第11回 人事は江沢民の大勝利−第16回党大会閉幕(その2)(2002年11月27日)



(続き)

総書記、中央政治局メンバーは、党大会終了後に開かれた第16期中央委員会第1回全体会議(一中全会)において、基本的に選挙で決定された。以下、人事に対する評価をしてみよう。


●総書記−江沢民の去就

予想通り江沢民が辞して、胡錦濤が就いた。しかしながら、中央軍事委員会主席については江沢民が留任した。これにより、江沢民は胡錦涛体制下での政治的影響力を行使するための権力資源を確保したと言える。


●中央政治局常務委員

党の最高意志決定を担う中央政治局常務委員は、15期が7名だったのに対し、今16期は9名となり、2名増えた。9名のうち5名が明らかに江沢民との結びつきが強く、「江派」と言っていいだろう。これにより江派は常務委員の会議で過半数をとることができ、江沢民の影響力を行使することが可能である。江沢民はきっとこれがしたかったのだろう。逆に非江派は、胡錦濤と温家宝、羅幹と見られる。常務委員の順番は序列順である。

※序列第1位:胡錦濤−党総書記なので、指定席の第1位。

※序列第2位:呉邦国−(江派)江沢民としては、序列第1位は胡錦濤に譲ることはやむを得ない。しかし、常務委員の過半数を押さえたとしても、序列第2位まで非江派に渡すことはメンツが許さなかったのではないだろうか。よって、第2位は死守しなければならなかった。その際、江派5人のうち誰が就くかといえば、15期で中央政治局員だった3名のうち、副総理という高職に就いている呉邦国というのは自然の流れだったのだろう。来年3月には、李鵬の後任として全人代常務委員長になると予想される。

※序列第3位:温家宝−来年3月には、朱鎔基の後任として総理になると見られており、順当。

※序列第4位:賈慶林−(江派)中央政治局委員の留任までと予想したが、常務委員になったことは驚きである。ましてや、bSとは。中華人民共和国史上最大の汚職事件と言われる福建省での密輸事件の疑惑に対する禊ぎは済んだのだろうか。一説には、事件に直接関与したと見られる妻とは離婚したらしい。それが禊ぎなのだろうか。共産党がいくら反腐敗と言っても、一党支配体制内での人事は、モラルもなく、何でもありだ。賈夫妻の仲人と言われている江沢民の影響力がフルに発揮された抜擢と言える。兼職は、副総理もしくは全国政協主席。

※序列第5位:曾慶紅−(江派)15期で中央政治局候補委員だったので、中央政治局常務委員への昇格は破格。そもそも総書記就任や序列第2位などとは虫の良すぎる話だった。序列第5位は少し良すぎるかとも思うが、まあ妥当だろう。これも江沢民の影響力の賜物。書記処書記トップが兼職で、来年3月に国家副主席になるかどうか、私は懐疑的。

※序列第6位:黄菊−(江派)中央政治局委員の留任ぐらいが妥当だと予想したので、常務委員になったことは意外だった。これも江沢民の影響力。兼職は副総理、もしくは全国政協主席。

※序列第7位:呉官正−昇格の背景がよく分からない。曾慶紅と近いという情報があり、江派と言えるかもしれないし、宋平に引き上げられたという情報もあるので胡錦涛や温家宝に近いと言えるかもしれない。中央規律検査委員会書記に就任したのは、下馬評の高かった羅幹が序列第9位だったため、お鉢が回ってきたにすぎないという見方もできるし、また江沢民が自らに関わる汚職追及を恐れたため、自分に近い故に登用したという見方もできる。後者ならば呉官正は江派に位置づけられる。

※序列第8位:李長春−(江派)予想通りの昇格。兼職は副総理だろう。

※序列第9位:羅幹−李鵬に近いと見られており、序列上位に入ると予想していたが、予想を大いに下回り、最下位となってしまった。李鵬の力の限界か、それとも江沢民の影響力があまりに強かったのか?結局2名増枠になったのは、李鵬が羅幹を常務委員に押し込むための措置だったと思われる。ちなみに、1名増ではなく、2名増にしたのは、多数決を可能にするためである。


●中央政治局委員

 中央政治局常務委員9名を除く15名と候補委員1名について見ると、誰が江派か、非江派か、胡錦涛派かといった派閥区分をするのは難しい。

15名中、半数を超える8名が地方党委員会(党委)書記である。しかし、そのことで胡錦濤体制が地方重視を打ち出していると考えるのは早計だ。むしろ、中央と地方の人事交流制度がうまく機能していることの現れであり、この制度により地方幹部になっている優秀な人材を抜擢したということだろう。

この8名のうち、@張徳江(浙江省党委書記)の11月23日、広東省党委書記への移動が発表された。A王楽泉(新彊ウイグル自治区党委書記)、B張立昌(天津市党委書記)の2人は任期が5年以上経っており、早晩中央に移動するのではないだろうか。来年3月に国務院入りする可能性が高いと予想している。北京市(C劉キ)、上海市(D陳良宇)、広東省の各党委書記は中央政治局委員の指定席を持っている。

その他の地方幹部であるE回良玉(浙江省党委書記)、F兪正声(湖北省党委書記)、G周永康(四川省党委書記)も、彼らが地方幹部だから選ばれたのではなく、優秀な人材ゆえに選ばれていると考えた方が妥当である。回は農業に通じており、来年3月農業担当の副総理就任の声が高い。兪は二世政治家であるが、青島市党委書記時の実績も高く評価されている。周も資源エネルギー分野を専門にしているため、国土資源部長を経て西部大開発を進めるために最前線の四川省に派遣されたのである。

 また、H王兆国(中央統一戦線部長)I劉雲山(中央宣伝部長)J賀国強(中央組織部長)、は、党中央の重要ポストであり、順当に入ったということだろう。

 軍人であるK各伯雄とL曹剛川は共に中央軍事委員会副主席であり、指定席を持っている。

その他、M呉儀(国務委員)は対外貿易経済合作部長を経験し、GATT加盟交渉など外国との貿易交渉で実績を残し、海外でも「中国のサッチャー」と評価されている。貿易問題など経済外交の重要性の高まる外交を主管する副総理に就くと予想される。N曾培炎(国家発展計画委員会主任)も数少ない経済通であり、温家宝を補佐してマクロ経済を主管する副総理に就くと予想される。


●中央委員・中央候補委員

 これについては、別途あらためてコメントしたい。


●終わりに

 総書記の交代は予想通りだった。中華人民共和国建国史上初めて平和的権力委譲が行われたことの意義は大きい。それだけ、江沢民体制期は政治的に安定していたということが言える。

しかし、中央政治局常務委員の構成では江派が過半数を占め、江沢民の政治的影響力は引き続き維持されることになった。中央政治局委員の構成については、特に目新しさは感じられない。むしろ経済通の人材不足が現れている。

今回、李瑞環が引退したことは意外だった。なぜならば、彼は68歳であり、中央政治局常務委員の70歳定年という内規に抵触していないため、留任と予想していたからだ。もし引退があるとしたら、胡錦涛新体制ということで、胡錦涛が仕事をやりやすくするため、人員を一新する意味で、第3世代は全員引退した方がいいと考えられた場合だろうと予想した。確かに結果的に第3世代は全員引退となったが、それは人員一新という美しい理由からではないと思われる。李瑞環も15期の序列4位という最高層の指導者だったわけなので、江沢民同様に権力へのどん欲さは持っていたと判断するのが自然だろう。それ故に、李瑞環が簡単に引退を飲んだとは思えない。江派が過半数を獲得するために、江沢民による力ずく排除があったのだろうと思われる。最高指導層の人事というのは、ドロドロした権力闘争の結果と言えるのである。これは、世界各国共通であり、中国とて例外ではない。

常務委員の枠が増え、中央政治局全体の定員が増えたため、副総理枠も増加する可能性があることも付け加えておこう。


(次回、党規約改正、中国政治の行方)