瑠璃の風景 -月-



どれほどの間横たわっていただろう
気づけば星の瞬きに目を奪われていた
あの星々がすべて崩壊し宇宙は死の世界となってしまうのか

滅びのときを迎えようとしている宇宙は
それでも命を長らえようと際限なくサクリアを欲する
いっそ狂おしいほどに

この身に宿るサクリアが欲しくばいくらでも奪え
そうしてサクリアを喰らい尽くし
贄たる私を解き放ってくれ
重すぎるこの役目から
檻のような聖地から
…あれの目の届くところから



+ + +




ジュリアスのことは誰よりもよく知っている。我がことのようにわかる。
けれどもあの考え方を良しとせぬ己がいる。
どれほどわかっていようと、所詮ジュリアスと同じものとなることなどできはしないのだ。
想い合ったところで、違う存在でしかあり得ないのだから。
そのもどかしさに、つい投げつけた言葉がジュリアスを傷つけた。


ようやくのことで立ち上がった時は深更を回っていたろう。館へ戻る気にもなれず、そのまま森の湖へと足を向けた。森の中はなじみ深い闇に包まれている。その中を迷うことなく湖の畔まで歩き、一転して開けた空を見上げてみた。明るい月が天にかかっていた。湖に映るその月の姿に、ジュリアスを重ねていた。

水に映る月。

それに手が届くことはない。
つかんだと思ったその瞬間に溶けて消える。
…そうだろうか? あそこへ行き着くこともできないのだろうか。
近づいて、触れて、抱きしめることはかなわぬ願いか。

一歩踏み出す。
ちゃぷ、と水音がした。
もう一歩、さらに一歩。
逃げる月を追う。
腰のあたりまで水に浸かり、長衣が足にまとわりつく。
が、そのようなことはどうでもよい。
あの月に手が届きさえすれば。

「待て!」
闇を裂く声にゆっくりと振り向いた。
湖の中を追ってくる光の化身がいた。
その姿にただ目を奪われて水の中で動けずにいると、あっという間にジュリアスがそばに来ていた。
「何のつもりだ。館にも戻らず、皆に心配をかけて。死にたいのか」
「…死にたかったわけではない。ただ…月がほしかった」
オマエガ、ホシカッタ。

「月がほしくてこのような真似をしたというのか」
呆れたような声音に少し安堵し、すまなさに面を伏せた。
あれほどにひどい言葉を言ってしまったというのに。
私は確かにジュリアスの心を切り裂く言葉を吐いたはずだった。
それなのに普通に言葉を交わしている自分たちが不思議だった。
「昼間のこと…」
言いかけると、ジュリアスは首を振った。
「よいのだ、もう」
「よい、とは?私はお前に言うべきではないことを言った」
「そなたの思いは知っている。だがこれが私の生き方だ。これ以外のやり方を知らぬ」
わかっている。そんなお前だからこそ愛した…。

お前と違う感じ方をし
それをお前にぶつけてしまう
見守る、支える、ただそれだけのこともできぬ
ふがいない私を許してくれるのか
このような私がこうしてともに在ることを
許してくれるのか

やり直せるのか?
問うと、小さくうなずく。その体を抱き寄せた。
違うものとして在るからこそこうして抱きあうこともできる。
ジュリアスの唇に、唇でそっと触れてみた。
ほんのりと温もりを感じ、それがもっとほしくなる。
触れるだけでは足りずに深く口づけた。

私は月をこの手に抱いている。





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