女王陛下のプレゼント


元気な新女王陛下の「やっぱり冬は寒くなくっちゃ!」という鶴の一声でその年、聖地の冬も寒くなり、おまけに雪までちらつくこととなった。
「冬はやっぱり雪よね。雪があった方がずーーーっとロマンチックだし」というのがその理由だ。
宮殿も私邸も万が一に備えて冷暖房設備は整っている。その「万が一」がまさか女王陛下の気まぐれだということまでは想像しなかったにせよ、これを備え付けた者たちには先見の明があったわけである。この冬は聖地の暖房フル稼働だ。それでもやはり、聖地暮らしが長く、寒さに慣れない守護聖たちには辛い冬となった。

……と思ったけど、そうでもない人たちもいたりなんかして。



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筆頭守護聖たち、週末はどちらかの私邸で過ごすことを習慣としている。今週は光の館で過ごすことになっていたのだが、金の曜日になってジュリアスは申し訳なさそうにクラヴィスに言った。
今宵はどうしても読みたい本がある、食事を共にするのはよいが、その後は相手ができぬ。
それは以前から貸してほしいとルヴァに頼んでいた本で、今日になって「ジュリアス、ご依頼の本が見つかりましたよ〜」とその日届けてくれたものだった。
本を読んでいるばかりでは悪いからできれば来るのは明日にしてほしい、ジュリアスにしてみればそんな気持ちだったかもしれない。だがそんな程度のことで、二人で過ごす貴重な夜をフイにすることをあっさり受け入れるようなクラヴィスではなかった。私はお前のそばにいるだけで満足だ、読書の邪魔はせぬと約束して、しっかり光の館の夕食を楽しみ、食事の後は私室の暖炉近くに愛用の椅子を引き寄せて本を読むジュリアスのそばにいる。

クラヴィスは暖炉の前に置かれた敷物にじかにすわり込み、ジュリアスの椅子の腕木に手をかけて顔を載せ、彼の真剣な顔を見上げていた。静かな夜に時おりぱらりとページをめくる微かな音と、ぱちぱちと薪のはぜる音。そうやって小一時間も過ぎただろうか、ジュリアス、集中して読んでいる間はクラヴィスの目も気にならなかったのが、ふと目が合ってからがどうもいけない。クラヴィスは全然視線を外さず、目が合っても話しかけるでもなく、とにかくじっと見つめ続ける。ひたすら見つめ続ける。話をするつもりではないのだなと無理やりに本に目を戻してみても、字を追うばかりで内容が頭に入ってこない。視線が痛い。あんまり見つめられてつい意識してしまい、頬が赤くなったような気がする。動悸も速くなってきたようだ。
邪魔はせぬと言ったくせに。…いや確かにクラヴィスは騒いでなどいないのだが。
ジュリアスはため息をひとつつくと、諦めて本を閉じた。
「何だ?」
「…『穴が開くほど見つめる』と言うが…いくら見つめても穴は開かぬようだ…」
もしや…クラヴィスは人の顔に穴を開けようとしてじっと見ていたのか? 道理で視線がかったわけだ!
「開いてたまるか!」
クラヴィスは人の悪い笑みを浮かべた。
「穴は開かぬが少し赤くなった」
「な…何を言う!」
「ほら、よけい赤い」
「暖炉の熱のせいであろう…」
反論する声は小さかった。微かに染まっていただけの頬は今は朱を散らしたようになっている。それが暖炉のせいではないことくらい、ジュリアスにもわかっていた。
「夜風に当たれば火照りも収まるやもしれぬ。少し外へ出てみるか?」
クラヴィスが言い、ジュリアスが頷き、二人はバルコニーへ出る。
外は粉砂糖をふりかけたようにうっすらと雪化粧。クラヴィスは、はらはらと舞い落ちる雪の出所を確かめるかのように夜空を仰ぐジュリアスの背後から腕を回した。
「外は…寒いな…。陛下もなかなか気の利いたことをしてくださる。戸外でお前を抱きしめる口実ができた…」
囁きと共に抱きしめられた戸惑いを隠すように、ジュリアスの低い声。
「今宵は積もるのだろうか?」
「おそらくは…」
そうでなければ意味があるまい。あの女王陛下のことだ、雪合戦をしたいがための雪であろうからな、と続くはずの言葉はそこで途切れた。ジュリアスの叱責を誘うような言葉は二人の夜にはふさわしくない。
寒さゆえか微かに震える体をいっそうきつく抱きしめると、頤を捉えてくちづけた。
互いの温もりを感じる、ただそれだけで。
愛している、そんな言葉なんかなくても。
胸に満ちてあふれ出す想いが伝わっていく。
そんな不思議なひとときは冬の夜の贈り物。





■BLUE ROSE■