アロン



6. パーティ!

11月11日は言わずと知れたクラヴィスの誕生日だ。その当日である土の曜日の午後、闇の館はいつにない華やぎに包まれていた。
思春期に入った頃から、誕生祝のパーティを開きましょうと言われても、大げさな祝いの席などを設けられるのは面倒だと断るようになって、以来10年以上もそんな話が出ることはなかった。だが今年はアロンが仲間のところへ戻れるようにと祝賀会を催すことにしたのである。クラヴィスが「誕生日に祝賀会を催す」と宣言したことで、闇の館は軽いパニックに陥った。しかし最初のパニックの波が過ぎ去ってみれば、ひたすらに静かな暮らしの中での一大イベントだということで館中が盛り上がり、皆張り切って準備にとりかかったものである。しかし自ら言い出した祝賀会当日の朝、館の主の顔色はいまいちよろしくない。ま、顔色がよろしくないのは別にいつもと変わらないと言えばその通りではあるのだが。

なに、皆に集まってもらって、プレゼントを受け取ってその時に軽く儀礼的な抱擁やキスを交わして、ケーキのろうそくを吹き消して、全員で歓談しつつ食事など共にして、私に友人がたくさんあって十分に幸せだということをアロンの仲間に見せて納得してもらうだけの話だ。大したことではない。
……はあああああ。

大したことではない、と念じてみても、これから自分がやらなければならない難行苦行を思うとため息も出ようというものだ。慣れないことなどするものではない、と今更ながら少々後悔している。だがアロンのことを考えれば、多少の無理をしてでも森に帰してやらなくてはならない。
妖精族であるアロンは根が脳天気な性質のようで、今はクラヴィスと遊ぶことに夢中になっている。けれどもいずれは仲間を求めるだろう。人間の間で暮らすのは、妖精族にとって楽しいものとは思えない。アロンが来てくれて何かと心和む毎日だが、永遠にこうしているわけにはいかない。やはり何とか仲間のもとに戻れるように、できるだけの手助けはしてやらねばな、と一応は決心している。
今日一日をやり過ごせば何とかなるはずと自らを鼓舞し、決死の覚悟で誕生パーティに臨むクラヴィスなのである。

主の沈んだ気分やらため息やらをよそに、館の庭は盛大に飾りつけられていた。きらきらしたモール、万国旗や、色とりどりのバルーン、そしてあふれるほどの花、花、花。これは「なるべく華やかに、子どもが喜ぶような派手なセッティングで」というクラヴィスの言葉によるものだ。クラヴィス様はご自分のことよりも年少の守護聖様方へのご配慮でこのパーティを開かれることにしたのだろうかなどと憶測しながら、いつになく華やいだ様子で最後の仕上げとばかりに侍女たちがかけ回り、闇の館では準備に余念がない。実のところ派手な飾りは様子を見に来るであろう妖精族対策なのだが、そんなことは他の者たちが知る由もなかった。落ち着いた内装の館の中にぴかぴかきらきらした飾りは笑えるほどに似合わなかったので、ガーデンパーティとなった次第だ。
アロンは興奮して飛び跳ねてはあっちこっちを見て回っていた。妖精族はきれいなものが大好きなので、見るからに華やかに飾りつけられた庭がとても気に入ったらしい。
「すごイね、すごイね、くらヴぃす!! 人間は誕生日ってこンなふうにすルの?」
「子どもは、な。私はもう長いことしていなかった。」
子どもであった頃もここまで派手なことはしなかったように思うがな、と心の中でひとりごちたのは誰も知らない。
「ソうなんだー。へえー、すごイやー。ごチそうもたくさんあるね。アロンも食べてイい?」
「お前は花の蜜しか食べないのではなかったか」
だからマルセルに毎日花を分けてもらっているのである。まさかクラヴィスの秘密の友人の食事になっているとは夢にも思わないマルセル、「クラヴィス様がこんなにお花がお好きだなんて、ぼくぜんぜん知りませんでした!」と喜んで届けてくれるので、少しばかり心が痛む。美しい花は確かにクラヴィスの目も楽しませてくれるが、真の用途を知ったらマルセルは悲しむかもしれない。
「人間がツくったお菓子のかけラもらったりすることもあルよ!」
なんと、そのために森からはるばる遠征してくることもあるというのだ。
「そうか。ならば食べたいものを食べるがいい。今日やってくるお前の仲間たちにも分けてやってくれ。」
アロンは少し表情をくもらせた。
「…だいジョぶかなあ。じゅりアすがちゃんとくらヴぃすのとモだちだって、みんなわかってクれるかなあ。」
「任せておけ。お前が仲間たちのところへ帰れるよう、協力しよう。だから安心しているがよい。」
「ねぇくらヴぃす、ひとつ教えてほシいんだけど。…誕生日って、なニ?」
「生まれた日のことだが…お前には誕生日はないのか」
「…生まレた日…? 知らなイよ、そんなの」
アロンたちは、誕生日という概念はどうやら持ち合わせていないらしい。

午後一時、招待者たちが次々とパーティ会場であるところの館の庭に姿を現して、お子様の誕生パーティかと見まごうばかりのものすごい飾り付けに目をむいている。しかし招待客をさらに驚かせたのは闇の守護聖の振る舞いであった。彼は微笑を浮かべて、やってきた者たちと抱擁やキスを交わし、っていうか、驚いて固まっている同僚を勝手に抱きしめ、「来てくれてありがとう、今日は楽しんでくれ」などと愛想よく言うのである。無表情がトレードマークの闇の守護聖が、晴れやかに、にこやかに。

これが? あの闇の守護聖……?
何かにとりつかれたんじゃないの?

的に、こぞって目を白黒させている。最後に現れた光の守護聖も抱擁とキスの洗礼を受けて、すっかり固まってしまった。ご多分に漏れず、この男は頭がおかしくなったのではなかろうかとの疑念が脳裏をかすめたのである。
「……そなた、どこか具合でも悪いのか?」
抱擁を受けながらやや心配そうに耳元に囁かれたのに対して、クラヴィスも囁き返した。
「アロンの仲間が来ている。お前と私が仲の良い友人だと思わせるために協力してほしい。」
ようやくこの茶番劇の理由がわかり、クラヴィスがおかしくなったわけではないことも理解して、どうすればよいかと目で問い返すと「宴の後もお前は残ってくれ」と言われて、うなずいた。

華やかに飾り立てられた立食パーティ会場にはどどーーんと大きなバースデーケーキ。ろうそく25本は多すぎるからか、やや大きめのろうそく2本と、小ぶりなろうそく5本とが立てられている。お約束通りに火の灯されたろうそくを吹き消して、ぱちぱちぱち〜っと拍手が鳴り響く中、にこやかにプレゼントの包みを開く闇の守護聖である。
ゼフェルは「チョーゼツにあわねー……」とつぶやき、「悪夢でも見てるみたいだぜ」と赤い髪の男はいささか青ざめた面持ち。ランディ、マルセルあたりは、主催が誰であれ名目が何であれ楽しいパーティならどんと来いとばかりにはしゃいでおり、ルヴァ、リュミエールはごく普通に祝いの言葉を述べてこの二人はクラヴィスに負けず劣らずにこやかだ。
オリヴィエは時おり何か気になる様子であちこちに視線をめぐらせているが、この人も楽しいことなら大歓迎なタイプなので、とりあえずは場の雰囲気を面白がっている模様。ジュリアスは、館の主と同じくこんなパーティ会場には似合わぬ雰囲気満点で、それでもいつもの威厳をたたえて静かにそこにいる。アロンのためと聞いて協力する気持ちにはなったものの、いかにも派手なパーティの席はどうにも場違いに感じて、本人としても居心地はよろしくない。そしてこちらもまた少々居心地悪そうにしているオスカーとぼそぼそと話したりはしてみたものの、手持ち無沙汰というか何というか、どうにも身の置き所がない感じである。

さて、これはクラヴィスの生誕を祝うパーティであるからして、招待客たちは当然ながらプレゼントを携えてきていた。守護聖たちが知恵を絞ったプレゼントが脇のテーブルに山と積まれている。もらったプレゼントはその場で開けて喜んで見せるのが定番の手順と言えば手順なので、クラヴィスもそれに倣った。あれこれの包みを開いては「これはまさしく私の欲しかったものだ!」などと嬉しそうに言って贈り主を抱擁して感謝の言葉を述べる、ということを繰り返す。何だか呆然とその様子を眺めていて、ようやく客たちがその異様なクラヴィスに慣れていちいちざわめかなくなったのはその儀式も終わりに近づく頃だった。その直後にマジシャンやパントマイムの芸人などが登場するにいたって、守護聖たちの間にどよめきが走った。
聖地でこんなバースデーパーティなんて、前代未聞じゃないだろうか。それも、闇の守護聖の館でなんて。


7. デモンストレーション

守護聖たちが驚いたり気味悪がったり呆れたりし、最終的には大いに楽しんだクラヴィスのバースデーパーティは、日が暮れる頃つつがなくお開きとなった。
「最初は何事かと思いましたが、とても楽しい時間でしたよ、クラヴィス様。お招きいただき、ありがとうございました」
と丁寧な礼をしてオスカーが辞去したことでも、パーティが成功裏に終わったことはうかがい知れる。
「だから私が申し上げましたでしょう。せっかくのクラヴィス様からのお招き、無下にお断りなどするものではありませんと」
水の守護聖が勝ち誇ったようにオスカーに声をかけ、「何も俺は来ないなんて言ってないぞ」とにらまれたが、そんなのどこ吹く風とさわやかに笑ってリュミエールも闇の館を辞した。
「あのさ、クラヴィス…」
最後になって周囲に人がいなくなるのを見計らって声をかけてきたのはオリヴィエだった。
「あんた、館で何か動物飼ってる?」
ぎく。
「…何の話だ?」
「なーんかさー、ちっさい生き物がいるっぽいんだよね。」
これだから勘の良い奴は厄介なのだ…。まさかとは思うが、アロンや仲間たちを見たのだろうか、この男は?
「館の庭には幾種類か小動物がいるようだが、特に飼っているというわけではない。」
「うーん……リスとか、そんなんじゃないカンジだったんだけど。私、動体視力にはケッコー自信あるんだよね。でも、その私でもハッキリとは見えなかったんだ。あんたも知らないんだ?」
「何のことやらわからぬな」
「まいっか。とにかくパーティは楽しかったし、ね。来年もやんの?」
クラヴィスは苦笑した。これはアロンのためのパーティであり、アロンさえ無事に帰せばこんなことをする必要はなくなる。
「来年のことまで考えておらぬ。」
「そうかァ。毎年こんなイベントあったら楽しーのに。できればやってよね。」
「そこまで言うのならばお前がやったらどうだ。」
「あ、それもイイかもね。でもこーゆー楽しーイベントは多いほうがイイから。期待してるよ! じゃね。」
と手を振って、それ以上は「生き物」について突っ込むことなくオリヴィエも去った。


最後に残ったジュリアスに「待たせてすまなかった」と声をかけ、彼を伴ってクラヴィスは私室に戻り、ようやく一息ついた。
何だか今日は疲れた…。
そう思ったが、まだ一仕事残っている。

「パジャマパーティ? 何だ、それは?」
クラヴィスが口にした言葉をジュリアスも知らなかったらしい。
「アンジェリーク」と言いかけてジュリアスににらまれて、フッと笑うとクラヴィスは言い直した。
「陛下からパジャマパーティの話を聞いたことはないか。」
「いや。初めて聞く」
要は仲良し同士が集まってのお泊り会である。ジュリアスやクラヴィスは二人きりの同い年の子どもで、幼かった頃は互いの館に泊まったこともあったが、それをパジャマパーティと呼んだりはしなかったし、他の人間とはそういう経験がない。
「夜遅くまでしゃべったり、ゲームをしたり、枕投げをしたりもするそうだ。」
「枕投げ、だと? 枕を投げ合って楽しいのか?」
ますます何じゃそりゃな顔になるジュリアスに、クラヴィスは懇切丁寧に説明した。
「アロンの仲間には『お前と私が仲の良い友達である』ことを見せたほうが話が早い。アロンはずっと私と行動を共にしていて私達の関係が彼らの友人関係とは違うということをある程度理解したようなのだが、妖精族の他の者達に同じだけの時間をかけて説明するのも骨だ。彼らがわかるような遊びをして見せれば満足するのではないか。」
つまりはアロンの仲間のためのデモンストレーションとして、枕投げを採用したいという。
ゲーム、たとえばチェスあたりだったらジュリアスも付き合うにやぶさかではないが、それはおそらくアロンの仲間には退屈な、意味のわからないものでしかないだろう。だからと言って、枕投げとは。
けれどもここで怒ったり怒鳴ったりしてはクラヴィスの苦労が水の泡であることは理解していたジュリアス、

子どもの頃にすらしたことがなかったようなことを、今この私にせよ、と?
なぜ私がそのようなことをせねばならぬのだ!!

という文句は心の中でこぼし、クラヴィスのバカ野郎という気持ちをこめて枕を投げつけた。
みごと顔面に命中。
「ほう、随分とノッているではないか。」
にやりと笑うとクラヴィスは枕を投げ返した。
「そなたこそ。」
両手で枕を掴んでぼすぼすとクラヴィスを正面から襲うと、クラヴィスは別の枕をつかんで脇を叩いた。
「隙あり、胴っ」
「何だそれは。」
何を言われたのかと枕を下ろしたまま一瞬動きが止まったジュリアスの顔に、「面!」ともう一度枕を打ち付けた。このようなばかばかしいこと、と苦い気持ちでいたはずだったジュリアスも、何だか愉快な気分になってきてついに笑い出し、笑いに紛れて途切れ途切れに言った。
「…そなた…この調子で一ヶ月もアロンと遊んでいたのか。さぞ楽しかったことであろうな。」
「アロンは小さすぎて枕投げはできなかったぞ。剣道ごっこも無理だ。」
「剣……。そういえばそなたも剣は共に習ったではないか。たまには手合わせをせぬか?」
「やらされていたのはずいぶんと昔だからな。体が動くとは思えぬな。あまり覚えておらぬし。」
「剣道、とは何だ? 剣というからには似たようなものなのではないのか?」
「…剣術の一種だ。多少心得がある。」
毎日竹刀を振るのが日課だなんてことは、この相手には黙っておくに限る。そんなことが知られた日には、手合わせしろだの修練に付き合えだのとうるさく言われるに違いない。
「そなたも剣の筋は悪くなかったはずだ。やめてしまったのは惜しい」
「今更そのようなことを言われてもな…」
子どもの頃は、同い年の年若い守護聖ということで何に於いても同じメニューが課せられた。ジュリアスが何にでも全身全霊をかける勢いで臨むので、全てに付き合うのが息苦しくなって、思春期頃を境に少しずつ距離を置いた。ジュリアスが嫌いだったわけではない。ただ彼が自分と同じことをクラヴィスに望むのが重かった。そしてジュリアスの知らないところで、自分のペースでできることをするようになった。

クラヴィスは笑って、また枕を投げつけた。
「……この!」
ジュリアスの方も負けじと投げ返し、ひとしきり枕を投げ合ったり、柔らかい枕でぼふぼふとたたき合ったりした挙句に大笑いとなり、二人でベッドにひっくり返って、なおも笑い続けた。


8. 終わり良ければ

「まさかこの年になってこのようなことをするとはな。」
先程までの余韻が残っているのか、笑いを含んだ声でジュリアスが言った。
「まったくだ…」
ジュリアスは肘をついて上体を起こし、クラヴィスの耳元に顔を寄せて「これでアロンは帰れるであろうか」と囁いた。アロンたちが聞いているかもしれないと気を使ったものらしい。
「ここまで努力したのだ、おそらく大丈夫だろう」とクラヴィスも囁き返す。
そう信じたいところだ。大人になった二人がどう遊んだら妖精族を納得させられるのか、これ以上何をしたらいいのか、見当もつかない。
笑いやんだ二人は並んで横になったまま、しばらく天蓋を見上げていた。やがて軽い寝息が聞こえてきて、クラヴィスは隣を見た。
ジュリアスが眠っていた。
疲れたのだろうか。軽く汗ばんだ体で寝てしまったら、冷えるかもしれない。
寝顔を見るなど子どもの頃以来だと思いながら、ジュリアスを起こさないように気をつけながら下に敷いていた上掛けを引っ張り出して、体の上にかけてやった。

無心に枕をぶつけあったのが意外にも楽しかった。アンジェリークから「パジャマパーティなんかでやるんです。楽しいですよ」と聞いたことがあり、そんなものかと思っていた。まさか自分が、それもジュリアスとする羽目になるとは、そしてそれが本当に楽しいとは思ってもみなかった。
アロンの言によれば、きれいなものが好きな妖精族は、衣装や装飾品を作るのも仕事というか遊びのうちらしい。特に女性は自分の衣装に美しい刺繍を施していたりすることも多い。おしゃべりをしながら針仕事をするというのも楽しみであるらしい。が、仲の良い者同士が大勢で一緒に行うのは歌に踊り、鬼ごっこやかくれんぼのような、体を使うことが多いとのことだ。ジュリアスや自分が裁縫やら手芸やらをしてみせるというのもぞっとしないし(というか、まずもってやったことがない)、二人で歌? 踊り? 鬼ごっこにかくれんぼ? それはどう考えても無理がある。特に準備や道具の必要がないもので、アロンたちにも遊びだとわかりそうなものといえば枕投げくらいしか思いつかなかったのだ。

だがジュリアスも、案外と楽しそうだった…。
寝顔は昔とあまり変わっていないような気がする、と思いながらクラヴィスがジュリアスを眺めていたところ、
「くらヴぃす」
窓際からアロンの声がした。もしかしたら戻ってくるかもしれないと少し開けておいたものだ。
「どうした、アロン? まさか…まだ帰れぬのか?」
ベッドサイドの小卓に飛び乗ったアロンは、眉をひそめたクラヴィスに向かって首を振った。
「もう帰れる。みンな、くらヴぃすが幸せだってわかってくれた。アロン、ほメてもらった。」
と、胸をはる。
「ほう、誉められたのか。よかったな。」
指先で頭を撫でてやると、小さな人は嬉しそうな顔をした。
「人間をちゃんと幸せにできて、アロンえらかったって、帰ってもイいって長老サマから許してモらった。」
「ではお前の償いは終わったのだな。仲間たちのところへ戻るがいい。」
「ウん……。くらヴぃす、いろいろありがト!」
「こちらこそ、だ。おかげでジュリアスともう一度仲良くできるきっかけをもらった。」
心からそう言った。他人から思われているほどにジュリアスと仲が悪かったとは思っていない。けれどもいつの間にか離れてしまっていた心の距離が、アロンのおかげでずいぶんと縮まったように感じている。そしておそらくジュリアスもそう思っているだろうという確信があった。
「くらヴぃす、幸せ?」
「ああ」
「アロンまた来てもイい? くらヴぃすと会えナくなるの、さびしい。」
「来てくれるのはかまわぬが…森からここまでは、お前にとっては長旅になるのではないのか?」
「それデも会いたいんだ。」
「友人が遊びに来るのはいつでも歓迎する。」
「友人って……とモだち? アロンのこと? アロンもくらヴぃすととモだち? じゅりアすくらいにとモだち?」
「無論だ。一緒に遊んだ仲ではないか。」
「ほんト? じゃ、また来るね!」
その言葉を最後に、小さな姿はかき消えた。迎えに来た仲間と連れ立って森へと向かったのだろうか。
「さて、アロンはいつまで私のことを覚えていてくれるやら…」
仲間と共に遊び暮らす生活に戻ればクラヴィスのことなど忘れてしまうかもしれない、手のひらに載るほどの小さな友人。

だが忘れられるのもよかろう。人と妖精族とは本来親しく交わるべきものではない。
それに…この私も、永遠にこの地にいられるわけではないのだ。

しばらく開いた窓のほうを見ていたクラヴィスは、少し冷えてきたと思いながら窓を閉めに立ち、ベッドを振り返った。眠ってしまったジュリアスを見て、微笑が浮かぶ。
このまま朝まで寝ているだろうか。自分がどこで眠っていたか気づいたら、ひと騒動あるかもしれない。
ジュリアスが目覚めた時の騒ぎを思って小さく笑い、クラヴィスも隣にもぐりこんで目を閉じた。

終わり良ければすべて良し。少々疲れはしたが、終わってみれば今年の誕生日はなかなかに楽しかった。
「期待してるよ!」
オリヴィエに言われた言葉が何となく耳に残っている。来年のことなど知るものかとあの時は思った。

だが…あの男に言われたからというわけでもないが…来年もまた、祝いの席を設けてみるか…。
こんな気分で眠れる夜があるのは――悪くない。



Happy birthday, CLAVIS!!