第10回 祭りは終わった−第16回党大会閉幕(その1)(2002年11月26日)

 

 11月14日、第16回党大会(以下、16大)が閉幕した。私自身、開幕前に様々な予測をしてきたが、なかなか「的中」させることは難しい。それぐらい、江沢民報告、党規約改正では、重要な点で私の予想以上の展開があった。人事については、大体予想通りだったのではないかと思っている。以下、2回にわたり、16大の大まかな総括をしてみたい。

 

●江沢民報告のポイント

 第1は、全編にわたり、江沢民の13年間の功績が鏤められ、江沢民一色に彩られた。特に「三つの代表」思想が全体的に、かつ重点的に扱われ、江沢民の政治的影響力の大きさを窺わせる結果となった。

 ポイントの第2は、中国は総体的な「小康社会」段階にあり、今後全面的な「小康社会」に達成を目指すという現実的な経済発展の目標が提起されたことである(総体的な「小康社会」と全面的な「小康社会」の定義は、大会期間中の曾培炎国家発展計画委員会主任の記者会見が詳しい)。第15回党大会(以下、15大)では、経済発展の目標として「社会主義初級段階」が強調された。「小康社会」と「社会主義初級段階」に大きな違いはないと思うが、現在中国共産党が伝統的社会主義理論からの脱皮を図っていることから、「社会主義」の冠を付与した言葉の使用に抵抗があったのだろう。また「小康社会」の方が一般国民から見れば受け入れやすいと考えたのだろう。また、目標について、「小康」程度で、大風呂敷を掲げられないところに、経済格差などの深刻な問題を抱えている共産党の現状が反映されたものと見ることもできる。

 

●「三つの代表」思想の扱われ方

私がかねてより指摘してきた党大会の注目点の1つである「三つの代表」思想については、一節設けられ、しかも第2節という各論の先頭で取り上げられた。15大報告でトウ小平理論が強調されたことは江沢民の独自色に欠ける印象を与えたが、16大報告では「三つの代表」が一節を占め、また全編で「三つの代表」という言葉が散見されたことで、江沢民色が強調された印象を持った。

その内容については、「三つの代表」思想を一からわかりやすく説明してくれるかと期待したが、実際にはその言葉の意味することはやっぱりわからなかった。「三つの代表」思想が提唱された背景や、時代に沿ったものであることの説明ばかりで、肝心の「三つの代表」思想って一体何なのか、ということについては、わからずじまいだった。

 

●「新たな社会階層」の扱われ方

新たな社会階層に対しては「社会主義事業の建設者」に位置づける評価にとどまるだろうと私は予測した(『東亜』2002年10月号掲載の拙文)。しかし実際には、江沢民報告では入党条件を満たせば入党を認めることにまで明言した。これは2001年7月1日の江沢民演説(七一講話)とほぼ同じ内容であり、新たな社会階層を入党させるという方向性は党内でほぼコンセンサスが取れていることが明らかになった。だとすると、今年5月31日の江沢民演説(五三一講話)でも七一講話とほぼ同じ内容が語られていたに違いない。残念ながら今のところ五三一講話の全文は公表されていない。五三一講話に関する抜粋報道において新たな社会階層に関する言及が皆無だったのは、政治的に「敏感な問題」であるため、当局が混乱予防的にあえて削除したのだと思われる。どうやら入党反対派との論争が続いていたわけではなさそうだ。

 

●政治体制改革

政治体制改革に関する部分(第6節)の特徴は、15大報告と比較してみると、第1に、社会主義民主制度の1つとして、公民の政治参加拡大が挙げられた。基層民主の拡大として、村民自治と居民自治(社区建設)に言及された。そして、政策決定に民意を反映させるためのシステム作りが提起された。また権力機構に対するコントロールと監督のシステム作りが提起された。

第2に、市場経済化の深化とWTO加盟に対応して、立法工作の強化、立法の質の向上に言及し、2010年までに新たな法律体系をうち立てることが挙げられた。

第3に、党の改革が政治体制改革と位置づけられた。

第4に、政府の効率化、公正化が提起された。

第5に、司法体制改革や人事制度改革の推進が提起された。

特に、第1、第3は重要で、民意重視、党の改革への着手を表している。また第2、第4も重要で、政治体制改革が目指す方向性を明らかにした。すなわちWTO加盟への対応であり、政府の効率化である。

もちろん、「西側の政治制度モデルを絶対に参考しない」ことは、15大に引き続き言及されており、中国の政治体制改革は民主化を目指すものではないことには留意しておかなければならない。

 

●国有資産管理と私有財産保護

経済部分(第4節)の特徴は、第1に、新しい工業化の道として、情報化、ハイテクを重視した。

第2に、農村問題の解決や西部大開発の推進といった経済格差拡大に関する事柄を、企業改革よりも前に提起し、問題の深刻さとそれらに優先的に取り組む姿勢を示した。

第3に、15大報告では経済部分の先頭に置かれた企業の所有制改革や国有企業改革については、後ろに置かれた。これは、15大で所有制の多元化という方向性はすでに示されたためである。その中で、国有資産管理について中央と地方で分割管理するための制度作りを行うことと、私有財産保護制度の整備について言及された点は注目だろう。前者は国有企業改革を進める上で必要な措置であり、今後の中国政治の有力なアクターになるだろうと思われる企業を動かす主体が特定される点で注目である。これについては今後の私の研究テーマの一つである。私有財産保護も、今後の私営企業発展の新段階において、重要である。以上のような方針が示されたことは、経済的よりも政治的に重要である。

 第4に、最後の部分で再就職問題が取り上げられたことは、軽視しているからではない。登記失業率4%、これに下崗工人(レイオフ労働者)を含めると実質失業率はその倍の8%とも、また10%を超えるとも言われる深刻な状況であり、むしろ重要視しているため、再就職問題を最後に持ってきたのである。

 

●党建設

 第10節で取り上げられた党建設の特徴は、第1に、党内民主が掲げられた。党内民主というのは党員の意見を党運営に反映させることであり、代表大会制度や委員会制度の整備や、県・市代表大会の常任制の実験拡大が挙げられた。しかし「民主」という言葉が使われているからといって、政治的民主化を想像することは早計である。あくまでも「民主集中制」、すなわち個人は組織に従い、少数は多数に従い、下級組織は上級組織に従い、中央に従うという伝統的な共産党の原則を否定するものではない。

 第2に、党の活動範囲の拡大を図るため、基層組織建設に重点を置き、具体的に非公有制企業、社区、社会団体、仲介組織などが挙げられた。

第3に、党の社会的影響力、結集力を高めるために、新たな社会階層の党への吸収を掲げた。

第2、第3は、社会における党の影響力の低下に伴う対応策が提起されたものである。

 

●その他

第7節で「国防と軍隊建設」という軍についての一節が設けられたことは前回と異なる。軍の重要性の高まりを示しているとも言えるが、江沢民が中央軍事委員会主席に留任する上での軍へのリップサービスとも言えなくもない。

 

●終わりに

 15大報告との比較を中心に、16大報告の分析を行った。国有資産管理体制改革と私有財産保護制度整備が今後の課題として提起されたという点で注目すべきだが、その他の上で挙げた多くの事柄は、15大報告では触れられていなかったが、実際にはこの5年の間にすでに江沢民体制の下で進められていることばかりである。その点で新鮮味に欠けるという印象を持つことは否めない。しかし、党大会での報告は過去5年間の中央委員会の活動報告であることを鑑みれば、総括的な意味合いを持つことは当然であり、特に今大会のように新体制が発足する場合に期待されがちな新たな政策が提示されることはあり得ない。それは受け手の過大な期待であろう。しかし、こうした性格を持つとは言え、16大報告は、江沢民の政治的影響力がいかに大きいかを示すに十分なほど、江沢民カラーで彩られていたという印象を私は持ったのである。

 

(次号、人事、党規約改正について分析)