103回 20118月の『人民日報』(2012112日)

 

20110801-1】鉄道部責任者が安全性を強調

 723日に発生した高速鉄道列車事故に関する鉄道部の責任者へのインタビューが掲載されている。この責任者は、731日夜の中央テレビのインタビューにも答えていた陸東福鉄道部副部長と思われる。以下、主な回答を次の通り。

(上海鉄路局安路生局長が指摘した温州南駅の信号設備に深刻な欠陥があったという事故原因に対し)「事故発生状況の紹介であり、これは事故の分析結果ではない」「落雷よる信号設備の故障で後方車両への信号が赤ではなく青になってしまい、徐行中の前方車両に追突した」

(制御システムのソフトに設計上の重大な欠陥があるのではとの指摘に対し)「制御システムの設計会社とメーカーに改善措置を要請し、実験室での計測、現場での実験を経ており、運転再開後同様の問題の発生は防止できる」「724日から全国の鉄道路線で安全生産大検査を全面的に展開している」

 (鉄路部門の職員の賃金を500元カットし、事故の賠償責任に充てるというウワサに対し)「そのような状況は存在しない」

 

 今日の『人民日報』に掲載された7.23列車事故関連の記事はこれだけだが、鉄道部副部長クラスの見解が紹介されたのは初めてだろう。これは温家宝の記者会見効果といえる。運転再開後の安全性を強調する内容になっている。今の鉄道部に言えることはこれしかないのだろう。

 

20110801-2】中央宣伝部の報道規制を確認

中央宣伝部(中宣部)の報道規制のことが注目されている。7.23列車事故のような事故や事件が起きたときの中宣部による報道規制については、これまで海外メディアの伝聞によるものがほとんどで、中国国内のメディア自身が公式にその存在を指摘したり、批判するのを見たことはない。しかし今回、「香港記者協会」が中宣部に報道規制命令の撤回を求める声明を発表し、それを自らのホームページ上で公表した。この意味は非常に大きい。

1つは、中宣部が報道規制命令を本当に出していることを公式に確認できたこと。もう1つは、中宣部は香港のメディアに対しても報道規制命令を出していることを確認できたこと。

 

20110802】思想引き締めを強化

 中華全国新聞工作者協会と新聞戦線三項学習活動領導小組弁公室主催の「盗聴スキャンダルから見る西側の新聞観の虚偽の本質」座談会が開かれた。北京周辺の新聞業界、新聞研究機構、大学の新聞学部系などから60人あまりが参加した。ここでいう「新聞」は広く「メディア」を指す。「盗聴スキャンダル」というのは、先日の英紙『ニュース・オブ・ザ・ワールド』の廃刊のことである。

 廃刊について、「盗聴スキャンダルが西側の新聞観の虚偽の本質を暴露したと同時に、西側の新聞理論と新聞実践の間の固有の矛盾を暴露した」という認識を示した。出席者の発言は14面で紹介されているが、以下いくつか紹介する。

 『人民日報』国際部主任:「西側社会は、自由の濫用の苦境、倫理道徳の苦境、社会文化の俗化、低俗化の苦境、プライバシー権保護の法律の苦境に直面している」

 中国社会科学院新聞研究所所長:「盗聴スキャンダルは西側の新聞の自由の観念を徹底的に打ち砕いた」

党中央宣伝部副部長:「旗幟を鮮明にしてマルクス主義的新聞観を堅持し、絶えず中国の特色を持つ社会主義的新聞理論を創新、整備し、わが国の新聞事業が正確な方向に沿って繁栄、発展するよう指導しなければならない」「必ず新聞工作者の取材作風問題を解決し、深い取材、法に沿った取材、文明的な取材を提唱することに力を入れなければならない」

 座談会の報道以外に、党の理論誌『求是』第15期の秋石の文章「マルクス主義政党の先進性を維持し、発展させる根本点を深く理解しよう」の宣伝が掲載されている。

微博(中国版ミニブログ)を利用する党政幹部の心構えを説いた唐維紅「微博時代にいかにものを言う」と題する文章も掲載されている。それによれば、(1)平等な対話と真摯な対話、(2)すぐに発言し、正確に発言する。そうすることで、人民の願望や気持ちを知り、人民の憂いを解決することができる。

文化部党組理論学習中心組の「社会主義先進的文化の旗幟を高く掲げ、中華文化の新たな輝きを創造しよう」と題する文章も掲載されている。

 

英紙『ニュース・オブ・ザ・ワールド』絡みの座談会は、81日に開催されており、党中央宣伝部副部長が出席していることから、額面どおりの会議だとは思えない。西側のメディア報道の姿勢の批判を口実に北京のメディアを集め、7.23列車事故に関する報道規制を確認する会議だったのではないかと推測する。

微博についての唐の文章も7.23列車事故絡みの評論かと思ったが、これはどうも違う。純粋に党政幹部に微博利用の心得を説いたもの。しかし、党政幹部に情報発信に対し、真摯であれ、早く正確であれ、と言っていることは7.23絡みの党政幹部の対応批判と読めなくはないが、これは深読みかもしれない。

『求是』の文章の宣伝や文化部の文章は保守色が強い。座談会も含め、「左」派色の強い紙面づくりという印象を受ける。

 

20110803】積極的な政務公開の指示と汪洋

 中央弁公庁と国務院弁公庁が「政務公開を深化させ、政務サービスを強化することに関する意見」を印刷して通達した。政務公開に対する基本的な方向性は次の3点。

 (1)行政体制改革深化の要求に沿って、政府職能を転換させ、行政権力運行の制度化と公開透明を推進する

(2)公開を原則とし、非公開を例外とする要求に沿って、群衆の普遍的な関心のある、群衆自身の利益に関わる政府情報を適時、正確に、全面的に公開する

(3)人民のための人民の利益の要求に沿って、さらに政務サービスを改善し、行政の効率と能力を高め、政務サービスシステムの構築を推進し、人民群衆に質に高い、便利で、効率の高いサービスを提供する

この通達を盛り上げるための関連記事が続く。広東省政府が「政府サービスを強化、改善し、企業転換レベルアップを促進することに関する若干の意見」を通達したことを宣伝する記事も掲載されている。また17面から19面にわたり政務公開の特集が組まれている。

 

いつもながら、かけ声だけでなく、がんばって政務公開を進めてくださいとしか言えない。

その中で、広東省の「若干の意見」は興味深い。なぜならば、その表題で「政府サービスを強化、改善」の目的を「企業転換レベルアップの促進」と明確にしているからだ。これは経済構造の転換、高度化のことで、広東省党委員会書記就任以来汪洋が取り組んでいることだ。それが「意見」の表題に上がっている。

2008年のリーマンショックの時、経済構造転換を掲げた汪洋は短期的な政策として批判を受けてきた。しかし、それを乗り越えて、経済構造転換を掲げているのだから、汪洋という政治家は頑固で、信念を持って突き進むタイプなのかもしれない。

 

インフレについても、有識者の文章がまとめて掲載されている。

(1)林兆木(国家発展改革委員会マクロ経済研究院研究員)「十二五の前期がインフレに影響する要素」

(2)張卓元(中国社会科学院経済研究所研究員)「新たなインフレの成因とガバナンスの策」

(3)李徳偉(中国市場情報評価センター首席エコノミスト)「インフレの原因は構造のバランス欠如にある」

3人とも官庁エコノミストなのだが、私の興味からいえば、国家発展改革委員会の人がまとまった文章を発表している点に注目。

 

20110804】政務公開「意見」の論点すり替え

 国家予防腐敗局弁公室と全国政務公開指導小組弁公室の責任者、専門家らが、昨日83日に公表された中央弁公庁と国務院弁公庁の「政務公開を深化させ、政務サービスを強化することに関する意見」(「意見」)について、解説した。

 

「意見」は、政務公開についての総合的な政策文書だが、2005年に発表されたものの後継であり、新たな情勢を考慮し「プロセスの公開をさらに強調、重視し、権力運行の制約を強化する」といった点を強調する。しかし、7.23列車事故の直後の公表だけに、新聞のリードも「公開が原則で、非公開は例外」となっており、「意見」の「重大な突発事件と群衆が関心を持つホットイシューの公開をしっかりつかみ、事件の進展、政府の措置、公衆の防止措置、調査結果を客観的に公布し、適時社会の関心に回答し、社会世論を正確に導く」の文言に関心が集まってしまった感がある。「意見」では、この記述の優先順位は決して高いものではない。しかも、公開重視か、それとも世論誘導重視か、あいまいで、両論併記である。

通常こうした政策文書の解説は、所管部門の責任者だけが粛々と行う。しかし、「意見」についてのこの解説報道では、国家行政学院や中国社会科学院の専門家らの突発事件の公開を推進すべきとの見解を数多く紹介しており、違和感がある。深読みかもしれないが、『人民日報』自身が「突発性事件の情報公開」という部分を全面に押し出し、この文書の本来の論点をすり替えているようにすら思える。その点では、7.23列車事故の影響が、「意見」に反映されているというよりも、むしろそれを伝えるマスコミの中に情報統制強化への不満として残っているといえるのかもしれない。

他方、当局がこうした政策文書をこのタイミングで公表したこと自体がそもそも問題だろう。決して優先順位は高くないとしても、突発事件の情報公開について触れれば、今の状況下ではそれが論議を呼ぶことは容易に想像がつくはずである。それでも公表したということは、杓子定規に予定どおり発表したという単なる無神経さか、それとも政治的な意図があってのことか。たとえ政治的な意図があったとしても、公開重視か、それとも世論誘導重視か、両論併記という妥協の産物の政策文書であることを暴露したに過ぎない。いずれにしても、この時期に公表するという当局の状況判断能力を疑わざるを得ない。

 

江蘇省の3つの地区級市の党委員会書記と市長を公開推薦し、投票で選出したという「公選票決」の記事に注目した。しかし、「公選票決」など名ばかりで、恣意的な選出だった。

 

20110805】「死者35人以上で処分」のウワサを否定

 国家安全生産監督管理総局スポークスマンが、人民網でネットユーザーの質問に答えるという交流に参加し、7.23列車事故など最近多数の死者が出る事故が多発していることについて答えたことが掲載されている。記事として取り上げられた回答部分は次の通り。

−「7,23列車事故は自然災害ではなく、特別重大な鉄路交通運輸事故である」

−「死者35人が処分の『デッドライン』と言われているが、そのようなものは存在しない」

−「わが国の安全生産面で存在する主な弊害は、厳格でないことと実行しないことという問題にある。厳格でないということは、一部の地方や単位が安全生産の管理、責任追求の面で、依然として手広くやる、能力がないのにやるという問題が存在している。実行しないとは、安全生産関連の法律、法規、規章、標準、政策措置が末端で、企業で、ポストで実行されていない」

 

3つの回答のうち、死者35人という処分の軽重のボーダーラインがあるので、35人以上の死者数は隠蔽されているのではないかという疑念がネット上などで騒がれている。そのウワサを取り消すスポークスマンの回答が掲載されているのがおもしろい。当局もこのウワサを気にしていたということだ。

7.23列車事故関連でもう1つ、「原因を取り除くことで自信を再構築することができる」と題する文章が掲載されている。原因追及の重要性を強調するのだが、そのためにどうするか。書いてあることはだいたい妥当だと思う。しかし、1つだけ解せない部分がある。

 「1つの重要な方法は、人民の力量を発動することで、群衆の至る所にある狂いのない目の助けを借り、誠心誠意人々の公共安全に対する各種意見に耳を傾け、社会公衆の知恵と力量を用いて、危険を安全に変える」。

 事故原因は技術の問題なのに、「群衆の意見を聞け」というのは、原因追及には何の役にも立たない精神論以外の何ものでもない。情報が統制されている中で、指示に従い関連する文章を書かなければならない作者はなかなかネタがなくて大変なのかもしれない。だからといって、技術のことなど何も分からない群衆がいうことに耳を傾けろという解決方法は全く意味がない。それは単に群衆に媚びているだけ。しかし、それを書かなければならないのは、この事故、そして事故処理への群衆の不満が強いことに対する当局の危機感があることの裏返しでもある。情報が統制されると、こんなにもつまらない文章が掲載されることになってしまう。

 

20110808-1】汪洋vs.薄煕来の「ケーキ」論争にうんざり

 「利益をともに享受するメカニズムをいかに打ち建てるか」という陝西省楡林市の取り組みを宣伝する記事が掲載されている。サブタイトルに「『ケーキを大きくするか』『ケーキをうまく分けるか』という注目されている話題を、陝西省楡林市に見る」とある。

 どのようにGDPの伸びと住民所得の伸びの両立を実現するか。どのように「共同富裕」の目標に近づくか。陝西省楡林市では、石炭資源が豊富で、GDPが猛烈に伸びて、鉱産企業の財富が増えても、村民の収入が同じ速さで伸びない。そのため、民生でアンバランスを修正する、企業利益と群衆の収入アップを結びつける、鉱区の生態統治や社会管理に村が積極的に参加するなどの対策を取り、2010年までにGDPも住民所得も大きく伸びたという。

 

「ケーキを大きくするか」「ケーキをうまく分けるか」が注目されているのは、その本質が汪洋と薄煕来の対立にあるからだ。しかし、この宣伝記事は、GDPも、個人所得もどちらもバランスよく延ばさなければならないと論じており、どう読んでも汪洋と薄煕来のどちらかに軍配を上げるものではない。つまりは、「いい加減にせい」ということ。

 

20110808-2】北戴河会議での経済論議の焦点

 どうやら、現在北戴河会議が開催中で、経済問題が議論されているか、議論が終わったようだ。もちろん、北戴河会議が開かれたことなどは、香港メディアが伝聞記事を掲載することはあっても、中国国内メディアが公式に報道されることはない。

 それにも関わらず、こういうのには私なりの根拠がある。それは、2008819日付『人民日報』に、経済に関する特集記事が掲載され、それも北戴河会議での議論を紹介するためだったと考えられるからだ。最近の『人民日報』も似たような状況になっているからだ。

 85日付に陳佳貴(中国社会会学院経済学部主任)の「マクロコントロールの方向、重点、力度を立派に理解しよう」と題する長い文章が掲載され、おやっ、と思い、今日88日付にも、(1)「経済成長が落ちていることはコントロール見通しに符合している」という記者の分析記事と、(2)「収入の伸びが早いのに、どうして人にその感覚がないのか」という記者の分析記事が掲載された。ネタがないからといって、マクロ経済記事がちょっと集中しすぎているのには違和感がある。

 この推測に従えば、陳佳貴という政府に極めて近いエコノミストの文章は、会議でのマクロ経済認識を示している。(1)の記事は、経済成長に関する議論の結果を反映している。(2)の記事は、2011年上半期の農民所得が20.4%増、都市住民所得が13.5%増なのに、物価高や都市と農村の伸びの差があり、実感がないという内容で、やはり物価高の庶民への影響が議論された。というように北戴河会議での議論が推測できるわけである。

 

20110809GDP脱却の南京市の行政評価

 87日、南京市が「郊外県鎮街道分類考査実施弁法」を公布した。6つの郊外県の66の郷鎮の街道の評価について、GDPによる評価をやめ、近代的な農業、先進的な製造業、近代的なサービス業の3分類での考査を実施するというもの。都市と農村の末端行政レベルの評価について、かなり細かく記しているので、見ることにした。

新たな評価基準を導入した理由:

−「企業誘致、投資誘導で、惜しむことなく、政策をいとわず、土地価格をいとわず、プロジェクトを誘導することが、良好な生態環境に影響し、こうした成長方式はすでに続けることが難しい」

−「あらゆる鎮村が工業発展に適しているわけではなく、『資源をいとわない、略奪式』の粗放的発展理念を必ず放棄しなければならず、そうすることでGDPという総量的数字に悩まされない」

評価は基本評価と分類評価に分かれる。

(1)基本評価:全体の40

  @経済発展:8(予算収入と固定資産投資による経済運行の質と事後効果)

  A民生改善:14(就業と収入)

  B生態文明:9(ゴミと汚水の処理率)

  C調和安定:9(村と社区の組織建設と平安社会指数)

(2)分類評価:全体の60%。66の街道を近代的農業、先進的製造業、近代的サービスの3分類で評価する

評価によって、1等賞(奨励金300万元)3カ所、2等賞(200万元)6カ所、3等賞(100万元)9カ所を表彰する。評価を幹部の昇進任用の重要な根拠材料とする

群衆の満足度調査を行い、満足度が3分の2を下回った街道は評価対象から外す。影響の深刻な群体性事件、重大な安全生産事故、生態環境事故が発生した場合は、一票否決を実行する(これらが発生するとトップの評価が即不合格ということだろうか)

 

GDPの数字を評価対象としないという評価制度の導入は、これまでもいろんな地方で叫ばれてきた。しかし実行されるケースはほとんどない。南京市も口だけだろうと思いつつも、細かい規定が紹介されているので、GDPを評価基準としない場合の評価の仕方を知っておこうと細かく見た。

 評価は、鎮や街道という行政体に対するものだが、奨励金がかかっているし、幹部も昇進がかかっているということで、各行政体にはインセンティブがある。

 全体の4割を占める基本評価のうち、ACは民生重視という今の流れに沿ったもので、これらで全体の32%と3割強を占めるのは比較的大きい。

 分類評価については、具体的な評価方法が分からない。これは結局のところ生産額だからGDPということになるのだろう。(1)@GDPっぽい。そうなると全体の6割がやはりGDP絡みということになり、GDPの数字から脱却できるのかは不透明だ。

 1つ注目すべきは、「影響の深刻な群体性事件(集団抗議行動)、重大な安全生産事故、生態環境事故が発生した場合は、一票否決を実行する」という点だ。今、末端行政が最も対応に苦慮している問題に対し、発生すれば即アウト、というのはなかなか厳しい。こうした問題に対し、末端行政が対応の仕方を分からないことが最大の問題なのであって、上部が発生したら即アウトなどという罰則規定を設けても、実は何の解決にもならない。そうした問題が起こらないように、GDPを評価対象にせず、民生重視の評価に変えるということなのだろう。

 

20110810-17月のCPI上昇率が6.5%への対応

 世界的な株価暴落、中国の7月のCPI37カ月ぶりの高値となる6.5%上昇との統計発表があり、紙面は経済関連記事でいっぱいだ。

 国務院常務会議が開かれ、現在の国際金融情勢とその影響を分析、対応措置を制定した。会議は、「冷静に観察し、慌てずに落ち着いて対応し、リスク回避の準備を立派に行わなければならない」との国際金融情勢への対応を指示した。また、インフレに対して、「マクロ経済政策の連続性、安定性を維持し、政策の的確性、柔軟性、予測性を高め、マクロコントロールの力の入れ具合、テンポ、重点をうまく理解し、経済の安定的で比較的速い発展の維持と経済構造の調整、インフレ見通しの管理の三者の関係をうまく処理し、物価上昇幅を引き下げるよう努力し、経済の安定的で比較的速い成長を引き続き維持する」よう指示した。

 今日から「経済の熱点をどう見るか」と題する連続報道がスタートした。1回目は「中国は高インフレ時代に突入したのか」と題して、インフレ問題を取り上げた。国家発展改革委員会(発改委)スポークスマンは「国際市場における原油、小麦、トウモロコシ、大豆などの大口商品の価格が下降しており、輸入性のインフレ圧力は明らかに弱まっている」と述べ、国際的な影響は小さいとの認識を見せた。そして、周望軍発改委価格司副司長が物価安定措置として4項目を挙げた。(1)流通ポイントに対する整理整頓を行い、高速道路の期限を越えた費用徴収項目を取り消し、高すぎる費用徴収水準を引き下げ、農貿市場、スーパーの入場費、銀行カードの不合理な費用徴収の整理整頓に力を入れる、(2)社会救助保障水準と物価上昇の連動メカニズムを引き続き完備、推進し、各地で年末までにすべて構築するよう督促する、(3)市場価格の監督管理を強化し、買い占めて値上がりを待つ、投機的売買、価格独占などの違法行為を厳しく取り締まる、(4)穀物、豚、野菜の供給を引き続き強化し、農産品価格の基本的安定を保障する。

 「米国国際危機の余波はまだ終わっていない」との国際金融情勢の特集も組まれ、各国駐在記者のレポートと国務院発展研究中心研究員の藩建軍による「影響は軽視できない」と題する解説記事が掲載されている。

 

 国務院常務会議については決まり文句的な対応措置が紹介されているだけだが、そのことが逆に物価上昇について危機感をもっていることを表しているように思われる。連続報道では、今後のインフレに対する国際要因は小さく、国内の対応が重要で、不必要な間接コストの削減、低所得者対応、違法行為、供給安定が示されている。他方、海外からのレポートは国際要因を強調している。しかし見方はバラバラだ。

 

20110810-2】「新聞戦線に対する末端に行き、作風を転換し、文風を改める活動」を指示

 中央宣伝部、中央対外宣伝弁公室、国家広電総局、新聞出版総署、中国記者協会主催のテレビ会議が開かれ、劉雲山中央宣伝部長が「新聞戦線に対する“走基層、転作風、改文風(末端に行き、作風を転換し、文風を改める)”活動」を指示した。評論員文章まで出るこの指示は「良好な職業精神、職業道徳を育成し、上から下まで仕事に効果が現れ(中国語で「上下功夫見成効」)、新聞工作者の優良な作風を継承し高揚させなければならない」というような精神論というか、意識改革を求めるものだ。しかしそれはむしろメディアに対する引き締め強化の動きと見るべきだろう。

 

20110811】国務院常務会議が7.23列車事故調査で指示

 国務院常務会議で、7.23列車事故に対する指示が出た。

 報道のリードは3項目の措置。

 (1)高速鉄道、および建設中のプロジェクトの安全大検査を展開する

 (2)新規建設の高速鉄道の運営初期の速度を適度に引き下げる

 (3)建設予定の鉄道プロジェクトに対しては組織的な安全評価を改めて行う

 さらに囲みのリードで、調査上の指示が強調された。

 (1)7.23事故の調査は、直接的な原因を明らかにすることだけでなく、根源を追求し、設計、製造、管理などの方面の大元の問題を明らかにしなければならない

 (2)国務院の事故調査組を充実、強化し、メンバーの構成を変更し、調査制度を完備し、調査工作の権威性と公信力を高める

(3)情報発布工作を真剣に立派に行うことで、事故の調査、処理とこの後の全体的な改革への最大限の社会の理解と指示を得る

盛光祖鉄道部長の発言も報道された。

−「深感内疚、十分痛心」(非常に後ろめたく、心を痛めている)

−「事故は、鉄道運輸の安全基礎と管理面で弱点が存在すること、重大事故に対する応急管理と処置に対する経験不足を暴露した」

 

ようやく国務院常務会議が7.23列車事故への対応を取り上げた。事故発生から半月以上が立ち、温家宝の現場記者会見からはちょうど2週間。これにはちょっと遅すぎる感がある。

内容については、すでに広く伝えられているので省略するが、調査情報の公開によって、「後の全体的な改革への最大限の社会の理解と指示を得る」としており、再来年の機構改革に向けて世論をバックに大幅な鉄道部改革を進めることを示唆した。次期首相の李克強の腕の見せどころだろう。しかし、新たな調査組の副組長に元鉄道部副部長が2人も含まれているのは、気になるところだ。

さらに興味深かったのは、盛光祖鉄道部長の発言が報道されたことである。事故後初めて(のはずの)ということもあるが、通常国務院常務会議の報道が特定の個人の発言を伝えることは珍しい。というか私の記憶ではこれまでなかったような気がする。この事故の重大さ、国務院の重視の具合を表していると同時に、鉄道部のミスであることを強調するためのようにも受け取ることができる。

鉄道部長の発言に「深感内疚、十分痛心」(非常に後ろめたく、心を痛めている)とあった。中国語でどの程度謝っているのか、ニュアンスを確認する必要がある。そして、弱点と経験不足を率直に認めているのも注目できる。

 

20110816】「中国製造」のイメージ回復に日本を利用

 23面に「日本人の中の中国製造」という特集が組まれている。

冒頭で「日本のメディアと異なり、日本の一般人は『中国製造(メイドインチャイナ)』にかなり客観的で公正な評価を与えている」として、その実情を紹介しようという特集のねらいを説明する。

ここでは、4人の見方を紹介している。

(1)「日中友好の第1歩」:文化交流のこと、

(2)「切っても切れない関係にあって放棄できない」:日本製の日用品、電化製品が中国製品の挑戦を受け、日本人の生活に溶け込み、日本の電化製品も価格が下がり、いいものになっている

(3)「追いつき追い越す時代がやってきた」:安いだけでなく、高度な技術を有していることで、世界が歓迎する「メイドインチャイナ」の時代がやってきた

(4)「理解、交流、絆」

同時に、日本駐在の于青記者の「目で見たものは確かであるが、耳で聞いたことは当てにならない」と題する文章を掲載されている。「中国製品が日本にあり、中国ブランドが日本において有利である貢献していることを日本のメディアは口をつぐんで触れようとせず、マイナスの話題でいっぱいである。そのため、日本の一般人の中国製品に対する評価は日本のメディアが発する声とはいくらか異なる。『多くの意見を聞けば是非がはっきりするが、一方のみを信じると判断を誤る』。中国人は批評を聞いて、自信をなくすべきではないし、称賛を聞いて有頂天になるべきではない」

 

ページ全体を使ったこの特集。なぜこの時期にこんな記事を掲載したのかはよく分からない。終戦記念日の翌日で、日中友好関係を強調しようということかとも思ったが、そんな内容ではない。

日本での中国製品の浸透ぶりを伝えるこの特集に3つの観点を読み取った。

(1)日本と中国が切っても切れない関係にあることをアピールしようという日中友好の観点

(2)中国製品がすばらしいことを賛美する中国製品の国際競争力の観点

(3)日本のメディア批判の観点

(1)(3)は関連している。一般の日本人と日本のメディアを、一般人は友好的だが、メディアは非友好的だと区分する。一般の日本人と軍国主義者とを区分するという古典的な対日戦略と酷似している点がおもしろい。あえてメディアを敵に回すこの戦略は、現在の対日戦略に有効なのだろうか。有効かどうかは別にして、中国の対日戦略には今も昔も変わらない側面があることに気づかされる。

(2)については、7.23列車事故で、世界的に中国製品へのイメージを下げ、中国人にとっては中国製品への自信をなくしたかもしれないが、日用品、電化製品レベルでは日本のような先進国で高く評価されているというロジックだ。日本を中国製品のイーメジアップ、中国人の自信回復に利用している感がある。

 

 胡錦濤が811日〜15日に広東省を視察した。ユニーバーシアード深セン大会の開幕式出席と絡めた視察だ。「いかに経済情勢の新たな変化に適応し、経済発展方式を転換させるかは、総書記がずっと高度に重視してきた問題であり、視察の重点は科学技術の創新と転換発展情況の理解に重点を置いた」と説明している。

 

20110817-1】久しぶりに張徳江副総理の消息

 習近平が全国調和的な労働関係構築先進表彰・経験交流会で講話した。習近平が労働問題に言及するのも珍しい。次の発言に注目した。

 「各方面の職責をさらに明確にする中で、党・政府の力量、群衆・団体の力量、企業の力量、社会の力量を緊密に結合させ、統一させ、調和的な労働関係の共同構築を推進しなければならない。各級党委員会宣伝部門と新聞メディアは調和的な労働関係の構築を宣伝報道の経常的な職務とし、世論を正確に導くことを堅持し、各種メディアが調和的な労働関係の良好な世論の雰囲気を共同で構築するよう導き、促進しなければならない」

 

 党の指導が第1で、宣伝部門の世論誘導が重要だという原則的な見解を示した。

この報道で注目は張徳江副総理の参加が報じられていることだ。724日に7.23列車事故の現場に入ってから、彼に関する報道が途絶えていたので、久しぶりの登場だ。1516日に開かれた国務院高速鉄道及びその建設中のプロジェクト安全大検査動員指示会議で講話を行ったことも報じられた。張徳江が依然として7.23列車事故処理の指揮を執っているものと思われる。

 

20110817-2】反対意見は「良薬」

高嶇「反対意見は良薬である」という文章が掲載されている。三峡ダム事業の成功は反対意見があったからだという例を引き、次のように述べている。

 −「日常工作の中で、反対意見を提出することは本来正常なことだが、一部の人は(そのことを)くだらないことをやって時宜に合わないと見なす」

−「一部の地方や単位では、上級が決定するとみんなが従う、会議で討論すると一致して採択する、選挙で任免すると全票で当選する。このような美しい背後に、矛盾や問題が隠され、隠れた弊害が埋もれている可能性がある」

 −「1つのことに直面したとき、異なる意見の出現を恐れない。そのカギとして、異なる意見を受け入れる度量と底力を持たなければならない」

 −「異なる意見、反対意見こそ良薬であり、われわれは異なる認知の中で全面的に客観的に事物の発展の規律を理解し、利害得失を秤にかけてこそ、科学的な決定を進めることができる」

 −「党と人民の事業がたえず成功に向かうことを確保するには、党と国家が同じ徳を有し、上と下が同じ心を有し、社会が調和することが必要であり、異なる声を受け入れ、尊重することも必要である」

 

 「反対意見を尊重し、受け入れよう」的な評論は時々掲載され、今回もごもっともなご意見で、新鮮味を感じない。

「会議で討論すると一致して採択する、選挙で任免すると全票で当選する」ことを批判するが、実際には反対意見がないのではなく、採択前にはかなり反対意見を交えた審議があって、最後は全員一致ということだ。反対意見の重要性の議論は、党の指導に反対する意見を尊重し、受け入れることができるかどうかということを議論しなければ無意味だ。この文章は当然そのようなことは前提にしていない。

他方、最近の当局は、反対意見というよりも、ブログなどで騒がれるウワサに右往左往し、それを否定する見解を出し、それをメディアが報道するというケースがよく見られる。それだけブログなどを通じた大衆の意思表示の影響力が高まっているということなのだろう。

 

20110818-1】李克強が香港で経済通をアピール

 香港特別行政区を視察中の李克強が「国家十二五規劃与両地経貿金融合作発展フォーラム」で講演した。この視察は、香港で200億元の人民元国債が発行されるタイミングでもある。報道のリードは「香港のさらなる発展を支持し、大陸と香港の経済貿易金融などの面での協力を深める新たな政策を発表した」とある。フォーラムでは、香港でのオフショア人民元業務、内地と香港のサービス業協力に関する質問に答えたという。また香港証券取引所、香港金融管理局を視察した。

 

 これについては、昨夜17日の「新聞聯播」の映像が印象的だ。講演でも、視察でも、李克強が手振り身振りを加え、やたらと笑顔を振りまいている。「軽い」という悪い意味で言っているのではない。余裕のある振る舞いという印象を与えているように思うのだが。中国の人にはどう見えたのだろうか。

 香港証券取引所や香港金融管理局で、積極的に発言し、また質問もしている映像も流れた。フォーラムでは経済問題について質問に答えたようだ。李克強に経済が分かるのか、と国務院総理就任を疑問視する声がよく聞かれる。この映像からは、自分が経済のことを分かっているぞということをアピールしているように思われる。

 

20110818-2】言論の自由

 王方「イギリスの騒乱から言論の自由を見る」という文章が掲載されている。

−「今日ほど、インターネット、新メディアが、深さと速度の面で、世論の分布、社会気候の転換、政治権力の更迭に影響を及ぼすことはなかった」として、中東やアフリカの政権交代、ノルウェーのテロ事件を挙げる。

−「新メディアの時代には、『ニュースの塀』が拡張し、公衆が情報伝搬の隊列に加わっている」。しかし「新メディアでは、技術プラットホームのバーチャル性、無障壁性、ネットユーザーの匿名性、『チェック者』メカニズムの弱体化などにより、言論の自由の境界が次第に広がり、ネットのニセ情報、人身攻撃、権利侵害の違法、暴乱煽動などの負の言行が絶えず出現する」「『個性』の追求、身分や利益を隠すことで、一部のユーザーが大胆に過激な言論を発表することを促す」と、新メディアのマイナス面も指摘する。

「さまざまな社会問題に対し、新メディアの役割や影響を故意に誇張する必要はないし、その他の深い矛盾や根源を避けるべきでもない。国によって、発展段階によって、矛盾があることは、客観的な現実である。公衆がソーシャル・サイトなどを通じて積極的に建議し政策に貢献し、社会的ガバナンスに参加することは公民の権利の進歩と社会発展の現実である」と新メディアの発展を容認する。他方で「問題のカギは、人々が新メディアという自由な道具を掌握するとき、自由は本来抽象的なものではなく、絶対的なものであることを絶対に忘れてはならない。新メディアは、法律の制限を超えるものでなく、理性から逸脱し分裂や混乱を作り出す口実ではない」とクギを刺す。

 

「自由は絶対的なもの」という最後の引用部分がちょっと引っかかる内容だが、全体的には中国のメディア規制に触れるところまではいかない、安全牌の「言論の自由」論だ。

 

20110819-1】メディア・「微博」規制が顕著に

 全国新聞戦線で展開される走基層 転作風 改文風活動に関する記者の取材記事が掲載されている。また丁俊傑「利益を追い求めて害を避け、微博をうまく利用しよう」と古辰「真実の信用が微博の最低限の倫理」と題する2つの中国版ブログの微博に関する文章も掲載されている。

 

最近、メディアの引き締めと、これまでの微博称賛を見直す記事が増えている。前者はメディア引き締めの政治キャンペーンだ。7.23列車事故発生直後の一部メディアの行き過ぎた報道と無秩序な微博の内容が引き締め、見直しの直接の理由だろうが、共産党とメディアとの関係は本当に難しくなっている。

 

20110819-2】金融当局が融資難に言及

中国人民銀行と中国銀行業監督管理委員会の関係責任者が「融資難は最も重要な問題ではない」と発言した。人民銀行市場司の呉亭副司長と銀監会完善小企業金融服務弁公室副主任の張小松で、「中小企業の生産と経営状況は全体的に正常で、大きな範囲での趨勢的な破産倒産は出現していない」「実体経済の普遍的な感覚では融資供給は不足しており、民間融資の導入が活発で、リスクが過激になっている」としている。また熊建の「お金がないのではなく、ないのは融資のチャネルである」との文章も掲載されている。

 

金融引き締め政策が、中小企業の資金調達を困難にし、経営難に陥れているといわれているが、そういう見方への反論である。2008年同様、人民銀行関係者が、金融引き締め政策が問題ではなく、融資メカニズムの問題だと言及しているところが興味深い。

 

20110819-3】鉄道部スポークスマンの更迭を思う

一昨日817日、例の鉄道部のスポークスマンが更迭された。私は彼をとても気の毒だと思っている。彼の発言には確かに行き過ぎがあったかもしれない。しかし、それは本当に彼の責任なのだろうか。鉄道部批判のスケープゴートにされた感がある。私は、むしろ未成熟なスポークスマン制度に問題があると思っている。

一党支配体制なのに、西側のちょっといい制度をまねてみようと導入したスポークスマン制度。通例の記者会見ならば想定問答があって、スポークスマンはその範囲内で発言すればいいので、さほど問題はない。しかし、今回のような突発事故直後の記者会見では、想定外の質問が出るし、雰囲気も異なる。そうしたとき、成熟していない、つまり発言内容を制限されている、アドリブのきかない中国のスポークスマンが、尋常でいられるわけがない。鉄道部のスポークスマンもそうで、私はあの映像を見て気の毒にすら思った。慣れないことをやるとあんな発言になってしまうのだ。

私は、共産党が採用する改革には「共産党が自分の首を絞める改革」だと思うものがよくあるが、スポークスマン制度もまさに自殺行為だ。つまり、短期的な政権維持のために、情報公開という西側の政治制度を安易に導入して、さも改革をしているかの如く見せかける。しかし、それは民主主義あっての制度。それがない中国でこれを安易に導入すると、どうしてもボロが出てしまう。そうした制度をいったん入れてしまうと、制度は一人歩きを始め、突発事故でも記者会見を開かなければならなくなる。そうすると、想定外の質問が出てきて、ボロが出る。それは鉄道部スポークスマンの責任ではない。彼は共産党の一党支配の犠牲者でもある。外交部は外国を相手にしているので導入しなければしようがないところがあり、その分慣れているのである。しかし、我も我もと官庁や地方政府がスポークスマン制度を導入することは、中国の政治体制では自殺行為だ。それでも導入してしまっているからには、突発事故のような時には記者会見など開かず、一方的な情報発信に留めるのが現実的だ。

 

2011082021】「副大統領交流」の過剰報道

 19日に胡錦濤が中国訪問中のバイデン米副大統領と会見した。これを伝えた香港鳳凰台(フェニックステレビ)は、米副大統領が「今回の訪問で習近平との個人的な関係を深めたい」と語った部分を流した。当然20日付『人民日報』の会見報道ではその部分は取り上げられていない。

 中国国内の報道では「副大統領交流は大事だ」ということが各紙で取り上げられている。もちろん、習近平国家副主席とバイデン米副大統領の交流のことを念頭に置いたものだ。

習近平は18日にバイデンと会談し、(1)米中協力パートナーシップの大きな方向は動揺しないことをしっかりと理解する、(2)全面的な相互利益の米中経済パートナーシップを深める、(3)双方の核心的利益を尊重することが米中関係の健全な安定的発展を確保するカギである、(4)米中グローバル・パートナーシップをさらに強化する。という4項目の提案を行った。

「副大統領交流」は本当に大事なのだろうか。バイデン米副大統領が来年の大統領選挙で、再びオバマ大統領の副大統領候補になるのかどうか分からないし、副大統領がアメリカの政治外交において、とりたてて重要な存在であるとは思えない。去りゆく者と来たる者、この対照的な両者の交流が、中国にとってどのくらい重要なのだろうか。目先のことを無責任にことさらに大きく取り上げる中国の報道ぶり。もう少し小さな扱いでいいのではないか。経済問題を争点に取り上げている点で重要な訪問と意義づけようとしているが無理がある。

おそらく中国当局自身も「副大統領交流」に意味がないことを分かっている。そう考えると「副大統領交流が大事だ」という説明を付与して、バイデン米副大統領の中国訪問を大きく宣伝するのはなぜか。次期指導者である習近平の外交面での存在感をアピールするためのものと思われる。おそらく、胡錦濤は冒頭のバイデンの発言をあまりいい気分では聞かなかっただろう。バイデンの中国訪問報道は、国内政治を念頭に置いた報道といえる。

 

20110822-1】メディア統制キャンペーンが本格化

 「走基層 転作風 改文風」(末端に行き、作風を転換し、文風を改める)活動の連載が1面でスタートした。これから連日、末端の事情を紹介する記事が掲載される。それは、こんなことをキチンと報道しろという教育的な連載になるのだろう。

「走基層 転作風 改文風」はすでに紹介したとおり、党中央宣伝部など5部門が主導するメディア統制の政治的キャンペーンだ。『人民日報』も連載をスタート、中央テレビの「新聞聯播」も22日から連載コーナーをスタートするようなので、キャンペーンを本格化し、メディア統制も強まりそうだ。

 

20110822-2】四川でも副大統領交流

習近平、バイデン米副大統領の四川省視察に同行し、「副大統領外交」は続く。バイデン米副大統領が四川大学で講演したが、そのときの次のような発言を紹介している。

−「繁栄する中国は米国製品を必要とし、米国には多くの就業の機会をもたらしており、中国の発展繁栄は米国の利益に符合している」

−「2つの偉大な国家として、そしてグローバルな事務の参加者として、米中協力は両国人民と世界に幸福を生み出す」

 

昨日21日の『新聞聯播』は四川大学の講演は報じなかった(はず)。香港鳳凰台(フェニックステレビ)は報じていていた。発言には民主化や人権などの内容のものもあったが、国内の報道は当然ながら都合のいい部分の抜粋になっている。

 

20110822-3】映画「南京、南京」の日本公開の報道に思う

日本で「南京、南京」という映画が公開されることが大きく報じられている。題名からわかるように南京大虐殺をテーマにした映画だ。しかし、1人の日本兵の心理描写に焦点をあてた点で、これまでの戦争映画とはひと味違うということで、中国国内での公開時、賛否両論あり、大きな話題を呼んだ。私も公開当時に見た。確かに、心理描写は興味深かった。しかし、見るに耐えがたいレイプシーンがあって、その心理描写の部分を台無しにしてしまっている。こんな映画に海外の映画関係者がどうして高い評価を与えてきたのかよく分からないが、私はこの映画を全くヒドイと思っている。

南京大虐殺を後世に伝えたい、戦争をもう一度考えるきっかけを与えたいという思いがあるのだろうとは思う。しかし、そのためにあそこまでの見るに耐えがたいレイプシーンが必要なのだろうか。いまだにこんな風にしか描けないのかと思うと悲しい。これが日本で公開されることをこんなに大きく報じるのは何なのだろうか。嫌悪感すら抱く。間違っても戦争理解だといって子供に見せる映画ではない。

 

20110823-1】「科学的発展観」と「科学的発展」

 胡錦濤が最近出版された「全国幹部培訓科学発展主題案例教材」に書いた「前書き」が掲載された。「科学的発展」について、胡錦濤が言及しているので、その内容を見てみた。

−「科学的発展を主題とすることは、経済社会の立派で速い発展の要求を実現し、時代の要求であり、小康社会を全面的に建設するという奮闘目標の実現と関係し、わが国の改革・開放と社会主義近代化建設の全局と関係する。現在の中国で、発展を堅持することが固い道理であるという本質的な要求は科学的発展を堅持することである。これが、わが国が現在、そして長期にわたり社会主義初級段階にあるという最大の実際に立ち、わが国が発展する中で突出した矛盾と問題を解決することに着眼し、各民族人民のさらに美しい生活、新しい期待を通じた科学的判断に順応することである。経済発展方式の転換を主要路線とすることが、科学的発展を推進する必須の道であり、わが国の国情と発展段階の新たな特性に符合している。経済発展方式の転換を速めることを経済社会発展のすべての過程と各領域で貫き、発展中で転換を促進し、転換の中で発展を図り、発展の全面性と協調性、持続可能性を高めなければならない」

−「ケ小平理論、"三個代表"重要思想、科学的発展観で、幹部を教育、武装することを堅持し、マルクス主義学習型政党の建設を速め、社会和諧の高素質の幹部グループを促進する」

 

全国の幹部が科学的発展を勉強するための教科書の「前書き」だ。この「前書き」が書かれたのは201167日だったが、出版に合わせて取り上げただけなので、2カ月以上経ってからの掲載には深い意味はない。

胡錦濤の代名詞である「科学的発展観」という言葉、そして、これに近い「科学的発展」という言葉。これらを『人民日報』は、今年3月の全人代以来、胡錦濤絡みでは取り上げていない。取り上げられたのが久しぶりのことで、しかも全国の幹部にこれから勉強させようというのだから、政治的なメッセージが含まれていることは間違いない。

 この「前書き」では「経済発展方式の転換」が強調されており、現在の経済状況を鑑み、中国の経済発展に経済発展方式の転換が必要だという認識を全国の幹部に徹底して教育しようというという狙いがあるのだろう。そこに「科学的発展」が経済発展と同意語のように取り上げられている点がミソだ。

最近、「科学的発展観」ではなく、「科学的発展」という言葉がよく見られる。「観」がつくと、イデオロギー的なものとの印象になって、人々に受け入れられにくいということかもしれない。そのため、経済発展という幹部にとって重要な課題と「科学的発展」という言葉を関連づけて、「科学的発展」という言葉も受け入れやすくしようとしているのだろうか。しかし、「科学的発展」という言葉は、「科学的発展観」と関連づけなくても、全国の幹部にとって目指すべき自明の理でもある。もしかしたら、「科学的発展」という言葉は、「科学的発展観」とは全く関係がないのかもしれない。しかし、今日の「前書き」は胡錦濤の言葉であり、「科学的発展観」の派生語とみるべきだろう。

胡錦濤自身はこの時期に再び「科学的発展(観)」というメッセージを強調し、来年の党大会に向けて全国の幹部にもう一度自らの存在を印象づけようとしたのかもしれない。しかし、従来の「科学的発展観」ではない「科学的発展」という言葉を発して、全国の幹部が胡錦濤をイメージするかどうかは微妙な気もする。必ずしも胡錦濤が思うようにはいかない。

 

20110823-2】地級市の撤廃

安徽省で、地級市の巣湖市が廃止され、管轄していた41区が周辺3市に吸収された。具体的な状況は以下のとおり。

居巣区蕪湖県と名称を変更し、合肥市が管轄

廬江県合肥市が管轄

無為県蕪湖市が管轄

和県沈巷鎮蕪湖市鳩江区が管轄

含山県、和県(沈巷鎮以外)馬鞍山市

 

中国の地方行政区画は「省()級市郷鎮」となっているが、県の管理権限をめぐって、中央は現在の「地級市が県を管理する」から、「省が県を管理する」に改革する政策を進めている。これは、地級市が県の財政権や人事権を握っていて、県の発展を阻害しているため、地級市を廃止し、いったん省が県を管理し、県にさまざまな権限を委譲するというものだ。しかし、地級市の抵抗にあって、廃止は進んでいない。そのため、地級市である巣湖市が廃止され、分割再編されたというのは、かなりすごいことだ。

記事は廃止、分割再編による経済的効果を強調している。しかし、肝心の問題については触れていない。それは、地級市の幹部や公務員がどうなるかという点だ。これまで地級市の廃止が進まなかったのは、地級市という格付けがなくなることで、その後幹部や公務員が、地級市待遇から県レベルの幹部や公務員に格下げになるのではないかという不安から、抵抗したためだ。地級市にも党委員会書記や市長、人民代表大会、政治協商会議など一通りの政治機能が完備されている。これらは廃止後、どうなるのか分からない。そこが知りたいのだが。ちなみに区や県の幹部や公務員は、格付けは変わらないので抵抗は小さいのだろう。

 

20110824-1】党中央政治局会議の開催は報道されなかったのか

 党中央政治局第31回集団学習が開かれ、中央政治局委員クラスが出席した。議題は土地管理制度問題についてで、劉守英(国務院発展研究中心農村経済研究部研究員)と林堅(北京市城市与環境学院副教授)が報告した。

 

集団学習の内容はさておき、注目したのは報道の仕方だ。通常、党中央政治局会議のあとに集団学習が開かれる。そして報道も、まず党中央政治局会議を伝え、その翌日に集団学習を伝えるのが通常だ。しかし、今回は党中央政治局会議の報道がない。おかしい。

去年2010年のこの時期、党中央政治局会議は開かれたが、集団学習は開かれていない。また一昨年2009年のこの時期には、党中央政治局会議も集団学習も開かれていない。

結局今年は、この集団学習だけ報道され、党中央政治局会議については926日に開かれたことが927日に報道されるまで、開催報道はなかった。このことは、集団学習が単独で開催された、またはその前に党中央政治局会議が開かれたのだが、報道されなかったことを意味しており、おそらく後者だろう。それではなぜ報道されなかったのか推測すると、議題が合意に至らなかったのだろう。926日の会議では、6中全会で採択される文化体制改革に関する決議案が議論されたので、メディア規制などをめぐって意見対立があったことが推測される。

 

20110824-2】民主を考える

張洋「民主は一種の誤りを正すメカニズムである」という文章が掲載された。

政府は公共事務を処理すると同時に、政府自身の利益を考慮するため、政府の満足と社会の満足には常に不一致が生じる。そのため「民主は『政府の満足』と『社会の満足』を秤にかける一種の重要なメカニズムである」という。

「民主が実際に役に立つところで実現されるだけで、社会の各方面の発展はできる限り誤った道を進むことを避けることができる」「民主メカニズムは一定の手続きを経て、すぐに誤りを正すことができ、集権の条件の下では、民主の欠乏によって、正確な政策決定も常に誤った結果を生み出す」「民主は社会の力量を政治生活に取り入れることであり、政治権力の社会に対する独占を打破し、政治権力の個人の私生活への不当な関与を防止し、政府の機能の不正常、規範からの逸脱をすぐに正す重要な工具である」として、政治権力の暴走をおさえるために、民主が重要だと説く。そして、民主の例として、村民自治を挙げる。

 

内容は妥当で、権力集中に対する民主のけん制作用を指摘しており、度共産党の一党支配体制の問題点を念頭に置いた主張であると思う。指摘はすばらしいが、民主をどう実現するかが重要で、それが難しい、というのはいつもと同じ読後の印象。

 

この時期恒例の下半期の経済工作に関する評論員文章の連載もスタート。1回目は「政策の方向を安定させ、コントロールの力度を理解しよう」というタイトル。

 

20110826】チベット自治区人事に注目

省レベルの党委員会書記の人事が3件発表された。

【チベット自治区】

 (新任)陳全国:195511月生。河北省長からの昇格。

 (前任)張慶黎は河北省党委書記に異動。

【雲南省】

 (新任)秦光栄:雲南省長からの昇格。後任は李紀恒雲南省党委副書記(19571月生)

 (前任)白恩培は引退。

【海南省】

 (新任)羅保銘:195210月生。海南省長から昇格。

 年齢時に上がりポスト。

(前任)衛留成は引退

 

注目はチベット自治区人事だ。陳全国は、河南省長、河北省長として、両省の経済発展に指導力を発揮したと高い評価がされている。李克強が河南省長、党委書記だった19982004年に河南省副省長、党委書記だったので、李克強との関係はいいはずだ。年齢的にもう1回昇格のチャンスがあるので、チベット自治区を安定させられるかどうか、手腕が問われる。

 

20110829】前チベット党委書記が河北省党委書記に

 党中央が河北省党委書記に張慶黎、河北省長に張慶偉が任命された。

 

この河北省人事はおもしろい。

張慶黎は、先日の人事異動でチベット自治区党委書記を解任されていたが、1998年以来の甘粛省、新疆ウイグル自治区、チベット自治区と続いた長年の辺境勤務に対するご褒美人事だ。胡錦濤が共青団中央第一書記時代の党中央工農青年部副部長だったため(19831月〜19863月)、私は張慶黎を胡錦濤派に含めているのだが、胡錦濤との関係もいいと思われる。

 張慶偉は飛行機、ロケットの専門家で、以前中央官庁だった国防科学技術工業委員会主任を経て、前職は中国商用飛行機有限責任公司董事長。実は張慶黎の前任の河北省党委書記である張雲川も国防科学技術工業委員会主任だった。河北省は軍系統の天下り先、出向先なのだろうか。

河北省は、党委書記と省長がともに交代し、しかも両者とも河北省に縁もゆかりもない人物だ。下からたたき上げの幹部が省長にもなれない、別の言い方をすれば出世するにはいろんな地方や部門を回って、経験を積まなければならないという出世パターンができつつあるといえる。他方、処遇しなければならない幹部が多くて、たたき上げを犠牲にしてでも、ポストを確保しなければならないという苦肉の策といえなくもない。

海南省党委書記を解任されたばかりの衛留成が全人代財経委員会副主任に、張雲川が環境資源保護委員会副主任に任命された。全人代の専門委員会が地方党委書記を解任された後の天下り先になっている。これも久しいことで、本当は歴史をさかのぼって検証し、その影響力などを研究する価値はある。

 

20110830】民主党新代表野田佳彦を評する

 「野田佳彦はどういう人か」と題する民主党新代表について駐日本記者による紹介記事が掲載されている。

 そのうち中国関連について、まず『文藝春秋』9月号に掲載された彼の文章「わが政権構想」のうち次の部分を紹介している(私はこれを読んでいないので、『人民日報』の記述からそのまま訳す)。

−「中国は世界経済の発動機であり、日本にとって最大の貿易パートナーでもあり、その巨大市場はアジア経済に対し、牽引作用となっている。もし中国の経済社会の発展が国 際社会と協調を実現すれば、日本にとって疑いもなく大きなチャンスである」

−「中国の軍事力の加速的な増強、活動範囲の拡大、戦略意図が不透明であることは、すでに日本とこの地域の最大の懸念となっている」。最近の南シナ海での「中国の軍事力を背景とする強圧的な対外姿勢」は地域の国際秩序を動揺させる可能性がある。

次に27日の共同記者会見での政見表明の外交部分では中国について語ることはなく、「アジア各国と『アジアの心』を共有する深い関係を構築しなければならない」とだけ言及した」

 

『人民日報』の野田新代表に対する最初の報道はこうした内容だ。ここで注目は、中国の軍事力を警戒する認識をそのまま伝えている点だ。中国自身がたとえ外国人の発言とはいえ、このようにはっきりと自らの軍事力に対する評価を伝えるのは珍しい。野田新代表に対するイメージを中国国内に植え付けるためだろうか。だとすれば、中国にとって野田新代表は「歓迎されざる人」ということになる。

他方、共同記者会見の部分からは、アジアの協調を目指す人と紹介している。これで、先述部分とのバランスをとったようにも見られる。

これらは野田新代表に対するイメージを紹介したものにすぎず、野田新政権をどう位置づけ、対日外交を展開していくかは、これからの中国の出方を見なければならない。

それにしても、「『アジアの心』の共有」などと発言するあたり、外交、とりわけアジア外交は野田首相にさっぱり期待できそうにない。日本の対アジア、対中外交は低迷を続けそうだ。

 

 廖言「マルクス主義学習観を堅持する 毛沢東『われわれの学習を改造する』を再読する」と題する文章が掲載されている。とりたてて読む価値はないが、タイトルに「マルクス主義」「毛沢東」を掲げるあたり、「左」の影響を思わせる。