107回 201112月の『人民日報』(2012930日)

 

20111201-1】党中央軍事委副主席が劉華清を追想

人民解放軍に関連する2つの記事に注目した。

 1つは、郭伯雄党中央軍事委員会副主席が、全軍が近代的後方支援の建設を全面的に速める工作会議で、「国防と軍隊建設の主題主線の重大戦略思想の実現をさらに貫徹する」よう指示し、「国防と軍隊建設の科学的発展を主題とし、戦闘力生成モデル転換の加速を主線とし」と述べた。

 もう1つは、郭伯雄と徐才厚の2人の党中央軍事委員会副主席連名による、今年1月になくなった「劉華清」を追想する長文が掲載された。

 

 前者では、胡錦濤の「国防と軍隊建設の主題主線の重大戦略思想」に言及している。これまで「主題主線」ということの意味がよく分からなかったのだが、「主題」は「国防と軍隊建設の科学的発展」であり、「主線」は「戦闘力生成モデル転換の加速」のことだということが分かった。「科学的発展」という胡錦濤の代名詞が使われており、やはり胡錦濤が自らの軍事理論の体系化を図っていることが確認できる。

 これだけならば、胡錦濤が第18回党大会で党中央軍事委員会主席のポストを習近平に譲る気がないのだろうということで落ち着くのだが、後者の長文が出たことで、ちょっと待て、ということになる。

 この長文は劉華清の功績を振り返っているのだが、ポイントは海軍建設への貢献と江沢民をバックアップしたことに言及した点である。この2点はよく言われていることであり、目新しいことではない。ただ、なぜこのタイミングで、党中央軍事委員会副主席の2人が連名で、劉華清を追想する長文を発表したのか、そして江沢民をバックアップしたのか。

 この長文では「江沢民」の名前が5回出たのに対し、「胡錦濤」はゼロ。このことがこの長文の意味を象徴しているように思われる。決して、おセンチに劉華清を懐かしんでいるわけではない。

 さらに理解に苦しむのは、同じ日の『人民日報』に、同じ人物(郭伯雄)による胡錦濤支持と江沢民支持の相反する見解が掲載されたことだ。

 第18回党大会を控え、軍の動向は極めて重要である。誰が軍の利益を代表してくれるのかという軍の党中央人事への介入ということは常に注目されるが、誰が軍の指導層に入るのかという軍内部の人事も重要である。つまり、江沢民によって引き上げられた人と胡錦濤によって引き上げられた人の勢力争いがあるということだ。

 今日の2つの記事からどちらが優勢かといったようなことは分からない。少なくとも軍内部で権力闘争があることを示唆しており、党中央軍事委員会副主席が両勢力に配慮しているなあと見た。

 

20121201-2】預金準備率を引き下げ

1130日夜、人民銀行が125日から預金準備率を0.5P引き下げることを発表した。記事のリードは「政策の変更を意味しない」となっている。

 約3年ぶりの引き下げで、預金準備率は大型金融機関で21%、中小型金融機関で17.5%となった。これについて、2人の常連のエコノミストの解説を掲載している。

 (1)国務院発展研究センター金融研究所副所長の巴曙松

  −「銀行システムの流動性の不足局面を緩和するため、金融政策の適応性、柔軟性、展望性を十分体現した」

  −「外貨比率が下降し、市場流動性が減少し、引き下げ余地が出てきた」

  −「安定した比較的速い発展の維持、経済構造調整とインフレ見通しの管理との関係で、安定成長が重要な位置に置かれる」

  −「金融政策の基調が変化することを意味しない」

  −「将来の物価趨勢は不確定で、物価安定の基礎はしっかりしていない」

 (2)交通銀行首席エコノミストの連平

  −「現在の銀行業が全面的に緊迫しており、ますます多くの銀行貸出比率が75%の上限を超えている。産業政策に符合した小型零細企業、三農のなどの弱い部分への貸出を拡大し、国家の重点項目の資金需要を満たし、保障性安居工程(低所得者向け住宅プロジェクト)建設を支持」

  

 預金準備率の引き下げは、1029日の国務院常務会議で示された経済認識に沿った具体的な措置といえる。中央経済工作会議の開催も近いことで、具体的な措置を先行させ、会議の方向性を示したといえる。

 巴曙松は、成長維持が最重要課題であり、そのための金融緩和との位置づけだが、インフレへの警戒もあり、「中立な金融政策」を「緩和的な金融政策」と明確に文言で変更することはないという。連平も中小企業向けとか三農向けとかピンポイントの目的での緩和措置という。

しかし、緩和していることは事実。経済構造転換を叫びつつも、目先の安定確保のために動いているように思える。この時期、中長期的な政策を打てないのだろう。呉敬lもあきれるはずだ。

 政策変更を明確に文言にできない背景には、不動産価格の動向があるのだろう。引き下げ記事と同時に「(預金準備率引き下げは)住宅価格コントロールの緩和を意味しない」と題する短い論評も出ている。

 

20111202PMI29カ月ぶりに50%を下回る

11月の製造業購買担当者指数(PMI)が49%だったことを伝える記事が掲載されている。50%を下回るのは20093月以来のことで、記事のリードは「PMIが不景気区域に突入したことをどう見るか」となっている。

 「現在の経済運行過程での不安定要素が増加しており、特に市場需要の低迷が明確になっていることは注目に値する。経済運行の主要な問題は『インフレ防止』から『成長安定』に転換している可能性がある。しかし、必ずしも心配しすぎることはない。なぜならば、中国経済の成長速度の落ち込みは依然許容範囲内にあるからだ」というアナリストの見解を紹介している。そのほか、以下の2名の見解を紹介している。

 (1)中国物流・購買聯合会副会長の蔡進

  −「企業の反応から見て、数カ月前は原材料価格の上昇の影響が非常に強かったが、今はすでに薄れている」

  −「伝統的基礎原材料業種の発展は明らかに減速しているが、(機電設備製造業や情報電子産業など)一部の経済発展への動力は強く、国の構造調整の方向に符合した業種は依然速い発展を維持している。これは経済構造が改善し、経済発展がさらなる安定の支柱基礎を有していることを示している」

 (2)国務院発展研究センター研究員の張立群

  −「企業の生産経営困難はコスト高から発注不足に転換している可能性がある」として、11月の新製品の発注と購買価格指数の落ち込みが市場需要の全体的な低迷に影響している

 

 いいのか悪いのか、よく分からない。

 

20111203】企業に労働争議を仲裁する委員会の設置を命令

最近、人事・社会保障部が「企業労働争議協商調解規定」を公布した。「調解」は仲裁のこと。

 大中型企業、その分支機構に対し法に基づく労働争議調解委員会の設置を要求する規定で、201211日から施行。

 小型零細企業は調解委員会を設立し、労働者と企業が共同で人員を推挙し、調解工作を展開する。

 調解委員会の職責

  (1)労働争議を仲裁し、調解員の任用、解任、管理

  (2)労働保障の法律、法規、政策の宣伝

  (3)労働契約、集団契約の履行、企業労働規章制度などの執行などで出現した問題の協調への参加

  (4)労働者と身近な利益に関わる重大な方案の検討への参加

  (5)企業の労働争議予防警戒メカニズム構築などの支援

 

 こういった労働争議調解委員会は以前からあったような気がするのだが、どうだったか。いずれにせよ、大中型企業だけでなく、小型零細企業に対し、調解委員会の設置を要請したということは、それだけ労働争議が多発しており、その仲裁メカニズムを整備されていなくて、うまく解決できていないことの証左だろう。だからストライキや暴動が各地で発生しているわけだ。

 しかし、(1)の仲裁、(3)はよしとしても、そのほかの職責というのは、調解委員会の仕事ではなく、行政の仕事ではないかと思うのだが。これでは、行政側に軸足を置いた組織で、中立な立場で公平に仲裁ができないのではないか。

 

 もう1つ、北京で第12回日中戦略対話が開かれた。これについての報道で、「双方は対話交渉の強化を通じて、両国間に存在する敏感な問題を適切に処理することで合意した」と伝えている。近く予定されている野田首相訪中で、東シナ海ガス田問題や海上紛争でのホットラインの設置などの懸案事項で進展する可能性があることを示唆しているように思われる。

 

20111204】「外需から内需へ」:呉敬lの文章をまた掲載

呉敬lの「発展問題の解決には長期と短期に同時に気を配るべきだ」と題する文章が掲載されている。その内容は以下の通り。

 (1)現在のわが国の発展の根本的問題は成長モデルに欠陥が存在していることである

  −市場化改革がまだ「進行時」の段階にあって、旧体制の多くの部分がまだ根本的な改造を達成していない。国有経済の配置の戦略的組織再編と国有企業の公司制改革はまだ道半ばである。このような状況下では改革はいささかも緩めることはできない。

  −国際金融危機、特に現在のEU債務危機がわが国の外需を抑制しており、過分に外需に依存して経済成長を実現する政策は変更すべきで、発展方式の転換は急を要している。

 (2)短期的には全体的に引き締めのマクロ経済政策を採るが、十分柔軟でなければならない

  −中国には2つの難題が存在する。@消費需要が依然不足し、成長の内在的動力に欠けている。Aインフレ圧力が増大している。

  −ここ数年のマクロ経済問題の多くの議論はこの2つの難題の処理をめぐるものである。@もしどうしても消費需要不足の状況で高い成長率を維持しようとするならば、さらに拡張的な金融政策によって誘導しなければならない。Aもし経済過熱とCPIの高止まりを防ぐには、(金融政策を)引き締めなければならない。引き締めの度合いが十分でない状況では、経済過熱の状況は変わらず、不動産価格も下がらない。力の入れ具合が大きすぎれば、GDPの成長速度の落ち込みが速すぎて経済のハードランディングすら出現する。

 (3)経済成長を短期的な政策では根本的な問題の解決はできない。経済発展方式の転換を実現して、長期的な発展問題を解決することができる。柔軟で中立なマクロ経済政策によって経済の安定成長を維持すると同時に、主要な注意力を長期的な発展問題に置かなければならない。

 

 『人民日報』は先日(1128日)に続き、呉敬lの文章を掲載した。今回は胡錦濤政権のこれまでの経済政策を直接的に批判するものではない。しかし、国有企業改革が進んでいないこと、そして外需依存型の経済成長を批判しており、事実上胡錦濤政権批判といえる。そして、小手先の金融政策ではなく、内需主導型の経済発展方式への転換の必要性を主張している。

 この呉敬lの文章が、「マクロ政策の調整準備と微調整をどう見るか」と題する先日の預金準備率の引き下げに関する評論記事の下に掲載されていることに意味がある。もっと長期的な政策を重視せよという呉敬lのメッセージであり、またこれを取り上げた『人民日報』のメッセージでもあるととらえるべきだろう。

 他方、別のページに「マルクス主義群衆観を堅持しよう」と題する文章が掲載されている。小見出しは、(1)マルクス主義群衆観はマルクス主義および政党の核心理念、(2)マルクス主義群衆観は実験と検証を経た科学的思想、(3)自ら実行することがマルクス主義群衆観、となっている。「左」と右のバランスをとる配慮を見せているようだ。第18回党大会の前哨戦として、まずは中央経済工作会議をめぐって両者の主張が激しくなっているということだろう。

 

20111205】春節までに未払い賃金を支払うよう指示

人事社会保障部・国家発展改革委員会など9部門が「2012年元旦春節前に農民工の給与支払う工作をきちんと行うビデオ会」で指示を行った。目を引いた指示は下記の通り。

  −10人以上の集団労働報酬争議は当日立件し、7日以内で終結させる。

  −1人当たり1000元以上の案件ついては、仲裁委員会主任が公示し監督する。

  −給与未払いによる群体性事件の処理能力を高める。

 

 春節前になると、党中央が出稼ぎ者への給与未払い問題を解決することに重点を置くのはいつものことで、今年もそんな時期になったのかという季節の風物詩みたいなものだ。しかし、集団争議や群体性事件を警戒して、かなり細かく指示を出しているように思われる。

 

 北京市西城区の党代表大会で、区代表会議、区委員会などの職権を規定した。

 たとえば、区党委員会書記の権限は次の7つ:(1)執行実現権(中国語で貫徹執行権)、(2)政策決定を主催する権、(3)審査検査権、(4)督促検査権、(5)緊急処置権、(6)幹部登用の事前相談のための組織を作る権限(同幹部yun醸組織権)、(7)区党委員会指導権(同区委領導権)。

『人民日報』はあまり細かくないが、『京華時報』は地元のことなので、けっこう詳しく紹介していた。以前、何度かエントリーした県レベルの党委員会の権力を明確規定しようという権力透明化改革の一環。以前紹介した地方では、どのくらい党のトップの権力を制限できているのだろうか。『京華時報』は、上記の(1)(7)はあいまいで、(6)は権限の境界がよくわからないと指摘している。

 

20111207】胡錦濤は軍の「主題主線」をいつから言い始めたのか

胡錦濤と習近平が海軍第11回党代表大会・全軍装備工作会議代表と会見した。胡錦濤が「国防と軍隊建設の主線主題」に言及した。

 

 大きく扱われているが、写真が大きく文字は少ない。軍重視のアピールが目的だが、現職と次期の軍トップのそろい踏みなので、どちらがより強くアピールしているかといったことはよく分からない。

 胡錦濤自らが「国防と軍隊建設の主線主題」に言及しているが、いつ頃から自ら言い始めたのだろうか。今年3月の全人代での解放軍代表団の討論に出席した際に、胡錦濤はすでに言及していた。その時は、「国防と軍隊建設の科学的発展を主題」、「戦闘力生成モデル転換の加速を主線」と言及しており、スローガン的な扱いではなかった。どうやら出発点はこのときのようだ。その後、テーゼ化しようということになったのだろう。

 

20111207】薄煕来と汪洋への関心が薄れ

 政治改革絡みの記事がいくつか掲載されている。

 (1)河南省鄭州市と洛陽市で「”網路問政”から”網路行政”へ」

 (2)重慶市で「代表行動」と呼ぶ人代代表の職務履行方式を創新

 (3)広東省広州市で「政治協商」活動が活発

 

 (1)はインターネットの政治利用を、これまでの「網路問政」という人々から意見を徴収しそれを政策に反映させることだけでなく、「網路行政」という政策執行に対する人々の監視へと拡大する試みを紹介している。インターネットを「監視」に使うことを公言しているが、当局はそんなに自信があるのかと心配になる。それともひところのネット規制強化の雰囲気が少し峠をすぎたのか。

 (2)は人民代表が末端まで行って人々の意見を聞くということ、(3)は政治協商委員が人々の意見を聞いて、政策決定に関与し、反映させるというもの。

以前のように、重慶市と広東省の政治改革の試みを大きく掲載していることを「薄煕来vs. 汪洋」の権力争いと関連づけて紹介したいところだが、正直最近私自身はこの見方に冷めている。(2)は薄煕来の名前こそ出していないが、(3)はこの政治協商活動を「汪洋と広東省党委の要求」と明言しているので、この記事の掲載を権力闘争の一環で、アピール合戦と見ることもできる。しかし、最近、この2人の権力闘争だが、あまりおもしろくないなあと思って、私は素通りしがちだ。

私は2011年前半、この2人に李源潮を加えて3人を序列3位争いとして注目していたのだが、最近中央政治局の名簿をじっくり見ていると、この3人、3位争いどころか、実は常務委員に入れるかどうかの9位争いをしているのではないかと思うようになった。というか3人のうち1人も常務委員になれないのではとすら思っている。そうすると、なんか薄煕来と汪洋を追うことに冷めてしまっている。そのため、今日の(2)(3)の記事も、関心が高まらない。それに「協商」という言葉は、もう1つよく分からないし。

 

 野田首相の訪問が延期となった。日本政府と中国政府のどちらが1213日の日程を言い出したのか分からないが、いずれにせよ13日を充ててきたセンス自体をそもそも疑ってしまう。

 

20111208】収入格差問題を整理

 「収入格差=社会不公?」と題する収入格差問題を特集している。あまりこれといった記事がない中で、社会保障問題が専門で、政府の政策策定に関わっている中国人民大学教授の鄭功成との対話が掲載されていたので、理解を深めようと読んでみた。

 1.「収入格差は結局どこにあるのか」

  (1)収入格差をもたらす原因

   @個人の先天的なものと後天的な能力の差違による労働が提供する価値の違いによる

   A人生の機会の違い

   B分配制度の差違

  (2)収入格差が拡大する趨勢の原因

   @改革・開放と経済成長、共同富裕の追求の結果

   A市場経済化の結果、地方の改革・開放の進展具合の違い

   B不合理な原因:(a)企業誘致、資金導入を重視し、労働者の権益を軽視、(b)独占業種や企業幹部の収入が高いこと、(c)汚職、違法行為、グレーな収入

 2.「あらゆる格差は存在すべきではないのか」

  (1)収入格差の存在をどう見るべきか

   @個人の能力によるものは容認

   A権力依存のレント、独占的地位による格差は不公平。基準を逸脱した、不公正な分配制度がもたらす収入格差は是正すべき

  (2)解決方法:今日の収入格差問題は過去30年近くの漸進的な改革と傾斜政策などのさまざまな要素の総合的な影響の結果であり、すぐに解決できるものではない。

   @特に分配の第一段階での利益調整を漸進的に進めるべき=給与、社会保険、職業福利の三位一体の新たな報酬システムの構築

   A再分配では財政改革、民生福利への重点的投入、財政移転

 3.「われわれはなぜ不公平だと思うのか」

  原因に拘わらず、不公平を感じる人たちは拡大している

  @低収入者層の失望感

  A分配制度の不公平、労働が価値を実現しない

  B収入分配が基準を逸脱しており、不透明

  C安定した見通しが立てない=給与の正常な増加メカニズムの欠如、社会保障システムの未整備

 

 全国貧困扶助工作会議もあり、格差問題がここ数日注目されているので組まれたインタビューだと思う。決して目新しい観点はないが、うまく整理されている。

1つめは、収入格差が改革・開放、市場経済化の産物であり、一定程度の格差は容認すべき。2つめは不公正な分配は撲滅すべき。3つめは再分配システムを整備すべき。

不公正な分配で甘い汁を吸っている人が政策決定の中核にいるわけだから、理念として掲げても、実際の解決が難しいことに変わりはない。

 

 「人民元レートの波動は市場の変化と需要を体現している」と題する分析記事も掲載されている。中国政府が為替レートを意図的に操作しているとする米国の批判が適当ではないことをアピールしている。昨日は発表された「中国の対外貿易」と題する白書の説明で、商務部幹部も同様のアピールをしている。

 

 12月に入り連日12面に解放軍関連記事が掲載されている。会議記事はやむを得ないとしても、関連機関の宣伝記事が多い(日付は掲載日)。

  123日 劉成軍・孫思敬「『解放軍軍史』16巻の出版に際し」と題する文章(これは1面、2面ではないが)

  124日 空軍工程大学の核心的価値観教育の宣伝記事

  125日 軍隊の研究型医院建設ルポ

  126日 中国核工業集団の自主創新を宣伝

  127日 胡錦濤と習近平が海軍第11回党代表大会・全軍装備工作会議代表と会見

  127日 中国航天科技集団公司の自主創新を宣伝

  128日 郭伯雄、全軍装備工作会議で指示

  128日 解放軍総医院の「研究型医院」創建のルポ

 

 この軍の猛ダッシュに、何の意図、誰の意図があるのかは判断しかねる。しかし、異様であることは確か。

 

20111209】不動産コントロールの堅持

任興国・ケ郁松・許偉「不動産コントロールは鍵となる時期にあり、コントロールが揺るがないことを堅持すべき」と題する文章が掲載されている。3人は、国務院発展研究センター市場経済研究所の研究員。主な主張は以下の通り。

 (1)不動産コントロールはすでに積極的な成果を上げている

 (2)現在不動産コントロールは鍵となる時期にあり、コントロールを緩めることはできない

  @一部の都市で不動産価格が高すぎる状況は根本的に変わりない

  A不動産価格の反動を促進する要素が依然存在している

  B不動産資金が過度に集中しており、実体経済に「効益を絞り出す」こと(=大量の資金が実体経済に流れず、不動産領域に過度に集中すること)を形成する基礎が依然存在している

  C不動産業種の調整が顕著な進展を見せていない

  D都市の不動産価格が高止まりし、都市化のハードルを引き上げ、都市化の進程を要請している(=内需拡大の最大の潜在力が都市化なのに)

 (3)不動産価格のコントロールを堅持することが経済社会の持続的で健全な発展に有利

  @不動産投資の合理的増加を維持することで、増加速度が落ち込んでも、正常に戻る

  A不動産コントロールを堅持することが、さらなる民生改善、社会の調和と安定の促進に有利

  Bコントロールを堅持することが不動産業の良性な発展に有利

  C不動産価格の安定した回復の銀行などの金融システムに対する影響は全体的にコントロール可能である

  D中長期的に見て、地方経済が不動産への過度の依存を次第に脱却し、産業構造と収入構造の調整を促進することに有利

 (4)引き続き不動産コントロールを堅持し、完成し、長期的に効果のあるメカニズムの構築に着手する

 

 国務院発展研究センターの研究者の文章なので、引き続き政府の不動産コントロールを続けるという国務院のスタンスへの世論誘導なのだろう。最近の論調からして、中央経済工作会議で金融引き締め政策緩和が明確に示されることはなさそうだ。

 

20111210】金融緩和の明言なし、右派に配慮

中央経済工作会議の方向性を決める党中央政治局会議がようやく開かれた(昨年2010年は123日開催で、中央経済工作会議は1210日開幕)。会議は2012年の経済工作を分析、検討した。会議は次のように現状を認識している。

 −「わが国の発展は依然重要な戦略的チャンスの時期にあり、少なくない有利な条件を有している。しかし経済の安定した運行は少なくない突出した矛盾と問題に直面している。全党全国は艱難辛苦の意識とリスク意識を高め、各種の困難と挑戦に対応する思想と工作の準備を立派に行わなければならない」

 会議報道はリードで、2012年の経済工作の重点【1】を11項目挙げている。

 1.2012年の経済工作の重点

(1)積極的な財政政策と中立な(穏健的)金融政策を実施する

  (2)マクロ経済政策の連続性、安定性を維持する

  (3)コントロールの適応性、柔軟性、展望性を強化する

  (4)経済の安定した比較的速い発展の維持、経済構造の調整、インフレ見通しの管理の三者関係を引き続きうまく処理する

  (5)経済発展方式の転換と経済構造調整の推進を速める

  (6)国内需要の拡大に力を入れる

  (7)自主創新と省エネ排出削減の強化に力を入れる

  (8)改革・開放の深化に力を入れる

  (9)民生の保障と改善に力を入れる

  (10)経済の安定した比較的速い発展と物価総水準の基本的安定を維持する

  (11)社会の調和安定を維持する

 2.具体的な10項目

  (1)予見性をもってマクロコントロールを強化、改善し、コントロールの力の入れ具合、テンポ、重点を正確にきちんと理解し、情勢の変化にもとづきすぐさま調整準備、微調整を行い、経済運営での突出した矛盾を解決し、発展の質と効益を高めなければならない

  (2)内需、特に消費需要の拡大に力を入れ、消費促進政策を完備し、住民の消費能力を高める努力をし、中低所得者層の収入を増やさなければならない

  (3)農業の基礎をさらに突き固め、農業強化、農業優先、農業富裕政策を完備し、「三農」投入を強化する。

  (4)物価総水準の基本的安定の維持に努力し、市場コントロール能力を高める

  (5)不動産コントロール政策を揺るがせないことを堅持し、不動産価格の合理的持ち直しを促進し、不動産市場の健全発展を促進しなければならない

  (6)産業構造調整と地域協調発展の推進に力を入れ、戦略的新興産業を積極的に育成、発展し、伝統産業のレベルアップを推進し、サービス業、特に近代的サービス業の発展を加速させ、中小企業の発展環境を改善させなければならない

  (7)地域発展総合戦略の実施を深く掘り下げなければならない

  (8)125カ年計画」の省エネ排出削減の総合的工作計画を真剣に実現する

  (9)対外経済の安定した発展を促進する

  (10)重点領域と「関鍵関節」改革を着実に推進する

  (11)民生改善を重点とする各社会建設を強化し、教育事業改革の発展を加速させ、就業優先戦略を堅持し、社会保障システムを健全化し、困難群体と被災群衆の生産生活をきちんと配置し、・・・低所得者向け住宅プロジェクト建設を着実に推進し、社会管理とサービスを創新し、・・・社会の調和安定を維持しなければならない

 党中央政治局会議に先立ち、5日に党外人士座談会で意見を聴取した。ここで胡錦濤が重要講話を行った。この中で「2012年の経済工作の鍵は、安定成長、構造調整。民生保障。安定促進を結びつけること」と述べた。

 3.具体的な措置5項目

  (1)引き続きマクロコントロールを強化、改善し、経済運行での新たな状況、新たな問題にもとづき、政策協調協力を強化し、分類指導を重視し、扶助と抑制を使い分け、成長、構造、物価の関係を統一的に立派に処理しなければならない

  (2)引き続き「三農」工作をしっかりつかまなければならない

  (3)引き続き経済構造調整を速めなければならない

  (4)引き続き改革・開放を深化させ、深く掘り下げて改革のトップの設計と全体計画の検討、拡大し、適時改革を推進しなければならない

  (5)引き続き民生工作を保障、改善しなければならない

 

 共産党の経済状況認識を知るためにキチンと読んでみた。しかし、党中央政治局会議の内容はてんこ盛りなので、列挙の順番に注目しなければならないのだろう。中央経済工作会議の方向性を決める党中央政治局会議の開催が昨年に比べ遅かったので、党内で論争があるのかもしれないと思い、そのヒントを求めて、党外人士座談会もキチンと見てみた。

 注目マクロ経済政策については、1-(1)1-(2)で変更なしとし、金融政策の緩和に明言されていない。しかし、実際の個別政策は一部緩和をしている。これが「微調整」なのか。

 1-(4)(6)で経済成長方式の転換を挙げ、上位に置いた。インフレについては、1-(4)と上位にもあるし、1-(10)と下位にある。物価は安定しているとの判断で、他の要因への警戒を示しているということだろう。

 具体策も、2-(1)10月末の国務院常務会議の見解を引き継いでおり、2(2)は海外の不安定要素が拡大しており、内需重視を示したもの。2-(5)は順当。2-(6)の中小企業対策は、騒がれたわりに順位としては低い感がある。

 以上は党中央政治局会議名義の重点などである。党外人士座談会での列挙項目は胡錦濤自身の発言としてのものだから、興味深い。

 3-(1)は特に問題はない。3-(2)の「三農」が構造転換よりも上位にきている。気になって、昨年2010年の党外人士との座談会での胡錦濤の発言での【4】重点項目を見た。

 4.昨年の党外人士との座談会での胡錦濤の発言

(1)マクロコントロールの強化・改善:安定した経済成長、経済構造調整、インフレ見通しの管理の3つの関係を処理する

  (2)農業/農村工作の強化

  (3)経済構造調整の歩調の加速

  (4)重点領域と「関鍵関節」改革の推進

  (5)国際的な協調を強化し、世界的な経済ガバナンスに積極的に参加する

  (6)民生領域の改善と社会管理の強化

 

 興味深いと思って見たが、3では、4-(5)がなくなったくらいで、昨年2010年の発言と比較してみると文言すらほとんど変化がない。胡錦濤はやる気があるのかと疑ってしまう。

 3-(4)で改革・開放について触れたことは新しい。12では「改革・開放」に直接的に触れているわけではない。胡錦濤のやる気というよりも、党外人士を前に、呉敬lら右派の突き上げに配慮したのだろう。それに比べると、「左」派が重視する民生工作関連は13のすべてにおいて順位が低い。

 今日の報道だけでは、党内の政策対立は見えにくい。党外人士との座談会での温家宝の発言は掲載されていないので、党内対立はなさそうにも思える。しかし、右派と「左」派の戦いは激しそうで、党内も右往左往させられている感はある。それが党中央政治局会議開催の若干の後れにつながっているのかもしれない。しかし、右派と「左」派の対立と党内の権力闘争のつながりは私にはまだ読めない。

 党中央政治局会議の出した方向性の特徴は、金融政策の緩和に明言がなかったこと、内需拡大や経済発展方式、経済構造調整などどちらかというと右派の主張に配慮したものということだろうか。

 

20111211】経済成長か、経済構造調整か、やっぱり分からない

中央経済工作会議に向けた連載が始まった。1回目は「経済成長速度の緩みをいかに見るか」というもの。9日の国家統計局スポークスマンの盛来運の発言を引用した見解などが掲載されている。小見出しと私が注目した点は下記の通り。

 (1)速度は緩んでいるが、通年では9%以上

 −速度が緩んでいることの根拠は、過去四半期ごとの成長率が落ちていること

 −盛来運「落ち込みは大きくない、基本的に安定成長の区間内で運行している」

 (2)適度な落ち込みはチャンスでもあり、構造調整をしっかりつかむ

 −われわれの経済発展モデルは、全体として大きな変貌を見せていない。現在歩んでいるのは基本的に投資拡張に依存する成長推進という古い道である。

 −盛来運「経済成長速度の適度な落ち込みは、市場の需給関係を改善することに有利であり、輸入型インフレ圧力の緩和に有利であり、資源環境のボトルネックの緩和(高エネルギー消費産業の淘汰)に有利であり、各方面の工作の着地点を構造調整、(発展)方式転換、民生維持に置くことに有利である」

 (3)速度ばかりではなく、速度問題も重視しなければならない

 そして、「工業化と都市化という歴史的任務を完成させることは言うまでもなく、また巨大な就業問題を解決するには、合理的な経済成長速度を維持することが必要である。速度が速すぎることはダメだし、遅すぎることもダメである。われわれは、速度の緩みに対する耐久力を高め、速度の落ち込みを理性的に見なければならないし、マクロコントロールの柔軟性を高め、経済運行上の新たな状況と新たな問題を高度に重視し、調整準備と微調整を行い、経済を促進させ合理的な発展速度を維持し、大きなアップダウンを回避しなければならない。現在の国際経済環境は厳しい趨勢にあり、外需はさらに縮小する可能性があり、一部の要素は内需の成長を制約し、一部の中小企業の経営は困難で、これらが経済の適度な成長を維持する圧力となっている。中央はすでに調整準備、微調整の強化を提起し、マクロコントロールの適応性と柔軟性の向上を提起し、必要なコンロトール措置を採った。これは経済の立派で速い発展を促進するために、有力な保障を提供している」と述べている。

 

 昨日報道された党中央政治局会議の見解を受けて始まった連載。党中央政治局会議の見解が、金融引き締め政策の緩和を示唆しているのかどうか、どうもよく分からない。経済成長の維持と経済構造調整。この2つは両立するものなのか、それとも両立しないものなのか。それで、この連載文章を読んで理解の助けにしようと思ったが、さっぱり分からない。私には、経済成長の維持も大事だし、経済構造調整も大事だ。どっちが大事とも白黒つけられず、両論併記にしか読めない。だから、金融引き締め政策も「緩和」と言い切れない。結局は決断ができない指導部の中途半端さを示しているようにしか思えない。

 

20111212-1】江沢民の牙城を崩しにかかった胡錦濤

上海交通大学に建設された銭学森図書館の開館式が開かれ、胡錦濤が重要指示を行った。式典には李長春中央政治局常務委員、劉延東、兪正声の両中央政治局委員、教育部長、解放軍総装備部政治委員が出席した。

 

 銭学森という人は著名な科学者で、1949年の建国後、米国から中国に戻って、ロケット技術、核技術開発で大きな貢献をした人。その人を讃えて、上海交通大学に冠図書館を作ったということ。本当に中国では著名な科学者なので、これくらいのことをやってもおかしくない。しかし、極めて政治的な記事といわざるを得ない。なぜならば、上海交通大学が江沢民の母校だからだ。

 単なる図書館の開館式に、なぜ胡錦濤がわざわざ「重要指示」を行ったのか。しかも、李長春、劉延東といった党中央のハイレベルの指導者がなぜわざわざ式典に出席したのか。ただ事ではない。

 胡錦濤が重要指示を出したことは、江沢民を意識したものであることは間違いない。それは、辛亥革命100周年式典への出席で健在ぶりを発揮している江沢民に危機感をもち、江沢民に媚びを売っているとも読めるし、江沢民の牙城である上海交通大学、または上海にくさびを打ち込み、自らの支持を高めようという宣戦布告とも読める。たぶん後者だろう。ハイレベルの指導者を送り込んだのもその戦略の一環と思われる。

 

20111212-2】住宅購入制限緩和の地方都市に撤回圧力

 「来年、これらの都市はまだ購入制限をするのか」と題する記事が目についた。

 今年126日に国務院が公布した「国新八条」。直轄市、計画単列市、省都、住宅価格が高すぎる都市、上昇が速すぎる都市に対し、一定期間住宅購入制限措置を制定し、厳しく執行するよう指示したもので、「不動産コントロール」はまさにこの指示に基づくもの。しかし制限都市のうち、合肥、石家庄、長春、貴陽、青島、厦門、中山が政策(国新八条のこと)執行を今年の1231日までとすると公布していた。しかし、先の党中央政治局会議の決定を受け、海口、福州、厦門、長春は制限政策の延長を宣言した。他方、貴陽、石家庄、合肥、青島、中山は態度を未定としている。そして「新国八条」は住宅価格の速すぎる上昇を抑えることにかなり明確な効果をあった、と評価している。

 

 いったん住宅購入政策の緩和を発表した地方政府のうち、いくつかは党中央政治局会議の「不動産コントロールは揺るがない」との決定に屈して、政策緩和方針を撤回したが、態度未定の貴陽、石家庄、合肥、青島、中山に方針撤回の圧力をかけているとしか思えない記事だ。

同時に「購入制限は取り消しに至っていない」と題する関連文章も掲載され、購入制限の緩和には、(1)購入制限に続く、または代替する政策があるかどうか、(2)不動産市場の健全運行の長期的効果の出るメカニズムを構築し、住宅制度改革が大きく進むこと、の少なくとも2つの条件があるとして、方針撤回圧力に追い打ちをかける内容となっている。不動産価格については、極めて神経質になっていることの証左といえる。こうやって名指しされた地方都市は今日にも撤回せざるをえないだろう。

 

20111213-1】欧州債務危機と内需拡大、構造調整

 中央経済工作会議開催中で、関連記事が多い。

 (1)連載記事の3回目:「不動産価格の趨勢をどう見るか」。これは1面トップ記事。

 (2)「(125ヵ年計画)スタートの年は難題を打ち破った」と題する2011年のマクロ経済を回顧記事。これは2面を占拠。

 −「党中央、国務院は時勢をよく観察し、状況の変化を推察し、科学的に政策を決定し、国民経済はマクロコントロールの見通しの方向に発展している」

 (3)巴曙松(国務院発展研究センター金融研究所副所長)「中国経済、転換がまさに加速している」

 −固定資産投資、工業増加の落ち込みは非常に安定しており、マクロコントロールの方向に向かって発展している。

 −しかし、欧州債務危機などの外部要因で、経済が加速的に落ち込むリスクに注意すべき。

 −中国の経済成長は政策刺激から自主成長への転換過程にあり、(2008年の−佐々木注)金融危機の時期の常規を超えた刺激政策から基本的に退出している。欧米の債務危機には、内需拡大を加速させ、社会保障などのシステムを完備し、規制を緩和し、市場活力を刺激する。

 −現在の政策選択から見て、金融政策は依然として引き締め基調、インフレ抑制を維持する中では、財政政策がさらに積極的な作用を発揮し、保障性住宅建設、水利などの投資に力を入れ、戦略的新興産業を支持し、企業を整理して再編し合併買収すること、産業レベルアップに対し税収で支持し、そうすることで経済構造の調整を促進する。

 

 よく出てくる官庁エコノミスト巴曙松の文章なので、当局に意向を反映した発言と見ていい。

 欧州債務危機への警戒、内需拡大と構造調整の重視が示されている。一定の落ち込みは織り込み済みという感じはするのだが。だからといって、特に構造調整は簡単ではない。簡単ではない構造調整に着手する分、大きな成長の落ち込みは回避しなければならないので、成長の落ち込みを小幅に抑えることを目指すというのが、マクロ経済の政策の方向ということなのだろうか。これならば、両立は矛盾しないような気がする。しかし、実際には、やはり経済調整はできないか、もしくは大きく成長が落ち込むかの二者択一になってしまうのではないかという印象論。実効性に乏しい、不透明なマクロ経済政策の方向性。

 

20121213-2】ネット素養を高めること

 于洋「ネット世論の場の”短板”を高めよう」という文章に目が行った「短板」とは「不足していること」ぐらいの意味か。

 −「ネットは日増しに社会世論のための発祥地、集散地、集散(流通)地、対決の場になっている。ネット素養が現在のネット世論の場で最も人々を憂慮させている「短板」である

 −ネットは人々に「マイク」を与えたが、人々は理性的に発言していない。個人に瞬間的に名をはせる機会を与えたが、人々は良好な道徳と品性を備えていない。ネットのデマの散布、「ネット水軍」(意図的にネット世論を誘導するビジネス)の好き放題、プライバシーの侵害がインターネットの健全な発展に暗い影を落としている。こうしたネット素養の「短板」を補うことが急務である。

 −健全で調和的なネット世論の場の創造には、ネット世論の運行ロジックと伝搬規律を理解しなければならない。

 −管理者は誠実な橋渡しで溝を取り除き、理性的な参加で了解に達し、責任ある担当で尊重を求め、ネット素養の向上を通じて、広範なネット民の理解と信任を獲得しなければならない。

 −ネット世論の参加者に対しネット素養を高めるには、社会的責任感を高め、自律を強化し、公民意識を養成しなければならない。公民の身分と認知判断情報で意見を発表しなければならない。ネットメディアをうまく利用して、自身の名声を大切にし、道徳と職業のデッドラインを守らなければならない。多元的であることを尊重し、違いを受容し、善意を放出し、客観的で開放的な態度で意見を表出する。ネット世論に対しては、重視しなければならないが片面的に迎合すべきではないし、個別に対応し、誘導を強化し、法に基づき管理しなければならない。

 

 思ったとおり、やっぱりこんなものかという程度の文章だった。ネット素養は理解できる。信任とか、誠実とか、責任ある、とかいうが、信任が築けない、誠実でいられない、責任を持てなくしている、そもそもの原因があるわけで、それを議論せず、きれい事を言っても意味がない。せっかくのネットというツールを守ろうという呼びかけはよく伝わるが。といういつもの読後感。

 

20111214】政府財政予算に党建設経費を計上

 吉林省で全国に先駆け、社区党建設工作経費を財政予算に計上したという記事が掲載されている。

 2011年、吉林省は社区党建設工作の経費を正式に省と地方(地級市レベルと県レベル)の財政予算に計上した。全国に先駆け、財政投入を主とし、多チャネルを通じて投入する社区党建設工作経費保障メカニズムを構築した。吉林省の社区党建設工作経費は約8000万元で、そのうち省財政で約5000万元、市県財政で約3000万元を賄っている。主に社区党組織工作経費の補充と、社区幹部生活向上の補てんに使われる。

 

 党関連の経費が政府財政から出ていることは大体予想がついていたことではあるが、その証拠となる財政項目を見つけることできなかったはずだ。この項目を隠すことは、共産党なりの後ろめたさと配慮と思っていた。しかし、吉林省は全国に先駆け、財政予算に計上するという大胆な行動に出た。

 透明化の一環なのか、額が大きすぎて隠しきれなくなったのか、理由はよくわからない。しかし、透明化すればいいということではない。党の経費と政府財政が区別されていないことはどう考えても問題である。政党法があって、政党助成金のような制度があるのなら理解できるが。省人民代表大会はこれを承認するのだから、どうしようもない。

 

 中央経済工作会議関連の連載は今日が4回目。タイトルは「中小企業の困難をどう見るか」。小見出しは次のようになっている。

 (1)困難によって基本面を改革できていない、(2)政策は「恵みの雨」、(3)転換レベルアップは躊躇することなかれ

 中国人民大学経済学院副院長の劉元春の「マクロ政策は積極的に構造調整を誘導すべきである」という文章も掲載されている。

 「構造調整」という掛け声は連呼されている。

 

20111215】中央経済工作会議のポイントは内需拡大

14日、中央経済工作会議が終了し、その内容が報じられた。注目が大きい分、メディアが詳しく内容を伝えているはずなので、詳細はそちらを。

 14日の中国の中央テレビの解説番組はこぞって、今年の中央経済工作会議の開催日が例年よりも遅かったと伝えた。しかし、その理由を語ることはない。中央経済工作会議はその前に開かれる党中央政治局会議での決定を伝えることが主な目的だというのが私の持論なので、中央経済工作会議の開催が遅かったのではなく、党中央政治局会議の開催が遅かったというのが正しい。

それではなぜ党中央政治局会議の開催が遅れたのか。その理由は分からないが、1029日の国務院常務会議の内容と党中央政治局会議、中央経済工作会議の違いから推測するしかない。

 党中央政治局会議と中央経済工作会議の報道にあって、国務院常務会議の報道になかった文言は何か。次の5点である。

 (1)引き続き積極的な財政政策と中立な(「穏健的」)金融政策を実施する

 (2)引き続きマクロコントロールを強化、改善し、経済の安定した比較的速い発展を促進する

 (3)(発展の)速度、(経済)構造、物価の三者関係を統一的に処理する

 (4)安定の中で進展を求める(「穏中求進」)

 (5)@発展を安定させる:内需拡大、外需安定、A物価を抑える:物価総水準の基本的な安定を維持する、B構造を調整する、C民生を豊かにする、D改革をしっかりつかむ、E調和を促す

 

 この中で、(2)がマクロ経済の目標を明らかにしている。(1)がそれを実現するための財政政策と金融政策のスタンスを明らかにしている。これらはセットなので、(2)の判断がカギとなる。今年は、マクロ経済の目標を国務院常務会議ではなく、党中央政治局会議で決めたということだろう。そのことは、党中央指導者内に政策対立があって決められなかったということよりも、むしろ国際情勢の先行きが不安定なので、その判断をしかねたということではないだろうか。

 それは、国務院常務会議と党中央政治局会議・中央経済工作会議の最も大きな違いが、「内需拡大」が加わった点にあることから推測される。これは、約1カ月半の間の最も大きな変化である外需先細りへの対応である。国際情勢に対する判断をギリギリまで遅らせるために党中央政治局会議・中央経済工作会議の開催が遅れたというのが私の見解。この「内需拡大」がポイントだと思う。

 もう1つ指摘できるのは、何が重点なのかさっぱり分からないこと。確かにマクロ経済政策の目標は、経済発展の促進であり、景気悪化に底入れしなければないということだろう。そして物価抑制は消えた。しかし、国務院常務会議以上に、中央経済工作会議は物価抑制に言及している。また(3)もトレードオフの関係にあるこの三者をどうやって統一的に処理できるのか。(5)はてんこ盛り状態。

 マクロ経済の目標と財政・金融政策のスタンスは明らかにされた。しかし、具体的な2012年の経済工作目標は、(1)(2)とは無関係に列挙されたてんこ盛り状態にすら思われ、その関連を整合性を持って説明することが私にはできない。あれだけ大騒ぎした中小企業の困難てんこ盛りに埋もれてしまっている。このてんこ盛りを、党内の対立に配慮したとか、バランスをとったとかいうこともできるが、私はその根拠を持っていない。

 そうすると、中国では、このマクロ経済の目標と財政・金融政策のスタンスを明らかにすることが、単に年中行事として翌年のスローガンを出す以上の意味があるのだろうかとすら思う。形式化された中央経済工作会議に踊らされている感じ。

 すでに個別には金融政策の緩和は行われているし、預金準備率も引き下げている。それでも金融政策のスタンスを変えない。短期的な措置が優先され、長期的な展望はあまり意味がないのかもしれない。短期的な措置の中から党中央の意図を読み取るしかない。

 

20111216】李克強が構造調整を強調

 中央経済工作会議が終わり、昨日に続いてその反応が紹介されている。

 (1)評論員文章の連載@「内需拡大という戦略基点をしっかり理解しよう」

 (2)李克強が全国発展改革工作座談会で講話し、「「安定の中で進展を求める工作の総基調をしっかり突出させて理解し、内需拡大を戦略基点とし、安定成長、物価抑制、構造調整、民生を豊かにする、改革促進、安定維持を統一的に立派に行い、発展の質と効益を高める」よう指示した。また、(発展維持、構造調整、物価安定の)三者関係で、前二者と同時に、「経済構造調整の推進をさらに突出した位置に置く」よう指示した。

 (2)解読連載A民生

 (3)財政部が201211日から輸出入関税の一部調整することが判明した。

 (4)杜青林中央統一戦線工作部長が非共産党人士に中央経済工作会議の精神を通報した。

 (5)商務部が対外貿易情勢について記者会見した。

 (6)中国社会科学院財政貿易研究所の高培勇所長が積極的財政政策について解説した。リードは「構造性減税は”歌やしぐさに技量を要求され、役者にとって難しい芝居”である」。

 

 この中で注目は、李克強が中央政治局常務委員クラスで最初に関連会議に出席したこと。これが国家発展改革委員会(発改委)の会議である点がミソ。再来年の総理就任後の経済運営で発改委主任ポストに李克強に近い人が就くかどうかが、李克強が経済運営を仕切ることができるかどうかのカギだと見ているので、発改委の会議にいの一番で出席したのは意義深い。発言内容は基本的に中央経済工作会議の精神に沿ったものだが、構造調整を強調した点は彼のスタンスを示している。

 今年6月に国務院副秘書長に江小涓が就任したが、彼女の出身母体である中国社会科学院財政貿易研究所所長の高培勇の文章も気になった。江小涓の国務院副秘書長就任は李克強総理の下での経済運営に大きく関わっていると思われる。その出身母体は当然ブレーン的役割を果たすだろう。そう考えると今日の高培勇の文章もその価値が上がる。

 

20112117】宇宙船ドッキング成功記念大会に常務委員全員が出席

胡錦濤が天宮1号と神舟8号のドッキング成功記念大会で重要講話をおこなったことが1面にカラーで大きく掲載された。しかも党中央政治局常務委員全員が出席した。

 

軍重視の姿勢を示すもの。もちろん国威発揚もある。しかしドッキングぐらいで、こんなに大きく取り上げる必要があるのか。胡錦濤をはじめ党中央政治局常務委員全員が出席する必要があるのか。取り上げ方は過剰で、軍に対し媚びを売っているように思える。やっぱり胡錦濤は党中央軍事委員会主席に残留したいのだろう。

 

20111218】江沢民は健在

 江沢民が『指導幹部外事用語叢書』の序文「指導幹部は必ず外国学習に努力しなければならない」を書いたことが判明した。この中で、「今回、私は曾培炎同志に中心になってもらってわが国の基本状況を紹介する材料を編纂した」と書いている。

 

 この記事から分かることは次の3点。

 1つは、江沢民自身が健在であることを再びアピールしたこと。今年10月以降4回目の紙面登場である。

 2つめは、外交関連の書物に序文を書いたこと。11月に電子工業関連の書物に序文を買いたいことが報じられたが、電子工業は彼が電子工業部長だったことを考えると当然。外交も国家主席や党中央外事領導小組組長だったことを考えると無関係といえなくもないが、電子工業部のような意味での外交部との直接接点があるとはいえないような気がして、ちょっと意外。

 3つめは、曾培炎の名前が出てきていること。曾培炎は江沢民によって中央政治局委員、副総理にまで抜擢された長老。しかし、経済が専門で、外交は関係ない。

 こうしたことからこの記事が掲載された意味をいくつか推測することができる。現政権の外交政策にケチをつけたかったか、次期政権の外交政策に影響力があることを示したい。第18回党大会に向けた外交関連の人事に影響力を持ちたい。外交担当のトップ人事、外交部長人事のこと(外交人事については、最近海外メディアが不穏な動きがあることを伝えている)。

そして最も重要なアピールは、江沢民自身は体調も悪く前面に立てないが、曾培炎のようなかつての自分の直属の部下が、たとえ得意分野ではなくても自分に代わって影響力を行使することができるぞということ。江沢民はまだまだ健在だ。

 

20111219】ソーシャル・ネットワーク管理で西側との協力余地ありとは

鐘声「ソーシャル・ネットワーク管理は各国共同の課題」と題する論評が掲載されている。北京市が最近微博(ミニブログ)に実名制を導入したことを海外メディアが批判的に報道していることに対する反論だと思われる。

 −「中国の地方政府がソーシャル・ネットワーク管理を改善することが、いくつかの西側メディアの注目を受け、中国政府が「アラブの春」の上演を防止する措置であると見なされている」

 −8月でのイギリスでの暴動はネットの影響(だから管理が必要という意味)

 −「一部の西側メディアが中国の地方政府のソーシャル・ネットワーク管理措置に敏感である。その大前提として、中国の各地方政府が微博などのソーシャル・ネットワークに対し排斥と反発の態度をとっているという認識がある」

 −「英BBCの報道では、中国、インド、ブラジルのソーシャル・ネットワークを利用する会社はイギリスよりも2030%多い。・・・中国政府は微博の発展を奨励し、特に各級地方政府の役人に微博を利用しネットユーザーと相互行動するよう主張している」

 −「ソーシャル・ネットワークの管理方式の創新の面で、各国には協力の余地があり、多種多様な選択方案を尊重しなければならない。重要なことは開放的で平和的な心態を維持することである」

 

 「アラブの春」と明言していることには目をひいた。かなり意識していることを示している。しかし、西側メディアがなぜ北京市の管理に注目しているのかということに対する情報提供が全くない。統制とソーシャル・ネットワークに対する「管理」の原則は全く異なるのに、「各国には協力の余地がある」など、相変わらず自己中心的な議論だ。

 

 中央経済工作会議関連の関連記事が今日もたくさん掲載されている。官庁エコノミストである国務院発展研究センターの張立群研究員の「投機的投資の住宅購入需要をしっかりコントロールしよう」と題する文章が掲載されている。国家統計局が昨日18日、11月の全国70大中都市の商品住宅販売価格のうち、前月比で下がったのが49都市だったと発表したタイミングでの発表なのだろう。まだまだコントロールが必要だという主旨。

 奇妙なことは、この文章が10月分同価格について34都市で下がったというデータを使っていること。まあ、脱稿が18日以前だったのだろう。他方、今日の『人民日報』は、昨日の国家統計局の発表を掲載していない。通常ならば報道するのだが。コントロールがまだ必要だという政策方針なのに、11月に同価格が下がった都市がさらに増えたので、困ったのだろうか。それとも技術的な問題か。

 

20111220】習近平の外遊

 今日20日からの習近平のベトナム、タイへの外遊を前に、商務部副部長がその意義を説明している。お披露目と経済問題が焦点らしい。

 昨日19日の金正日死去に関連する記事は、党中央らの弔電、楊潔チ外交部長が駐中国北朝鮮大使館を弔問、外交部が記者会見で弔意を表明した記事のみ。

 

20111221】温家宝が江蘇省視察で中小企業にこだわった理由

温家宝が121819日、江蘇省を視察した。記事のリードは次の3つ。

 (1)「情勢をはっきりと認識し、しっかりとした自信を打ち建て、積極的に挑戦に対応しよう」

 (2)「金融機構はさらに実体経済に奉仕すべきである」

 (3)「蘇州工業パークは先行実験の重要な役割を果たさなければならない」

 記事は6カ所で開催された座談会を詳しく伝えている。それぞれの発言のうち、問題点を紹介した発言と、温家宝の発言を拾ってみた。

 (1)自動車、造船、「光伏」(太陽光発電関連)業種の企業責任者との座談会

 ―(造船)注文票が少なく、価格が安く、無理な注文もある

 ―(光伏)今年は困難に直面し、販売量は増えても価格が下がっており、第三四半期は業種全体で赤字

 ―温家宝「戦略的新興産業に生産能力の過剰が出現している。光伏産業が直面する困難は短期的なものではない可能性があり、カギは企業が再編を進め、技術的に飛躍しなければならない」

 (2)紡績と服装企業の責任者と座談会

 ―(服装)生産経営型から創新運営型に転換。表面加工や研究開発、専売店の経営に傾斜。労働力、利息などのコストが増え、少なくない(他の)企業の利潤が比較的少ない。

 ―(紡績)少なくない中小企業の経営が困難

 ―(輸出服装)特許がないので、利潤率が比較的低い

 ―温家宝:「あなた方が必要としている国家の支援政策は3つある」:(1)資金支持、(2)輸出政策の安定の維持、(3)科学技術を含めた支援政策=民生改善、構造性減税への財政支出

 (3)台湾資本と外資企業の責任者との座談会

 ―(台資)大きなブランドがないので市場が非常に小さい。

 ―温家宝:「外資企業の最も関心があるのは3つの問題だ」:(1)知的財産権の保護、(2)政府入札での公平性、公開性、(3)外資企業への内国民待遇

 ―温家宝:「合資でもいい。独資でもいい。アジアの総本部を中国に移すこともいい。ここに研究開発センターを設置するのもいい。われわれはすべて歓迎する」

 (4)蘇州市の市、県の責任者との座談会

 ―(蘇州市)今年9月の注文が多いが、小規模で、短期のもの。来年の輸出情勢はかなり厳しい。実体経済の効益の落ち込み状況にある。企業融資コストが上昇し、雇用コストが増えている。

 ―温家宝:「情勢が厳しいことは次の4点に表れている。(1)輸出減少幅の拡大、(2)製造業の効益の落ち込み、一部企業で赤字が出現、(3)外部市場の萎縮と企業の総合的なコスト上昇、(4)経済の落ち込みと物価が高位にあることの併存」

 (1)(2)の座談会

 ―(企業)現金受取リスクが急激に高まり、企業効益への影響が申告

 ―(企業)銀行の利息が高すぎる。大企業には基本利率、中小企業には基本利率の上昇フロート幅は2030%。

 ―(企業)一部の銀行は基準利率よりも1030%高めている。企業に貸し出した後、預金を要求し、(貸出額の)50%を要求するところすらある。手形引き受けコストが増えている。

 (5)少額貸款公司、信用社の責任者との座談会

 ―(少額貸款公司)利息以外にいかなる費用も徴収していない

 ―(少額貸款公司)一般的な貸出限度額100万元について、小企業にはいつでも返還、いつでも貸出を行っている

 ―温家宝:「総じて、商業銀行はまだまだ小型超小型企業の発展の需要を満足させることができていない」

 (6)蘇州工業パークの企業責任者との座談会

 ―温家宝「中国は『ジョブス』を必要としており、世界市場を選挙する『アップル』のような製品が必要である」

 

という立場を現場と世間に伝えたかった。そして、短期的な国際金融情勢の影響よりも、構造調整など企業そのものの改革が必要であることを訴えた。

 温家宝は「安定した比較的速い経済発展の安定」というマクロ経済運営の大きな目標については相違ないが、個別政策では中央経済工作会議の決定に異議があるのかもしれない。温家宝の存在感が薄いと思うのを、党中央指導者内で意見が一致しているからだと思ったが、そうではなく温家宝には異議があったからかもしれない。

 この他に目についたのは 2008年のマクロ経済運営への言及が多いこと。あのときはうまくいったというニュアンスだ。なぜ言及が多いのか、これもよく分からない。しかし気になる。

 中央経済工作会議の後、最初の温家宝の地方視察であり、報道量が多かったので、キチンと見てみた。最近のマクロ経済運営で温家宝の存在感が薄いという印象を持っているので、何か見えてこないかなあと思ったからだ。

 企業の責任者がいかに経営困難かということを具体的に語った部分をこれだけ細かく報道しているということは、少なくとも温家宝もこれらを問題として認識していること、そしてこれらの問題の改善に力を入れるよう指示していることを意味している。これだけ細かく伝えられると、中小企業の経営状況が本当に大変だということが印象づけられる。効果あり。

 しかし、視察報道の大半が中小企業の問題という点にちょっと違和感がある。というのも、私は中央経済工作会議で、中小企業の問題が思ったほど大きく取り上げられておらず、one of them になっているということを前の更新で指摘したからだ。あれだけ会議前に中小企業のことが話題になっていたのに。

 さらに中小企業の経営難についても、欧州債務危機などの外需縮小の影響についてはあまり触れていない。むしろ構造調整問題や金融貸し渋り問題などが挙げられている。

 これだけ「状況証拠」が揃うとどうしても深読みしたくなる。つまり、温家宝は中小企業の経営困難に強い関心をもっていたのではないか。そのため、その解決には、ある程度金融政策の緩和が必要だと思っていたのかもしれない。しかし、中央経済工作会議では中小企業問題の扱いが軽くなってしまった。それは温家宝には不本意だったかもしれない。だから、会議後の最初の視察で中小企業の多い江蘇省を選んで、自分が中小企業のことを重視していることをアピールしたのだろうか。

 

20111222-1】住宅販売価格の前年比上昇の都市を強調

 国家統計局が1218日に発表した11月の70大中都市の住宅価格統計の解説が掲載された。

 前月比で価格の下がった都市が15都市増えた。しかし前年比で下がったのは4都市のみ。逆に長沙、広州、桂林、洛陽、ウルムチの5都市では上昇し、その上昇幅は5%を超えた。この5都市は過去7カ月のあいだ毎月対前年比で5%上昇している。

 中国房地産協会副会長の朱中一は「対前年比で上昇幅の大きい都市の分譲住宅市場コントロールの圧力は大きく、住宅価格上昇の原因を具体的に分析し、各地が当地の状況と結合し、さらに新たな措置を出さなければならない」と述べた。

 

 何かと注目されるこの70大中都市の住宅販売価格に関する統計だが、1218日の発表から4日遅れで関連記事を掲載した。先日、発表の翌日に掲載されていないのはヘンだということを指摘したが、こちらにいるある中国経済に精通した方に毎月掲載されているのかという指摘を受けたので、確認してみた。少なくとも先月分は統計発表記事として発表前後の紙面には掲載された形跡がない。確かに毎月掲載されているわけではなさそうだ。気まぐれか、意図的かは分からないが。

 この11月分については、前月比で価格が下がったのが「15都市増えた」というだけで、「49都市になった」とは言わない。また、前月比で下がったことよりも、前年比で上昇した5都市を強調している。この点が報道の仕方として興味深い。「不動産コントロールは揺るがない」とする中央の方針が示されているので、70大中都市のうち7割が前月比で下がっている点を強調する訳にはいかないのだろう。依然として不動産コントロールが必要だという方針を正当化するための取り上げ方だ。

 

 胡錦濤の批准を経た総参謀部軍訓部成立大会が開かれた。

 

 1122日には胡錦濤が決定した総参謀部戦略規劃部設立大会が開かれており、総参謀部は立て続けに部を新設したことになる。軍事戦略上の必要性については分からないが、部の新設はポストが増えるわけで、歓迎されるだろう。

 それにしても1カ月の間に総参謀部に2つの部が新設されたことは、総参謀部へのご機嫌取りのような感がある。総参謀部が胡錦濤になびいていないからか、それとも忠実だからか。それとも習近平との関係なのか。いろんな深読みができる。他方、総政治部や総後勤部などはどう見るのだろか。「俺も、俺も」とは思わないのか。

 

20111222-2】広東省陸豊鳥坎事件の教訓

 広東省陸豊鳥坎事件に関する論評が、人民時評の欄に張鉄「“鳥坎転機”がわれわれに何を提示するのか」というタイトルで掲載されていた。

 

 広東省陸豊鳥坎事件が、21日に広東省党委副書記を組長とする工作組が陸豊に派遣され、省党委書記の重要な指示が伝達されたことで、解決に向かうことになった。この一連の事件から、何を教訓として学ぶべきかを論じた文章だ。

 文章は、この事件を次のように理解している。

 ―「今年(2011)9月以来、一部の村民がたびたび陳情(上訪)したのは、村幹部の土地、財務、人事などの問題への不満に端を発している。もし(村幹部が)その都度、利益要求をしっかりつかみ、事件発生前に真剣に耳を傾け、公正に評価・判断し、速やかに解決していれば、小さなことが大きなことになり、(問題が)レベルアップし、群体性の衝突になることはなく、鳥坎事件は異なる結果になりえた」

―「広東省の工作組は『群衆の主な要求は合理的である』と肯定している」

―「鳥坎事件を直接誘発した土地問題は、全国各地で目新しいものではなく、・・・『偶然的』な衝突の背後には、『必然的』な動機がある」

教訓として次のことに言及している。

―「鳥坎事件では、末端政府の最初の過ちは、村民の合理的な利益要求を直視なかったことで、理性的な陳情(上訪)を過激な行動にエスカレートさせてしまった点にある」

―「社会管理の善し悪しは、対立(矛盾)や衝突が存在するかどうかではなく、対立や衝突をうまく受け入れ、解消できるかどうかである」

 

 鳥坎事件は今年9月に発生し、12月に入り新たな展開が見られ、注目されてきた。しかし、いつものことだが、『人民日報』は全くこの経緯を紹介することなく、教訓だけを論じようとするのだから、読者に親切ではない。注目されているのだから、みんな詳細を知っているだろう、ということなのか。それともあまり経緯は知らせたくないけど、解決に向かっているので一応報道しないわけにはいかないので、高尚に論じたつもりなのか。いずれにせよ、新聞報道としてはダメだろう。それとも機関紙だからこれでいいのか。

 まあ、報道の仕方についてはさておき、鳥坎事件に対する私の理解は、9月に村民の陳情が聞き入れられず、暴動にエスカレートした。12月になって首謀者5人が捕まり、そのうち1人が取調中に死亡したことで、その死亡原因をめぐり再び村民と地元政府のあいだに緊張が高まったというもの。だいたい合っているだろう。

 一件落着しそうになったタイミングで『人民日報』が初めてこの事件を伝えた。この文章は、群衆側を肯定し、地元政府の対応を批判するという構図である。しかし、群衆側をここまで肯定するのはなんとも気持ち悪く、群衆に対する物わかりの良さを強調して、どことなく群衆に媚びている感じがしなくもない。それもこれも事件に対する分析がないので、この文章の判断が正しいのかどうか分からない。

またこうした事件が全国で多発していることもこの文章は伝えている。地元政府の対応能力が低いことは分かっているが、それをこの文章が示唆するように個々の地元政府の原因と割り切っていいのか。やはり政治体制そのものの問題なのではないか。広東省で今年だけでも、いくつかの末端騒ぎが全国で注目された。これは広東当局の対応に問題があるのではないか。もっと突っ込んだ分析をすればいいのに。

 

20111223】習近平がタイで東アジア協力に言及

 ミャンマー、タイを訪問中の習近平がタイ華人華僑各界晩餐会であいさつをした。ほかにおもしろそうな記事はないし、習近平が何を語っているか気になったので、あいさつの全文を読んでみた。その中で気になった部分は以下のとおり。

 ―「現在の世界は大発展、大変革、大調整の時期にあり、東アジアの地位は日増しに重要で、役割は持続的に高まっている。中国、ASEAN、東アジアの国々の発展は新たなチャンスと挑戦に直面している。われわれはチャンスをしっかりつかみ、優勢を発揮し、中国-ASEAN関係を引き続き推進し、東アジア協力を深め、相互利益winwinを実現しなければならない」

 ―東アジア地域協力で理解すべき4つの重点:

 (1)ASEANの地域協力での主導的役割を堅持する

 (2)経済貿易、インフラ建設などの実務的な協力を深める

 (3)中国-ASEAN地域の安全安定を共同で維持する=われわれは中国-ASEAN地域に存在する対立する問題に対し、善隣友好、平等に接する、相互利益winwinの原則に基づき、関係国の対話協議によって平和解決しなければならない

 (4)その他の地域協力の有益な経験を積極的に参考にする=域外国が東アジア協力の促進過程における建設的役割を発揮することを歓迎し、域外国が中国-ASEAN地位の自主性、多様性を尊重し、それぞれの快適度に配慮することを希望する

 

 注目したいのは、ASEANのタイで東アジア地域協力について言及していることだ。もちろん、ASEANの主動的役割を強調しており、ASEAN3(日中韓)をベースとした東アジア協力の推進という基本姿勢を説明しているにすぎない。

しかし、これを習近平がASEANに向けて発言したことに意味があるし、彼が東アジア協力についても関心が高いことを示したことにも意味がある。TPPについての直接言及はないが、「域外国」に言及しており、TPP や米国を強く意識しているというメッセージを読み取ることはできる。

 

20111226】野田首相が温家宝と会談

 野田首相の中国訪問がスタートした。まず、温家宝と会談した。温家宝の主な発言は以下の通り。

 (1)「日中はいい隣国であり、いいパートナーでなければならず、敵であってはならない」

 (2)「日中省エネ環境保護総合フォーラム、グリーン博覧会などのメカニズムとプラットフォームの作用をさらに発揮し、できるだけ速く日中省エネ環境保護投資基金をスタートさせ、中日生態工業パークを立派に行い、省エネ環境保護、グリーン経済、低炭素経済、ハイテク領域の協力の水準と規模の向上に力を入れなければならない」

 (3)「中国側は日本側と密接に協力して、両国の通貨金融市場の発展を促進させ、日中韓FTAの進展と東アジア財政金融協力の推進を加速させたい」

 (4)「中国側は日本側の震災復興を引き続き支持、参加し、双方は災害防止災害削減、原発の安全の方面で経験交流を強化し、実務的な協力を展開することができる」

 (5)「朝鮮半島の平和安定を維持することが各関係方面の共同利益に符合することで双方は一致した。各関係方面は引き続き共同で努力し、対話と話し合いを通じて、半島の関連問題を解決し、一日も早い6カ国協議の再開に向けて進み、半島の平和安定を促進し、この地域の長期にわたる安定を実現することを希望する」

 

 (1)は温家宝の日中関係に対する基本認識。(2)省エネ環境保護での協力への期待が大きい。省エネ・環境循環型モデル都市開発区「曹妃甸エコシティー」建設への支援を示唆する発言。(3)は日本の中国国債購入の歓迎を示唆する発言で、日中韓FTAの推進について中国側の言質を引き出した。(4) は東北大地震に対する中国の関心を示し、パンダの貸出を示唆する発言。(5)金正日死去に伴う朝鮮半島情勢に対する中国側の認識を示しているが、ほとんど従来どおりだが、北朝鮮の新体制にも6カ国協議の重視を求めた発言。

 しかし、東シナ海ガス田開発問題や海洋安全保障問題など両国の懸案事項についての報道はない。

 

20111227】野田首相が胡錦濤と会見

 胡錦濤が野田首相と会見した。報道された胡錦濤の発言は、お決まりの日中関係への希望と朝鮮半島情勢についての見解の部分。

 

 野田首相の一連の会談に関する『人民日報』の報道からは、中国側にとっての今回の野田首相の訪中の意義として強調したかったのは、来年の日中国交正常化40周年の地ならしと金正日死去後の朝鮮半島情勢についての意見交換だったということになる。中国側には、タイミングよく、日本のみならず、諸外国に対し、北朝鮮に対するこれまでと変わらないスタンスを表明する機会となった。日本側にとってはパンダを借り受けることができてよかった。

 26日は、午前、午後、習近平も李克強も、香港特別行政区行政長官とマカオ特別行政区行政長官と会見している。2人とも北京にいたようだ。しかし野田首相と会見はしなかった。