始まりはこんなふう



聖地はこんなにも美しいのに。
朝はあんなにも晴れやかなのに。
なぜそれを見ようとしないのだ?

クラヴィスはどうしていつもああいう態度を取る?
最初にあれに言ったあの言葉。
私が悪かったと思い、謝罪をしようとしても受け付けぬ。
声をかけてもろくに返事もせぬ。
暗い執務室で水晶球ばかりのぞきこんで!!

話しかけても話しかけても、逃げるように去ってしまうクラヴィス。
私は……そなたの後姿を見たいわけではないのに…。


* * * * *

ジュリアスが年長の守護聖の会話を小耳にはさんだ。
「ずっと気持ちが通じなかった彼女ととうとう夜明けのコーヒーを……なかなかいいもんだ、あれは」
「ええーーっ!? いつの間にそんな人ができてたんですかっ!?」

夜明けのコーヒー。
不思議な言葉。

ジュリアスは一生懸命考えた。一人で考えた。
「どういうことか?」とその守護聖に尋ねるのはいけないことのような気がしたのだ。
夜明けはわかる。
コーヒーも知っている。飲んだことはないけれど。
一人で考えていても全体像ははっきりしない。だが肝心なのは気持ちが通じなかった人物と一緒に夜明けのコーヒーをするとなかなかいい状態になるらしいという点である。
これまでクラヴィスにはいろいろな形でアプローチしてみたが、どれも拒絶された。

駄目でもともとではないか。これを試してみよう!

だが問題点がひとつ。コーヒーは子どもであるジュリアスやクラヴィスには供されない。
ジュリアスは考えた。またまた一人で考えた。一生懸命に考えた。

簡単ではないか。子どもである我々にふさわしい飲み物で代用すればよいのだ!
コーヒーよりは効果が薄れるかもしれないのだが…やらぬよりはよいだろう。

自分の考えに嬉しくなって、ジュリアスはひとり執務室でにこにこ。
善は急げ。さっそく隣の執務室へ向かい、クラヴィスに声をかけた。

「クラヴィス、私とともに夜明けのミルクを飲まぬか?」
「………夜明けの…ミルク…?」
力強くうなずくジュリアス。
「それ…どういうことなの?」
クラヴィスに尋ねられて、はたと困った。どういう手順で夜明けのミルクをともにするのか、全然知らない。
「う…。とにかくっ! 私の館へきてともに休んで、夜明け前にともにミルクを飲むのだっ!!」
「そんなことして、何になるの?」
核心を突いた質問に、またジュリアスは詰まった。
それをすれば仲良くなれる…らしいのだ。
だが「そなたと仲良くなりたいから」とは口が裂けても言えない意地っ張りがジュリアスである。
「理由など何でもよかろう!? 良いことだからしようと言っている!」
そう、たぶん。良いことに違いない。
二人が仲良くなれれば、きっともっと聖地は美しいところになる…。
祈るような気持ちでクラヴィスを見る。そのジュリアスへのクラヴィスの答えは。

「ごめん、ぼく…ミルクはきらいなんだ…」
拒絶の言葉。
夜明けのミルクをともにする前の段階で挫折した失意のジュリアス、その失意を押し隠して
「なぜそなたはいつもそうなのだ! もうよいッ!!」
闇の執務室を後にした。
これをもって二人の間の溝は決定的なものとなったのだった。