初夏のスペインピレネー

 

 

200467日〜713

石渡由美()

ピレネーのスペイン側とフランス側を訪れたが、長期滞在したスペイン側を紹介します。

ピレネー山脈の中でも、山脈のほぼ中央にある『アランの谷』に滞在した。今回の目的の一つである水仙の大群落を見るため、ハイキングシーズンとしては早い6月初旬に訪れることにした。スペイン王室も避暑に来るとの話も聞くが、夏の観光シーズンは7月からなので地元の人たちが利用するバール(Bar)以外は、レストラン、バール、ホテルまで休暇中のところが多い。それでも水仙の大群落は、ここをこの時期に訪れてよかったと感激させてくれるほどに素晴らしい。

水仙の大群落へはサラルドゥという標高1300mくらいの小さな村から車で15分ほど谷に入って行く。ハイキングの出発地点には温泉ホテル(3星)が一軒、それ以外はポツンポツンとかわいらしい小屋が見えるくらいで何もない。そして一面の水仙畑。私達が訪れたときは(6月10日)素晴らしいながらも花の時期が終わりかけているのが判った。もう少し遅ければあの大群落には会えなかったのです。その後23日に再び訪れたとき、水仙は姿を消し沢山の種類の花畑に変わっておりどんどんと入れ替わる花の種類の多さに驚かされた。

水仙の大群落を後にしてハイキング道を歩く。大きな川の流れを眺め、小さな水の流れとかわいらしい花々を足元に見ながら楽しい歩きが1時間、そして牛や馬が放牧されるなか更に上り続け1時間ほど行くとコルに突き上げコロメール小屋にたどり着く(2138m)。小屋の前には湖がありその湖面を渡って吹いてくる風が、涼しいというよりも寒い!7月なら楽しい湖めぐりのハイキングもあるが、この時期は雪が残っているのでスニーカーの私達は予定どうり小屋(営業は6月中旬以降)の前で休憩と記念撮影をし、体が冷え切らないうちに早速下山する。
下山後の村までの15分のドライブが素晴らしい。上ってくるときも素晴らしかったのだろうけど、曲がりくねった山道を運転するので精一杯で周りの景色を見る余裕など無かった。でも、この山道の両側も花だらけ、見下ろすかなたは美しい村と山々。

旅行中に2歳になった娘を連れているので無理のない行程のハイキングを幾つかしただけだったが、ハイキングコースは数え切れないほどある。静かな美しい村と山、美味しい食べ物。ハイキング、登山、観光(ロマネスクの教会群)と一箇所に滞在してゆっくり楽しめるところです。車で一時間ほど行くと、世界遺産に登録されたロマネスク教会群のあるボイの谷がある。素晴らしい眺めを楽しめるユースホステルや、キャンプ場もいくつもあり、キャンプ場のコテージ(キッチン、バス、トイレ付き)はかわいらしく快適だった。
難点は車がないと不便だろうということと、英語が通じにくいかもということくらいかな。

7月アランの谷を去る前に、レドン湖という山上湖までハイキングを楽しんだ。澄み切った湖水、青い空。本当に美しい風景を楽しむことができたので写真を紹介しておきます。

Hospitalからハイキングの途中

アグアモーチェ

アグアモーチェの谷の花

コロメール湖

レドン湖

水仙の大群落

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004.8.20〜9.14ヨセミテ・ハーフドーム

 

ヨセミテ・ビックウォール。クライミングをある程度やったことある人ならば誰でも知っている場所だろう。そこはまさにクライマーの聖域だ。

この計画が最初に出来たのは2003年の秋に雲表の栗原君と来年ヨセミテに行こうという話から盛り上がっていった。それまでクラックをやったことの無かった自分にしてみればそれはまさに新しい挑戦に相応しかった。実際本格的にクラックを登り始めたのは2004年をだいぶ過ぎた3月の城ケ崎だった。フェースのグレードを上げるのに夢中になってしまい。ちょっと遅いスタートだった。しかし、フェースをやっていたことはマイナスにはなっていなかった。足ジャムが下手な僕にスメアリングがフォローしてくれた。何とか6月くらいには10dあたりを登れるようになっていた。

しかし、トラブルは出発前に起こってしまう。パートナーの栗原君が仕事の都合がつかず、突然のキャンセル。振り出しに戻ってしまった…。周りで何人か行く人たちは把握していたがみんなパートナーと目標のルートも持っていてとても入れる隙間が無かった。

そんな時に近藤さんからの1本の電話が入った。仕事が何とか休めるようになったんだけど今から仲間に入れてもらえるかと。ふたたびモチベーションは上がってくる。その後、不動沢やミズガキでマルチを登りこみ、遂に出発の日を迎える。

ヨセミテ到着直後は時差ぼけや岩が日本の花崗岩よりも氷河に磨かれて滑るなどしてなかなか調子を上げられず苦労する。

やっと調子が上がって24日ハーフドームの取り付き目指し、車をカリービレッジの駐車場に置き、8:00頃出発する。取り付きまでのアプローチは2種類あり時間は掛かるがハイキングコースを辿る緩やかな道とミラーレイクという湖から直登して取り付きに上がるクライマーズトレイルの2つだ、今回僕らがクライマーズトレイルで行くことにした。道は確かに急だが60度くらいのスラブにしっかりしたフィックスがあり、快適に登ることが出来て約4時間くらいで取り付きにつく。上から声が聞こえる。1パーティー取り付いているみたいだ。持ってきたロープで2ピッチ分フィックスを張る、これで明日のスタートがだいぶ楽になる。16:00くらいには作業が終了してその後は他のルートを単独で登ろうとしていた外人と話をしたりして時間を過ごす。今回の装備はとにかくお互い軽量にしてフォローもなるべくユマーリングしないで登る計画。そのためシュラク&カバーは無し、着込んで寝るというシンプルなスタイルだった。しかしハーフドームは標高も高い分、夜は結構冷えていた。取り付きで転がって寝ていると近藤さんが焚き火を付けてくれとてもかい。

翌朝6時出発、近藤さんが先頭でユマーリングするが結構てこずっている。確かにバックロープの荷揚げ用直径7ミリのロープは結構登りづらい、おまけに体重を掛けるとかなり細くなりちぎれてしまうんじゃないかと恐ろしくひやひやさせられる。2ピッチフィックスを上がるとそこからはつるべであがる。しかしフォローはつらい。かなり軽くしてきたがそれでも重さ7キロくらいのザックを背負わなければならず、ジャミングした手が信用できず、結局カムにアブミを掛けてしまい人工で登る。体力も時間も消耗してしまう。陽が当たるのも午後2時からで陽が当たっていても風があると寒いぐらいだ。途中のテラスに水1ガロンを置いていくことにする。その後もペースは延びず結局予定していた16ピッチが終わったところにあるテラスに到達出来ずその1.5ピッチ下のチムニーの中で惨めなビバークをすることになる。フィックスして1ピッチ下りれば下にテラスはあったものの翌朝の登り返しを考え今いる場所で我慢することにした。

翌朝7時出発。しかし寒い、体は水を要求しているが寒くてとても飲む気になれない。近藤さんはダウンを着たままチムニーをずりずり上がり背中に穴が開いてしまったくらいだ。

核心は17〜19P目にあるジグザグクラックと言われる薄かぶりのフィンガークラックだ。余裕が無く人工で登るが途中エイリアンが外れて1フォールする。その後、有名なロビントラバースを通り残すところあと2ピッチ。時計を見ると18:00時を過ぎていた。その後のピッチは振り子トラバースを2回とA2のどちらも時間が掛かるピッチが残っている。振り子トラバースのピッチはボルトラダーがあるものかなり間隔が広くフリーで登らないと行けず苦労させられる。その後も下向きのシンクラックにエイリアンを決め慎重にアブミに体重を移すデリケートなピッチ、どんどん暗くなっていく空に焦せりを感じつつ慎重に行かなければない。集中力で何とかピークに抜けた時、無意識に言葉にならない雄叫びをあげてしまう。近藤さんが登ってきたのはそれから30分後の19:30。何とかその日に抜けることが出来た。

パーティーによっては頂上でビバークしてから戻る場合もあるが僕らはキャンプ地に残したラーメンが頭から離れず、疲れた足を引きずり途中道に迷ったり熊の恐怖に怯えながら3:00、テントに戻る。2人でラーメンを3袋分作るが内臓が疲れすぎていて半分も食べられず眠りに堕ちてしまう。

 

その後、近藤さんは仕事のため8月で日本に帰ってしまう。一人になってから少しテントに引きこもり状態の生活が続く。疲れもまだ取れず、知り合った日本人パーティーとショートのエリアにいっても1本か2本しか登れない。ようやく調子が戻った頃、1人で来ていた日本人と会う。見れば城ケ崎とかで顔は見たことある人だった。すぐに意気投合しボルダリングから一緒に登り最後はエルキャピタンの1DAYルートのイーストバットレスまで一緒に登ることが出来た。さらに大岩あきこさんたちと一緒に来ていた若月和美さんとも会い、たまたまパートナーが捻挫していたので一緒にナットクラッカーを登ったり、1人になってからも素晴らしい人達と知り会えることになり、これからの自分のクライミングにとても良い影響をあたえさせてくれた。海外でのクライミングは日本では味わえないようなことがいろいろ体験できる。それは時にはつらく厳しいが。最後にはまた行きたいという気持ちが勝ってしまうのだから僕は当分この生活はやめられないだろう。

 

小川弘資

夕陽を浴びるハーフドーム

 

ギアをチョイス

取り付きから見た壁、デケー。

取り付きでトポを確認

ほっと一息

ビバーク

核心、ジグザグクラクック

頂上に着いたのは夜8時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

みずがき 十一面観音 ベルジュエール


2004年9月18日(土) 天気 くもりのち雨
メンバー: 小川弘資、塚内尚子(文)

60mシングルロープ。カムは大中小あわせて2セットぐらい。
全9ピッチ。朝8時30分、登攀開始、午後2時15分、登攀終了。(計5時間45分)
頂上より1ピッチ(20mぐらい)懸垂下降ののち、歩いて降りる。

アプローチはみずがきの植樹祭の駐車場から、植林の間のハイキング・トレイルを歩く。そのまま登ってもいいし、沢にでて沢沿いに行くこともできる。

1P:フェース、11b、30m/小川 
壁の正面(モアイフェース)より右、立ち木のそばのカンテ状のところから取り付く。もともとはA1ルートだったが、この夏リングボルトが撤去され、フリーのルートのみとなったらしい。出だしはカムを2、3個使い、10mぐらい上の小さなテラスに出る。そこからボルトがはじまる。左にはハーケンの連打が残っている。三角形のルーフの下にはいらず、ふちをかすめて細かいフェースを登る。フリーでイレブン後半の実力がないと、初見でとりついても、抜けられないかもしれない。ボルトは遠いし、カムをいれるところはないし、核心部ではA0したくてもつかむものが何もない。私はセカンドで登ったが、体重を抜いて、ロープでひっぱりあげてもらった。
2P:スラブ 35m/塚内
出だしが悪い。ビレーアンカーの2mぐらい上にピカピカのボルトが打たれたが、ここはシュリンゲを相当長くしないとロープドラッグするので、あまり意味がない。そこからの逆相の左トラバースは下から上にささっているハーケン(フォールすると抜けそう)が3つ並んでいる。ここは全部プロテクションを取る。角からコーナー(凹角)を直上する。以前あったリングボルトが「くき」だけ残して、撤去されていて、ハーケンがやや遠く、なかなか先へ進む勇気がでなかった。ランナウトする細かいスラブをフリクションで抜けると木にロープをまわしたアンカーにでるが、ここでピッチを切らず、つきあたりの壁まであと15mぐらい進む。上部にカム(キャメロット1番かそれ以下)が使えそうな小さなフレークが1、2箇所ある。
3P:コーナーのスラブ 30m/小川
木をよじ登って越えて、コーナー沿いに右上してから直上する。プロテクションは木などでところどころとり、上の方はコーナーの浅いクラックにカム(キャメロットの2番ぐらい)がかろうじてはまる。最後にルートが2つに分かれ、ボルトが右上しているが、右は春一番ルートのボルトと思われる。こちらを通って、最後に左トラバースしてもアンカーに到達する。
4P:ハンドクラック 5.9、15m/塚内
ハンドもフットもジャムがばしっと決まるきれいなクラック。上部でだんだんせばまりフィンガーサイズとなる。上のふちをマントルであがると、1,2m奥の大きな岩にロープがまわしてあり、アンカーがつくってある。今回、奮闘の末、レッドポイントできた。真正面に5ピッチ目の「大フレーク」5.10aが見える。セカンドが登ってきたら、更に奥に2mぐらい移動してビレーする。ここまで約3時間かかった。
5P:クラック(フレーク)5.10a, 20m/小川(写真1)
ここから先はわたしにとって未知の世界。
数年前来た時は見ただけであきらめたフレークをいよいよ触ることができるのでどきどきした。
とりつきはビレーヤーより低い位置になるので、リードする人はあまり下の方でプロテクションをとらない方がいい。ワイドからだんだん広くなる。しばらくはあちこちにしっかりしたフットホールドがある。中ほどで、フレークの厚みの部分に水平に走っている細いクラックがあり、エイリアンの黄色や赤がしっかり決まる。そこから上はどんどん開いてきて、キャメロットの3.5や4番の出番となる。普通の人は2本必要だと思う。4.5か5番があるともっといいが、ここだけのために5番を持って行くのはつらいかもしれない。最後の3mはレイバック姿勢になるので、カムをとらずに(セットできない)一気に上のふちまで。上りきって3mぐらい水平移動したところでピッチを切る。本当は奥のチムニーの下まで10mぐらいトラバースすると、次のピッチにすぐはいれるが、セカンドが岩からはがれた時にひどく振られることになるので、実力のそろったペア以外はやめたほうがいいと思う。フレークはかすかにかぶっていて、レイバックはパワーとバランスが要求される。私はセカンドだったので、カムをはずしては、はめて、A0で登ったが、レイバックにはいるところで最後のカムをはずしたら進退きわまった。しばらくもがいてから、やっとのことでレイバック姿勢にはいり、上まで抜けた。
6P:チムニー 5.8 30m/小川
パートナーはこれを「やさしいチムニーだ」と言ったが、チムニー恐怖症の私はリードを免除してもらった。垂直な2枚の壁にはさまれたチムニーで、でだしはまあまあ登りやすいが、だんだん狭くなる。奥のほうにカムがきまりそうな部分もあるが、がさがさして、土もついており、あまりきれいではない。しばらくあがると錆びたリングボルトがひとつ。ひざと足の裏でずりずり登る。ニーパッドがあると登り易いと思うが、ここだけのために、荷物をふやすのはどうだろうか。セカンドは水と雨具、あまったギアなどのはいった小さなザックを背負ったが、チムニーではザックをハーネスから足の間に吊るしたので、重くて余計に登りにくい。やっとチョックストーンに手が届く。両手とも、がばホールドにかかるので、ぐいっとからだをひきあげた。少し奥にビレー点があった。さらにそこから少し奥へ歩いたテラスが次のピッチのはじまりとなる。
7P:フィンガークラック 5.10a、40m/小川(写真2)
最初の15mぐらいは「おまけ」のようなピッチで、パートナーは2ピッチ分を1回で登った。トポによっては、1ピッチと表示してある。屈曲しているのでところどころ、シュリンゲを伸ばす必要がある。「おまけ」といっても、チムニーのような壁の間をフリクションで登ると、向って右の壁にボルトがある。そこからあまり特徴のないスラブをコーナー沿いに登るとアンカーがあり、傾斜が強くなる。ここがフィンガークラックのはじまり。6mぐらい直上すると、左上するやや広めのフィンガークラックにつきあたる。このクラックはくの字をしており、クラックは上向きではなく、下向きに開いており、しかも「くの字」の曲がり角までは傾斜が強く、フットホールドもなく、とてもむずかしい。技術的には小川山のカサブランカよりむずかしいと思う。
8P:つなぎのピッチ 20m/塚内
これは1ピッチに数えるのかどうかわからないが…。最後のクラックのとりつき地点までごろんと大きい岩を越えて、砂でざらざらした地面を歩き、木のはえたテラスにたどり着く。2箇所でカムをとったら、もうロープが流れなくなった。しかし、何もとらないで行くには妙に危険だ。
9P:フィンガー〜シンハンド・クラック 5.9、10m/小川(写真3)
数メートル右にも別のクラック(もう少しやさしそう)があり、これが本当にベルジュエールの最後のピッチなのかわからない。でだしがうすかぶりで、5.9にしては悪い。リードはあっさりと登ったが、セカンドの私はまよわずカムをつかむ。

頂上にでてめでたく終了。急いで下降の準備にかかる。下降点のアンカーまではここからトラバースして、すこし降りる。パートナーが先へ行く。もうロープをはずして、背負っていた私は足がすくんだ。背の低い私は足の届かないところに「ぽん」と降りなくではならないが、めざす着地点は狭くて、しかも水平ではない。ロープをパートナーに投げて、慎重に降りる。壁からすこしはなれたところに下降点があった。20mぐらい懸垂して、壁を背に左側にまいて降りる。そこからは壁からつかず離れずのところを歩く。テープも参考に。よりすぎると中間で壁の上にでて行き詰まるだろう。2、3箇所フィックスをたどり(ひとつは切れていたので私はロープをだして懸垂した)、岩場のとりつきにたどりついた。ロープが2本あれば同ルート下降という手もあるそうだ。

<感想>

イレブンのフリーの実力と、10台前半のクラックを初見で登る技術と、アルパイン的な悪場をなにげなくこなす経験に、ルートファインディングの能力も必要だ。わたしたちは登り終えて、下降中に雨に降られたが、スピードも重要だと思う。私はクラックをもっと登りこむようにとパートナーに指摘された。難しいピッチも多量のギアやお助け棒をもちこめばなんとか自力で抜けられるかもしれないが、重い分、登りにくいし、遅くなるだろう。実力のあるパートナーに恵まれて、今年のハイライトとも言うべき思い出の1本となった。

 

ミズガキ山の全貌

写真1:大フレーク(5P目)

 

 

 

写真2:フィンガー(7P目)

写真3:フィンガー(9P目)