労農階級政党」から「資本家・エリート政党」へ)