106回 201111月の『人民日報』(2012630日)

 

201111016中全会決定をめぐる党内対立か

 6中全会終了後、評論員の関連文章の連載は、「決定」の全文が公表された日から始まり、昨日1031日までで3回が終わった。さらに続くのか、これで終りなのか分からない。他方、今日111日の紙面に「6中全会解読」と題するコーナーが設置された。今日のテーマは「文化強国は中国の道を行かなければならない」。このコーナーもおそらく何回か続くのだろう。

 しかし評論員文章の連載と並行して、同じようなコーナーが走るのは何とも胡散臭い。実は昨年2010年の5中全会後もそうだった。その時、こうしたケースは珍しい、と思った。そこには125カ年計画をめぐる党中央内の考え方の違いが反映されているように思われた。今回も2本の連載が同時に走るとなると、それは6中全会に対し党内に対立があることを示唆しているのかもしれない。それは文化体制改革に対する考え方の相違かもしれないし、文化体制改革を進める主導権争いかもしれない。まだよく分からないが、ちょっと気になる動きだ。

 

 財政部と国家税務総局が111日から増値税と営業税の課税開始額の引き上げを決定。

 

 これは「増値税暫行条例実施細則」と「営業税暫行条例実施細則」の一部条項の修正で実施されるということだ。先の国務院常務会議で議論され、その指示で実際されるものだという。確かに、紙面ではこれまでにも取り上げられてきたことが、素人考えだが税制改正が、一方的な実施細則の修正という形での通達だけで、実施に移されていいようなことなのだろうか。全人代など議論されるべきではないのだろうか。それとも全人代でされたのかなあ。個人所得税については法律があるので、全人代で議論されたが。

 

 この他、「ネット世論の『生態論理』を理解する」とか、「『城管執法』『(都市管理法執行の機構」)には早急に標準化と法治化を要する」といったネット世論が都市管理の特集が組まれている。

 小見出しだけ取り上げると、前者は、(1)ネット生態は自己浄化できる、(2)ネット参加者には自律が必要、(3)公衆人物は発言権を慎重に用いなければならない、(4)「微博の素養」は社会理性を反映している。後者は、(1)都市管理機構の地位は「合法」か、(2)城市執法は「姓は何、名前は何か」:総合的な法執行の改革を堅持しなければならない、(3)改革はどこに向かうのか:法治の標準には規範が必要。

 

 どちらも喫緊の課題であり、中国政治の研究者としては関心をもつべきなのかもしれない。しかし、「もっともらしいことは書かれているけど、こんな特集を組んでいったい何の意味があるのだろう」という思いが強くて、詳しく取り上げる気にもならない。なんか、もう少し意味のある取り上げ方、意味のある主張があれば、読もうかなあという気にもなるのだが。

 

20111102】浙江の中小企業も産業構造転換

 目を引いたのが、「産業チェーンが資金よりも重要 一部の中小企業の経営困難、融資先がない、しかし浙江省の商人はこう考える」という特集。

 リードは「本業を放棄し、副業を行う、加工製造を放棄し、不動産や融資の転がしなどを行う現象を糾弾しなければならない」、「企業が現在直面している数々の困難は、深いレベルの原因なのか、それとも発展レベルが低いことか」とある。小見出しは次の通り。

 (1)「カギは伝統産業や労働集約型産業の改造、レベルアップを促進しなければならない」

  (2)「資金を解決するよりも重要なことは産業チェーンの問題を解決することである」

  (3)「産業のレベルアップには大きな余地がある」

 関連して、熊建の「弁証が融資難を見る」と題する短い文章も掲載されている。それによると「融資難が最もひどく叫ばれている浙江だが、実際には多くの人の頭は冷静である。企業が融資難などさまざまな問題に直面しているが、大本は企業の発展レベルが低いこと、価格交渉能力が低いことにある。そのため、彼らは積極的に発展方式の転換、産業チェーンの延長などから出口を探している」とある。

 

 どうもここ数週間の『人民日報』は、今話題の中小企業の資金調達難の問題を、浙江・温州の話を特殊なものとする一方で、中小企業の経営難を金融引き締め政策による資金調達難問題よりも、むしろ産業構造の転換問題として取り上げる傾向が見られる。これは当然何らかの意図を持って、世論誘導しようするものだ。他の新聞はけっこう金融問題として大きく扱っているが、『人民日報』はなんとなくトーンが違うような気がする。

 

 最近、党中央が「党の第18回党大会代表選挙工作に関する通知」を印刷転発したことが判明した。来年秋の第18回党大会まで約1年、各地で計2200人ぐらいの代表の選挙が行われる。

 甘粛省で県レベルと郷レベルの人民代表大会の代表選挙が終了したとして、その様子を伝える記事も掲載されている。

 

党大会の季節が来た。以前ならそこに掲載されるデータに関心をもったが、党大会代表、人民代表大会代表など、当該レベルの党や政府の指導者や関係部門、軍、大型国有企業などの幹部の指定席でほぼ埋まるわけだから、事前に予想がつく。まれに私営企業の経営者や農民工などが本当にごく一部当選しても、それはその時々の話題作りに過ぎないからほとんど無視していい。最近は、そう思うようになったので、気にもとめない。

 党大会代表ならば、その中から誰が中央委員になったかに注目するから、本当に当日にならないと分からない。数はどうでもいい。ここもほとんど指定席が決まっているから。

 

20111104】文化体制改革で劉延東が気になる

 6中全会、文化体制改革絡みの記事が多い。

 (1)劉雲山が省部級領導幹部文化体制改革和文化建設専題研討班で指示

 (2)6中全会精神に関する評論員文章の連載C「凝集力を鋳造する興国の魂」

 (3)蔡武文化部長「輝かしい成功 貴重な経験」

 

 6中全会で文化体制改革が議題になることが判明したころから、イデオロギー関連の会議などで李長春、劉雲山とともに、劉延東の姿を見ることが多くなり、とても気になっていた。

彼女は教育担当と理解しているのだが、振り返ると4月末に開かれた全国文化体制改革工作会議という(今思えば6中全会の準備はこのときスタートしたのだろう)会議にも、劉延東は劉雲山とともに出席し、講話を行っている。

 文化体制改革も含むイデオロギー担当のトップは李長春だが、その下には2つのグループがあるのかもしれない。1つは職務上よく出てくる劉雲山、王震。もう1つは劉延東と蔡武。前者はイデオロギー担当としてはベテランの人たちだ。後者はともに胡錦濤が共青団中央時代の直属の部下。

 この2つのグループが対立関係にあるかどうか、表面的にはよく分からないが、文化体制改革が現在のホットイシューなので、とても気になる。もっといえば、来年発足予定の習近平政権の下で、李長春の後のイデオロギー担当が誰になるのかが注目されるが、現状では劉雲山と劉延東はともに候補者といえる。

 担当者としてがんばっている劉雲山と、最近存在感をアピールするようになった劉延東。ともに無自覚ではないだろう。李長春がそうであるように、イデオロギー担当は過去の経歴と関係なく選ばれることもあるので、深読みかもしれないが。

 

20111105-1】胡錦濤が就業問題に言及

 胡錦濤がG20サミットで、就業問題について言及している。

 「就業は国家の経済と人民生活に関わることで、各国は就業の安定と拡大、とりわけ青年群体と弱者層の就業を経済社会発展の優先事項に位置づけなければならない。成長で就業を促進し、就業で成長を安定させなければならない。中国が十分な就業の促進を民生の保障、改善の第一の任務とすることを堅持することが、内需拡大の重要措置でもある。就業優先戦略と積極的な就業政策の実施が、就業状況の全体的な安定を維持してきた。これも世界経済の回復と失業減少に対し重要な貢献である」

 

 胡錦濤が、特に就業問題について言及しているので注目した。G20サミットという国際舞台での発言の意味は何だろうか。米国やイギリス、ギリシャなどの一連の混乱に対して、中国は就業対策をちゃんとやっているのでこれだけの経済成長をしている。中国の資金に頼る前に、各国とも就業対策をちゃんとやれ、ということなのか。それとも、就業が大事なので、中国国内の中小企業の経営難に対し、金融引き締め政策の見直しも必要ではないかという、マクロ経済政策に対するメッセージか。おそらく前者の意図だろう。しかし、中国の国内で中小企業対策について、いろんな議論がされているようなので、つい後者のような深読みをする。

 

 習近平が、中央革命根拠地創建記念・中華ソビエト共和国創立80周年記念座談会で講話をおこなった。その全文も掲載されている。

 

 講話の内容を見ると、中央革命根拠地、中華ソビエト共和国での経験を振り返り、現在の共産党が引き継いでいるというオーソドックスな内容で、奇異な見解は示していない。習近平が次期最高指導者として、安定感を示そうというところだろう。

 

 広東省人民代表大会が、代理省長に朱小丹を任命した。

 

 朱は広州市党委員会書記、広東省副省長を歴任し、一貫して広東省内で出世してきた、土着幹部だ。党委書記だけでなく首長すら、外省人が来るケースが出てきている昨今、広東省は土着幹部の昇格というルートを守った。党委書記は来年汪洋から交代する。 

 

20111105-2】人代代表選挙に見る低レベルの政治

 北京市などの県・郷レベルの人民代表大会代表選挙で、候補者と有権者の「対面交流」が進んでいることが宣伝されている。これは、選挙法の修正に伴うもので、選挙が基本的に終了した山西省、江西省、広西チワン族自治区、甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区でも進められた。特に、北京市石景山区八角北里選挙区での対面交流が詳しく紹介されている(これは、国内外のメディアに公開されたため)。

 八角北里選挙区は、石景山区八角分会第3選挙区にあたる。有権者数2777名。112日に八角北里居民委員会が、4人の正式候補者と数十人の有権者代表の対面交流を行った。立候補者の立会演説会に質疑応答が加わったもののようだ。この選挙区では、6回の選民小組会議が開かれ、最終的に4人の正式候補者が選ばれた。

 候補者の1人が「王玉娟」。63才。すでに5回の当選歴を有する。石景山区文化文物局副局長を最後に退職後、八角社区居民委員会党委員会書記に就き、10年間社区工作に従事。

  問「社区の衛生状況の改善はどうするのか?」

  答「社区衛生管理人員の訓練、管理の強化、関係方面からの経費支持を勝ち取る、社区住民を動員し月末に清掃活動を展開」

 候補者の1人「王清」。

  問「小さな張り紙広告が多い。都市管理をどうするのか?」

  答「巡回強化、資金を集め広告啓示場所を設置する。違法広告は都市管理部門に通報」

 この他、対面交流では1人暮らしの老人家庭の防火、盗難防止、詐欺問題、文明のない(非常識な)ペット飼育、老人食堂の建設などについて、質問が出た。

 

 選挙の前に、正式候補者と有権者が対面して、交流するというのは、当然の手続きだと思うが、これまで十分行われていなかったことなので、それが実施されたこと自体を評価すべきなのかもしれない。しかし、こんな記事だけで、「おやっ」、「やっぱりなぁ」と思うことは多々ある。

 1つは、有権者2777名に対し、数十名の有権者代表しか参加していないことである。参加者が少ないことは、有権者の政治的無関心によるものではないだろう。「代表」とあることから、当局によって選ばれた有権者しか出席していないのではないか。お手盛りの対面交流の可能性である。

 もう1つは、最終候補者が6回もの選民小組会議というブラックボックスの中で、絞り込まれたということだ。そうすると、現職の社区居民委員会党委員会書記が外れるはずがない。指定枠だ。「独立候補者」など入る余地は絶対ない。これを民主的な選挙と言って宣伝するのはいかがなものか。

 また、質問のレベルの低さ。ここであがった質問内容は本来人代代表の仕事といえるだろうか。行政の仕事だろう。人代代表の役割がはっきりしていない。もっと言えば何の意味もない名誉職だということだ。それとも行政の無能さで、人代代表に持ち込まざるを得ないのか。質問をする人は、当局が選んだ有権者代表なので、奇をてらった質問はしていないはずなので、県レベル以下の政治が成熟していない、レベルが低いということの証左といえる。

広東省仏山市で2人の一般推薦候補者が人民代表に当選したようだが、これはレアケースで、民主的という側面よりも、当選させた政治的意図(話題作り)や彼らの背景に注目すべきだろう。

 

20111106】村民委員会撤廃の方向

国土資源部党組メンバーで、国家土地副総監察が語った土地収用問題についての記事を、理解を深めるためにキチンと読んでみた。

 1.土地収用問題に対する認識

  (1)都市化、工業化が速すぎ、短期間で土地収用を完成させようという圧力から、一部の地方政府が土地収用のあるべき法律手続きをいい加減にしたり、軽視していることから紛争が引き起こされている

  (2)土地収用の補償、移転制度の設計自体の問題で、補償と移転を区別していないことから、容易に矛盾が引き起こされている

  (3)有効な紛争調停処理メカニズムに欠けている

 大多数の農民は、土地収用に反対しているのではなく、権利が有効に保障されないことに不満を持っている。

 2.土地収用制度改革の目標

  (1)引き続き都市化、工業化のために必要な土地資源を提供しなければならない

  (2)耕地保護、過剰で速すぎる耕地減少の防止、穀物安全の保障に有利でなければならない

  (3)土地を収用された農民の合法的権益を保護し、土地収用による紛争を減少させ、社会を安定させなければならない

 重点は(3)

 3.補償内容

  (1)土地所有権に対する補償、(2)家屋に対する補償、(3)食料作物・その他の建物に対する補償

 4.農民の市民化を進めるために

  (1)戸籍、(2)都市住民と同等の市民待遇(教育、医療、就業、養老などの社会福利と社会保障)

 5.農村集団経済組織形式の改革

  (1)集団財産のある組織は株式合作制公司を設立する

  (2)集団財産のないところは、村民委員会を居民委員会に転換させる

 6.紛争解決

  (1)補償は公平、公正、公開としなければならない

  (2)土地収用項目の合法性の問題と補償・移転の合法性問題を区別しなければならない

  (3)紛争裁決機構を構築する

  (4)完備された土地市場システムを構築する

 

 土地収用問題に対する当局側の見解をうまくまとめて説明している。

 改めて確認したことは、「大多数の農民は、土地収用に反対しているのではなく、権利が有効に保障されないことに不満を持っている」という認識。この問題と地方政府の土地利用問題、いわゆる土地財政問題は別問題という認識。

 最も興味深いのは「5.農村集団経済組織形式の改革」だ。この問題にあまり精通していなかったので新鮮だった。「集団財産のある組織」というのは、農業生産や工業などの企業経営などをしている村民委員会などを指すのだろう。そんな村民委員会を株式合作制公司に組織替えするという。「集団財産のない」というのは、経済活動をしていないこと。そんな村民委員会を居民委員会に組織替えする。

これらは、つまりは村民委員会を撤廃するということで、もし実行されるのならば、中国の政治制度の大きな改革である。行政上の概念としての「農村」がなくなることで、自動的に農村戸籍がなくなることにつながっていく。そんなことを中央は考えているのだろうか。

 もちろん社会的な概念としての「農村」がなくなるわけではないので、都市と農村の格差が解消されるわけではない。地域格差という言い方に収斂されるかもしれない。

 

20111107ウェブサイト・インターネット企業責任者研討班で思想統一

 1135日に国家インターネット信息弁公室主催ウェブサイト・インターネット企業責任者研討班が開かれた。中国電信などのキャリア、人民網、新浪や百度などウェブサイトのトップを招集した。

 参加者は「インターネット企業は、自己管理、自己制約、厳格な自律を強化し、企業の法律責任、社会責任、道徳責任を模本的に履行し、有効な措置を採り、ネット文明の風を大いに興し、文明的的なサイトの創建をさらに展開し、文明的で理性的なネット環境を積極的に育成し、インターネット建設を共同で構築し、共同で享受し、健全で秩序を有し、積極的に向上するすばらしい精神的家庭となすことで認識を一致させた」。

 

 新興メディア企業の「思想統一」の指示があったのだろう。規制強化モード。

 

 李向陽「中国経済の安定成長の世界的意義」と題する文章が掲載された。G20サミットへの論評。「短期的な主権債務危機と中長期的な需給力の欠乏、経済成長の鈍化に対し、グローバル経済は新興経済国の加速成長に依存することを期待している。最大の新興経済国として、中国が安定成長を維持することがグローバル経済への最大の貢献である。中国に負担する必要のない責任や義務を押しつけるべきではない」として、欧州債務危機に対する中国の立場を再確認している。

 

20111108】中国の政治構造に優位性があるのか

 鐘声「中国の発展を予測するには、理解の基礎が必要」が掲載されている。注目したのは次の点。

  −「西側メディアによる中国の将来予測は、いわゆる不確定性から持続不可能性へと移ってきている。これらの分析はほとんど次のように認識している。中国の発展は経済の近代化には有利だが、政治構造がいまだ改変されないので、経済の持続可能な発展を実現できない」

  −「欧州の深刻な債務危機は政治の政策決定の疲労によるものであり、米国経済が意気消沈して振るわないのは政党政治がワシントンの変革の手足を縛っているからである」

  −「中国がさらに安定するかどうか。そのカギは中国の発展の基礎をいかにしてさらに強固にするかという点にある。中国がなぜ今日(の繁栄の道を−佐々木注)を歩んでいるかが分からない人に、どうして中国の未来が安定を進むのか、不安定を進むのかを理解することができようか」

  −「中国という壮大なビルの構造は強固でしっかりしている。一部の西側の人はこれを見て見ぬふりをし、歴史文化の伝統の中から中国の発展の独特性を考えず、経済グローバル化の背景の下で中国の発展が表現している適応性を考察しようとしない。こうした人たちに対して言う。中国の発展の基礎の強さを認めることを。そのことは長年守ってきた中国観の自滅を意味し、そのことで彼らの国際事務での傲慢で横柄な行動様式は支えを失う」

 −「ここ数年一部の国家が発展の道で挫折する重要な原因の1つは、政治体制が問題をもたらし、社会基礎が動揺したからである。すでに建設されたビルはひっくり返って、再建せざるをえない。その結果は必然的にあちこちに石ころが転がっているようにひどく混乱し、社会の動揺によって衰えた民生に災難がさらに重なる」

 −「明日の中国が世界舞台の中央で頭をもたげてまっすぐに立つには、これまで同様にさらに基礎を強固にしなければならない」

 

いつもなら3面に掲載される国際問題に関する鐘声の評論が今日は21面と後ろの方に掲載されていた。そこに行き着くまでに、いくつか興味深い記事があったのだが、この鐘声の超「上から目線」の論評が掲載されていたので、かなりイラッとしてしまい、じっくり読んでしまった。

欧米(おそらく日本も含まれる)の混乱の原因が、政治構造にあるというのは間違っていないと思うが、それがすべてだとは思わない。欧米の政治構造を批判するのならば、中国の発展要因について自らの政治構造の優位性を明確にすべきだろう。「発展の基礎」といった奥歯に物が挟まったような言い方をしているのが不満だ。中国の発展の要因を「適応性」にあるとするが、その「適応性」がどこから来ているのか。それがまさに中国の政治構造の優位性だろうに。「歴史文化の伝統」を要因とするのはなんとも的外れ。

経済が発展しているのだから、現状の政治体制をよしと認めろ、文句をいうな、と言わんばかりの「上から目線」の論評。飛ぶ鳥を落とす勢いの中国を象徴している。しかし、経済が発展してれば何でもあり、というわけではない。だから、西側メディアの存在価値はある。中国当局はそんな西側メディアの報道スタンスにかなりイラついているということだろう。それがこの鐘声の論評になったといえる。そんな中国だからこそ、「理解の基礎」が必要だ。逆説的に鐘声の主張は正しいといえる。

 

 他に気になった記事は、周永康が相変わらず中央社会管理綜合治理委員会でがんばっていること。最近、広東省が「信訪工作責任追究暫行弁法」の関連実施細則を制定し、政府職能部門の政策決定の失敗が群体性事件を引き起こすことへの責任追及を明確化した。不動産価格の下落傾向にあるがコントロールはまだ続けるべきとの論調の特集などなど。

 

20111109】江沢民健在と共産党が誇る「社会主義民主の選挙」

 今日の紙面の注目は江沢民。2つの話題で江沢民が「登場」した。

 1つは、昨日118日に実施された北京市県級・郷鎮級人民代表大会代表選挙で、胡錦濤ら共産党中央指導者が投票したが、江沢民も代理投票したことが伝えられた。

 もう1つは、『中国電機工業発展史』に巻頭言と書名を書いたことが伝えられた。2面には巻頭言の全文が掲載された。

 

 109日の辛亥革命100周年記念大会での「江沢民サプライズ」で権力への執着を見せた江沢民だが、今日の紙面で本人の姿が見られたわけではないが、その存在感をアピールした。

 

 昨日118日に実施された北京市県級・郷鎮級人民代表大会代表選挙について大きく伝えている。

 7399の選挙区の12784の投票所で900万人近い人が参加し、4349名の県級代表、9941名の郷鎮級代表が選出された。

 

 私も、とある投票所で選挙風景を観察した。夜、学者らと意見交換した。細かいことはメディアの方々や専門家に任せるとして、ちょっとだけ雑感を。

 共産党の一党支配体制下にある中国にとって、人民が直接投票で選ぶ県級、郷鎮級人代代表選挙は、民主的な国家であることを装うための手段にすぎないものであることを再確認した。候補者の操作、投票率を高めるための有権者登録の操作、共産党にとって都合のいい人が当選するための事前の投票指導などが露骨に行われている。

今回、私が初めて知ったことに、投票を他人に委任するという制度がある。1人が委任状をもって他の2人の投票を委任されることが認められている。観察した会場でも1人の人が2枚の同じ投票用紙をもっている光景を見た。

 社会主義民主の中核に置かれ、国民の最も神聖な権利であるはずの選挙なのに、そのいい加減な制度、手続き、公正性の欠如に閉口してしまった。これがまさに中国共産党が誇る「社会主義民主の選挙」。

 

 中小企業の資金調達難で「温州危機」と言われた温州市で、救済策としての「1+8地方金融改革創新戦略がスタートした。「1+8は、地方金融業創新発展総方案と8セットの具体的な個別方案のこと。116日には浙江省が「少額融資公司の改革、発展をさらに推進することに関する若干の意見」という政策文書が発表されている。

 

20111110】マクロ政策の微調整の条件が整う

 国家統計局が、9月のCPIが前年同期比5.5%上昇と発表した。前月比では0.1%上昇。『人民日報』に中国のエコノミストの見解が紹介されている。総じて専門家は上昇幅の下降はマクロ政策の微調整に有利と認識しているとまとめている。

 王軍(中国国際経済交流中心コンサルティング研究部副部長):「上昇幅は下がったが、物価はまだ高位にある」「(物価上昇要因の)コストプッシュの問題には金融政策を経て功を奏するものではなく、価格コントロールには長期的な計画が必要」「政策の調整準備、微調整のカギは『程度』にある。ゆるめすぎるとインフレ抑制に不利で、また引き締めると成長に負の影響が出る。・・・丹念な経済情勢変化の観察が必要」

 劉元春(中国人民大学経済学院副院長):「価格上昇幅の落ち込みは、総需要の落ち込みを表し、経済成長の落ち込みが続いていることが自然と反映している」

 張立群(国務院発展研究センター研究員)「価格上昇幅の落ち込みが速まり、マクロ調整の調整準備、微調整に有利な条件を提供している」「中立な金融政策という総基調は変えられないが、実質的な緊縮から真の中立に転換し、経済成長の市場の基礎と内生的な動力を強固にしてもいい」「中国のマクロ政策は危機対応の拡張刺激から常態に戻る転換をすでに完成させており、再び総量拡張政策を実行するリスクと代価は大きすぎる」

 

 調整準備、微調整に向けての世論形成をしようということだろう。

 

 基層治理(末端のガバナンス)について週1回の連載が続いている。今日1110日の4回目は「基層治理の二次元方程式をうまく解こう」というタイトル。

 −権利保障と安定保障の二次元方程式の解は群衆利益である。公衆の「法治による権利保障と政府の「法に基づく安定保障」が、基層がグッドガバナンスに向かう制度の出発点である。

 −「安定保障は、権力の安定ではなく、公衆の権利を保障することを基礎とする安定保障である。・・・強制による安定保障ではなく、調和による安定保障である」

 

 末端政府に対し理念を説いているが、それではどうしたらいいのか。末端政府はその処方箋を求めているが、この文章にはそれは見当たらない。

 

20111111】また1つメディア規制が

 最近、新聞出版総署が「虚偽の新聞報道を厳しく防ぐことに関する若干の規定」を印刷通達した。また新聞出版総署の責任者がこの「規定」について説明した。(「新聞」はニュースのことだが、ここでは中国語どおり「新聞」で統一する)

 『人民日報』が報じた禁止事項は以下の通り
 (1)新聞記者は新聞出版総署が審査の上発給した新聞記者証を持って取材しなければならない

 (2)実地取材を堅持し、事実を確かめていない社会のウワサなどの直接入手したものではない材料に頼って新聞を編集し発行してはならない

 (3)新聞記者が批評的な報道をする場合、少なくとも2つ以上の異なる新聞の大元を有さなければならない、真剣に事実を確認したあと、関連の証拠を保存し、新聞報道の真実性、客観性、正確性を確保しなければならない

 (4)新聞機構は社会の自由な投稿やインターネット情報制度を厳格に使用し、事実を確認していないネット情報や携帯電話情報、事実を確認していない社会の自由投稿を直接使用してはならない

 (5)記事の当事者の一方の陳述、或いは単一の事実証拠だけを採用することを避けなければならない

 (6)受け売りで根拠ない話に頼り、新聞を書いたり、新聞の詳細をでっち上げてはならない、新聞の写真、新聞の映像の内容に対し、真実に影響する修正を加えてはならない

 (7)新聞記者が批評的な報道をする場合、少なくとも2つ以上の異なる記事の大元を有さなければならない

 この禁止事項に違反した場合の責任追究については以下の通り

 (1)新聞機構:責任者の引責辞任、媒体の停刊・廃止、新聞許可証の没収

(2)記者:新聞記者証の没収、ブラックリストへの掲載、5年間または終身の新聞工作の停止

 

 これだけ読むと、一見まともな禁止事項のようではあるが、そこは共産党の一党支配の中国なので、文面どおり理解してはいけない。メディアに対する規制強化策である。こうした禁止事項に「違反」して書かれた記事に、当局がいらだっているということ。

 他方、「社会の自由な投稿」、つまりブログやツイッター、中国だと「微博」だが、ウェブサイト、これらの情報をどう扱うかということは、中国だけに限らず、私たちも考えていかなければならない。それらを否定するつもりはないが、一次資料として的確かどうか、判断する見識を持つ必要はある。その意味で、上記の禁止事項、あながち的外れではない。その辺り、当局は上手だ。

 

20111113】胡錦濤がオバマ米大統領と野田首相と会見

 APEC首脳会議出席中の胡錦濤が、オバマ米大統領と会見した。この報道の中でいくつかの点に注目した。

 協力パートナーシップについて、3つの意見を提示した。

 (1)米中は相互尊重、相互信頼の協力パートナーシップを実行しなければならない:核心的利益を相互尊重することが、米中が協力パートナーシップを構築するカギである、米中の3つの共同コミュニケが確定した原則に沿って、関連する問題を慎重に適切に処理することを希望する

 (2)米中は相互利益、互恵の協力パートナーシップを実行しなければならない:経済技術協力を強化し、両国企業の協力展開を促進し、両国の経済貿易協力の新チャネル、新領域の拡大を積極的に模索しなければならない

 (3)米中は、「同舟共済」(同じ船に乗り川を渡る)の協力パートナーシップを実行しなければならない。両国は共同で二国間チャネル、多国間メカニズムを十分利用しなければならない。朝鮮半島情勢、イランなどの地域のホットイシュー、気候変動、テロ、食糧安全、大規模感染病、自然災害などのグルーバルな問題は協調を強化する

 中国の為替政策、米中貿易について

 −「(国際社会に対し−佐々木注)責任を持ってやっている。目標は、市場の供給を基礎とし、あらゆる通貨を参考に調整する、管理フロート制度を確立することである。人民元レート形成メカニズム改革を引き続きゆっくりと進める。同時に、米国の貿易赤字と失業はなどの構造的な問題は人民元レートによるものではない。米国は、できるだけ早く対中ハイテク製品輸出規制を緩和し、中国企業の対米投資に便宜を提唱するための実際的な措置をとるべきである。

 アジア太平洋の事務について

 −「米中の協調と協力を重点となすべきである。中国は米国のアジア太平洋地域での正当な利益を尊重し、米国がアジア太平洋の事務の中で建設的な作用を発揮することを歓迎する。同時に米国が中国のアジア太平洋地域での正当な利益を尊重し、双方の利益をうまく処理することに配慮し、アジア太平洋地域の平和、相互信頼、協力を共同で促進することを希望する」

 胡錦濤は野田首相とも会見した。113日のG20 サミットの時は立ち話だったので、事実上初めての会見となった。

−「野田首相は就任後、日中戦略的互恵パートナーシップの深化に努力することを表明し、これが日本政府の基本的な外交方針であることを強調し、日中関係の重視を体現した。中国はこれに対し賞賛を表明する」

5つの意見を提起した。

 (1)ハイレベルの交流を維持し、政治的相互信頼を強化する

 (2)相互利益の協力を深化させ、協力のスポットライトを作り出す

 (3)人文交流を拡大し、友好感情を増進する

 (4)地域協力を推進し、国際事務での協調を強化する

 (5)問題を適切に処理し、安定の大局を維持する。長期にわたり、双方は両国間の敏感な問題に関する処理において、少なくない共通認識と理解を蓄積しており、引き続き維持と順守をすべきである。

 

 オバマ米大統領との会見では、為替問題については「人民元レート形成メカニズム改革を引き続きゆっくりと進める」とし、貿易問題では対中ハイテク製品輸出規制緩和と中国企業の対米投資への便宜を求め、アメリカのアジア太平洋地域への介入についても相互の核心的利益を尊重するといい、従来通りの発言にとどまっている。もちろん、これは国内向けの報道であり、実際のやり取りは海外の報道を見なければならないことは言うまでもない。国内向けに対米政策にブレがないことを示しているわけだが、中小企業問題など中国国内の状況を鑑みれば、米国に譲歩するような為替政策の変更を示すことはできない。胡錦濤のやる気のなさとは取りたくないが、そんな印象も持つ。

 他方、野田首相との会見では、野田首相の対中姿勢を高く評価している。しかし「日中戦略的互恵パートナーシップの深化に努力すること」が「日本政府の基本的な外交方針である」とまで、野田首相はこれまでに発言したことがあったのだろうか。野田首相の姿勢は米国重視が「基本的な外交方針」のはずだが。ちょっと過剰評価というか、褒めすぎの感がある。日本との関係の重視、野田首相への期待の表れともとれるが、むしろ野田首相の米国寄りを警戒して、「褒め殺し」ではないが、中国に向くようプレッシャーをかけているようにも取れる。中国の野田政権とのスタンスを垣間見ることができる。

 もう1つ、日中間の常套句である「3つの政治文書」が、胡錦濤、野田首相のどちらの発言にも出てこなかった。オバマ米大統領との会見では「3つの共同コミュニケ」の常套句が出ているので、ちょっと違和感がある。初会見の場で、「3つの政治文書」の順守を確認するはずが、それをしなかったことは、その程度の扱いなのか。

 

20111114-1】規制強化の中でネット世論を守る呼びかけ

 「大衆の声が騒々しい中から共通認識を探ろう」というネット世論に関する文章が掲載されている。健全なネット世論生態が切り離すことのできないこととして、3点が挙げられている。

 (1)法治の規範

 (2)参加の力量−参加は多元性を尊重することを意味する。「監督管理者」と「使用者」の二元対立を避ける

 (3)理性の滋養−理性=国情を思いやり、悪気を拒絶し、思考を独立させ、発言に周到かつ慎重であり、建設的な心態でネット討論に参加し、自覚的にネットワークの媒介素養と社会的責任感を高めること

 

 1025日から毎週1回掲載されている「ネット世論生態」に関する特集の第4弾にあたる。「生態」という中国語のニュアンスが分かるようで分からないが、まあこの言葉は無視して、ネット世論ということでいいだろう。

 6中全会にも見られる当局のインターネットに対する規制強化の流れがあることは事実だ。しかし、この文章、3点は、ネットユーザーに対し、規制を認識し、慎重に対応して、できるだけ自由なネット世論を継続させていこうという前向きな呼びかけ、期待のようなものを感じる。

 

 胡錦濤がAPEC19回首脳非公式会議に出席し、重要講話を行った。講話のタイトルは「発展方式を転換し、経済成長を実現しよう」となっている。次の3つの重点を提起した。

 (1)協調を強化し、グローバルな経済ガバナンスを積極的に完備すること(新興市場国家と発展途上国の代表性と発言権を拡大することを含む)

 (2)揺らぐことなく、経済発展方式の転換を加速させよう

 (3)共通認識を凝集し、引き続き経済グローバル化と地域経済一体化を推進しよう(保護主義への反対を含む)

 

 中国国内向けには、この胡錦濤の重要講話が大々的に報じられている。提起された3つの重点は中国がこれまでも主張してきたことである。しかし、この重要講話が会議の中で、本当にどれだけ注目され、反映されたかをこの報道から知ることはできない。中国国内で報じられているほどには胡錦濤の存在感はなかったように思われ、そのギャップは大きい。

 

 さて、8面に北海道への観光誘致の全面広告が掲載されている。北海道庁と道下の企業の連合での広告のようだ。全面広告はインパクトがあっていい。これを見ると、日本政府も全面広告が打てないのだろうかと改めて思うのだが、政治的な要因でなかなか難しいのだろう。しかし全面広告はやはり違う。

 ただ、『人民日報』に掲載したのは、象徴的な意味なのだろうか。商業的な効果を思えば、『人民日報』は海外旅行をするような一般の社会階層は読まないので、大きな効果は得られないだろう。むしろ沿海地区の地元紙の方が効果は大きいように思われる。しかし、公費で海外旅行をする党や政府の幹部、役人向けだとしたら、したたかな戦略だが。

 

20111114-2】呉敬lが胡錦濤政権を批判

 市場経済を信奉する中国の有名な経済学者である呉敬lの発言が1114日付『第一財経日報』に掲載されていた。先週1111日のとある会議での発言だ。非常に辛辣な胡錦濤政権批判を展開しているのでチェックした。

 −「来年の党大会での指導部交代では中国経済運行の改善にとって積極的な作用をもたらす」

 これまでの指導部交代の直後には、改革案が提出されてきた。2002年の胡錦濤政権発足後も「社会主義市場経済体制改革の完備に関する若干の問題の決定」(以下、「決定」)で多くの改革措置が提起された。とした上で、次のように胡錦濤政権を批判する。

 −「『決定』にあった進めるべき改革のほとんど何もなされていない」

 −「重要な原因の1つは、結局どんな経済を構築したいのか、その共通認識がないからだ」

 −「結局、われわれが構築したいのは、法治があり、規範があり、多くの人に有利な市場経済なのか、それとも国家資本主義なのか?実際の現在、これ(国家資本主義であること)が問題なのだ」

 −「来年の(党)代表大会がこの明確に一番上の設計を明確にすることを希望する」

 呉敬lスクールの門下生である中金公司の董事長の李剣閣も次のように胡錦濤政権を批判した。

 −「『決定』はこの78年でかなりゆっくりとしか進んでいない」

 −「私の判断したサイクルでは、10年ごとに1つのかなり重要で、かなり系統立った改革に関する政策文書がある。しかし、第125カ年計画自体には改革の計画について具体的なものがないので、2013年にはこうした(重要な)政策文書が出るかもしれないと推測する。われわれはこうした政策文書の出現に対する」

 

 どうだろう。見事なまでに胡錦濤政権を批判している。誰が読んでも分かる。それを掲載した『第一財経日報』もあっぱれ。実は1111日付『京華時報』にも10日に開かれた国際金融フォーラムでの呉敬lの発言が掲載されていた。

 −「中国が経済成長モデルを転換しなければならないと正式に提出してからすでに10年が立った。しかし現在までもともと予定していた要求にはまだ到達していない。その原因は体制上の障害である。どうしたら障害は除去できるだろうか。改革に頼ること、改革を堅持することしかない」

 この発言にも実は胡錦濤政権批判が含まれている。『京華時報』がいくらか控えめな発言の掲載にとどめたのは、中央宣伝部のおしかりを受けたばかりだからだろうか。その点、上海の『第一財経日報』はお気楽極楽。

 こうした発言が一部の新聞、改革派の新聞に掲載されるということは、第18回党大会を控え、改革をめぐって、「左」派と右派の激しいせめぎ合いが展開されていることの証左といえるだろう。

 もう1つ注目は、呉敬lスクールの門下生が元気だということ。先に中国証券業監督管理委員会主席に就任した郭樹清もこの国際金融フォーラムで初お目見えした。李剣閣も発言。第18回党大会での経済関連の人事がますますおもしろくなっていく。

 

20111116】地方債の自主発行の試点開始

 上海市政府が、自主発行の地方債71億元分の入札発行をスタートした。広東省政府も18日から自主発行地方債68億元分の入札発行をスタートする。地方債の自主発行は中国初のことで、上海市、広東省、浙江省、深セン市という安定した地方での試点工作ではあるが、地方政府の責任が問われるものだけに、注目される。

「中国−ASEAN合作:1991-2011」と題する10年のあゆみをまとめた長い文書が発表された。誰が出したのか分からないが、中国の対ASEAN関係観を知るにはいい文書。

 

20111117】結局貧困は深刻なのか

 国務院新聞弁公室が「中国の農村貧困扶助開発の新たな進展」白書を発表した。これについて解説した国務院扶貧弁公室主任のインタビュー記事は以下の通り。

 −貧困人口は2000年末から2010年末までの10年間で6734万人減少し、2010年末で2688万人。

 −貧困扶助対象基準は2000年の865元から20101274元に上昇。

 −農村人口全体に農村貧困人口占める割合は2001年末の10.2%から2010年末には2.8%に減少。

 −問題点:(1)貧困扶助対象の規模は小さくない、(2)内部発展の後れという特殊類型の貧困矛盾が深刻−西部の民族地域、辺境地域、中部の古くから解放された地域、山間地域、東部の少ないが連なる貧困地域、(3)貧困に逆戻りする圧力が大きい−現在の貧困人口の3分の2が逆戻りの性質を有する。原因は市場経済、景気の変動、自然災害など、(4)収入格差の拡大−都市と農村で3.231、農村内部の最高と最低で7.5倍の差

 

この10年で農村の貧困状況が大きく改善されたことを宣伝する文書。当局発表のデータとしてまとまっていて、知っておくといいかなあという感じ。

 それにしても、これほどまでに改善したはずなのに、今も貧困問題、格差問題が深刻だとされる。両者が矛盾するものではないということは分かっているが、結局改善されているのか、改善されていないのか、問いただしたくなる。データ、つまりこれまでの成果よりも、むしろ10年前とあまり変わらない問題点に注目すべきなのだろう。

 

 鐘声「東アジア協力進展の中での大国の役割」と題する評論が掲載されている。ASEANでの一連の会議がまもなく始まることに合わせたものだ。気になったのは次の点だ。

 −「TPPを含めた東アジア経済協力の『さまざまなプロセス、さまざまなメカニズム』には積極的な側面とリスクが存在する」

 −「強調すべきは、新たな協力メカニズムがすでにある協力メカニズムに取って代わることで、東アジア経済、グローバル経済に深刻な損害を受けることである」

 −「東アジア経済協力は根拠もなく出てきたものではなく、ASEAN+3が地域協力の地盤を築いた。この協力メカニズムは簡単にできたものではなく、豊富な収益をもたらし、当然大切にされるべきもので、さらに強固にし、推進する必要がある」

 

 東アジア協力について、TPPへの注目が高まっていることを念頭に、ASEAN+3が重要であるとの中国の立場を確認している。

 

20111118】軍への配慮と温家宝の米国けん制発言

 先日打ち上げられた無人宇宙ステーション「天宮1号」とのドッキングに成功した無人宇宙船「神舟8号」が昨夜1117日に帰還した。郭伯雄、徐才厚らが北京管制センターでその様子を見守った。その記事が1面のど真ん中を飾った。また社論「宇宙空間探索の重大な飛躍」まで掲載された。

 

 ドッキング実験の成功という快挙を報じている。国威発揚だが、社論まで掲載し、なんと大げさな。軍を持ち上げる扱いぶりである。

 

 温家宝が訪問先のバリ島でインドネシア大統領と会談した。ASEAN+中国首脳会議とASEAN+3首脳会議について「動力を動員し、各種干渉を排除し、既定の方向や目標に沿って前身を加速させる」と述べた。東アジアサミットについては「既定の性質、方向、協力の領域を堅持」と述べた。

 

 「既定の」ものを壊そうとする米国へのけん制を強く意識した発言だ。

 

 財政部と国家発展改革委員会が201211日から20141231日まで小型零細企業の行政事業性費用22項目の徴収免除を決定し、印刷公布した。

 

 経営難の小型企業、零細企業支援策の1つ。とりあえず3年で小型零細企業向け金融支援制度の整備ができるということか。

 

20111119】温家宝がASEAN主導の東アジア協力を提唱

 温家宝、第14回中国+ASEAN首脳会議、第14ASEAN+3首脳会議に出席し、それぞれで講話を行った。こういうところでの講話にはいつもはあまり関心を持たないのだが、米国のアジア回帰、TPPのこともあり、中国の立場を知るために、きちんと読むことにした。

 中国+ASEAN首脳会議で提起した「務実」(実務的な)合作深化のための6項目:

  (1)自由貿易地域の建設を完備し、貿易と投資の協力を拡大する

  (2)中国+ASEAN相互連携合作委員会を設立し、相互連携のインフラ構築の推進を加速させる

  (3)金融領域での協力を深化する

  (4)海上務実協力を開拓し、中国側が中国・ASEAN海上合作基金を設立し、海洋科学研究と環境保護、相互連携、航行の安全・救済、国際犯罪取り締まりなどの領域での協力を推進する

  (5)科学技術・持続可能な発展領域の協力を推進する。来年を「中国・ASEAN科学技術合作年」とし、グリーン経済、省エネ・環境保護、新エネルギー、再生可能エネルギーなどの領域での合作を推進する

  (6)社会・民生領域での協力をさらに重視する。職業教育訓練、災害管理、人道主義救援、医療衛生などの領域での交流と協力を強化する

 ASEAN+3首脳会議での協力強化の3項目:

  (1)ASEANの中心的位置を十分尊重し、段階を追って進め、各方面に心を配ることを基礎に、東アジア自由貿易地域と東アジアの全面的経済パートナーシップの構築を具体的に推進しよう

  (2)地域の財政金融協力水準をさらに高める

  (3)東アジアの相互連携建設に対する投入を拡大し、東アジア一体化構築を推進するために基礎を打ち建てる

  (4)科学技術、新エネルギー、省エネ・環境保護、食糧安全、医療衛生などの領域協力を強化し、地域経済の発展方式転換と持続可能な発展を促進する。

 さらに次のように述べた。「東アジア協力は発展のカギとなる段階にあり、ASEAN主導、発展・相互利益・winwinの主題を突出させ、10+3を主な方法をする東アジア一体化構築を継続させ、各国の共同利益に符合させる」

 

 これまで注意してこなかったが、中国では「ASEAN+中国」ではなく「中国+ASEAN」といい、「ASEAN+3」はそのままの順番。

 まあそんなことはいいとして、中国+ASEAN首脳会議は、南シナ海の海上権益の問題に注目しているが、記事は触れていない。その代わりに、温家宝は他の分野での協力強化を提案している。いつもの「懐柔策」だ。

 そのうち、(2)の「中国+ASEAN相互連携合作委員会」の設置は、いろんなレベルでの機関設置で、協力・対話チャネルを拡大するためのもの。もちろん歓迎されることだが、数だけ増やして、どれだけ機能するのか、効果があるのかは、本当は検証する必要がある。しかし、それが「外交」だと思えば、検証は野暮。(5)の中国側が「中国・ASEAN海上合作基金」の設立は、「航行の安全・救済」という目的も含まれているが、海上権益の問題を根本的に解決するものではない。相変わらず、ASEAN側の反応はほとんど伝えていない。

 ASEAN+3での温家宝の発言も、米国を強く意識したものとなっている点が興味深い。そのポイントは「ASEAN主導」という点。東アジア協力は「10+3」を枠組みとし、米国排除を明確にしている。

 

20111120】南シナ海問題でキレた温家宝

 温家宝のバリ島での一連の会議出席について大きく報じられている。日本のメディアがすでに報じているので、ここでは詳しく見ないが、1つだけ取り上げておく。それは、第6回東アジアサミットにおける南シナ海問題についての温家宝の発言だ。

 −南シナ海問題について「東アジアサミットは南シナ海問題を話し合うのにふさわしい場ではない。本来この問題を話すつもりはなかったが、一部の国の首脳が中国に言及した以上、返答をしなければ失礼にあたる。中国側の立場を改めて表明したい」

 

 サミットの報道以外に、別立てで温家宝の南シナ海問題についての発言を報じているのは、異例と言える。発言内容も、諸外国がしつこく中国を悪者扱いにしているので、かなり「キレた」発言をそのまま掲載している。これも珍しいというか、これまでにあったのだろうか。中国国内向けに、温家宝がキチンと反論したことを伝えることが目的なのだろう。

 

201111218%経済成長の心理的準備

 王一鳴国家発展改革委員会マクロ経済研究院副院長の来年2012年の経済成長を占うインタビューが掲載されている。リードは「中国経済は2ケタ成長に別れを告げるのか」というもの。小見出しは以下のようになっている。

 (1)経済成長は依然として合理的範囲にある−来年の経済成長は減速しても8%以下になることはない

 (2)経済成長は「青春期」の段階を過ぎた−今後1020年は次第に減速段階に入る

 (3)潜在的な成長率は高位から低位に変化する−20112015年の潜在的な成長率は8%から9%の間

 (4)未来の中国の経済発展はもっとよくなる−持続的で比較的速い経済成長を維持することに依然として多くの有利な条件を有している

 

 もうじき中央経済工作会議が開かれるので、世論誘導、心理的準備を促すことが目的なのだろう。(1)(3)8%台の可能性、(2)もう10%超えるような高度経済成長が続くことはない、というようなことを示唆している。

 

20111122】経済分野以外での米国のアジア介入をけん制

 胡錦濤と習近平が軍事科学院第7回党代表大会代表と会見した。胡錦濤が「国防、軍隊建設の主題主線」に言及した。

 

 このタームは私が知る限り今年11日の『解放軍報』の社論でお目見え、その後軍の指導者らが事あるごとに言及している。胡錦濤が軍理論を体系的にまとめていることの証左の1つであり、来年の第18回党大会での胡錦濤の党中央軍事委員会主席の留任に関連している。胡錦濤自ら語ったのは、私が知る限り初めてではないか。胡錦濤の留任意欲を感じる。

 

 鐘声「米国経済はいかに答えるのか」という論評が掲載されている。米国が初めて出席したバリ島での東アジアサミットが終了したことに関連した論評だ。注目したのは次の部分。

 −「かつてに比べ、アジア経済の米国経済への依存度は下がっているが、米国は依然としてアジアの各大経済体の最も重要な輸出市場である。米国の消費市場はアジアの製造をけん引している」

 −「アジアの多くの国は、米国の『アジア回帰』に関心を寄せ、米国の投資と市場が過去同様に引き続きアジア経済に強力な動力を提供することを希望している」

 −「オバマがアジア太平洋地区を『米国が最も重視する』と言うとき、当然アメリカ人が『最も重視する』と経済回復を結びつけることを希望している。しかし、アジア、および世界全体が重要視していることは、米国のこの『最も重視している』が何をもたらすかということである」

 

 アジアと米国の結びつきはあくまでも経済であるという点を強調し、それ以外、つまり安全保障のことで米国はアジアに口を出すなという中国の立場をあらためて主張したもの。

 

20111123】胡錦濤ら常務委員全員が出席する文芸関連会議

 中国文学芸術界聯合会第9回全国代表大会、中国作家協会第8回全国代表大会が開催され、党中央政治局常務委員9名が出席する重要な会議。胡錦濤が重要講話を行った。

 

前回の5年前の大会にも胡錦濤らが出席しているので恒例の出席。文芸界重視の姿勢を示す。

 

 人民解放軍戦略規劃部設立大会が開かれ、郭伯雄が出席。軍隊建設発展の中長期的な計画を主管する部門で総参謀部に所属。「部」ということでびっくりしたが、総参謀部に所属する「部」なので大したことはない。

 

張徳江が出席した江蘇省南通市での一部地域中小企業工作会議について報じられた。また最近、胡暁煉人行副行長が中立な金融政策の基調と方向性の堅持と適時適度な調整準備と微調整を表明したことも伝えられた。中央経済工作会議が近いので、こうした経済記事は気になる。

 

 祝黄河と馮霞という人の連名で、「科学的発展観:人類社会発展の規律認識に対する豊かな発展」と題する文章が掲載された。国家レベルの研究プロジェクトの成果の一部。久しぶりに「科学的発展観」というタームがタイトルに大きく出たので目を引いた。「科学的発展観」は「人類社会発展」のレベルのことを語るスケールの大きな理論だったとは。こんなに持ち上げて、なにか胡錦濤絡みの政治的意味があるのか。

 

20111124】習近平が幹部人事で民主と原則のバランスを強調

 習近平と中央党校の進修部、培訓部で学習中のさまざまな班の60名の学員代表との座談会が開かれた。習近平は次のようなことを述べた。

 (1)民主集中制:指導者が先頭に立って民主の作風を発揚させなければならない。党内民主と社会民主

(2)原則の堅持

 (3)民主的な幹部人事制度改革:党が幹部を管理することと民主の拡大を有機的に統一する

 

 習近平が中央党校校長として春と秋の学期の始業式と終業式に出席して講話を発表していることは、いつも伝えられている。しかし、学期途中に在学中の学員との座談会が報道されるケースは珍しいか、初めてのような気がする。

 それではなぜ報道したのか。この学員の重要性というよりも、習近平がこのタイミングで何かアピールをする必要があったのだろう。それは第18回党大会に向けたもので、自らが最高指導者になってから支えてもらう指導幹部が各地で選出されているタイミングで、習近平なりのスタンスを明らかにする必要を感じたのだろう。この座談会出席者の中にそんなに上に上がる人材がいるとは思えないが、アピールする舞台には利用しやすい。

 そこでアピールされたことは、民主と原則の中庸である。(1)は指導幹部のあるべき姿で、民主的な作風と民主集中制を掲げる。(2)では、原則については、当然分かっているはずなので説明はないが、その原則の堅持というまさに「原則」の確認である。(3)も相反する2項目の並列となっている。

 一見、「民主」というタームが多く使われているので、習近平は「民主」的な度合いを強めるのかと期待したが、よく見ると原則とのバランスをとることを求めている。「民主」というタームの多用について期待を込めて評価するか、バランスに慎重さを見るか。現在の習近平評が割れるのはこの二面性による。私は後者をとる。最高指導者候補としては合格な回答だ。

 

 玄葉外相が中国を日帰りで訪問し、温家宝、戴秉国、楊潔と会見したが、中国側の日中関係への前向きな発言が掲載されているのみ。詳しい内容は日本メディアを見た方がいい。いろんな思惑があるが、中国側は野田首相の訪中を期待している。

 

20111126】李長春と周永康が出席した会議

 李長春が中国文聯第9回全国委、中国作協第8回全国委全体会議で講話をおこなった。

 

 内容は、胡錦濤が1122日に行った重要講話を踏襲したもので目新しいものはない。しかし、2面全部で講話全文を掲載しており、かなり大きな扱っていることが気になる。同時に、中央文化体制改革工作領導小組全体会議も開催されており、劉雲山と劉延東が講話をおこなった。6中全会の決議もあって、文化体制改革工作絡みの会議が「盛況」であることは分かる。李長春講話の扱いが、単にメディアの「親分」の講話だから特別扱いしているのか、それとも何か李長春のメッセージなのか。後者だとしても、内容が胡錦濤の11.22講話の踏襲なので。しかし、「踏襲」自体がメッセージととれなくもない。

 

 周永康が中央関連部門・新疆責任者会議で指示を行った。2012年の新疆の飛躍式発展と長期にわたる社会秩序の安定を推進する重点工作を指示した。9項目を上げたうち、8番目が「反テロ工作強化に関連する問題に関する全人代の決定を貫徹し、防御取り締まり能力を高め、暴力テロ事件の発生を断固防止する」

 

 新疆関連の会議なので注目した。飛躍的発展といいながら、その本質は反テロだが、それを9項目中の8番目に上げているのは、強硬イメージを和らげるための措置だろう。

 

 全国社会管理工作強化・創新会議が開かれている。主管の周永康自身は出席していないが、この工作を指揮する中央社会管理総合治理委員会の副主任である回良玉副総理と全国政協副主任の銭運録が出席し、指示を行っている。農業担当副総理と全国政協関係者が副主任だということが分かって、この委員会が単に治安関連だけでなく。かなり広い領域をカバーしていることをうかがわせる。

 

20111128-1】李克強が保障性住宅建設プロジェクトで指示

 李克強が河北省廊坊市を訪問し、保障性安居工程建設工作を視察した。そして「質が命、公開こそが公平である」「プロジェクトの質の確保をいささかもゆるがせにしない。オープンで透明度の高いやり方が公平な分配を実現する」と強調した。

 訪問先で、保障性住宅建設現場座談会を開催し、講話を行った。注目した発言は次の通り。

 −「各地は、統一的に計画し、項目配置、資金の統一的措置、土地の確保などの工作を立派に行う。政府投資を増やし、金融支持を拡大し、融資チャネルを拡張し、経営モデルの創新を通じて、社会資金を引き入れ、保障住宅、特に公的賃貸住宅建設領域に進まなければならない。住宅建設データ統計を整備しなければならない。土地の事情に合わせて適当な方法をとって、有効な運営管理メカニズムを構築して、すでに建設された保障性住宅とセット施設が正常で持続可能な運行を行うようにする」

 −「保障性住宅の用地を計画単列にすることをしっかり検討し、債券などの方法を通じた資本金の統一的な調達メカニズムを検討し、保障住宅に必要な市政のセット設備推進しなければならない」

 −「不動産価格の速すぎる上昇を抑制する政策措置を堅持し、コントロールの成果をさらに強固にしなければならない。引き続き住宅供給体系を整備し、・・・中低価格、中小家庭向け普通商品住宅の供給を増やす」

 

 今年の中央指導者の地方視察では、必ずといっていいほど保障性住宅の建設現場を訪れ、重視している姿勢をアピールする。しかし今回の李克強の視察は、これに特化した視察で、しかも現地で座談会を開いており、単なる視察ではない。座談会について視察とは別にわざわざ記事立てされていることからも、ただ事ではない、その緊急性、重要性をうかがい知ることができる。

 中央は今年中に1000万戸の保障性住宅を着工することを目標に掲げてきたが、その中で李克強が挙げた資金問題、土地確保問題、経営問題などさまざまな問題に直面した地方政府がにっちもさっちもいかなくなっているということ。因果関係を今ひとつうまく説明できないのだが、単に低所得者層の住宅難よる社会不安への警戒よりも、むしろ不動産価格の動きとの関連というマクロ経済情勢との関連から、中央は保障性住宅建設プロジェクトへのてこ入れの必要があったのではないか。

 

20111128-2】呉敬lの胡錦濤政権批判を掲載

 呉敬lの発言が掲載された。しかも写真入りで大きい扱いだ。そのタイトルは「政府は十分な情報を把握することができない」。注目した部分は以下の通り。

 −「追随者から先行集団の一員となって、主要な技術においては(海外に依存するのではなく)ある程度創新しなければならない」

 −「現在一部の企業が困難に直面したとき、まず思いつくことは政府に支持の力の入れ具合を拡大するよう希望することである。長期的、全局的角度から見て、これは問題解決の方法ではない。政府は十分な情報を把握することはできないこと、または執行する官員による利益の誤った誘導によって、政府の政策は個別企業や個別産業に有利に傾き、国民経済の全体的な利益を侵してきた。政府は『守』らなければならない産業を確定し『特殊政策』を実施し、いつも業界を大騒ぎさせた。過剰生産を待って、政府の反応は『守る』から『制御する』に転換してきた。現在一部の産業は戦略的新興産業に確定されて1年経っていないが、すでに『熱』から『冷』に変化し、前途が予想できない」

 −「改革を推進し、企業のために良好な経営環境を創造し。公共財を提供しなければならない」

 −「過去89年で、何度も政府工作報告が指摘した:政府は多くの管理すべきでないこと、うまく管理できないことを管理してきた。そして一部の管理すべきことを管理していないし、うまく管理できていない。改善が必要である」

 

 先日も、『第一財経日報』と『京華時報』に掲載された呉敬lの胡錦濤政権批判を紹介した。今回とうとう『人民日報』が呉敬lの胡錦濤政権批判を掲載した。

「過去89年」のあいだ、胡錦濤政権が何の経済改革、とりわけ経済構造転換の手を打ってこなかったことへの痛烈な批判である。さあ、「左」派はどう出るか。明日以降、『人民日報』は「左」派の主張をどう取り上げるか。

 

 「必ずしも経済成長速度の緩和を憂慮しすぎるな」と題する記者の分析記事も掲載されている。小見出しは以下の通り。

 (1)必ずしも緊迫していない:将来の経済成長速度が落ち込んでも、安定した態勢を示しており、速すぎる落ち込みは出現していない

 (2)構造調整の機会は得がたい:中国経済の基本面は確かであり、経済成長速度の緩和は構造調整の絶好の機会である

 (3)短期よりも長期をさらに重視しなければならない:短期的問題に過度に注目して長期的問題の解決に影響させてはならない。しっかりと改革と構造調整の歩調を進めなければならない

 首都対外経済貿易大学経済学院院長の張連城の「わが国の経済情勢とマクロコントロール」と題する文章も掲載されている。主な主張は次のようなもの。

 −「マクロコントロールの強化、改善を通じて、経済の強く安定した成長を維持しなければならない」

 −「これから数年経済の拡張期に突入するのに伴い、価格水準は上昇の趨勢にある。経済過熱と高すぎるインフレの抑制がマクロコントロールの主要な任務である。同時に、鋭く、正確に経済情勢に出現する趨勢的な変化を理解し、マクロ経済政策の適応性、柔軟性、展望を重視し、適時適度の調整準備と微調整を進めなければならない。これが経済に大きなアップダウンが出現することを防止する重要な条件である」

 

 どちらも中央経済工作会議に向けた世論誘導記事と見られる。

 

20111129】社会管理工作の強化、創新で「政法族」が台頭

 江蘇省南通市で全国加強和創新社会管理工作座談会が開かれた。王建国(全人代副主任)中央社会管理綜合治理委副主任が主催し、王楽泉同副主任が社会管理の強化、創新で実現すべき4項目を提起している。

 (1)「社会管理の社会化の実現」:党委員会の指導、政府の責任負担を強化し、人民群衆の主体作用を十分発揮し、群衆傘下と社会管理のチャネルと型式をたえず豊かにし、経済協作組織、公益互助組織、群衆自治組織の育成に力を入れ、群衆組織を有効に組織し、社会管理サービスに秩序を持って参加させる

 (2)「社会管理の法制化の実現」法治国家を堅持し、法に基づく管理サービスを理念とする社会管理サービスを終始貫き、関連の法律と法規、政策制度の整備を重視し、さらに多くの法律手段を運用して社会管理を強化し、創新する

 (3)「社会管理の専業化の実現」:社会事務の多様化、複雑化の新状況に順応し、社会管理の科学化した分担、専業化した運用、職業化した管理という新しい考え方をもって、専業プラットフォーム、専業隊伍、専門機構、専門メカニズムの構築をさらに推進する

 (4)「社会管理の情報化の実現」:情報化の時代の潮流に順応し、社会管理情報メカニズム構築の推進に大いに力を入れ、近代的科学技術の社会管理への応用を積極的に進め、各領域において高効率で素早い社会管理サービスの新モデルを構築する

 

 中央社会管理綜合治理委員会が主催する全国加強和創新社会管理工作に関する会議が各地で開催されている。

 112425日 四川省徳陽市で工作会議:副主任の回良玉中央政治局委員兼副総理、銭運録全国政協副秘書長

 1126日 湖北省宜昌市で工作座談会:副主任の劉雲山中央政治局委員兼党中央宣伝部長、孟建柱公安部長

 112829日 江蘇省南通市で工作座談会:副主任の王楽泉中央政治局委員、王建国全人代副主任

 末端社会の新しい統治システムの構築という中国共産党にとって喫緊の課題への対応として、「社会管理の強化、創新」という政治キャンペーンが展開されている。

 王楽泉の発言からも、群衆、社会に依拠することが強調されているが、あくまでも党委員会の指導のもとでのものであり、社会統治のシステムの再構築であることを忘れてはならない。自治だの自主だのそんなきれいごとではない。

 そうした理念的な意図もさることながら、このキャンペーンには権力闘争の臭いがぷんぷんする。主導権を握っているのが「中央社会管理総合治理委員会」。周永康中央政治局常務委員を筆頭に、ここに挙げただけでも6人の副主任がいて、そのうち3人が中央政治局委員というのは、党内でも一定の発言権を有するグループといえる。太子党とも、共青団とも違う、「政法族」とも呼べるような一大勢力のようだ。この委員会が、今各地で工作会議、工作座談会を開催しているのは目立つ。