これは秘密だ。なにしろあれに言ったらひどく怒る。
だから口にはしない。
私があれのことを、かわいい、と思っているなどとは。
以前にはずみで言ってしまったときのあれの顔ときたらなかった。
「誰がかわいいだと?」
「……ここにはお前しかおらぬだろう」
「愚にもつかぬことを。大の男に対して言うことか」
「そう言われても、な…」
「私はかわいくなどない。そなたと体格も変わらぬ」
頬を紅潮させ、青い瞳が怒りを含んで私をにらむ。
「そのようにむきになるところが…」
かわいい、再びその言葉を発する寸前で飲み込んだが、何を言おうとしたか悟られた。
ますます怒ってしまったが…そら、その顔も。本当にかわいいのだから仕方あるまい?
お前は守護聖の長、光輝に包まれた光の守護聖。
威厳に満ち、冷たいと評される美貌の主。
そんなお前を、自分と同い年の男を、かわいく思うなどはたから見れば愚の骨頂。
理性的なお前がそれを受け入れがたく感じるのも道理。
だがあいにくお前の言う「愚にもつかぬこと」を思い、それをつい口にしてしまうような大ばか者、それが私だ。
「マルセルやアンジェリークならば話はわかるが、どこをどう押せば私が『かわいい』などという考えが出てくるのだ。そなたの目はおかしいのではないか」
ああ、お前の言うとおり緑の守護聖や女王候補はかわいい、かもしれぬな。
幼さはそれ自体がかわいいものだ。だが他の誰がどれほどかわいかろうと、興味はない。
何しろ私は、お前以外他の何も目に入らぬ大ばか者だ。
しかし……それでもお前は私が好きだろう? 愛してくれているのだろう?
「そう怒るな。確かにお前は私と同じく大人の男だ。皆が頼りにする首座殿、それに間違いはないし否定もしない。だがな…」
知らぬようだから教えてやろうか。
「幼いとか小さいとかかよわいとか、そういうことがかわいくあるための必要条件ではないのだぞ」
理解に苦しむという顔をするお前に、頬がゆるみそうになる。
その顔もかわいいから。
けれどもこれ以上怒らせると本気でへそを曲げてしまうだろうから、表情を変えぬよう気をつけながら引き寄せ、唇を重ねた。
口づけで忘れてしまえ、この場で必要のない理性など。
気がついておらぬだろう、眠っているときに私に身をすり寄せていることを。
わざと少し体を離したら、それを追って身を寄せてくることを。
知らぬだろう、その温もりを私がどれほど愛おしんでいるかを。
あれ以来かわいいと口にすることはあえてしていないが
本当はな、言いたくてたまらないのだ。
かわいい、かわいいジュリアス。
そう言って怒らせたくなる。
赤い顔をして真剣に怒るお前の顔が見たいから。
怒らせて、
機嫌を取り結ぶために抱きしめて、
愛の言葉をささやいて、
口づけて、
甘い声を上げさせて。
いつの間にか私にすがりついているお前はかわいい。
それ以外にどう思えというのか。教えてほしいものだ。
私の前では威厳などなくてよい。立派でなくてよい。首座の顔はいらぬ。
お前自身でいてくれればそれでよい。
かわいい、と。
また今度、ついうっかり、口をすべらせるのもよいかも知れぬ。
そうすればあのお前を見ることができよう。
笑顔のお前も良いが、他の顔も見たくなる。
お前のすべてが見たくなる。
だから
ここまでお前に溺れていることに免じて
時に怒らせるようなことを言う私を
許してくれ。
私の、かわいい、ジュリアス。