Jubilation -祝祭-



さあてっと。今日はパーティだわ。
初めて伺うお宅だから、ちゃんと行けるかどうか心配だなあ……。
そうだ、今日はこのカーナビ使ってみようかな。そうしよっと。
初めて使うから、ちょっとどきどき。


モニターにマップ表示。
文字列が流れ出す。

「目的地周辺を確認中」
「目的地を○○に設定」

「これでオッケーね。あとはカーナビが教えてくれる通りに走ればいいだけだから、楽勝だわ!」にっこり。
「ところでこれ、どうやったら音声が出るのかしら?」
「約900m先を右へ。」←ジュリアス様声変換でお願いね
「きゃ! 何だか偉そう。勝手にしゃべり出すのね、カーナビって。……はいはい900m先、ね。」
「そなた!」←ジュリアス様声
びくん。
キキキキキキキキキーーーーーーッ!!!←びっくりして急ブレーキ
「………乱暴な運転だな。気をつけるように。…それから返事は一回でよいのだぞ。はいはいと二度も言う必要はない。」
「きゃあああああっっっっ!!! このカーナビ、こっちの言うことにいちいち返事するの?」
「無礼な。躾がなっておらぬ。人には礼をもって接するべきであろう。」←今のアンタは人じゃないってば
なあにコレ? いちいち運転に文句つけられたら、危なっかしくって仕方ないじゃないのよぉ。

で、アンジェリーク・リモージュ(大学生・19歳)は道端に停車した。新システム搭載カーナビゲーションシステム『ガーディアンズ』のマニュアルを見るためだ。
「えーと……………………なるほど。音声は9種類、好きなのを選べばいいのね。…あ、急がなきゃ遅れちゃう!」
車を急発進させる。
「そなた! 乱暴な運転はするなと申したであろう!」
「またこの声。タカビーなんだからっ! 別の声にしよっと。」
「待て! 私は『光』だぞ。その私を」
ぴっ。
「…私は…ガーディアン『闇』だ…。私と共にあれば大いなる闇の安らぎがお前を包むだろう。あいにくとどこやらの高圧的な者とは違って…直情径行型ではないので、急ぎの場合には……不向きであろうがな…フッ…。」
使えないや、これも。
ぴっ。
「やあ、俺はガーディアン『風』だ。どちらへ進むかは風まかせさ、ははっ。でも、何があろうと目的地へは案内するよ。俺を信じてほしいな。」
ちょっと冒険かなって感じ…これも急いでる時には使えないわね(ため息)。
ぴっ。
「ガーディアン『水』です。私にお任せくだされば、水が高き所より低きへと流れるように自然な誘導で目的地までお連れいたしましょう。」
「優しそうでいい感じ。これで行ってみよっと。」

しばらく平和に運転。
「次の交差点を左折していただければ…あーーーーーっ。」
「え、交差点…? 今直進しちゃったトコ?」
「……そうなのです。あそこを左折していただきたかったのですが…。」
あんたって…感じはいいけど、ちょっとトロいんじゃない…?
ぴっ。
「俺はガーディアン『炎』だ。今日も燃えてる俺を選んでくれて嬉しいぜ、お嬢ちゃん。」
「まだあんたを選ぶって決めたわけじゃないんだけどな…。」
「そんなつれないことを言わないでくれ。俺に任せておけば絶対安心、安全確実、お嬢ちゃんは何があっても俺が守ってみせる! …なんてな。」
「カーナビなんだから、ちゃんと誘導してくれればそれでいいんだけど…。」
「任せておけ。お嬢ちゃんの輝く瞳を曇らせるような真似は決してしない。」
悪いけど、なんだか軽薄な気がするなあ。
ぴっ。
「ぼく、ガーディアン『緑』。まだ新米なんだけど、君のためにいっしょうけんめいやるからね。」
「まだ新米って、これ新開発のシステムだからどれも一緒じゃないのぉ? 変なの。」
ぴっ。
「よお、『鋼』だ。オレはこんな仕事、ちっともしたくなかったんだ。それなのに奴ら、勝手にこんな場所に閉じ込めやがって! ……あ、わりーな。おめーのせいじゃねーんだからよ、お呼びがかかったからには、やるだけのことはやってやらあ。だけどそれだけだぜ。」
ちょっとコワイ…。
ぴっ。
「ハーイ、私だよ☆ …誰、なんて失礼なこと言いっこなし。ガーディアン『夢』に決まってるでしょ。私を呼んでくれるなんて、うれしーことしてくれるじゃないの。」
さっきの炎ってのよりもっとケーハクそう…。
ぴっ。
「あのー、私は割と古株の方なんですけどー、皆には慎重過ぎるとか言われるんです。でもですね、間違った道をお教えするよりはいいと思うんですよー。だから時々調べるのに手間取ったりしますけど、よろしくお付き合いくださいねー。」
さっきから新米だの古株だのって。あんたたち、新製品なんだから、条件は一緒なの!
うーーーーん。どれもこれも、ピリッとしないわねえ。
ぴっ。
「そなたたちがつまらぬことばかり言うから、この者が我らをないがしろにするのだ。」
「…最初に干されたのは…お前ではなかったか、『光』よ? …くっくっく…」
「何を言う。そなたこそ、挨拶のみで切り替えられたではないか!」
「ちょっと二人とも、いいかげんにしてよ。あんたたち仮にも筆頭カーナビなんでしょ。この事態を収拾するのはあんたたちの手腕にかかってるんだからね。」
「そうですねー、『夢』の言う通りですよ。なんとかこの方を目的地へ誘導してさし上げるのがですねえ、我々の務めだったはずです。それなのにここで言い争ってちゃいけませんねー。」
「おっさんよぉ、そんなこというけどコイツ(=アンジェリーク)、オレたちの言うことなんか聞きたくねーってツラしてるぜ。」
「ぼく、いっしょうけんめいやるって申し出たのに…(涙声)。」
「泣くなよ『緑』、そんなだとますます頼りにならないって思われちゃうぞ。」
「そうだ。お嬢ちゃんに頼られてこそ、一人前の立派なカーナビってもんだ。」
「あの、すみません皆さん。私たちばかりで話をしていては、この方は行き先がわからずお困りになると思うのですが…。」
「そうであった。我らに課せられた重大な使命を忘れてはなるまい。
…すまなかったな。」←なんと、タカビーな『光』がアンジェリークに向かって謝っているらしい

カーナビが勝手にしゃべるのに驚いて、また道端に停車してマニュアルを一心に読んでいたアンジェリーク、ぽんと両手を打ち鳴らした。
「そっか。今のは『オールスターキャスト』だったのね。それでみんなでがやがやしてたのか。…………………………これって、本当に使えないシステム…。」
「む? 『使えない』? 我らのことか? 何と無礼な。こちらが下手に出て謝っているというのに。よいか、よく聞け!」
「…『光』よ…そのように叱りつけるだけが人を導く術ではない…。」
「う……。」
「あ、またけんか始めちゃった。…うっとうしいからボリュームしぼっとこ。あああ、早く行かなきゃ、本当に遅れちゃうっ!!」
急発進!
「そなた、乱暴な運転は控えよ。」←こりない筆頭カーナビその1
「お前は…私の忠告など全く聞いてはおらぬようだな…。」←こりない筆頭カーナビその2
ボリューム下げられてるから、ほとんど聞こえないっていうのに。

こんな調子でアンジェリークと新システム搭載カーナビゲーションシステム『ガーディアンズ』の珍道中は続き、それでもなんとか目的地にたどり着くことができた。

「やったー! 初仕事が成功してぼく、うれしいな。」
「けっ、くだらねえ。」
「またそんなこと言って。『鋼』も喜べよ。」
「いやー良かったですねぇ。一時はどうなることかと思いましたが。」
「そうそう、私たちが力を合わせてこのコを目的地に送り届けることができたんだから、喜ばなきゃ。」
「お嬢ちゃんの満開の笑顔を見ることができて本望だぜ。」
「本当に…。あなたの笑顔が私を優しさで満たして行くようです。」
「…フッ…これにて…音声による案内を終わ」
「待て、『闇』。最後の締めはやはり私にさせてもらおう。」←仕切りたがるヒト
「そなたには苦労をかけたな。目的地周辺に到着だ。これにて音声による案内を終わる。」
機械に「ご苦労」みたいに言われたってちっとも嬉しくないもん…。あー疲れた。もう二度と使わないわ!
…って途中では思ったけど、けっこう楽しかったかも。
今度は急ぎじゃない時に使ってみよっと。
なんとかパーティにも間に合ったし。


アンジェリーク・リモージュの訪問先は、素敵な庭園のあるお館。
顔が隠れちゃうほどの大きな花束を抱えて、さあ竣工1周年記念パーティへ。
とっておきの笑顔でご挨拶。

「おめでとうございます、マダム!」