108回 20121月の『人民日報』(2012930日)

 

20120108】全国金融工作会議で温家宝が講話

 167日、全国金融工作会議が開かれた。温家宝が講話を行い、李克強が出席した。温家宝の発言として、会議内容が報道された。主な内容は以下の通り。

 1.深刻な問題と潜在的なリスク

 (1)金融機構の経営方式が全体的に粗放であること

 (2)公司ガバナンスとリスク管理に少なくない問題が存在すること

 (3)農村金融と中小金融機構が相対的に後れており、金融の監督管理能力のレベルアップを待たなければならないこと

 (4)信用貸出政策と産業政策の結合が緊密ではないこと

 (5)実体経済の支持に対し適時にかなった力のあるものではないこと

 ―「特に注意すべきは、国際金融危機はまだ終結しておらず、艱難辛苦の意識、責任意識を強め、平和なときでも警戒を怠ることなく、金融工作を新たな水準に高めるよう努力しなければならない」

 2.堅持すべき目標

 (1)金融サービスの実体経済への奉仕という本質的な要求=@投入資金の確保、A融資難、融資コスト高の解決、B社会資本の実体から離れバーチャルに向かうこと、銭転がしの抑制、Cバーチャル経済の過度の自己循環と膨張の防止、D産業空洞化現象の出現の防止

 (2)金融資源の市場配置改革の方向性=政府の作用の領域と境界を明確にする

 (3)創新と監督管理の協調という発展理念=金融組織の創新、製造とサービスのモデルの創新

 (4)リスクの防止と解消を金融工作の生命線とすること

 (5)自主的、漸進的、安全、winwinの開放方針

 3.具体的な措置

 (1)経済構造調整、省エネ排出削減、環境保護、自主創新への重点支持、農村金融サービスの不足、小型超小型企業の融資難問題の解決

 (2)民間資本の金融サービスへの参入、国家開発銀行の商業化改革

 (3)金融監督管理の強化、改善

 (4)地方性債務リスクの防止、解消

 (5)資本市場と保険市場の構築強化

 (6)金融マクロコントロールシステムの改善、金融政策と財政政策、監督管理政策、産業政策の協調分担の強化、経済発展と金融安定の有効な促進、人民元為替レート形成メカニズムの完備

 (7)金融の対外開放の拡大

 (8)金融基礎建設の強化

 4.中央経済工作会議への対応

 (1)中立な金融政策を実施し、適応性、柔軟性、展望性をさらに高め、社会融資規模の合理的な増加を維持する

 (2)信用貸出の構造をレベルアップし、国家重点の項目、保障性住宅建設、産業政策に符合した企業、特に小型超小型企業、企業技術革新に対する信用貸出の支持を強化する

 (3)新株発行制度の市場化改革をさらに進める

 (4)国内外の経済情勢を鋭敏に観察、追跡分析し、対応マニュアルをきちんと作り、しっかりと経済金融リスクを防止する

 王岐山が会議精神の実現に対し指示を行った。

 

 中央経済工作会議から約1カ月が経ち、中央の認識が変わったかどうかに注目した。結論から言えば、特に変わりない。金融政策として緩和はしないが、ピンポイントに緩和を行うという政策の変わりはない。ピンポイントは4-2にある分野であることを再確認した。

 報道の仕方として、温家宝と李克強が出席したことは、記事の冒頭のリードで示されている。王岐山は指示を行ったことが明示されているが、記事の最後。このほかの副総理もみんな出席したが、記事の最後に列挙されるのみ。李克強は王岐山とは違う存在だという印象付けがされている。

 

20120109-2】「重慶ロジック」で薄煕来が再浮上を図る

 1面の真ん中に「重慶が共同富裕を探り求める」と題する記事が大きく掲載されている。重慶市党委員会が採択した「3つの格差を縮小し、共同富裕を促進することに関する決定」は「共富12条」と呼ばれている。「3つの格差」とは、(1)都市と農村、(2)地域間、(3)貧困と豊かさのこと。「決定」では、これら3つの格差を縮小するための12項目が挙げられているようだ。

 記事は次のようにいう。

 ―薄煕来「一般的な理解では、重慶経済の発展は重大な飛躍を実現し、完全難高い成績を収めている。しかし重慶の政策決定者は非常にはっきり分かっており、科学的発展観の要求に沿って、都市と農村の統一計画、均衡発展、共同富裕の座標を考慮し、一部の人たちが心配している問題を発見している。その中で特に重視しているのが3つの格差問題である」

 ―記者「中央の要求に従い、一般の人々の要求に応じ、発展過程で、統一的に計画し各方面に配慮し、都市と農村、工業と農業、発展と分配の関係を立派に処理し、3つの格差を同時に縮小し、共同富裕の道をしっかりと揺らぐことなく進んでいる。これが科学的発展観に符合した『重慶ロジック』である」

 

 1面に大きく重慶ネタ、薄煕来ネタが掲載されている。内容が格差縮小ものなので、春節を前にした「お約束」の、共産党がいかに人民のことを思ってがんばっていることを宣伝する記事と言えなくない。しかし、事が重慶であるだけに、それだけには思えない。

 記事は、いかに重慶市当局、薄煕来が格差問題を重要視し、対策をとって、成果を収めているかを、データを挙げて宣伝している。春節のお約束に乗じて、薄煕来のアピールに思える。

この記事を見てあらためて思うことは、こうした指導者の成果アピール記事は、指導者が求めて掲載させているのか。それとも『人民日報』が選んで掲載しているのか。それも順番にいろんな指導者をまんべんなく掲載しているのか、それともその指導者を推しているのか。ケースバイケースなのだろう。

 さてこの記事で目についたのは「重慶ロジック」というターム。一昨年あたりは薄煕来が「重慶モデル」をアピールし、昨年の共産党創立90周年で「唱紅歌」もピークに達し、それ以降薄煕来の存在感が薄れていたように思ったが、今年は「重慶ロジック」という言葉で、人事レースのラストスパートをかけるのだろうか。格差縮小は、中国全体の課題で、重慶だけの特別な課題ではない。それだけに、どこの地方指導者の似たようなことをやっているのだが、「重慶ロジック」という言葉で、薄煕来がその最先端を行っているような錯覚を起こさせるわけだから、彼の宣伝能力は長けている。

 

20120109-2】「穏増長」と「保増長」の違い

 全国金融工作会議が開かれた後なので、経済関連の記事が多い。全国政協経済委副主任の李徳水と中国人民銀行行長の周小川のインタビュー記事も掲載されている。

 「経済成長速度の緩和と物価の趨勢に不確定性あり」との記事では、姚景元(国務院参事室特約研究員)と藩剣平(国家信息中心首席エコノミスト)という官庁エコノミストのコメントが掲載されている。その中で、注目したのが姚の「穏増長」と「保増長」は異なるとの発言。

 ―「穏」はマクロ経済政策の連続性と安定性を維持し、劇薬の必要はない。「保」は劇薬を必要とし、4兆元も投資のような大きな処方が必要。「保」は全力でひとつの方向に推進する必要があり、「穏」は経済の安定した比較的速い発展を維持し、相当の精力をもって構造調整と方式転換を考慮しなければならない。

 

 2008年の時の「保増長」と今回の「穏増長」の違いを説明していて興味深い。「穏」は中長期的な観点から経済成長を安定させることを意図しており、そのために構造調整や方式転換を重視するというもので、「保増長」とは違うらしい。

 

20120110】胡錦濤が党の「純潔性」を強調

 党第17期中央規律検査委員会(中規委)第7回全体会議が開催されており、胡錦濤が重要講話をおこなった。注目した発言は次の部分。

 ―「実践が証明するとおり、わが党はマルクス主義政権党であり、絶えず純潔性を守ってこそ、群衆の中での威信を高めることができ、人民の信頼と支持を勝ち取ることができ、絶えず政権運営の基礎を強固にすることができ、党と国家の隆盛、長期にわたる社会秩序の安定を実現することができる」

 ―「党の純潔性を維持するには、党が党を管理し、厳重に党を治めることを堅持しなければならず、思想理論武装と厳格な隊伍管理の結合、党の優良な作風の発揚と党性の修養と党性の鍛錬の強化の結合、断固とした腐敗への懲罰と有効な腐敗予防の結合、監督作用の発揮と党規律の厳格化の結合を堅持し、絶えず自己浄化、自己完備、自己革新、能力の自己向上を高め、終始党の性質と主旨を堅持し、共産党人の政治の本来の姿を長く保たなければならない」

 

 キーワードは「純潔性」。「純潔性」は昨年20101月の中規委の会議では胡錦濤が語っていない言葉である。それだけ党員に「純潔性」が欠けていることの表れ、危機感を持っているということだろう。党員、とりわけ党幹部の腐敗が深刻なことは周知の通りだが、その原因が純潔性に欠けることという今年の認識を示したといえる。

 「純潔性」ということを持ち出すことは、共産党がある意味、末期的な状況にあることを示している。今やさまざまな私利私欲を抱えて集まっている共産党員に、「純潔性」を求めても無理なことは胡錦濤も分かっていること。その不可能な「純潔性」をあえて求心力として掲げなければならないということは、ほかに手がない、お手上げであることを胡錦濤自ら認めているようなもの。そのくらい「純潔性」という言葉は重い。この「純潔性」発言にはちょっとショック。

 

20120111】「『発展のリレー』は『汚染のリレー』」

 王社坤「『発展のリレー』は『汚染のリレー』に変えることはできない」というコラムが掲載された。主な内容は以下の通り。

 ―東部地区の環境許容量には制限があり、汚染に対する制限はさらに厳しい。

 ―中西部地区は発展の大きな圧力がある。企業誘致が第1の政治業績となっており、一部の地方の教育局、環境保全局、そして法院、検察院すら企業誘致の任務を負っている。

 ―(東部は)移転により産業構造をレベルアップさせ、(中西部は)移転を受け入れ飛躍的な発展を実現しなければならない。他方、汚染物の排出容量は環境許容量を大幅に超え、環境の質について人々を不安にさせ、環境事故の多発期に突入している

 ―中西部地区は科学的発展観と政治業績観を樹立し、国家の主体効能地区計画と地域の環境資源積載重量力を基礎とし、地域の事情に合わせて東部地区の産業移転を受け入れなければならない。他方、中西部地区は積極的に環境保護の職責を履行し、環境保護の法律と環境基準を厳格に履行し、環境保護のデッドラインをしっかり守らなければならない。

 

 東部から中西部へ産業移転は汚染移転ではないかという問題提起をしている。しかし、以前にも見たことのあるようなよくある内容だ。コラムは、東部からの産業移転を非難することなく、中西部の当局に対し、発展第一の政治業績観を変え、環境保護規制を強化するよう求める内容になっている。

 同じようなことはずっと言われてきている。むしろなぜ長年そうした問題が解決できないのかを議論すべきなのだが、それには触れていない。

 それにしても、改めて思うのは、「自らの発展のために、他人を食い物にする」という無情さである。海外に対してのみならず、国内でもそうなのだ。これは発展段階の問題なのか、それとも国民性なのか。発展段階だと思いたいが。きれい事もいいが、そういう国と付き合っていかなければならないという側面も私たちは忘れてはならないと思う。

 他方、「一部の地方の教育局、環境保全局、そして法院、検察院すら企業誘致の任務を負っている」ということで、司法の独立性などあったものではない。これは政治体制の問題なのだろう。

 

 王岐山とガイトナー米財務長官が北京で「工作会談」を行った。王岐山は胡錦濤特別代表として、ガイトナーはオバマ米大統領の特別代表として会い、欧州債務危機、国際経済の規則と標準の改革について意見交換を行った。

 

 「工作会談」という名称は珍しく、通常の「会談」とは異なる。「工作」が付く分、極めて実務的な意見交換を行ったという印象を与える。しかも、2人が最高指導者の特別代表という資格で会っていることも、この会談が極めて特別な会談だという印象を与える。しかし会談内容は『人民日報』では一切分からない。

 

20120112】党の「純潔性」の維持を指示

 9日の党中央規律検査委員会全体会議での胡錦濤の重要講話学習を指示する評論員文章の連載が始まった。最初の文章のタイトルは「純潔性を維持することが、党をさらに頑強にし、力を与える」というもの。この文章で注目したのは次の部分。

 ―「党の純潔性と先進性は本質的に一致するものである。純潔性をマルクス主義政党の価値理念とし、マルクス主義政権党の行為準則とすることは、終始わが党が変わらず追求し死守すべきことである。」

 ―「新中国以来、特に改革・開放以来、わが党は終始純潔性を維持することを党建設の重要な目標とし、純潔性を維持する観点から党風清廉政治建設の重要性と緊迫性を深刻に認識し、旗幟を鮮明にして反腐敗を党の純潔性を維持する重要な手段とし、党組織の健全化の維持に力を入れている」

 

 110日のエントリーで、この胡錦濤の重要講話で「純潔性」がキーワードであると指摘したが、連載の第1回の文章で「純潔性」をとりあげたことは、やはり重要講話のポイントが「純潔性」にあることを示している。

 この純潔性が「マルクス主義」によるものだという説明は、実質的な意味ではなく、象徴的な意味である。しかしそこに戻らなければならないと言わなければならないところに、組織の一体化という点で、胡錦濤政権が、いや共産党が追い込まれていること、新たな求心力を見つけ出すことができないことを表しているといえる。つまり、組織を一体化する方策がないことが露呈されており、「純潔性」という現在では意味をなさないものを持ち出すに至っているということだ。「純潔性」という言葉を持ち出した意味は重い。

 

20120113】南シナ海問題での立場を確認

 鐘声「南シナ海問題解決には実際何が必要か」と題する文章が掲載されている。11315日に開かれる中国=ASEAN「南シナ海における関係国の行動宣言」実現第4回高官会に関連して、南シナ海問題に対する中国の立場を確認する文章だ。

 ―「南シナ海の問題が中国とASEANの関係に面倒をもたらしている。とりわけ、一部の国では国内政治と経済に対し争点となっており、強硬な態度も見られ、第三者の力を借りて問題を解決しようとすら考えている。これは疑いもなく話し合いによる解決を難しくしている」

 ―「南シナ海の平和の維持は南シナ海周辺諸国の共同責任であり、中国の努力には当然関係国の積極的な回答を得られるべきである」

―「南シナ海問題からわかることは、平和発展の道はさまざまな挑戦に遭遇しうるということだ。どのようにこの道を行くのか、植民によって『家を興し身代を築く』ことを強奪する西側からどのような啓示も見つけることはできないし、何の経験の循環もない」

 

 決して目新しい見解はなく、これまでの立場を繰り返しているだけ。南シナ海問題は、当事国どうしで解決するもので、米国の介入を拒否するもの。私もそれを確認するに留める。

 

 党中央規律委員会での胡錦濤重要講話の学習指示に関する連載の第2回目は「思想の純潔を維持し、精神の故郷をしっかり守ろう」というタイトルの文書を掲載。ここでもやはり党員の「純潔性」を掲げている。

 

 農業部が全国24カ所でスタートした農村改革試験区工作を解説している。年末年始の『人民日報』を読んでいないので確認が取れていないが、これが今年の中央文件第1号絡みのものだろうか。

 

 李克強が創価学会副理事長と会見した。野田首相は李克強と会見できなかったのに。

 

20120115】新華社が台湾総統選挙を分析

 昨夜14日夜おこなわれた台湾総統選挙で、中国国民党の馬英九が当選した。これに対し、『人民日報』は、1面で選挙結果を伝え、4面で党中央台湾工作弁公室・国務院台湾事務弁公室の談話と、新華社の論評を掲載している。中国側が選挙をどう分析しているかに関心があるので、新華社の論評に注目した。主な内容は以下の通り。

 (1)選挙戦分析

 ―「両岸関係の平和発展が島内の主流の民意の普遍的な支持を得て、国際社会の広範な賛同を得た」

 ―「一貫して、1つの中国の原則を堅持することを体現した『九二コンセンサス』を承認するかしないかが選挙過程の主要な議題、そして国民党と民進党の候補者の攻防の焦点となった」

 ―「台湾各界の代表的な人士、および重量級の企業家が相次いでさまざまな方法で、公開で『九二コンセンサス』の支持、賛同を明らかにし、継続的な両岸関係の平和安定への願いを希望した」

 (2)民進党の敗因分析

 ―「民進党は両岸関係の現実と台湾の民意の圧力に迫られ、今回の選挙では両岸イシューをマイナスに操作するという長期的なこれまでのやり方を変え、『台湾独立』の要求を薄め、両岸政策の論述を調整するという策略を採った」

 ―「しかし蔡英文は、再び『九二コンセンサス』を否定し、『一辺一国』の分裂の立場を放棄せず、民衆の懸念と不安を取り除くことを難しくし、気勢は強含みだったが選挙に勝つことはできなかった」

 ―「今回の選挙から、両岸関係の平和発展は、『概念』から現実に変わり、台湾社会の各階層に影響を与え、民生経済との緊密な結合し、台湾民衆の賛同を得たといえる」

 (3)両岸関係以外のイシュー分析

 ―「今回の選挙は、台湾の内部事務が、両岸関係の積極的な影響以外に、台湾民衆の切実な利益の考慮と感情投射に反映した」

 ―台湾経済の10年の停滞と「国民党改革の推進が党内の深刻な不適応と多方面の反発を引き起こし、選挙動員能力を弱めた。これは馬英九が今回苦戦に陥った主な原因である」

 ―民進党は、陳水扁の腐敗イメージを払拭し、「両岸関係を議題とすることを回避し、”台湾独立”の論調を軟化させ、選挙戦の主軸を公共政策と民生の議題に定め、貧富の格差問題を宣伝し、自らを中低階層の代表であると掲げ、中間層の支持を獲得することに力を入れ、選挙情勢での高い気勢を維持した。しかし結局は大陸政策と清廉執政に対する民衆の不信任を受け、敗れた」

 (4)総括

 ―「今回の選挙結果は、両岸関係の平和発展の継続にとって新たなチャンスを提供した。未来展望では、両岸双方がすでにある政治の相互信頼の基礎をたえず強固にし、増強してこそ、両岸の話し合いはさらに広範な先行きを切り開き、両岸の交流協力は新たな進展を得て、両岸同胞のさらなる幸福を生み出す」

 ―「同時に見るべきは、台湾情勢は依然として錯綜して複雑であり、『台湾独立』勢力が両岸関係の発展を阻害する可能性があり、両岸間に長期的に存在する固有の矛盾と対立を取り除くにはなお長い時間が必要で、両岸民衆の共同利益と感情の連結の強化を待たなければならない」

 ―「両岸同胞は両岸関係の平和発展の政治、経済、文化、民意の基礎をたえず強固にし、強化しなければならない」

 

 民進党の選挙戦略の分析に見られるように、冷静に選挙結果を分析しようという姿勢はうかがえる。しかし、中国の融和的な対台湾政策のおかげで馬英九が勝利したという基本線は崩していない。また、終盤なぜ蔡英文が「九二コンセンサス」の否定を持ち出したのか、馬英九が政治対話を持ち出したのか、そうした選挙戦の細かい駆け引きに関する分析はない。また台湾でも格差問題がイシューであることを伝え、中国と同じだということも伝えようとしている。国内向けに共産党の影響が小さくないことを宣伝するための、選択的な分析であるという点は否めない。そして、ここからは中国が今後どのような対台湾政策を採るかということについて、具体的なことを読みとるのは難しい。

 

20120116】海外の不動産バブル崩壊の啓示

 謝経栄「海外の不動産バブルのガバナンスと啓示」と題する文章が掲載された。謝は中国人民大学教授・全人代財経委委員。主な内容は次の通り。

 (1)海外不動産バブルの特徴

 (2)不動産バブルを判断する基準

 (3)海外不動産バブルのガバナンスの経験と教訓

  @政策、特に金融政策調整の速すぎること、頻繁すぎることを避ける

  A総合的な措置を採って不動産価格の速すぎる上昇を抑えることを堅持する

  B不動産市場の地域的特徴に配慮し、国の大政策、大目標を変えないという状況下で、地方の事情に合わせた方法を採る

 この他、以下の関連記事が掲載されている。

 連平「我国の国際資本流動は安定の方向にある」。連は交通銀行首席エコノミスト。

 特集「カギとなる年の金融を見る」

 特集「金融危機が資本主義思潮の変革をもたらしている」

 

 海外、とりわけ日本の不動産バブルの紹介をして、中国国内への警鐘を鳴らしている。当局の不動産バブル崩壊への警戒感がうかがわれる。

 

 李長春が春節を前にマルクス主義理論研究・建設工程諮問委員会委員を慰問した。

 

 党中央指導者が春節前にマルクス主義理論研究・建設工程諮問委員会委員を慰問するのには違和感がある。同時に、胡錦濤の中央規律検査委員会での重要講話の学習を促す連載文章の第3回も掲載されている。タイトルはやはり「隊伍の純潔を維持し、党の基礎を強固にしよう」というもので、やはり「純潔」がキーワードになっている。

 マルクス主義理論を純潔のよりどころにしようと胡錦濤が訴えたことを考慮すれば、李長春の慰問も、胡錦濤に言われて、または胡錦濤に配慮して、「左」派への配慮を見せたものと思われる。昨年後半から、右派の発言が多かったから、バランスをとらなければと考えているのかもしれない。

 しかし、「マルクス主義」を掲げているからといって、党中央が計画経済に戻ろうとか、毛沢東時代に戻ろうなどと考えているのではない。どうも短絡的な誤解もあるが、権力闘争上、象徴的に使われているだけ。

 

20120117】日本政府の尖閣などの無名島命名の表明を非難

 鐘声「中国の領土主権維持の意思を探ることを許さない」と題する文章が掲載されている。16日、日本政府が3月までに39の無名島の命名を行うこと正式表明したことへの非難である。

 ―「20109月、日本の巡視船が中国漁船に衝突した。中国側は厳正に、日本の巡視船が魚釣島付近の海域でいわゆる『法に則った』活動を行ってはならず、中国漁船と人員の安全を脅かすいかなる行為も行ってはならないことを指摘している」

 ―「魚釣島付近の島への命名は、おおっぴらにはばかることなく悪事を働き、中国の核心的利益を侵害する行動である」

 ―「中国は一貫して大局に着眼し、魚釣島問題が中日両国の関係全体に傷害を与えることを避けることを堅持している。日本は中日戦略的互恵関係を重視し、東アジアの安定を重視すべきである。人の意見を聞かずあくまでも自分の考えで物事を推し進めてはならない。中国の主権維持の意志と決心を試そうとしてはならない」

 

 日本政府が正式表明したことを伝える記事とともに、この文章は掲載されている。内容は、一方的に中国の主張を展開しており、鐘声の文章としては、要点だけの非常に短いものだ。しかし、そのことが逆に、日本政府への非難の度合いが強いことを印象づけている。しかし、最近再び浮上してきた「棚上げ論」には言及していない。まだ、当局内のコンセンサスのとれたものではないのかもしれない。この命名問題を当局がどのくらい引っ張るかで、中国国内の世論の反応が決まりそうだが、幸か不幸か旧正月前で、当局も一般の人々も帰省に忙しく、浮ついているので尖閣問題どころではないだろう。

 

20120118-12011年のGDP伸び率9.2%と不動産コントロール

 国家統計局が2011年の経済統計の速報値を発表した。2011年のGDP伸び率が9.2%と2年ぶりに1ケタ成長となったことが注目されている。『人民日報』がこれをどう伝えたか。

 (1)全体:(125カ年計画が)良好にスタートし、明るい点が少なくない

 (2)GDP増加速度:コントロール目標に符合し、依然として正常な範囲内にある

 (3)CPI:物価コントロールの成果が明らか

 (4)2012年の国内外の環境:極めて複雑で、極めてチャンスである

 (5)2012年の経済情勢:難度は増すが、自信に満ちあふれている

 連平(交通銀行首席エコノミスト)のコメント:経済成長の緩和は依然続く

 海聞(北京大学副校長)のコメント:中国経済は成熟に向かっている

 不動産関連指標については「不動産の主要指標のかなり多くが落ち込んでいるが、不動産投資は依然20%の伸び、商品住宅の販売面積は4.9%伸びており、不動産業が依然として中国経済に対する積極的な推進の役割を果たしている」

 

 9.2%という数字を肯定的にとらえる世論誘導を行っている。分析記事が5面で大きく扱われる中で、不動産関連指標だけ13面で別扱いになっている。偶然か、意図的かは分からないが。不動産コントロールは堅持というのが当局の姿勢なので、もっとアピールすべきなのに、後ろの方での別扱いには違和感がある。

 「堅持」とはいうものの、あまり触れたくないという感じなのか。結果的に9.2という数字と不動産コントロールの相関関係を認めてしまっているようにも感じられる。

 

20120118-2】「西側と同じ」という一党支配の正当化

 鐘声「2つのデータが提供する観察視角」という文章が掲載されている。ここでいう「2つのデータ」とは、(1)ネットユーザーが5億人を突破したことと、(2)2011年のGDP9.2%の伸びとなったこと。主な内容は以下の通り。

 ―「中国の最新の変化を口実に不安定の源を探そうとすることを習慣とする一部西側のメディア」

 ―「中国の事情を、混乱しているかどうかと認識するのではなく、なぜ『安定しているのか』という点から観察する必要がある」

 ―「中国ではいわゆる『ネット誘導による革命』は発生していない」

 ―「インターネットの爆発的な発展は、中国経済の持続的な成長、社会の安定維持の基礎の上に出現しているもので、中国の包容的な社会環境の中で出現しているものである」

 ―「インターネット自身と『革命』に必然的な関連はなく、『革命』は伝搬手段があって発生するのではない。さもなくば、連続的に西側でも革命が発生していただろう。カギは、社会的構成員が現実生活に全体的に満足しているかどうか、社会が正常な民主的環境を有しているかどうかを見なければならない。この道理の西側に対する適用は、中国も同じである。これは社会制度やイデオロギーの違いによって、変化が発生するというものでない」

 

 インターネットが普及しても、経済発展して、国民が生活に満足しているので、アフリカや中東のような革命は起きず、一党支配が維持できているということをいっている文章ということになる。

 16日に駐中国米国大使が、米国のテレビで中国の人権問題について、批判を展開したことに対し、反論するためにこの文章を掲載したのだろう。

 表面的な事象だけ拾って、西側を中国と同列に扱うなといいたくなる、いつもながらの自分勝手なロジックである。しかし、西側と同じだ、ということで一党支配を正当化しようとしているわけだ。他方、政治制度は西側と違うことを強調することで、一党支配を正当化しようともする。「使い分け」といえば聞こえはいいが、むしろとにかく何でもあり、整合性を考えないで何でも使う。そこに中国共産党の苦しい事情がある。 

 

20120119】南巡講話から20周年を利用できない事情

 李弘冰「『発展が始まってからの問題』に直面する」と題する文章が掲載されている。ケ小平が改革・開放の加速を命じたいわゆる「南巡講話」を行った南方視察が1992118日にスタートした、南巡講話20周年にちなんだ文章だ。注目したのは次の部分。

 ―「改革が今日進み、かつて『石橋を叩いて渡る』式の改革が進む中で、一時的に大目に見ていた問題、ならびに改革の過程の中で新たに出現した問題が、今あちらこちらで次々と吹き出している」

 ―「中国国民の幸福感はまださらなるレベルアップを待っており、一部の地方や階層には多くの恨み憎みすらある」

―「(格差問題には)あるものは改革が一定段階まで発展し出現した新たな問題である。またあるものは改革自身がまだあるところまで達成されていないことで生じたものである。またあるものは『石橋を叩いて渡る』中で、経験が豊かでなく、設計が精密ではなく、操作が制度化されていないことによるものである。しかし、高度に警戒を必要とし、矛盾の性質をあきらかにし、不断の発展に頼って発展の中での問題を解決し、改革をさらに深め改革の中での難題を解決してこそ、改革をさらに強固にすることができる」

 ―「喜ばしいことに、改革を深めることはすでに新たな突破を有している。現政府は『改革の頂上設計』を提出し、重ねて『社会管理創新』の要求を提出している」

―「今日、われわれが最も問われていることは、結局何が改革の最大の阻害要因となっているのか。われわれはどのように社会全体の改革の動力と創造力を活性化するかということである」

 ―「中国の改革は依然として長い道のりの途中にあり、20年前のケ小平同志の南巡講話を改めて復習することで、危機意識をもち、改革堅持の自信と勇気をもつ」

 

 南巡講話から20年が経った。この間の中国の発展は目を見張るもので、本当にあっという間に上り詰めたという感じだ。その南巡講話について、党中央は今のところ記念行事を行っていない。本来ならば何かやってもよさそうだが、やらないところに政治的な意図を感じずにはいられない。

 『人民日報』もこの李文章で終わるのか。昨日18日の『環球時報』が「社評」で、政治改革は漸進的に秩序を持ってやる、西側のよう競争選挙を伴う権力生成に関連する改革を第18回党大会以降も選択しないと言及したい。これは事実上政治改革はやらないといっているに等しい。

 李の文章も立場が明確ではない。現在の中国がさまざまな問題を抱えており、それのことへの不満が大きいという。しかし、その問題がこの20年間の改革の遺産であるともいう。

 その問題解決にはやはり改革が必要だという。しかし、胡錦濤政権は、社会管理創新という改革を行っているという一方で、改革の阻害要素があるともいう。

 胡錦濤政権が改革をやっていないという右派の批判に対し、改革をやっているし、十分できないのはやろうと思っても阻害要素があるからだという。それは、胡錦濤政権自身は右派がいう改革の目指すものを理解はしているが、できないんだよ、という言い訳がましい文章のようにも思える。胡錦濤政権にとって改革が進んでいないという右派の批判はけっこうプレッシャーになっているようだ。もし、党中央として大々的に記念行事をやらないのだとしたら、行事をやることで改革が進んでいないことを暴露してしまうこと、政治改革を鼓舞することになりかねないので、警戒してのことかもしれない。改革を進める上で、いいきっかけになるのに、利用できないのが今の胡錦濤政権である。ケ小平の進めた改革・開放の負の遺産を解決するという貧乏くじを引かされたことに同情の余地はあるが。

 

20120120】温家宝が外遊先で群衆重視を強調

 温家宝が外遊先のドーハで記者会見を行った。その内容が掲載されている。私が関心をもった発言をあげておく。

 ―「まずシリア問題の平和的政治解決を求め、罪のない平民を殺害することに反対、阻止し、できるだけ早くシリアの正常な秩序を回復するよう努力しなければならない。その次に広範なシリア人民の変革に対する要求と自身の利益を維持する要求を尊重しなければならない。第3にアラブ連盟の役割、特にアラブ連盟のシリア問題に対する調査と調解の役割を発揮しなければならない」

 ―「中国とアラブ諸国の戦略的パートナーシップは自然と宗教問題に及ぶ。・・・中国はイスラム約2000万人を抱えており、われわれは彼らの生活習俗を尊重し、政治的、経済的、社会的地位はその他の民族と同等である。あなた方が中国に行ったことがあるか知らないが、行ったことがあるならば、多くの地方にイスラム寺院があって、中国のイスラムが自らの習俗に沿って生活、活動していることを見ることができただろう。宗教の自由と民族平等がわれわれの重要な原則である」

 ―「どのような状況であろうと、ホルムズ海峡の安全は保障され、正常な航行が保障されなければならない」 

 ―「情報化という条件の下では、国の管理、政策、長期計画の協調は、過去のいかなる時に比べても複雑さを増している。このような状況下で、人民の政府に対する要求はますます高まっている。われわれはそれ故に再三改革を強調し、経済体制改革だけではなく、政治体制改革を進行しなければならない。最も重要なことは、政府が群衆と密接に連携し、群衆に意見や声に耳を傾け、政府の工作を改善し、さらに経済を発展させ、民生を解決し、人民を豊かにすることである。いかなる騒動にも内因と外因があるが、われわれは内因が重要であると考える。責任を負う政府に対し言えることは、しっかりと勇敢に責任を負い、私利を謀らないことである」

 

 温家宝お得意の海外での記者会見。発言は何割か差し引いて聞いておかなければならない。

 中東アフリカの民主化運動に対しては一定の理解を示すが、内政不干渉のところが見られる。このスタンスは昨年5月に習近平がチュニジア外相との会見でも触れており、基本的に目新しいものではない。そして、アラブ連盟の役割を強調し、米国の介入にクギを刺した。

 中国でのイスラム独立運動についての質問では、アラブ諸国との戦略的パートナーシップ関係が宗教問題を含んでいるとの見解を示した。こうした見解はすでに見られるものかどうか確認できないが、私は初めて知ったので新鮮だった。まさに「戦略的」な関係である。

 ホルムズ海峡の発言は、イランの海峡封鎖行動に反対の意思を示したということでいいと思う。

 最後の発言は香港鳳凰台(フェニックステレビ)の「人民の要求に応えなければならないといっているが、中国人民の要求にはどう応えるのか、どのように騒動の発生を回避するのか」という質問に答えたもの。ここでの「政治体制改革」発言を、ケ小平の南巡講話10周年に対する支持の見解を示したとみるのはちょっと深読みのしすぎのように思われる。温家宝の海外での発言なので、あまり注視しない方がいい。ただ、中東やアフリカと違い、共産党は国内要因を重視し、民衆との対話を重視しているので何の騒ぎも起きないのだと言いたげ。

 

20120124】温家宝が春節視察で油田を訪問

 温家宝が2122日、甘粛省の革命地区慶陽を訪れ、幹部や群衆と交流した。次のような発言を行っている。

 ―西峰区では、昨年(2011年)の城鎮住民1人あたりの平均可処分収入が14830元に達し、農民1人あたりの純収入が4725元であることを聞いて、「甘粛の少なくない地方は温飽(衣食が足りること)は解決した。しかし収入はまだかなり低い。われわれは方法を考えて経済を発展させ、民生を改善することで、人民の収入を徐々に引き上げなければならない」

 ―ある村の党支部書記が、人口580人で、1人あたり三分地(0.3ムーの土地のこと)に達しない。ここ数年集団経済を積極的に発展させ、建材市場、不動産市場などの企業を興し、村民の土地を流通させ(彼らを)株主とした。(その結果)2011年の農民1人あたりの純収入は8600元に達したとの説明を聞き、「私は三分地に注目しており、これは依然として個人の土地であり、財産権は農民の手にあり、法で保護されなければならない。農民自発の原則を堅持し、法に基づいて流通させ、合理的に保障しなければならない」

 ―ここでは石油が開発され、石炭が開発されたが、道が通じていない。そのため国家が環県の高速道路と鉄道の建設を支持するよう要請があったことに対し、「この地方の最大の問題は水と道であり、まだ完全に解決していないので、国は考慮する」

 23日の『人民日報』は、温家宝が甘粛省訪問中に長慶油田を視察し、そこで大慶油田、タリム油田、蘭州石化、中国石油のスーダンの現場などとのテレビ電話会議を行ったことを伝えた。

 胡錦濤も22日、北京市を視察し、市民生活、農村生活の発展を讃えた。

 

 温家宝の春節前の革命地区の訪問と、胡錦濤の北京周辺視察は、恒例のもの。温家宝の視察では、農村の発展ぶりを紹介しているが、農民の土地の財産権を守ることを強調した。農民の権利を守ることを重視する姿勢を示した。

 ここで、あれっ、と思ったのは、油田を視察し、そこでテレビ電話会議を開催したこと。中国国内の大型油田と海外での事業現場であるスーダンをつなぎ、会議の模様を伝えた。戦略産業であり、また指導者の利権が渦巻く石油産業の現場を特に視察したことには、政治的な意図が感じられる。曾慶紅や周永康といった石油派への配慮か。環県での対話で、資源開発に対し交通インフラの整備を約束したことは、純粋に中国の経済発展に重要な資源開発を重視していることを示しただけかもしれない(そのことを石油派が迫ったことも考えられるが)。いずれにしても、春節の視察で、庶民とのふれあいをアピールことは通例なので、石油産業のことが取り上げられたのには違和感がある。 

 

20120130】米国人権団体の年次報告書への反論文章を連日掲載

 122日に米国のNGOヒューマンライトウォッチが世界の人権状況に関する年次報告書を発表した。その中で、中国の人権侵害状況が取り上げられたことに反論する文章が、126日から4日連続で『人民日報』掲載された。そのタイトルは以下の通り。

 126日:■西哲「『ヒューマンライトウォッチ』、どうぞ自らのことを観察してください」

 127日:羅繊戦堆・楊明洪「一般市民に住宅を建設することは何の人権を侵すことになるのか」

 128日:瀋輝「中国の司法改革に対する『ヒューマンライトウォッチ』の片面的な観察に反駁する」

 129日:劉傑「政治化の人権ロジックは中国の人権進歩を否定できない」

 

 中国における人権侵害が国際的な問題になることはよくあることである。しかし、このヒューマンライトウォッチの報告書に対し、4日連続で反論の文章が掲載されたことは異例のことだと思われる。内容はさておき、なぜ今回、こんなにこだわったのかが気になる。

 この文章は、英字紙China Dailyにも掲載されていることから、海外に向けて、報告書の内容が不当であることのアピールである。これは、214日前後に予定されている習近平の訪米と無関係ではないだろう。次期指導者である習近平の訪米で、人権問題が1つのイシューとなることが十分予想されるため、前もって内容の不当性をアピールし、中国の人権状況を説明し、少しでも批判のトーンを和らげようという機先を制するねらいだろう。他方、『人民日報』への掲載は国内向けで、海外の不当な見解にきちんと反論し、強い中国をアピールするためだろう。ただそのロジックを中国国民が受け入れるかどうかは別問題。ただ、春節期間中で、中国国民はほとんど興味を持っていないと思うが。

 

 アフリカ訪問中の賈慶林が、中国全額出資のAU(アフリカ連合)の会議センター落成式に出席した。全額出資を受ける方もどうかと思うが、これが中国の対アフリカ外交。私たちは、そういうことを行う国と経済的に、政治的に付き合っていることをよくよく自覚しなければならないとあらためて思った。

 

20120131-1】尖閣無名島への命名で日本政府に強い抗議

 外交部が日本政府に尖閣諸島に属する無名島に命名することに対する「厳正なる交渉」を提出し、強い抗議を行った。

 

 先日のエントリーでも取り上げた鐘声の関連文章が「尖閣諸島」を核心的利益だと指摘した。あのとき私自身はあまり意識していなかったので正直素通りしてしまったが、確かに注目すべき記述だった。

 私は、尖閣が「核心的利益」であることは、実質的には党中央でもコンセンサスのとれていることだろう。しかし、それを明言することにはコンセンサスがとれているわけではないと考えている。なぜならば、少なくとも胡錦濤政権は日本との関係を重視しているし、特に今年の国交正常化40周年を関係改善、関係発展の機会と考えているからだ。そのため、鐘声の文章は、日本に厳しい立場をとる人なり、グループなりが、「核心的利益」という言葉を使うことで、日本に対し「調子に乗るな」と脅しをかけるために、書かせた文章だと考えている。それは、単に日中関係ではなく、胡錦濤政権の対日スタンスを批判する意図もあって、権力闘争の要素も否定できないと思っている。ただし、それを具体的に特定するだけの材料は持っていない。

 中国側から「棚上げ論」も最近出ている。これは今に始まったものではない。しかし、最近中国側から出ていることには、注目している。なぜならば、それがあまり思慮深い発言ではないと思っているからだ。私は最近「棚上げ論」を言い始めているのは、昨年末、日本で外交文書が公開された際、国交正常化交渉の際、周恩来が「棚上げ論」を言ったことが日本のマスコミで注目された。そのことを知った中国の外交部が、これはいいと思い、飛びついて再び使い始めただけではないかと思っている。もちろん、これまでも党中央の指導者が使っている(ケ小平も使ったはず)ので、そんな安易なことではないかもしれない。しかし、胡錦濤政権は尖閣を明言こそしないが、「核心的利益」と考えているはずなので、「棚上げ論」が急に出てくることは不自然だ。それに最近公式に「棚上げ論」は見られない。そのため、単なる思いつきに過ぎないもののように思える。

 そんな中で、日本政府は無名島に命名するという。今の注目は、春節も終わり、中国国内ネット世論がそのことにどう反応するかという点。今の政権がネット世論に非常に敏感になっていることは確かなようだから。

 

20120131-2】チベット族居住区の生活改善を宣伝

 チベット族に関する宣伝記事が2つ掲載されている。

 1つは、甘粛省甘南チベット族自治州で民生が改善したこと。5年で61.3億元を投入し、45項目の民生プロジェクトを実施している。具体的には住宅家賃補助、新規就職、農牧業への投資など。

 もう1つは、青海省のチベット族居住地域で住宅問題を解決していること。「青海省チベット区域遊牧民定住工程計画」に基づき、5年間で11.3万戸、53万人の遊牧民の住宅問題を解決し、居住条件を改善した。第125カ年計画期には23億元を投資し、322の村、2.36万戸、10万人以上の貧困扶助、移転を完成させるという。

 

 チベット僧の焼身自殺でデモが起きていることが海外のメディアで伝えられている。チベット族の生活が改善されている状況を宣伝し、事件を特殊化させようということだろう。

 

 「外資企業はいかに”冬を越すか”」、「紡績業の輸出量の伸びがゼロに近い」といった経済不調に関する記事も掲載されている。

 そんな中、李克強が林毅夫世界銀行高級副行長と会見した記事も掲載されている。去年も李克強は林毅夫と会見している。中国国内の経済関係者のあいだでは林毅夫は有名人。そうした経済学者と会うことで、李克強は経済通であることをアピールしているのだろう。