モノ創りさんへ10個以上でお題



06. 僕はヒマワリ

ヒマワリって花、知ってる?
あつい季節にさく、大きなきいろい花なんだ。
おとなの男の人くらいも背が高くって、てっぺんには大人のかおみたいに大きな花がさいてるんだ。
まっすぐで、どうどうとしてて、おひさまの光みたいな花。
ちょっとジュリアスににてる。

でもね、ほんとはね、ぼくのほうがジュリアスよりももっともっとヒマワリなんだよ。
それにジュリアスにはヒマワリよりももっと似てるものがあるから。

ジュリアスっておひさまだと思うの。
きらきらしてるし。
つよくってきびしくって、でもあったかくって。
ぼくはそんなジュリアスをいつも見てる。

ヒマワリって、いつもおひさまのほうを向いてる花なんだって。
ほらね。
ぼくのほうがヒマワリでしょ?


07. ボクの意図、キミの真意

ぼくはジュリアスとなかよくしたい。
でもお話しするのってとくいじゃないから、話しかけてくるジュリアスからいつもにげてた。ほんとはちゃんとお話ししたいなって思ってるのに。
いつもジュリアスのことは見てる。だけどジュリアスがあの青い目でぼくのことじっと見て、何か言ったら。なんだかかーっとしちゃって、何を言われてるのかわからなくなって、へんじができなくって、そこからにげだしちゃう。いつもそんなじゃ、ぜったいになかよくなんてなれない。お話しするのがへたでも、がんばってぼくから話しかけてみよう。にげてばっかりじゃだめなんだ。

「あの…」
とても遠慮がちに小さな声が背後からして、ジュリアスは耳を疑った。クラヴィスの声ではないか。振り返ると、やはりそこにはクラヴィスがいた。不安そうな瞳。少し大きな声を出したらあっという間に逃げてしまいそうな顔。
それでも、うれしい。クラヴィスのほうから声をかけてきたのは初めてだった。ジュリアスはそっと息を吸い込んで、そして吐き出す。落ち着かなければ。そしてなるべくやさしく、言ってみた。
「何用だ。」
びくん。クラヴィス硬直。こういう風に正面きって「用」を尋ねられるのは困る。だって、ジュリアスが用事だと認めてくれるような特別な用事は何もないから。ジュリアスの話し方がこんなふうなのはいつものことだから、と心を奮い立たせようとしても、口が動かなくなる。
ああいけない。だまってるとジュリアスはおこる。青い目でぼくをにらんで、ほっぺたを赤くして、「早く言わぬか!」って。「用がないのなら私は行くぞ」って。そう言われちゃったらかなしいなと思って、いっしょうけんめいお話ししようとした。
「…ぼく…」
そのまま沈黙。
だって、なかよくしてほしいって……なかなか言えなかったから。いま、気がついた。ぼくがジュリアスとなかよくなりたいと思ってるのと同じくらいに、ジュリアスがぼくとなかよくしたがってくれてたらいいんだけど、そうじゃないかも。ジュリアスはぼくとなかよくなくても、かまわないのかもしれないんだ。
うつむいたクラヴィスの顔を、ジュリアスは下からのぞきこもうとした。するとクラヴィスは後ろを向いてしまう。
ああきっと、おこられるんだ…。
じわりと涙がにじむ。
泣いちゃだめ。ジュリアスはめそめそしてたり、だまってばかりいるのがきらいなんだから。
「…どうした? お腹でも痛いのか? 医務室へ行くか?」
ジュリアス、おこってないみたい…。
おずおずと、振り返ってみた。ジュリアスが困ったような顔をして見ていた。
ジュリアスもどうしたらいいかわからないことがあるんだ。
そう思ったら、ようやく言葉が出た。
「…おなか…いたくない。ただぼくは…ジュリアスになかよくしてほしくて…それを言いたかったんだ。」
必死になってそれだけを言った。
ジュリアスは丸く目を見開いて、クラヴィスを見たまましばらく何も答えなかった。どんどん不安になる。
やっぱりいやだったのかもしれない。ぼくに、なかよくしてほしいって言われるなんて。
そう思って逃げたくなったそのとき、ジュリアスの表情がぱぁっと明るくなった。
「私もだ。私も、そなたと仲良くなりたいと思っていた。」
「ほんとに?」
「うむ」って、ジュリアスはにこにこしてうなずいてくれた。よかった。ぼくだけがそう思ってたんじゃなかった。
ジュリアスがあんまり長いことだまってるもんだから、いままで話しかけてくれてたのは、なかよくなりたいからじゃなくて、用事があったからかもしれないって思っちゃった。だいじな用があって話してるのにへんじしなかったり、にげたりするから、ジュリアスは、ぼくのことをあんまりすきじゃないかもしれないって、どきどきしちゃった。

ああよかった。
だいすきな友だちにきらわれてないって、なかよくしたかったって言ってもらえるって、しあわせ。


08.シロツメクサが一つ

宮殿のはしっこのはしっこのずっと遠いとこ。しばふの中にシロツメクサがあったんだ。せいちに来てからはじめて見た。
なんだかうれしくなって、しゃがんで白い花を見てた。そしたら、花のよこに四つ葉があったの。すごいや。さがしてもさがしても見つからないのはしょっちゅうなのに、今日はさがさないのに見つけちゃった。うれしくってその葉っぱにそっとさわってみた。せっかく見つけたの、どうしようかなって迷ったけど、つんで帰るのはやめにした。だって、ジュリアスに見せたかったから。ジュリアスといっしょに来て、もう一度ふたりで見つけようって思った。

その次の日、昼の休憩のとき、ジュリアスを連れてクラヴィスはシロツメクサを見に行った。
「こっちこっち。ほら、ここ見て」
「草が生えているな。」
「…うん。」
ふだん大人と対等の会話を交わしているジュリアスには、クラヴィスは難しい相手だった。何を考えているのかわかりにくい上に言葉数が少ない。じっと待っているのは性に合わないので、いろいろと推し量りながら声をかけて話を聞き出そうとする。それはジュリアスにとっては忍耐を要することだった。
「白い花か?」
「…花もかわいいんだけど。」
「では、蝶か?」
「そうじゃなくて…」
「要点をはっきりさせてくれぬか。」
「あのね、ここに……めずらしい葉っぱがあるんだよ。」
そう言ってクラヴィスはしゃがむと、目的の四つ葉を探し出してつまんで見せた。改めてジュリアスはその葉と周囲の葉を観察してみた。どれも葉が三枚のものばかりで、クラヴィスがつまんでいる葉だけが四つ葉だった。
「なるほど。その葉が突然変異であることはわかった。…わざわざそれを見せるために私を連れてきたのか?」
とつぜんへんい。
ジュリアスの言うことは難しくてよくわからないことも多い。この言葉もそうだった。でもそれはいま問題ではない。伝えたいことは他にある。
「これは幸運の葉っぱなんだ。だからジュリアスといっしょに探そうと思った。」
「ああ、そういうことであったか。幸運の…というのは、そなたの母君から教わったのか?」
クラヴィスはうれしそうにうなずいた。
「うん。ぼくの仲間はみんな知ってる。」
「なるほど。」
そのようなことは迷信に過ぎないであろう? 最近ようやくジュリアスは、そう言い放ちそうになる自分を抑えることができるようになってきた。
迷信、言い伝え、ジンクス。その類のことをクラヴィスはよく知っていた。折りにふれそうしたことを口にする。ジュリアスの目からすれば、信憑性のかけらもない、ただの無知な民人の妄言としか思えないような話。迷信だ、と言い捨てるのはたやすい。しかしクラヴィスは、何度ジュリアスにそう返されても、そういう話をすることをやめなかった。今日も。幸運を運ぶ葉だから一緒に探したいとクラヴィスは言ったのだ。
「もう一まいさがして、二人で一まいずつもっていようよ。友だちのしるしだよ。」
「そうだな。それはよい考えかもしれぬ。」
…そのためにわざわざ私を連れてきたのだったか。迷信だの何だのと余計なことを言わなくてよかった。

二人はしゃがみこんでしばらくあたりを探したが、四つ葉は結局その一枚だけしかなかった。
「…おかしいな。一まいあると、その近くには何まいかあるものなのに…」
うなだれるクラヴィスを、ジュリアスはなぐさめた。
「よいではないか。この一枚を二人のものにすれば。押し花にして、しおりを作ればよい。それを順番に使おう。」
しおれた花のようだったクラヴィスが、みるみる明るい顔になる。
「ジュリアスってあたまいいね。一まいしかないんだったら二人のものにすればいいんだね。」
「緑の守護聖様に押し花の作り方を教えていただくとしよう。」
「うん!」

シロツメクサの葉のしおりは、その後何度もジュリアスとクラヴィスの間を行き来することになった。


09. 手と手を合わせて

「あのね。いいこと教えてあげる。こんなふうに両手を合わせてみて。」
と言って、クラヴィスが両手を胸の前で合わせて見せた。ジュリアスはクラヴィスがしてみせたように自分の両手を合わせた。
「こうか?」
「うん。」
「これに何の意味があるのだ。」
「『おててのしわとしわを合わせて、しあわせ』」なんだって。」
「何?」
いまひとつ腑に落ちない様子のジュリアスに、クラヴィスは説明した。
「『しわ』を『あわせ』るでしょ。そしたら『しあわせ』なの。」
得意そうな顔をするクラヴィスには気の毒だったが、ジュリアスはまだ納得がいかなかった。
「しわ」と「しわ」を「あわせ」ても「しわあわせ」にしかならぬではないか。それのどこがそれほどにいいことなのだ?
首をかしげながら、ジュリアスは自分のてのひらをクラヴィスに向けた。
「そなたも手を出してみろ。」
言われたとおりに出されたクラヴィスのてのひらに、ジュリアスは自分のそれを合わせてみた。
「あっ…」
少し汗ばんだあたたかな手。その手の主が、あっと言ったきり黙ってしまったジュリアスの瞳をのぞきこんできた。
「なあに? どうかしたのジュリアス?」
「わかった。そなたの言うとおり、手と手を合わせるとしあわせだな。」
クラヴィスは少し口をとがらせた。
「手と手じゃないんだよ。しわとしわだよ。」
「よいではないか、どちらでも。」
合わせた手の、人の肌のぬくもりが、ふんわりと小さな幸福感を運んでくる。


10. 言葉だから伝わること

ぼくはジュリアスとなかよしになりたかった。
ジュリアスもぼくとなかよくしたかったって言ってくれた。
だからぼくたち、友だちになれたんだよね?

それでも。
なかよくできるときもあるけど、そうじゃないときもいっぱいある。
けんかになることもある。
どうしてけんかしちゃうのかな。
大好きなのに。

このごろは、お昼ごはんのあとの勉強はいつもいっしょにしてる。…ジュリアスの勉強は、ぼくよりずっと進んでて、先生とむずかしいお話してたりするけどね。ぼくは少しはなれた机で書きとりのれんしゅうしてたりするんだけどね。
だけど、おやつは同じテーブルについて、おしゃべりしながら食べられる。おしゃべりするようになってわかったんだけど、ジュリアスはぼくが見てるようなテレビは見ないみたい。ジュリアスんところにテレビがないわけじゃないんだよ。でもぼくが見るようなばんぐみは見ないって言うんだ。どうしてかな。おもしろいのに。
「テレビもよいが、本はよまないのか?」ってきかれると、ちょっとこまる。
ときどきはよむよ、ってへんじする。だってぼく、まだあんまり字をよむの、とくいじゃないから、本をよむのがめんどくさくなっちゃうんだ。時間がいっぱいかかるから。
だから、あそんでていいって言われる時間には、テレビをつけることが多い。だってジュリアスはぼくが仲間としてたようなあそびはしないみたいだから。他にいっしょにあそべるような子、いないしね。

ジュリアスとあんまりあそべないのはつまらないけど、テレビっておもしろいから退屈はしないんだ。母さんとくらしてたときには、テレビなんかなかったから、聖地にきてはじめて見たんだけど、おもしろいドラマとか、おかしなことをいっぱいしたり、言ったりする人が出てくるばんぐみとか(『ポップ!野牛判定』とか『1836マッパーばばあ』とか、好き)、きれいな洋服をきてる人がうたったりおどったりするばんぐみとか、いろいろやってておもしろいって思う。でもジュリアスにテレビの話をしても、「ほう、そうなのか」ってきいてるばっかり。

ジュリアスが話してくれることは、ちょっとむずかしいんだけど、ぼくはがんばってきいてる。「ふうん、そうなの」ってへんじもする。ずっと話をきいてるうちに、ちょっとずつわかってくることもあるから、話をきいてるのはおもしろい。それに、ジュリアスのぴかぴかのかみの毛や、青い目を見ながら話をきいてるの、好き。
ふだんは、ジュリアスの顔ってあんまりじっと見られない。見てると「何か用か?」ってきかれちゃうから。
用事じゃないの。ただ顔を見てただけ。だってあんまりきれいだから。ほんとなんだよ。ジュリアスってほんとにきれいなんだ。でもそんなこと、はずかしくって言えない。
だけど話をきくときだけは顔を見てても大丈夫なんだ。っていうより、そういうときにそっぽ向いてると、ジュリアスは怒っちゃう。それって、ぼくにちゃんと話をきいててほしいってことだよね。

そうだ、いいこと考えた。こんどジュリアスに言おう。大好きだって言おう。ぼくはいつも大好きな母さんに「大好き」って言ってたし、やさしかった年上のあそび仲間にも、歌うたいのおじさんにも、大好きな人には大好きって言ってたのに。ジュリアスにはまだ言ってない。だって、ジュリアスは今までに好きだっただれともちがってた。そんなこと言ってもいいのかどうか、よくわからなかったんだ。
でも、今はわかる。大好きって言ったら、きっと笑ってくれるって。


おやつのあと、クラヴィスはジュリアスの耳に口をよせて、言った。
「大好き」
ジュリアスは目を丸くして、それからお日さまみたいに笑って、自分がされたようにクラヴィスの耳に口をよせて、「大好きだ」と言った。
二人は目を合わせるとくすくす笑って、「お願いがあるの」「頼みがある」と同時に口にした。
「なあに? ジュリアスから言ってよ。」
「そなたの方から言えばよい。」
しばらく押し問答をして、結局「一緒に言おう」ということになった。
いち、にの、さん。
「髪に…」
二人が言い出した言葉は同じ。
びっくりして丸くなった目で互いを見ながらその先を続けた。
「さわらせて。」
「触れてもよいか。」
くすくす笑いが高くなっていき、しまいに二人は声を上げて笑った。
そして、相手の髪に手を伸ばした。