105回 201110月の『人民日報』(2012630日)

 

20111001】ネット規制の強化

930日に、国家インターネット情報弁公室が、「ウワサをねつ造しネット上で流すことを厳しく制止する」通報を出している。ネット規制は厳しくなる見通しだ。

 

20111004】ミャンマーでのダム建設中止報道に答える

「走基層、転作風、改文風」キャンペーンによる末端取材の記事が並ぶ。『人民日報』に限らず、北京の『京華時報』などの日刊紙も大なり小なり末端取材記事を掲載しているが、本当につまらない記事ばかりで、おそらく誰も興味を持たないだろう。これでは、都市や農村の末端理解を深めるためというこのキャンペーンの公式の主旨は貫徹されない。

このキャンペーンが、7.23列車事故報道で暴走した一部マスコミへの懲罰、またそれを口実にしたマスコミ全体の締め付け強化だと私自身は確信を深めている。

 

陸啓洲中国電力投資集団公司党組書記・総経理が、9月末にミャンマー側が「ミッソンダム」合作項目の棚上げを突然宣言したとの情報について語ったインタビュー記事が掲載された。この中で陸は、中国との国家の取り決めを突然棚上げすることは「人々の理解を得られない」と述べ、ミャンマーの経済社会への貢献、環境への影響、移民問題について、語った。そして「両国の相互利益、winwinを実現するために、予定どおりスムーズに推進すべきである」と述べた。

 

3面で大きく扱われたが、このことが、中国側が重要視していることの表れか、それともインタビューは930日に行われているので、連休中の紙面を埋めるためなのか。

興味深いのは、移民問題で、中国側が住宅、生活補填などを提供していると語った点。単に建設だけでなく、周辺の環境についても関与するのが、中国の通常のやり方なのかどうかは分からないが、このダムの中国側にとっての重要性を伺わせる。もちろん、これはミャンマー側の条件なのかもしれないが、そうだとすればミャンマー側が棚上げを宣言したことは、ミャンマーの新政権の対中国外交の変化を示しているということだろう。

 

20111005】人民元切り上げ要求でしばらく米中間が緊張

 外交部、商務部、人民銀行が、米上院が人民元切り上げ圧力をかける対中為替制裁法案である「為替相場監視改革法案」の審議入りを決定したことを非難したことが、大きく報道されている。「人民元を切り上げたところで、米国の就業問題は解決しない」と、中国の立場を強調する。

強硬な態度に出る米議会側の背景を理解していないのだが、中国も金融引き締め政策を継続中で、温家宝も経営困難が深刻な浙江省温州の企業を視察中と見られる。人民元為替レートの問題は引き続き米中間の最大の争点になるだろうから、中国がどう対応していくか、注目したい。

 

20111006】温家宝の浙江省視察で中小企業支援が本格化へ

 温家宝が国慶節連休の最中の34日、浙江省を視察した。視察先は、中国軽紡城、紹興県創意産業基地、紹興県匯金少額貸款公司、温州百先得服飾有限公司で、3度にわたる座談会では企業責任者に対し、中小企業の生産経営、少額融資公司、民間信用貸出の状況について詳細に質問した。

 温州市での会議で、温家宝は中小企業発展に対する4項目を指示した。

(1)小型企業に対する融資の差別化金融管理監督政策を真剣に実現し、完全にする。条件に符合する小型企業に対する融資は専門的に審査し、小型企業に対する不良融資比率の容認度を高める

(2)小型企業を重点支持対象とすることを明確にし、専門的に小型企業にサービスを提供する金融機構を支持する、各種金融機構に中小企業、とりわけ小型企業の発展を支持する国の融資政策をしっかり実現するよう督促する。奨励制約メカニズムを完備し、各種金融機構の小型企業に対する金融サービスを奨励し、銀行、とりわけ大中型銀行の社会的責任を強化する。新たな企業の区分基準に基づき、銀行の小型企業向け融資の比率と伸びを明確にし、統計と最終ユーザー監督測定を強化し、政策実現を確保する。銀行の不合理な費用徴収と保証金積み立て要求を整理し、法規違反行為は取り締まり、企業の融資資金コストを低減する

(3)財税政策の小型企業に対する支持を高め、関連の税収優遇政策の期限を延長し、さらに政策優遇を拡大することを検討する

(4)金融リスクを防ぐ。中小企業に対する金融支持は、市場の原則を遵守し、行政関与を減らし、市場リスクと道徳リスクを削減しなければならない。民間融資に対する監督管理を強化し、透明化、制度化の発展を誘導し、その積極的な役割を発揮させなければならない。金融秩序を整頓することに力を入れ、有効な措置をとって高利融資の傾向を抑制し、違法な資金調達を法に基づき取り締まり、企業間の担保、企業の資金チェーン断裂問題を適切に処理し、早期発見、早期処置し、地域性のリスクを防がなければならない。すでに発生したリスク事件に対しては、適切に処置し、人民群衆の合法的権益を保護し、市場の信頼を高めなければならない。

 

金融引き締め政策により資金調達が難しくなり、経営困難に陥っている中小企業が多い浙江省紹興市と温州市を温家宝が視察したことは、中小企業対策の大きな転機となる。つまり、国務院、党中央が、本格的に中小企業支援に乗り出すことを意味する。温家宝が指示した4項目はかなり具体的なものだ。これを基調に、連休明けにも国務院常務会議が開かれ、さらに具体的な指示が出され、後日政策文書となるだろう。

問題は、小型企業の資金調達が難しくなっていること。その原因は、銀行、特に大中銀行の貸し渋りで、この点の改善を温家宝が命令していることから、大中銀行も従わざるを得ないだろう。また、この貸し渋りにより、高利の貸出をするノンバンクへの規制を強まるだろう。しばらくは、金融引き締め政策を維持し、行政指導で中小企業対策を進めていくことになる。

 

20111007】ダム建設協力はミャンマーの民生改善に貢献

 タイ駐在記者による「中国の投資が明らかにミャンマーの民生を改善している」というリードの記事が掲載されている。ミャンマー政府による9月末のダム建設棚上げ表明に関連して、共同開発のメリットを宣伝する記事。

 

20111009】辛亥革命と七一講話

 109日午前中に「辛亥革命100周年記念大会」が開かれる。それに合わせ、昨日8日付紙面に任仲平(『人民日報』中央評論部)の「民族復興百年の道のりのスタート−辛亥革命100周年について」と題する長い文章が掲載された。辛亥革命100周年関連の報道のクライマックスを思わせた。如何せん長すぎて、どこに注目すべきか見極める気にもならなかった。

 

9日から各地各部門の胡錦濤総書記七一重要講話学習の総括に関する文章の連載がスタートした。1回目のタイトルは「中国の特色を持つ社会主義は歴史的選択」というもの。

「幹部群衆は普遍的に次のように語った。アヘン戦争以降、中華民族の危機は日増しに深まり、人民の生活は非常な苦難の中にあった。民族独立、人民解放を勝ち取ることと、国家の富強、人民の富裕を実現することが、中国人民の完成すべき二大任務となった」

「救国救民の道はどこあるのか、中国はどこに向かうのか。幹部群衆は次のように普遍的に認識している。各種社会力量が競って登場し、各種学説の主張が次から次へと出てくる状況下で、10月革命がとどろき、マルクス主義がやってきた。中国の先進的分子は各種主義や計画を繰り返し比較、検証の後、さまざまな主義の中からマルクス主義を選択」

 

辛亥革命100周年の前日に連載がスタートしたタイミングは、意味深である。そのため、社会主義を選択した歴史に対する各地の幹部の認識を扱ったこの文章に、辛亥革命はどう位置づけられるのかという観点で読んでみたが、関連する主な記述は前出の通り。アヘン戦争から語り始めるものの、辛亥革命については全く触れていない。

七一講話自体が辛亥革命について「孫中山先生が指導した辛亥革命は中国を数千年統治してきた君主専制制度を集結させたことは、中国社会の進歩にとって重大な意義を有している。しかし、中国の半植民地半封建の社会的性質と中国人民の悲惨な運命を変えることができなかった」と触れただけなので、この文章で触れることがないのは当然かもしれない。そう考えれば、この文章と辛亥革命100周年との関連を探ること自体、意味がないのかもしれない。そうするとなぜこのタイミングでこの連載をスタートさせたのか。

辛亥革命をどう共産党が利用しようとするのか関心を持って見てきた。辛亥革命に触れるものの、深入りせず、時にその本質を素通りし、すぐに論点を共産党、社会主義に切り替える扱いをしており、一党支配の正当性を確認するために利用するスタンスを貫いている。その意味で、辛亥革命100周年記念大会が開かれる日に、辛亥革命の本質に目が向かないように、七一講話の連載をスタートさせ、世論や評論が共産党の功績に向くようにする政治的な意図があるように思われる。

 

20111010-1】「江沢民サプライズ」の政治的意義

 なんとも驚きを隠すことはできない。辛亥革命100周年記念大会に江沢民が現れた。付き添いと共に登場した姿は、闘病生活の末の姿なのかもしれないが、老いを隠しきれず、弱々しい足どりではあった。しかし、7月に死亡説まで流れた江沢民が公衆の面前に現れたこと自体に、政治家としての執念のようなものを感じた。重要講話を行う胡錦濤の顔が終始緊張していたのは、会議の重要性からだけではなく、江沢民の存在があったからではないだろうか。記念大会は、胡錦濤の重要講話が主役のはずだったが、「江沢民サプライズ」に話題をさらわれてしまった。

 

この江沢民の登場の政治的意味は大きい。それは胡錦濤政権への無言の圧力となる。私の解釈は2つ。1つは、現在胡錦濤政権が進める江沢民政権下の諸政策を否定するような動きに対するけん制である。砕いて言えば「好き勝手にやっているようだが、俺はまだ見ているぞ」というアピールになる。その1つは鉄道部批判だろう。高速鉄道は江沢民政権下の高度経済成長の産物で、「胡錦濤-李克強」ラインが進めた2003年の機構改革で、鉄道部を存続させた立役者は「江沢民-丁関根」ラインだった。江沢民政権の成果を真っ向から否定する今年2月以来の鉄道部批判は江沢民の目から見れば我慢ならないことだろう。こうした江沢民政権下の諸政策を否定する胡錦濤政権へのけん制効果が考えられる。しかし江沢民の姿を見れば、彼自身がどのくらい影響力を行使しているかは疑問である。

これ以上に大きな政治的意味は、江沢民を後ろ盾にしている勢力の影響力が増す可能性である。それは、当然ながら来年秋に予定されている第18回党大会をにらんだもので、江沢民、そして曾慶紅らによって抜擢された人たちが、発言力を高めることに江沢民健在を利用できる。そこには習近平も含まれるだろう。

江沢民登場で、胡錦濤は江沢民を無視できないことを再認識しただろう。そのため、しばらくは胡錦濤の政治運営に影響を与えるかもしれない。やり過ぎはマズイと。しかし、江沢民が病気であろうがなかろうが、時間とともに政治的影響力が小さくなっていることも確かである。また第18回党大会までにはなお1年という時間がある。江沢民を後ろ盾にさらなる飛躍を目論む人たちにとってのメリットは、残念ながら一時的で、限定的にならざるを得ないだろう。

 

20111010-2】主役の座を奪われた胡錦濤の重要講話

胡錦濤の重要講話を見ておこう。中国共産党は辛亥革命をどう位置づけたのだろうか。目についた発言は以下のところ。

まず、孫中山を「偉大な民族の英雄であり、偉大な愛国主義者であり、中国の民主革命の偉大な先駆者である」と位置づけた。

そして、辛亥革命を「清王朝の統治を打倒し、中国の数千年の君主専制制度を終結させ、民主共和の理念を伝え、巨大な震撼力と深い影響力で近代中国の社会変革を推進した」と位置づけた。しかし「歴史の進展と社会条件も制約によって、辛亥革命は古い中国の半植民地半封建の社会性質を変えることはできなかった、中国人民の悲惨な境遇を変えることはできなかった。民族の独立、人民の解放を実現するという歴史的任務を完成させることはできなかった」として、未完成だったとも言う。しかし、それでも「完全な意義上の近代民族民主革命を切り開き、中華民族の思想解放を極めて大きく進め、中国の進歩の潮流の門を開け、中華民族の発展、進歩のために道を模索した」という出発点として意義を認めた。その意味で「辛亥革命は永遠に中華民族の偉大な復興の長旅の道程における高くそびえ立つ一里塚である」と讃えた。

さらに辛亥革命と中国共産党との関連について、「中国共産党人は孫中山先生の切り開いた革命事業の最も強固な支持者であり、最も親密な協力者であり、最も忠実な継承者であり、たえず孫中山先生と辛亥革命の先駆的で偉大な抱負を実現、発展させた」として、共産党を孫中山、辛亥革命の継承者であると位置づけ、「孫中山先生の中華を振興させるという深い宿願と辛亥革命の先駆的な美しいあこがれは、今日すでに、現実のものとなっており、中華民族の偉大な復興はいまだかつてない光り輝く未来を描き出している」として、共産党の功績を称えた。

台湾との関係については、「孫中山先生はかつて統一が中国全体の国民の希望であるといったことがある。・・・両岸の対立を終結・・・させなければならない」と主張したことが印象的。

中国共産党の孫文評、辛亥革命評については詳しく分からないので、これまでの評価との比較ができないが、孫文、辛亥革命の延長線上に共産党の成果を置くことで、中国共産党の一党支配を歴史的に正当化しようというねらいが見え見えである。おそらくこれまでの評価とあまり変わらないだろう。それにしても、「江沢民サプライズ」が胡錦濤の重要講話を色褪せたものにしてしまった印象はぬぐえない。
 

20111011】「微博」規制強化への抵抗か

 1面に3本の連載文章が掲載されている。
 (1)辛亥革命100周年記念大会での胡錦濤重要講話学習@「中国の特色を持つ社会主義の偉大な旗幟を高く掲げよう」

(2)各地各部門の胡錦濤総書記七一重要講話学習の総述A「中国の特色を持つ社会主義制度は当代中国の発展進歩の根本的な制度保障」

(3)辛亥革命100年の啓示@「社会の進歩の時代潮流に順応しよう」

(1)は「中国人民が苦しい努力と巨大な犠牲を払い、ようやく中華民族の偉大な復興を実現する正確な道と核心的な力量を探しあてた。この正確な道こそ中国の特色を持つ社会主義の道であり、この核心的な力量こそ中国共産党である」という胡錦濤の発言を解説。

 

トップ面に3本の連載文章が並ぶとさすがにくどい。「中国の特色を持つ社会主義」をたたみかけるように宣伝するその意気込みは買うが、そうせざるを得ない焦りのようなものを感じる。それは党の焦りか、胡錦濤の焦りか。

 

「微公益」の特集が組まれている。「微公益」という言葉には、「微博というプラットフォームが作り出す公益」と「人々が身の回りのごく小さな社会需要を掘り起こすことをかき立て、自らの現実的な行動を通じて愛心を表出し、愛心を伝えることを奨励すること」という意味がある。

何小手(人民網世論情勢監督測量室アナリスト)の文章「微公益が映し出す社会管理の道」は次のように解説する。

「微博のようなインターネットの応用がバーチャル社会を促成し、公共の話題がネットユーザーの中に素早く伝搬し、『微公益』に感情の蓄積を提供し、宣伝プラットフォームを構築し、組織手段を完成させる」

微公益の即時性という特徴について、「社会事件の発生、世論の凝集、とりわけ弱者の命運が公衆の関心を集めるとき、即座に公益行為を引き起こす。7.23高鉄事故の発生後、女の子が幸運にも生存していたことが世論の焦点となった」

「微公益のボランティア主体は国家機構でなければ、大企業家でもない。・・・微公益が提唱することは、参加、自主管理の理念を重視し、社会管理を実現するための有益な手本を提供した」

 

「微」とあったので、きっと「微博」(中国版ミニブログ)のことだろうと思い、注目した。7.23列車事故以来、微博に好意的だった論調が一転している。しかし、この特集は微博を「公益」と関連させて、微博の長所を全面に押し出しており、微博に好意的な論調だ。興味深いのは、7.23列車事故での女の子の生存の話を美談として取り上げている。当時の微博はこの話を鉄道部門の対応への批判として取り上げていた。

この特集に、宣伝部門による微博への規制強化に対する反論的なものを感じる。「公益」を口実に、マスコミの良心を伝えようとしたのだろうか。

 

ミャンマー大統領特使が来訪し、習近平と楊潔と会談した。9月末にミャンマー側が中国との共同で行っているダム建設の棚上げを発表したことで、両国関係がぎくしゃくしており、その修復のために派遣されたもの。楊潔との会談記事は、ダム建設棚上げ問題で意見交換し、「友好協商の精神で関連事項を適切に処理することで合意」と明確に伝えている。

 

20111012-1】ベトナムとの南シナ海問題は解決に向かうか

 ベトナム共産党総書記、プーチン・ロシア首相が来訪し、外交デー。

 胡錦濤とベトナム共産党総書記の会談では、南シナ海問題が焦点になった。今回、「海上問題基本原則協議」が締結され、緊張緩和の枠組みが確認された。両者は、この「協議」の締結を評価した。胡錦濤は、「海上争議が最終的な解決の前に、争議を複雑化、拡大化させる行動をとらない。冷静で建設的な態度で出現した問題を処理し、関連する問題が中越両党両国の関係、そして南シナ海の平和安定に影響を与えてはならない。双方は積極的に共同開発を検討、商談し、できるだけ早く実質的な一歩を歩み出さなければならない」と述べた。

 

「海上争議が最終的な解決の前に、争議を複雑化、拡大化させる行動をとらない」との胡錦濤の発言。中国側がこの胡錦濤の発言どおりの行動をとることが、中国と日本とのあいだも含め、ほとんどすべてのこうした問題の解決の第一歩だろう。しかし、胡錦濤の思い通りになかなか進まないのが今の中国。中国国内の各部署のあいだでこそ「海上問題基本原則協議」を締結した方がいいかもしれない。

 

20111012-2】温家宝が中小企業の資金調達政策を指示

趙昌文国務院発展研究センター企業研究所所長の「融資難の緩和で金融緩和を望むことはできない」との文章が掲載されている。現在問題になっている中小企業の資金調達難の解決策について、金融緩和ではなく、現行の中立な金融政策を維持し、中小企業に絞った措置をとるよう主張したもの。喫緊の課題は、中小企業の資金調達難をどう解決するかだと私は思っている。先の温家宝の浙江省視察もその一環。この視察について1010日付『21世紀経済報道』が『人民日報』よりも詳しく伝えており、大変興味深い。

21世紀経済報道』によれば、温州での会議で温家宝が、融資と税負担の面で解決を求め、同行した張平国家発展改革委員会主任に指示した。さらに、「私は1つの要求を提案した。それは1つの約束で、1カ月以内に全体の情勢を安定させ、もし(それが)早くできればもっといい」と述べ、浙江省と温州市に対し、温州金融総合改革実験区の設置を提案し、その場で周小川中国人民銀行行長、劉明康中国銀行業監督管理委員会主席、地元政府に具体的な検討を指示した。

趙の文章は、この温家宝の指示にセコンドを打つ形で発表されたものだ。

温家宝はこの視察で、1カ月で解決するという強い決意を表明した。これぐらいのことは、『人民日報』でも詳しく報道してくれると、理解が深まるのだが。『人民日報』がこの決意を報道してしまうと、政治公約になってしまうので、実現できないときのリスクを考えると報道できないのだろう。しかし、こうした強い決意を温家宝が示していたことを、広く国民に伝える必要があるのではないだろうか。そしてそれによって、国家発展改革委員会も、中国人民銀行も真剣にしかも素早く対策を練るというものだ。

以上のような温家宝の発言が分かっただけでも、『21世紀経済報道』の記事は興味深い。関心のある話については、いろんなところから情報を集めないと。

 

20111013】経営難の企業支援をめぐる指導者間の対立

 国務院常務会議が開かれ、小型、零細企業の発展を支持する金融財税政策措置を検討し、確定した。その内容は大きく4点。

 (1)小型、零細企業向け融資の量と速度の伸びをあらゆる融資の平均よりも下回らないようにする

 (2)小型、零細企業の集合手形、集合債券、短期融資券の発行規模を次第に拡大する

 (3)小型、零細企業向け融資の不良率の容認度を適度に高める

 (4)小型、零細企業の増値税と営業税の控除レベルを高める、利益のごく小さな小型企業に対する企業所得税の半減政策を2015年末まで延長し範囲を拡大する

 そして、具体的に、6項目の金融支持政策措置、3項目の財税支持政策措置を確定した

 

 喫緊の課題である小型、零細企業の経営難に対する政策措置が発表された。先日の温家宝の浙江省視察からのスピード発表となったが、そんなに短期間に政策措置が策定されるとは思えないので、視察にはパフォーマンス的な側面と、策定された政策措置の妥当性と微調整のために当事者の意見を聴取するという実質的な側面があるようだ。

 この政策は非常に重要な政策だし、共産党序列2位の温家宝の活動であるため、本来ならば1面で報じられるはずだが、4面だった。これはおかしい。1面には後ろに回していい記事がいくつかある。それなのに、なぜ4面か。1面で目立たせて報じることのできない何か理由があるのだろうか。

 今回の小型、零細企業の経営難の原因については、さまざまに論じられている。その1つが、金融引き締め政策による銀行の貸し渋りにあるというものだ。そのため、金融緩和の声も強い。しかし、2008年に同様のパターンで行った金融緩和が現在の地方の不良債権問題の原因との指摘もあり、今回は金融緩和を渋っている。そのため、小型、零細企業に限った金融税財政策措置をとった。これが私の理解だ。そこには、金融政策を緩和するかどうかの論争がある。このことぐらいしか、4面に掲載した理由を考えるヒントが浮かんでこない。

 しかし、現在私には、この政策をめぐる、2008年の胡錦濤と温家宝の対立のような党中央の指導者間の論争は見えてない。党中央の指導者間での論争、対立ではないのに、4面扱いはちょっと過剰反応のようにも思える。それとも、私には見えていない党中央の指導者間の論争、対立があるのだろうか。

 

20111014】文化体制改革の二面性

「文化復興の歴史的方位−わが国の文化体制改革の実践と思考」という長編の記事が1面トップで掲載されている。101518日に開かれる6中全会で「文化体制改革を深化させ、社会主義文化の大発展大繁栄を推進させることについての若干の重大問題に関する決定」が採択されることが、926日に明らかにされて以降、文化体制改革に関する記事、評論、特集が連日掲載されているが、この長編記事もそのうちの1つ。

  「この2年の試点と探索を通じて、文化体制改革の考え方がようやく明確になった。科学的に文化事業と文化産業を区分し、『公益性の文化事業』と『経営性の文化産業』をそれぞれしっかりつかみ・・・」

 20116月までに、中央の各部門各単位出版社の体制改革の任務を完成させ、全国の出版発行、映画テレビドラマ製作などの領域で基本的に所有制転換を完成させ、・・・『事業人』から『企業人』に変わった」

 「文化体制改革の目標は、マクロ的に言えば、政府と企事業単位の関係をスムーズにし、党委員会の指導、政治の管理、業種の自律、企事業単位の法に基づく運営の体制を構築すること。ミクロ的に言えば、文化企事業単位の内在的な活力を強化し、公益性の文化事業単位は事業体制を実行し、政府の支持を受け、投資を増やし、メカニズムを転換し、活力を増強し、サービス改善に重点を置く。経営性の文化産業は企業体制を実行し、自主経営、損益自己負担、自己発展、自己制約を実行する」

「非時政類新聞雑誌も重要な世論陣地になっている。主流メディアを大きくし、強くすることに着眼し、中央の各部門各単位、省レベル、副省レベル、省都の党委員会の機関新聞雑誌に属する非時政類新聞雑誌の企業所有制転換改革を推進し、同時に一部の質の低い、深刻な赤字の新聞雑誌を『廃止、停止、統合、転換』させ、新聞雑誌業の長期的な『小さいものが氾濫している』問題を解決しなければならない」

 

 「文化体制改革」というのが私には理解できない。なぜならば、ここでいう「文化」が、一般的に私たちが理解している文化とは異なり、「中国共産党の一党支配」的な文化を指すと思われるからだ。前者であればまったく問題ないなのだが、中央委員会全体会議で取り上げる議題なわけだけだから、後者の意味だろう。

しかし、926日以降の関連記事は、後者については触れていない。中央委員会全体会議が、そんな一般的な文化を取り上げるとは到底思えない。そのため、6中全会前日の1面のトップに掲載されたこの文章を少しきちんと読んでみた。なかなか理解できなくて、いつもよりも時間を要してしまった。

それによると、改革すべき文化体制には2つのカテゴリーがあり、1つが「公益性の文化事業」であり、もう1つが「経営性の文化産業」。しかも、改革というのは、文化関連の組織の所有制改革、すなわち「事業体」から「企業体」への改革を指すらしい。

全体的には、後者の「経営性の文化産業」について説明されていて、どう読んでも政治的な臭いがしてこない。他方、前者の「公益性の文化事業」については、区分されるというだけで、詳しく説明をしていないように思われる。事業というのは政府の支持があるわけで、こちらは政治的なイシューのようだ。しかし私にはこの文章で、これについては言及なしに見えるので、文化体制改革の議論には、隠されている部分があるのだろう。それは「公益性の文化事業」と称する党主導の宣伝のことで、そこには情報統制、メディア規制の問題が当然含まれる。

「公益性の文化事業」と「経営性の文化産業」に区分することは、政治を語ることができる事業体と政治を語ることができない企業に区分すること、というようにとらえることができるかもしれない。それは「非時政類」出版物の淘汰の話も関連する。

もう1つの見方だが、この文章で「文化強国の構築」という文言が繰り返し出てくる。国際政治の世界で、「ソフトパワー」の重要性が指摘されて久しい。「文化強国」が国際社会におけるソフトパワーの強化を意味し、そのために、国内の文化事業、文化産業の体制を改革しようということで、6中全会が文化体制改革を議題にするのかもしれない。そうだとすれば、国際政治における「ソフトパワー」について、私自身があまり関心を寄せていないので、この文章からそれを読み切れていないだけなのかもしれない。そうだとすると、6中全会が外交政策について議論をするということであり、ある意味画期的なことでもある。

 

201110156中全会の真の意義が見えてきた

 中国共産党第17期中央委員会第6回全体会議が今日15日、開幕したはずだ。その開幕当日に1面で掲載された関連文章、任仲平「文化強国的『中国道路』」に注目した。任仲平は「『人民日報』中央評論部」のことで、6中全会で取り上げられる文化体制改革について、包括的に論じた、公式に限りなく近い文章と言える。その中で私は注目した部分は以下のとおり。

―「歴史的見地から、経済の台頭に伴い、今世紀に入っての社会主義中国の波の勇壮な文化の挺進を全面的に理解できる。第16回党大会以来の一連の前代未聞の文化変革をはっきりと理解できる。政党がいかに古い文化に新しい力を注入し、文化の再生と振興の"中国道路"を歩むことを深く体験することができる」

―「いかに文化の地位と作用を理解するか。文化は社会発展を推進する重要な手段であり、社会文明進歩の重要な目標である。人心を凝集する精神的絆であり、民生幸福のカギとなる内容である。経済成長に直接貢献し、経済発展の質的向上に重要な作用を発揮する」

―「正確に認識し、処理すべき文化十大関係論」:

@    人民群衆の基本的文化要求と多様化、多層化、多方面の文化要求の関係

 A『2種類の属性』(イデオロギーの属性と商品経済の属性)と『2つの効益』(社会効益と経済効益)の関係

B主旋律の発揚と多様化の提唱の関係

C改革創新と発展加速の関係

D文化と経済の関係

E政府作用の発揮と全社会の力の参加の動員の関係

F民族文化と外来文化の関係

G繁栄促進と管理強化の関係

H文化と科学技術の関係

I文化工作者の積極性の動員と新しい人材創造の関係

―「高度の文化的な自覚を有するかどうかが、文化時代の振興と繁栄に関係するだけではなく、民族と政党の前途の命運を決定する」

6中全会では、初めて文化改革の発展を主題とし、社会主義文化強国建設の行動綱領を制定する。新たな征途が再び始まり、文化がますます民族の凝集力と想像力の重要な源泉となり、総合国力競争の重要な要素となり、経済社会発展の重要な支えとなり、わが国人民の熱い希望となる、中国の特色を持つ社会主義文化発展の道に沿って。われわれは固く信じる」

 

6中全会でなぜ「文化体制改革」を取り上げるのか、その意図が明らかにされていないことが、困ったことだった。しかし、この任仲平の文章で、その本音の部分が少し見えた。結論から言えば、私たちが普通にイメージする一般的な文化だけではない、もっと政治的な意図があるということだ。

任仲平の文章から垣間見られる政治的意図は大きく2つ。1つは中国共産党の一党支配を正当化するための手段として、昨今「中華民族の復興」というキーワードを掲げているが、その手段として文化を利用しようということだ。そこには「文化強国」というキータームを挙げ、経済、軍事のみならず、文化でも、世界を席巻しようという大きな目標も含まれる。

もう1つの政治的な意図は、共産党が複雑化する社会とどう向かい合っていくか、その対応を模索しようということだ。その際、複雑化した社会が最も体言されている新しい文化にどう対応していくかということが6中全会の議題である。このことは、前述の「十大関係」から読み取ることができる。この任仲平の文章から推測される、6中全会の最も重要なメッセージはこの「文化十大関係」だ。
 「十大関係」と言えば、1956年に毛沢東が発表した「十大関係論」がある。当時中国が抱えていた問題を10の対立する関係として表現したものだ。その後、江沢民もいつだったか毛沢東に倣って何かの問題を「十大関係」で表現したことがある。今回も明らかに毛沢東の「十大関係論」に倣ったものだ。胡錦濤も毛沢東の政治スタイルに頼らざるを得ないのか。

さて、この「文化十大関係」の中で、@は総論的な文言なので、実質的な最も重要な事項は、2番目の「『2種類の属性』(イデオロギーの属性と商品経済の属性)と『2つの効益』(社会効益と経済効益)の関係」だ。「イデオロギー」と「商品経済」という言葉は今ではほとんど使われない、1980年代の改革・開放初期の言葉で、改革・開放を進めるかどうかで党内が対立したころも、対立項として出てきた言葉だ。おおざっぱに言えば、イデオロギーと効益のどちらを重視するのかという、党内で改革の進め方をめぐって、対立が存在することを示唆している。その後のBからHまでは、Aの関係から派生するものである(Iの対立項はこれに含めていのかどうか、ちょっと分からない)。

もちろん、この中には、昨今の報道状況をどう考えるか、たとえばメディアの報道規制を強化するかどうか、微博を規制するかどうかなども含まれる。

これまでの6中全会というのは、党大会1年前の中央委員会全体会議ということで、党内の政治的な対立が次第にはっきりしてきて、時にエスカレートする時期と重なり、政治色の強い会議になる。以上のように見ると、今回も、例に違わず、党内の政治的な対立が顕在化した中で、開かれている会議だ。胡錦濤政権としては、「左」、すなわち保守的な勢力を抑え込む方向に持っていきたいわけだ。そのために、何と何が対立する問題であるかを明らかにすることは意味がある。

しかし、このことは、「左」が必ずしも、習近平を指すわけではない。党大会を1年後に控え、自らの存在感を主張し、人事で影響力を行使したい長老や、彼らの支持を得たい人たちが、イデオロギー問題を持ち出して、政治対立を煽るのはこの国の常である。それに習近平が入るかどうかは、この任仲平の文章からは推測できない。なぜならば、習近平は胡錦濤政権の一員であり、胡錦濤政権の方向性を支持しているはずだからである。いたずらに、胡錦濤と習近平を対立させる必要もない。

そのため、この党内の政治対立が、決定的に胡錦濤政権の政治運営に影響を与えるものかどうかは、慎重に見極めなければならない。少なくとも、胡錦濤政権としては、安定した支持環境の下で、党大会に向けた今後1年間の政治運営を行いたいわけだし、習近平への権力委譲を進めたいと考えている。その際、「左」との不必要な対立で政治的な安定を損ないたいと思っているだけであろう。

とはいえ、人事をめぐっての各勢力の駆け引きは存在するわけで、それは別の話として議論すべきだろう。

 

20111016】温家宝が広東省の輸出企業を視察

 101314日、温家宝が輸出企業の状況を調査研究のため、広東省を視察した。

 輸出企業の国光電器股分有限公司、広州太陽摩托車有限公司を視察。また外資企業責任者座談会を開き、意見交換を行った。記事では、座談会の様子が紹介されている。

 広東盈浩工芸製品有限公司(クリスマス関連商品メーカー):利益減少の原因として、輸出コストの上昇と海外の購買力の低下を挙げる

 深セン市外商投資企業協会常務副会長:全体的なコスト上昇の内訳を紹介=賃金が10%増、それに伴う養老保険料負担10%増、医療保険料負担6.5%増、労働組合費負担2%増

 9人の企業や協会の責任者が普遍的に発言:労働力コスト、原材料価格の上昇、人民元高が利益減少の原因

 こうした発言に対し、温家宝は「早く民間投資奨励、導入36条細則を出す」と発言。さらに5項目の重点工作を指示した。そのうち最初の項目は「輸出還付税政策を安定させ、輸出還付税のペースを速め、輸出企業向け融資の支持を高め、小企業の金融サービスを改善し、輸出信用リスク保障メカニズムを健全化し、輸出企業の外貨受取の安全を確保し、人民元レートの基本的安定を維持し、輸出企業の過大は衝撃を回避する」とした。

 

 座談会での企業や協会の責任者の率直な発言が思った以上に紹介されている。これに対する温家宝の発言も詳しい。

 金融引き締め政策の影響は浙江省だけではないはずなので、いずれ広東省も行くのだろう思っていたので、現状把握を行うことが目的の1つだろう。また、温家宝の発言から、米国上院で対中制裁法案が可決されたことに対し、こうした現場の声があるので、中国は米国の人民元切り上げ要求にそう簡単に応じることはできないということを、国内向けと米国向けにメッセージを発することも目的の1つのように思われる。

 この視察記事の横に、1034日の温家宝視察以降の浙江省の中小企業への取り組みを紹介する記事が掲載されている。文化体制改革も大事だが、中小企業の経営難の方が深刻な気がする。

 

20111017】群衆による監督は避けられない

 6中全会開催中だからだろうか、指導者の動向は伝えられていない。その代わりに、1面には各地の文化体制改革の実践状況がいくつも紹介されている。6中全会関連というだけで、つまらない、無意味な記事が並んでいる。

 潘俊強記者の「群衆の本気の新しい形式に慣れる」と題する署名文章が掲載されている。

 「インターネットなどの新しいメディアの迅速な発展に伴い、群衆の情報伝達、要求表出、不満発憤には多くの選択肢ができ、指導幹部の能力、素養に対しさらに高い要求が提出されている」

「人々を満足させるとは、これらの問題が群衆から通報されたあと、調査し、解決に着手することである。これが、本気の群衆に対する最もよい回答であり、最大の尊重である。群衆監督が疑いもなく多くの政府部門にこれまで見なかった、見えなかった問題を発見させ、権力を透明に運用させ、公衆の目に触れることに慣れさせた、ということは、すでに共通認識を得ている」

―「微博からの声に対しては、もう回避の態度をとることはできない。学習、適応、微博をうまく利用することが、賢明で、現実的な選択である」

 

インターネット、微博など新しい手段を通じた一般の人々の意見表出は避けられないことだとし、指導幹部にそうした新しい状況に対応する能力を身につけるよう求めた文章。

権威メディアの記者がこうした見解を明らかにするのは、決して目新しいことではない。これだけ読むと、何か問題があるというわけではない、もっともなご意見にすぎない。しかし、昨今の規制強化の流れを考慮すれば、1つの明確な意見表明ととることができる。「走基層、転作風、改文風」キャンペーンもあって、記者の中に不満がたまっているのだろう。

 

20111018-1】南シナ海問題は当事者間の交渉による解決

 メディア評論家の廖小言の「『微時代』に執政者は創新の思考を持たなければならない」という微博に対する執政者の心構えを説く文章が掲載されている。

フィリピンで開かれたフィリピンの羅慕洛平和発展基金会とシンガポールの東南アジア研究所主催「南シナ海フォーラム」について3面で大きく紹介されている。ASEAN、中国、豪州、インド、カナダ、米国、欧州など20名の元政府関係者、専門家が参加。激しい議論が繰り広げられたと紹介している。中国側参加者は、ASEANなどが多国間協議を提唱する「騒音」に対し、当事者間の交渉による解決という従来どおりの主張を展開した。

 

20111018-26中全会コミュニケの3つのポイント

 18日夜の『新聞聯播』で6中全会のコミュニケが公表されたので、ちょっとだけ、注目した部分をご紹介。

 

(1)「当代中国が全面的小康社会を建設するカギとなる時期に入り、改革・開放を深化させ、経済方式の転換を加速させる攻めの時期に入り、文化がますます民族の凝集力と創造力の重要な源泉となり、総合国力競争の重要な要素となり、経済社会発展の支えとなっている」

(2)「社会主義核心価値体系の建設を推進・・・。社会主義核心価値は、国を興す魂であり、社会主義先進文化の精髄であり、中国の特色を持つ社会主義の発展方向を決定する。社会主義核心価値を国民教育、精神文明建設、党の建設の全過程に溶け込ませ、改革・開放と社会主義近代化建設の各領域を貫き、精神文化作品の創作、生産、伝搬の各方面で体現させ、社会主義核心価値を用いて社会思潮を誘導し、全党全社会の統一思想、共同理想の理念、強大な精神力、基本道徳規範を形成しなければならない。マルクス主義の指導的地位を堅持し、中国の特色を持つ社会主義共同理想をしっかり定め、愛国主義を核心とする民族精神と改革創新を核心とする時代精神を大いに発揚し、社会主義栄辱観を樹立し、実行しなければならない」

(3)「正確な創作方向を堅持し、哲学社会科学を繁栄、発展させ、新聞世論工作を強化、改善し、さらに多くの優秀な文芸作品を推しだし、健全なネット文化を発展させ、文化作品の評価システムや奨励メカニズムを完備しなければならない」

 

これまでの報道記事のトーンとほとんど度変わりなく、「文化=カルチャー」で解釈できる部分がほとんどなのだが、何かないかと目をこらして、見つけたのが上の2つの部分。

6中全会で文化を取り上げた理由を説明しているのが、(1)の部分。この中で、重要な文言は「当代中国が全面的小康社会を建設するカギとなる時期に入り、改革・開放を深化させ、経済方式の転換を加速させる攻めの時期に入り」という部分。これは、コミュニケの最後にある、来年の第18回党大会の位置づけと全く同じ文言であるところがミソ。現在、そして第18回党大会を迎える中国の現状認識を示しているが、特に「経済方式の転換を加速させる攻めの時期」とあるのが注目で、今の経済政策と大いに関係しそうだ。金融政策の緩和ではなく、経済構造の転換が重要との現政権の認識を示すものかもしれない。「攻めの時期」というのが何とも心地いい。しかし、これには当然反発もあるだろうから、文化ではなく、経済政策の面で論議を呼びそうだ。

(2)については、全体の中で突出しており、すべてがワクワクするような政治的な文言。特に「社会主義核心価値」が重要で、これが6中全会の政治的な意味を表すタームだ。これは15日の『人民日報』の任仲平文章にも出てこなかった。何を指すのか分からないが、「国を興す魂であり、社会主義先進文化の精髄であり、中国の特色を持つ社会主義の発展方向を決定する」とまで大げさに言う「社会主義核心価値」を、「国民教育」の中に溶け込ませるという意気込みは、1つの思想で国民をまとめ上げようという胡錦濤政権の強い意志を感じる。それは、そこまで強く言わなければならないほど、国民が1つになっていないことの表れでもある。「文化」という名を借りて、政治的な統制を強めようということである。6中全会は、やっぱりそうだったかと納得。

しかし、国民をまとめ上げる「社会主義核心価値」が何のことか分からないのだから、話は簡単ではない。「マルクス主義の指導的な地位を堅持する」というように「マルクス主義」が出てくるあたり、保守的な勢力に配慮している。党が一丸となって「改革・開放を深化させ、経済方式の転換を加速させる攻めの時期」に突入できるわけではなさそうだ。

また、『新聞聯播』で先行して紹介された明日19日の『人民日報』の関連社説では、文化の大発展大繁栄を推進するために「5つの堅持」する事柄が挙げられている。(1)マルクス主義の指導、(2)社会主義先進文化の前進方向、(3)人を基本とする、(4)社会効益を第一とすること、(5)改革・開放、の5つを堅持するという。ここでも第1の堅持は「マルクス主義」である。他の4つも関連性がない。(2)は何となく江沢民の「3つの代表」重要思想を意識した感じだし、(3)は胡錦濤が提唱したもの、(4)はよく分からない、(5)はケ小平。5つの関連性がよく分からず、とにかく並べている感じで、ここでもいろんな勢力に配慮したように見える。

(3)については、予想通りのメディア規制強化を示している。

「社会主義文化強国」を掲げ新しい段階に入ろうという決意表明と、メディア規制強化、そして複雑な党内事情が反映されたコミュニケになっている。

 

20111019】野田政権を「無能」と批判

 6中全会については、コミュニケと社説が出ているだけなので、前項で見た以上にはない。

 

 18日、国家統計局が第3四半期の経済統計を発表したので、関連記事が出ている。最近の経済動向、とりわけ中小企業の経営状況をどう見たらいいのか、よく分からない。悪化しているのか、悪化していないのか。

 

鐘声「『不透明性』の悪循環の中に没落してはならない」という論評が掲載されている。これは、野田首相が16日に航空観閲式で「軍事力を増強し周辺で活発な活動を繰り返す中国の動きがあり、 わが国を取り巻く安全保障環境は不透明さを増している」と発言したことを批判するもの。

この発言を、次期主力戦闘機(FX)の選定で、中国を仮想敵国として「新しい武装」の口実としたいこと、米国の「アジア回帰」を後押ししたいことが背景にあると指摘する。

そして「日本が中国の発展空間に圧力をかける代価ははっきりしている。あれやこれやとせわしくすればするほど、情勢がますます不利になることを心配すればするほど、『不透明性』の悪循環の中に没落する。総じて別の人に罠にはめられることを心配し、別の人を陥れようとするとするものだ。それでどうして正常で明るい日々を過ごすことができるだろうか」と言い、最後に「日本政府が、欧米が「無能、低効率、無責任」な政府を形容するのに用いる代名詞になっているのも無理はない」としめる。

 

野田首相もえらく馬鹿にされたものだ。野田首相に対しては、発足前こそ過去の発言を取り上げて、右寄りの思想の持ち主として警戒感を示した。しかし、発足後は特に論評することもなく、鳴りを潜めていた。それはそれで寂しいことなのだが。そして、16日の発言をとらえ、我慢していたものをはき出すかのように、「やっぱりなぁ」という感じで、野田批判を展開した。欧米の一部の評価を借りてとはいえ、「無能、低効率、無責任」な政府と手厳しく批判しており、野田首相への警戒感が強いことをうかがわせる。日中関係の進展はなかなか難しいことになるかもしれない。

 

20111020】「信用調査システム」の構築

 6中全会の精神を学習し貫徹する活動があちこちで始まったことを伝える記事が多く掲載されている。中には、これを利用して、自分たちの存在感を高めようという中央指導者の便乗とも思えるものもある。

 例えば、李長春が中央宣伝思想文化工作責任者会議で6中全会の精神の学習、宣伝を指示した。

周永康も中央政法委全体会議で指示。これはちょっとおもしろい。「忠誠、為民、公正、廉潔」の政法の核心価値観教育を展開しようと呼びかける。具体的には、(1)社会主義法治文化建設推進の中で作用を発揮する、(2)文化発展の健全な向上の環境を創造する中で、作用を発揮する、(3)国の文化安全を維持する中で作用を発揮する。文化安全の維持を国の安全の重要任務とし、関係部門と協力して、宣伝思想文化陣地の管理を強化し、法に基づきネット違法犯罪活動を取り締まる。政法の世論誘導メカニズムを完備し、適時社会の関心に回答し、政法の世論誘導水準を高めなければならない。とりわけ、政法の核心価値観としての「忠誠」とは、「党に忠実、国家に忠実、人民に忠実、法律に忠実」ということだ。

 

周永康の活動が最近活発であることはこれまでも指摘した。中央政法委員会の会議も頻繁だ。6中全会絡みでも、宣伝関係に首を突っ込むようだ。とりわけ(3)に見られるように、ネット管理、世論管理も政法部門が関与する意思を示しており、やはり「文化」はきれいごとではないようだ。政法部門が乗り込んでくるとやっかい。

 

国務院常務会議が社会信用体系建設規劃の制定を指示。記事のリードは「第125カ年計画期間に健全で社会全体をカバーする信用調査システムを打ち建て、全面的に社会信用システム構築を推進する」「努力して誠実、自律、信用重視、相互信頼の社会信用環境を作ることで、誠実で信用を重視する人を保護し、騙して信用を失う人を処罰する」とある。

「現在社会の誠実さの欠如問題は依然として突出しており、商業詐欺、偽物の製造販売、偽って報告し要領すること、学術上の不正などの現象はたびたび禁止してもなくならず、人民群衆は相当不満をもっている」との現状認識を示した。

そこで、信用調査システムの構築が必要だというわけだ。具体的に次の6項目を挙げる。

(1)立法、制度建設の加速させる、「信用調査管理条例」の制定

(2)業種、部門、地方の信用建設を推進する、信用情報システムの構築、市場主体准入、納税、契約履行、製品品質、食品薬品安全、社会保障、科研管理、人事管理など方面での工作を結合させる

(3)全国をカバーする信用調査システムを構築する。業種内、地方内で信用情報の相互交換

(4)監督管理を強化させ、信用サービス市場システムを完備する

(5)政務誠実建設を強化する

(6)社会の誠実意識を育成することに大いに力を入れる

 

中国語のニュアンスが分からないからもしれないが、どうも国務院常務会議という政治の場で「信用」が取り上げられることがよく分からない。なんとなく、精神論としての「誠実」と、経済活動でよく使われる「信用」とが、ごちゃ混ぜになっているからだ。精神論で誠実さが欠けてきているというような現在の社会状況を憂えて会議のテーマとして取り上げたのかと思いちょっと違和感があったのだが、会議の中身を見ると結局は「信用調査システム」を構築するという単純なこと。漢字から来るイメージだけで勝手に妄想すると、混乱してしまう。

信用問題が単に「信用調査システム」の構築のことだとすれば、それは政治イシューだ。もちろん上記で挙げた6項目はどれも理解できる。しかし私には、それは口実にすぎない、またはそれに便乗した「档案」制度を発展させた、またはそれに変わる新たな個人、組織情報の収集システムの構築にしかすぎないのではないかと思える。

最近、イメージが悪いからだろうか、ストレートに「治安」とか「統制」とか言わずに、「社会管理」とか、ここでは「信用」などと人々の共感を得られるような言葉を使っているだけではないかと思われることがしばしば見られる。しかし、本質は何も変わっていないはず。こんな風に当局がやることをどうしても「性悪説」から見てしまう。しかし、本質を隠しているのではなく、本当は当局も変わってきているのだ、ともう少し素直に見てあげるべきか、と思うこともある。でもこの政治体制である限り、結局はそうは思えない。自分の見方がズレていないようにと願うのみ。

 

20111021】李克強外遊の事前ブリーフィングの意味

 張志軍外交部副部長が1023日からの李克強の北朝鮮と韓国訪問について、中国メディアに対し、事前ブリーフィングをした。外交部から事前ブリーフィングがあるのは、胡錦濤、温家宝の外遊がほとんど。同時期に賈慶林もギリシャなどの訪問に出発するが事前ブリーフィングはない。それだけ、李克強の北朝鮮と韓国訪問の重要性がうかがわれる。

 しかし、その重要性は、李克強なのか、それとも北朝鮮と韓国なのか。今年6月の習近平の外遊の時は事前ブリーフィングがなかったはずなので、北朝鮮と韓国が重要ということなのだろう。だとすれば、やはり6カ国協議の早期再開の件ということ。

 

20111023】温家宝が広西視察で、就業拡大を強調

 2122日、温家宝が広西チワン族自治区を視察した。目的は、就業、物価、社会保障。以下の3つの発言に注目した。

 「マクロコントロールの中で、民生の保障と改善を特に重要な任務として、突出した位置に置かなければならない。これは経済社会発展に関わるだけでなく、群衆利益と社会の調和安定に関わる」

―「最近一部の地域で、トウモロコシが小麦よりも高い。トウモロコシ価格の上昇は、国際市場と関係し、工業用トウモロコシの生産量の増加とも関係している。そのため、トウモロコシの加工使用を厳格に抑制しなければならない」

―「経済成長速度が落ち込み、外需が加工する中で、就業を経済社会発展の優先目標とし、あらゆる方策で就業を拡大することを堅持しなければならない。経済の適度な成長を保障し、就業機会を増やし、労働集約型産業、サービス業、小型零細企業と民営企業の発展を支持することに力を入れなければならない」

 

今月に入り、浙江省温州、広東省に続き、広西チワン族自治区と3カ所も地方視察を行っている。後二者は、イベント出席絡みということもあるが、3カ所ともマクロ経済政策に直結した内容の視察であり、単なる「ついで」の視察ではない。

ただ、温州が金融、広東が輸出、そして広西は就業と、3カ所で重点が異なっている。今の問題をまんべんなく網羅する視察をして、近くマクロ経済政策について国務院が何かを出すための準備をしているように推測される。中央経済工作会議までにはちょっと時間があるので、その前の国務院常務会議になるのではないか。

そう考えると、今回の広西の視察で、就業に重点を置いたことは注目される。現在のマクロ経済状況の中で、就業、すなわち失業状況は深刻なのかどうか。失業が深刻であれば、社会不安に直結する。そうするとマクロ経済政策の変更まで検討しなければならない。広西は、温州や広東省に比べると、中小企業や輸出企業の比重が大きくないような印象が私にはある。そうならば、一般的な地方で、失業問題がどれほど深刻なのかを判断しようとしたのかもしれない。温家宝が広西の状況をどう認識するだろうか。上記の就業に関する発言を一般的な発言と見るか、それとも過度に強調していると見るか、私には判断しかねる。温州、広東で就業問題に直接触れていないこともあって、いかようにも判断できる。この後の国務院の動きで、判断するしかない。

それと、工業用トウモロコシの話をしたのが興味深い。工業用トウモロコシはエタノールなどの製造に使われる。先日も米国に50万トン超を発注するなどトウモロコシの輸入量が急増している。「深加工」と呼ばれるデンプン、アルコール製造でトウモロコシ逼迫が原因のようだ。飼料用トウモロコシの不足、価格上昇が、豚肉価格の上昇につながるので、温家宝が警戒したということのようだ。

 

20111024】小型企業経営難よりもインフレが問題

 経済関連の記事が目立つ。

(1)廬中原国務院発展研究中心副主任の「経済がうまくいっている時に、転換の努力が必要」と題する文章。

「経済成長速度は短期的には落ち込み期にあるが、依然正常な範囲内で、通年で9%以上になる」

―「発展の中での問題を解決するには合理的な速度の維持が必要であるが、速度がゆっくりになることを気にしすぎる必要もない。成長の質、協調性、持続可能性、包容性を高めることに注視すべきである」

―改革、転換が急がれる理由:@世界経済の不確定、不安定性が高まっているから、Aインフレ圧力が加わっているから、B国内の油不足、電力不足によって、関連改革推進の緊迫性が突出しているから、C小型零細企業の経営環境が緊張する趨勢にあるから、D構造調整が待ったなしの状況にあるから、E地方財政の金融リスクが明らかになり始めたから

―「短期的にはマクロコントロールを強化、改善すべきであり、中長期的には改革と経済転換がしっかり行うことが必要である」 

(2)「ネットワーク融資サービスプラットフォームが信用のボトルネックを突破する」と題する記者の記事。これには「小企業の資金調達難の原因の1つは、銀行の信用判断のコストが高すぎることであり、第三者プラットフォームを運用させるべきである」とある。

(3)「物価抑制を緩めることはできない」と題する記者の記事。これには「四半期GDPの前年同期比は落ち込む趨勢にあるが、CPIは依然6%高位」とある。

 

マクロ経済政策の転換、すなわち金融引き締め政策の緩和に転じるかどうかが注目されているので、私も注目している。(1)の国務院発展研究中心の廬中原副主任が挙げた改革、転換(ここでいう「転換」は金融政策転換ではなく、構造転換)の必要な理由は興味深い。インフレ圧力が中小企業の経営難よりも上位に置かれている。(2)の文章も、小企業の資金調達難は、金融引き締め政策が原因ではなく、金融システムの問題だという。(3)は明確にインフレ抑制の重要性を強調する

今日の3つの記事からは、金融引き締めの緩和という流れではなさそうだ。

楊雪梅「過度の娯楽化を抑制することがテレビメディアの責任」という文章は、最近中央宣伝部門がテレビ局に対しゴールデンタイムにおける娯楽番組の制限を通達したことを支持するもの。大きなお世話の通達だと思うが、こうしたことができるのが中国の政治体制。娯楽番組がなくなると、若い人はますますテレビを見なくなる。それでは、テレビ局も困るだろう。何を考えているのやら。

 

劉結一中央対外連絡部副部長の中朝関係についてのインタビューが掲載されている。劉は李克強の北朝鮮訪問に同行しているが、平壌でインタビューを受けている。事前ブリーフィングといい、この訪問の重要性がうかがわれる。

 

20111026-1】金融緩和をすべきかどうか迷う温家宝

温家宝が天津市を調査研究視察した。注目は天津市の視察ではなく、同時に開催された「天津、内モンゴル、江蘇、山東四省・自治区経済形勢座談会」。この4つの省・自治区の省長、自治区主席が出席し、経済状況を報告した。その席で、温家宝がマクロ経済政策について、次のように述べた。

(1)「マクロ経済政策の力のいれ具合(力度)、テンポ、重点をきちんと理解し、適時適度に調整準備(預調)、微調整(微調)を進め、通貨貸出総量の合理的増加を維持し、融資構造をグレードアップし、金融サービス水準を高めなければならない」

(2)「物価の総水準の安定を第1の任務とし、引き続き物価コントロールをうまく行い、インフレ見通しを安定させ、社会保障措置と援助メカニズムを実現しなければならない」

さらに、ハイテク産業、戦略的新興産業の企業を視察し、企業責任者と座談会をもった。そのときの出席者の発言は以下の通り。

―天津膜天膜科股分有限公司「海外製品との不平等な競争に直面しており、一部の入札では明確に外国製も用いることを要求している」

―天津芯碩精密機械有限公司「現在企業の財務負担が重く、資金の回転が困難である、現在の国の金融政策は産業政策に適応していない。科学技術型の小型零細企業が銀行融資を受けるのは難しい」

温家宝「銀行の人間は、企業に行って実地調査を行ったことがあるのか?」

天津芯碩精密機械有限公司「来たことはある。しかし、銀行はおもに生産ラインや並んでいる設備などの資産を見て、我々には立派な設備はないので、彼らは見ただけで(融資を-佐々木注)しり込みする」

温家宝「商業銀行は、もっと専門分野に長けた人材を有して、きちんと企業の調査研究を深め、そうしてから融資するかどうかを決定すべきだ。これが責任を負う態度だ。」

 

この座談会は重要だ。2008年のケースに照らし合わせると、(1)のような言い方は、金融引き締め策の緩和の前兆を示唆している。即金利引き下げとなるかどうかは分からないが、預金準備率の引き下げで、サインを発したのが2008年だ。他方、(2)で「物価の総水準を第1の任務」と言っている。これはまだ金融引き締め政策を緩和しないことを示唆している。
 それでは、温家宝は金融引き締め政策を緩和する気なのか、それともその気はないのか。2008年のケースに対する私の理解にもとづくと、現在の温家宝はどうしていいか判断しかねている情況にあるように見える。だからこそ、4省・自治区のトップを集めた座談会を開いて、情況の判断材料を得たかったのだろう。決して何か決定事項を指示する会議ではなさそうだ。

2008年の時に温家宝が判断を迷ったのは、中国人民銀行と国家発展改革委員会の判断の相違が原因だった、というのが私の理解だ。今回は誰が温家宝を迷わせているのか。もう少し推移を見守りたい。

 

20111026-2

 最近、国家ラジオ映画テレビ総局が「テレビ衛星総合チャンネルの番組管理をさらに強化することに関する意見」を出した。

 意見は、「テレビ衛星総合チャンネルは新聞宣伝を主とする総合チャンネルである」として、2012年から過度の娯楽化、低俗化傾向を防止するよう指示している。具体的には以下の4項目

 (1)ニュース番組の比率の拡大:毎日6:0024:002時間以上のニュース番組を置く、18:0023:3030分以上のニュース系番組を2番組置く

 (2)思想道徳建設番組の増設

 (3)恋愛など7種類の番組の制限:19:3022:009番組以内で1番組90分以内とする、毎週放映の番組は2番組まで

 (4)番組視聴率ランキングの禁止

 

 実にくだらない。テレビが中国共産党の宣伝ツールでしかないことを証明する指示だ。こんなことをすれば、ますますテレビ視聴者は減るのだから、宣伝効果も減るということだ。こんなことをやる暇があったら、他に取り組むべきことはあるだろうに。くだらない。

 しかし、20122月以降の薄煕来騒動を考慮すれば、こうした中宣部によるメディア統制と重慶市での薄煕来による地元メディア統制との関連性はなかったのかと深読みしてしまう。

 

20111027

 25日、6中全会の「決定」の全文が発表されたことで、紙面はその関連記事でいっぱいだ。

 「誕生記」では、今年4月から始まった「決定」の策定がどのように行われたかを紹介している。党が一生懸命議論して作ったのだというアピールだが、そこでどんな点が問題になったかなど詳しい議論が紹介されているわけではないので、あまり意味はない。

 6中全会精神を学習せよとの文章の連載がスタート。1回目は「史書に名を残す文化の一里塚」と題する文章。この文章に書いていることが「決定」をなぞっているだけなのか、「決定」にはないことが書いているのか、分からないので、特にコメントできない。というのも、「決定」が長すぎるし、文化、文化と飽きてしまって、正直「決定」を読む気がしない。他にやらなければならないこともあるので、必要に迫られるまでは読みそうにない

 李長春が6中全会で行った「決定」に関する説明の全文も掲載された。これも長すぎて読む気がしない。

 

 国務院常務会議が開かれて、注目していたマクロ経済について、何か施策が発表されるかと思ったが、何もなかった。増値税改革の試点について決定されたが、これは特に関係ないと見た。

 最近、周小川が、金融政策の基調は変わらない、柔軟性と的確性を増強すると発言したことが伝えられた。IMF国際通貨金融委員会第24回閣僚級会議期間中のメディアインタビューでの発言で、次のように述べた。

 「中国経済全体の趨勢に大きな変化はない。そのため、財政、金融政策の取り上げ方に変化はなく、引き続きうまくやっていく。同時に国際経済に予想外の、あるいは予想以上の深刻な問題が出現しないか警戒しなければならない。そのために、金融政策は柔軟性と的確性を持って、準備をしなければならない」

―「中国の中央銀行には4つの大きな役割がある。(1)低インフレ、(2)経済成長、(3)就業率、(4)国際収支バランス。われわれは終始同時にこの4つの目標に注視し、1つだけを注視しそのほかを軽視することはあり得ない」

―「たえずインフレを注視しており、成長を注視してインフレを軽視することはあり得ない。インフレを抑える上で、私は効能にタイムラグがあることを考慮する必要があると思う。すぐにインフレを抑えることのできる政策はない。同時に国内国外の情勢を考慮しなければならない。現在、多くの不安定な、不確定な要素が存在している」

 

最近のマクロ経済状況に対する周小川の発言が少ないので、注目した。しかし、現状維持を主張するだけで、おもしろくはない。ちょっと違和感があるのは、中国人民銀行の役割を語ったことを伝えている点だ。何の意味があるのだろう。人民銀行は与えられた役割に徹するという控えめな意図か、それともいろんな役割があるから介入するぞという決意表明か。この「わざわざ説明した感」が気になる。

 

20111028】法規を守る意識の低さ

 国務院新聞弁公室が「中国の特色を持つ法律体系」と題する白書を発表した。中国の法律体系がきちんとしていることを宣伝する文章だ。これまで制定された法律がいかに体系的で、民主的な手続きに沿っているかといったことが長々と紹介されている。それらは、読んでも退屈だし、あまり意味がない

 これからどんな法律整備に力を入れるのかについても言及している。現在、今後、中国は経済社会発展にもとづく客観的な需要に基づき、しっかりと科学的発展の実現と経済発展方式転換の加速を中心として、民生の保障と改善、調和社会建設の推進に力を入れ、経済領域の立法を特に強化し、文化科学技術領域の立法を注視し、生態文明領域の立法を行動に重視し、科学的な立法、民主的な立法を深く推進し、立法の質の向上に力を入れる、ということだ

 

 民生、環境などの分野の立法に力を入れるということで、経済発展方式の転換に本格的に取り組もうという姿勢はうかがわれる。

 

 晋風「価格低下の風波に直面しても、コントロールは動揺することはできない」と題する文章に目が行った。最近、上海の個別分譲マンションの価格が低下し、早期に高値で購入した人の不満が高まっているというのが、話題になっているようだ。中国版バブル崩壊のこともあり、この文章が気になった。

 価格低下は、金融引き締めなど政府の一連の不動産コントロールによって、売れなくなっているので、ディベロッパーが価格を引き下げたことによるもの。上海市政府は、価格引き下げによる販売活動の停止を呼びかけた。またディベロッパーと購入者は契約に基づく話し合いによりこの問題を解決し、商品住宅の価格管理規定に違反する行為を取り締まることを明らかにした。住宅の売買は市場行為であり、購入後の価格低下に対するディベロッパーの賠償が契約書に明記されていないのならば、双方は契約を履行しなければならない。こうした「権利保障」は、契約法律効力を軽視するもので、契約精神に欠ける。政府の不動産コントロールの決心は変わらないし、市場秩序の信頼を維持することは変わらない、一般の人々の合法的な立場を守ることも変えらない。

 

 購入者のレベルの低さには笑ってしまう。昨日、国土資源部が違法な土地利用行為の多くは地方政府が主導していると指摘した。土地問題については、地方政府とディベロッパーの癒着など違法行為がよく取り沙汰されるが、この件は購入者の身勝手

 法規の整備は進むが、法規を守る意識は低い。このことは今に始まったことではなく、ずっと前から言われている。この問題を解決する方法は教育しかない、時間がかかると多くの中国の知識人はいう。しかし、これだけずっと言われていても、改善されているようには思えない。どうしてだろうか。それとも改善されているが、新しい情況が発生しているのだろうか。

 こんな人々の身勝手に、上海市政府がいちいち対応するというのも変な感じだ。政府がやることはもっと他にあるだろうと思うのだが。これは政府の仕事ではなく、公取のような機関や司法の仕事でしょう。晋風の文章が言うように、市場行為に政府が口を出すなということ。しかし、こうした一般の人々の身勝手が政府批判に転化してしまうことを恐れているので、政府が対応しなければならない。そうなると、この問題は、法規を守る意識の問題なのか、それともやはり政治体制の問題なのか。晋風はそこまでは問題に踏み込んでいない。

 いずれにしても、現実に、法規を遵守することを知っている人たちや国が、法規を守る意識の低い中国を相手にするのは、フラストレーションがたまる。また愚痴になってしまった。

 1つ注意しておきたいことは、『人民日報』はこのことを、法律問題としてではなく、晋風の文章のタイトルが示すとおり、バブル崩壊を警戒した経済問題として取り上げていることだ。不動産に対する政府のコントロールは維持するというメッセージである。

 

20111029】新聞記者の会議に習近平、李克強が出席

 李長春が中国全国新聞工作者協会(中国記協)第8期理事会第1回会議で講話。習近平、李克強が出席した。

 李長春は次のことを強調した。「新聞メディアは、文化建設の重要な陣地であり、新聞宣伝は文化伝搬の重要なチャンネルであり、文化発展の中で特殊な地位にあり、重要な作用を発揮するものである。新聞戦線は、高度な政治的責任感と強い歴史的使命感をもって、6中全会の精神を深く学習し宣伝し貫徹し、社会主義文化の大発展大繁栄を推進するために、中国の特色を持つ社会主義事業の新局面を切り開き、強い力の思想世論の支持を提供しなければならない」

 李長春は次のことを要請した。「中国記協は絶えず、党と国家の工作の大局を中心とし、新聞宣伝の重点任務を中心とし、広範な新聞工作者と団結し、党が新聞宣伝工作の参謀と助手になる」

 

 最近、国家インターネット信息弁公室が主催した中央新聞ウェブサイト責任者会議における中央対外宣伝弁公室副主任・国家インターネット信息弁公室副主任の銭小の指示も掲載された。

 「6中全会の精神を立派に学習し、立派に宣伝し、立派に貫徹することが、現在、今後の一時期のインターネット新聞宣伝戦線の第一の政治任務である、中央の統一配置、高度な重視、念入りな組織化に沿って、ネット上で6中全会の学習、宣伝、貫徹の盛り上がりを迅速に高め、健全に向上するネット文化の発展を推進し、社会主義文化の大発展大繁栄のために貢献しなければならない」

 

 中国記協理事会が新体制になり、所管する李長春が出席し、講話を行った。このこと自体は5年前もそうだったので通例である。しかし、習近平、李克強まで出席したことは、ちょっと異例。5年前は胡錦濤と温家宝が会議の前に代表者と会見していたが、会議には出席していない。今回、胡錦濤と温家宝と会見していないことを問題にすることもできるが、私は次期指導部のナンバー1とナンバー2が、李長春とともに会議に出席したことを重視したい。党中央政治局常務委員が3人もひな壇に並んでいることは、やっぱり異常だ。

 昨今の新聞メディア、新聞記者に対し当局が締め付けを厳しくしていることがその理由だろう。党にとって新聞メディアが重要であることを関係者に伝えるとともに、共産党の一党支配の維持、習近平新体制に貢献するよう指示したということだ。

 中央新聞ウェブサイト責任者会議も同様だ。6中全会精神の宣伝もあるが、もっと深い意義はネットに勝手なことをするなという指示を伝え、締め付けを強化するということだ。

 

 この他、胡錦濤のG20 サミット出席について、外交部、財政部、人民銀行が事前ブリーフィングを行ったことも報道されている。

 

20111031】温州の中小企業の安定を印象づけ

 「温州の中小企業は安定している」と題する記事が掲載されている。小見出しは以下の通り

 (1)圧力は耐えず増大しているが、温州企業の全体的な情況には大きな異常は出現していない

 (2)直近の憂慮を解決し、将来展望を図る。浙江は上から下まで全力を挙げ、企業家は再び自信を取り戻している

 (3)実業に回帰し、転換を宣言し、一を聞いて十を知るという具合に良策を探求している

 

 30日の『人民日報』によれば、29日の国務院常務会議は、現在の経済情勢を分析し、直近の経済工作を指示した。

 (1)マクロコントロールの方向、力の入れ具合、テンポをしっかり理解する。経済情勢で出現している趨勢の変化を鋭く、正確に理解し、政策の適応性、柔軟性、展望性をさらに注視し、適時適度に調整準備(預調)、微調整(微調)を進める。金融貸出総量の合理的増加を維持し、融資構造をグレードアップさせ、金融サービス水準を高める。財税政策を完備し、構造性減税を推進し、民生の保障と改善についての差し迫った問題を集中的に解決する。

 (2)引き続き物価総水準の安定措置をとることに力を入れる

 

 注目された国務院常務会議でのマクロ経済政策の取り扱いだが、今月4度にわたる温家宝の地方視察で示された認識、方針が再確認されたにすぎず、突っ込んだ指示はなかった。その際の焦点になったと思われる温州の中小企業の資金調達難の問題についても、今日の記事では安定を強調した。温州の問題を個別のケースと認識し、他の沿海地区まで拡大していないというような印象付けをして、できるだけ問題を大きくしたくないような感じだ。そのため、マクロ経済情勢については当面様子見という感じか。