聞かせて


声を上げない。
何をしても。
ただひとつを除いては。
だからそれをする。

胸から鎖骨を越え、首筋へと唇を這わす。そのあとにいくつもの赤い花びらを散らしながら。
「…ん…あっ…駄目だ」
「…なぜ?」
「そのようなこと…今更言わずともわかって…くっ!」
ことさらにきつく吸い上げられ、声が洩れた。
「フッ…光の守護聖殿は情事のあとを見られるのは困る、ということか…」
無言の肯定。そんな抗議などものともせず、彼は続ける。
「クラヴィス!」
頬を染めて声を上げる相手が愛しくて、けれど甘やかな時に抗議の声しか聞けないのが少し悔しくて。
彼の冷厳な恋人は声を出さない。唇をかみしめて声を殺してしまう。
もっとお前の声が聞きたい。私を愛しているとその唇に言わせたい。
それが叶わぬのならいっそ…いじめたくなる…。
「お前が…光の守護聖で助かった…お前の衣服はほとんど全てを隠してくれる…」
「しかしそこは」
襟の高い光の守護聖の正装をもってしても覆い隠せないような、ジュリアスよりも背の低い者に見上げられたらわかる位置にくっきりと咲いた赤い花。
「…困る」

ジュリアスは体を入れ替えるとクラヴィスの首筋に赤い花を咲かせる。
クラヴィスは笑っただけだった。
「これで…復讐したつもりか。あいにくだったな。私はお前と違って誰に見られても一向に痛痒を感じない。むしろ困るのはお前ではないのか?……いいのか、私がこれを誰につけられたか話しても?」
青ざめる美しい顔。
「フフ…冗談だ。だが、これでは正装を着ても隠すことはできぬな、お互い。…ならばいっそあとが消えるまで二人でこのまま…」
「…ばか…」
そのようなことができるはずがなかろうとにらまれて、クラヴィスはまた笑って唇を奪う。
抗議の声をあげられないように。
そうすれば、声が聞けないと悩むこともない。
私のくびきから逃れられぬお前の声が聞けないことなど、何ほどのものでもない。
お前がこうして体を重ね、唇を許すのはこの私だけだと知っている。

甘い声を聞かせてくれないつれない唇は、私の唇で封印してしまおう。
お前の心の声だけを聞こう。
愛している、と告げる心の声だけを。
そして私もお前の心と体に刻み込むのだ、愛している、と。





■BLUE ROSE■