junk(竜を求めて珍道中)
とあるクエストのネタバレなので、これからゲームやろうかってお人はこの先は読まぬが吉。
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話は大分以前、まだ旅の最終目的までの道のりは長くパーティ全体のレベルが低く、皆があまりいろいろな職業を経験していなかった頃にさかのぼる。
砂漠の城の兵舎で、アンジェは「マミーの包帯を集めてきてほしい」という依頼を受けた。お助けウーマン(←主人公は旅の過程でいろんな称号を得ていきます。その一つ)たるもの、頼られれば二つ返事で引き受けてしまう。
が。問題がひとつ。
マミーはまものだ。「包帯ください」って頼んだって通じるとは思えない。って言うか、それで話が通じるならわざわざ人に依頼はしないだろう。基本は闘って、戦闘後に宝箱を落としていくのを待つしかないのだが、包帯を複数集めようと思うと時間がかかりすぎる。
依頼を受けた日の晩、宿屋で作戦会議を開く一行。
「依頼を受けた以上、面倒でも地道にマミーと闘うしかあるまい」
ため息と共にジュリアスが言った。
「ですがジュリアス様、効率が悪すぎやしませんか。他に受けている依頼もあるし、我々には大きな目的があるというのに余計な時間を食いすぎますよ」
「……みんな、ごめんなさい。困っている人を見て私がついうなずいたばっかりに」
アンジェ、申し訳なさに少し涙ぐみながら謝った。
「人助けは悪いことではないぞ、アンジェ。謝るには及ばぬ」
とジュリアスが慰めるのを見て、クラヴィスがまたむっとした顔をした。例によってジュリアスがアンジェにばかり優しいと不満なのに違いない。
ほんとに、甘えっ子なんだから。
だがクラヴィスだっていい大人だ。ただの甘えっ子ではない。紛糾する中とある提案をしたのである。
「議論はそこまでだ。誰かが『ぬすむ』を覚えれば済む話であろう? 私が盗賊になる」
確かにこれは誰かが盗賊になって、「ぬすむ」というスキルを覚えないとクリアの難しい(っていうか無駄に時間のかかる)依頼なのだ。クラヴィスの案は現状打開策としては最適だ。
「そなたが? 盗賊に?」
自主的に積極的に自分が盗賊になる、と宣言したクラヴィスに、ジュリアスはびっくり顔。
「どう考えても私以外の者には勤まりそうにないではないか。
アンジェは人の好い天使様だから無理そうだ。かといってお前もヴィクトルも硬骨漢で、盗賊の技を覚えようなどという柄ではなかろう…」
本人言うとおり、この面子の中では一番盗賊が似合いそうなのはクラヴィスである。
「ですがクラヴィス様。汚れ仕事をあなたに押しつけるのも申し訳ない」
「良いのだ。皆の役に立てるなら、私はそれで嬉しい」
「クラヴィス…」
ジュリアスは感動の面持ちでクラヴィスの言葉を聞いた。
「そなたもやるときはやるのだな」
「…フッ…まあな」
そうして翌日ダーマ神殿に行って転職したクラヴィス、当然ながらレベル1の盗賊は体力ナシナシ。またいっぱいジュリアスにかばってもらえて、無表情の仮面の下でとてもハッピーなのだった。
クラヴィスとしては、自分がオシャレであることは大切だけど、大好きなジュリアスがキレイなほうがどっちかと言えば嬉しい。
ジュリアスは美しい。文句なしにきれいだ。1年365日朝から晩まで眺めていたい、そのくらいにきれいだ。特に賢者のときの、さとりの○○という防具類を装備しているジュリアスは最高に美しい。さすが私のジュリアスだ、とクラヴィス的にも鼻高々なのである。
でもこれには問題もあって、ジュリアスの魅力の数値があんまり高すぎると、まものまでがジュリアスに見とれてしまうのが何とも腹立たしい、というジレンマに悩むことになる。
私のジュリアスなのに!!
ボストロールの分際で見とれるな!!
ハート模様を飛ばすな、気持ちの悪い!!
このタコがっ!!
と、まものを倒すのにも力が入る。
ジュリアスに見とれているまものは、ぼーっとして闘うのも忘れてにやけているから多少なりとも戦闘は楽になるし、クラヴィスは会心の(というか怒りの、かもしれない)一撃だって出やすくなるし、ジレンマはさておきジュリアスの魅力は大いに役立ってはいる。
だが、さらに別の問題点あり。ジュリアスがきれい過ぎて、クラヴィス自身が見とれてしまうのだ(笑)。
特にこの前なんか、テンツクか何かの踊りに誘われてジュリアスが踊りだしてしまって、そのあまりのかわいさに思わず見とれて、ビビビビッとシビれた挙句に自分が動けなくなりそうだった。
味方のせいで戦闘中に動けなくなるなんて、チョー駄目って気がする。それも、ジュリアスのというよりは自分のせいなのだから、要するにチョー駄目なのは自分なのである。
ジュリアス、あまり私を困らせないでくれ…。
お前の咎ではないが…魅力的過ぎるのは本当に困る。
自分がチョー駄目だと認めるのは情けない。まあそれも愛ゆえと言えなくもないのだから、そんなに悲観したものでもないかもしれないけど、実際問題として戦闘中にそれでは危険だ。動けなくなるのは困ると心底思ったので、そんなことがあった日の晩、ジュリアスに直談判に及んだ。
「まものまでがお前に見とれるのが腹立たしい」
そんなこと言われてもジュリアスも困る。
「それは……勝手に見とれて動けなくなってくれれば、こちらとしては願ったり叶ったりではないか」
「わかってはいるのだが…」
どーーーーしても腹立つんだもん!
とクラヴィスはむくれている。あ、今の論点はそこではなかった。
「頼むから、せめてまものにつられて踊らないでほしい…」
「なぜ急にそんな話になる? たまにそういうことがあっても仕方ないだろう。まものの術中にはまることもある」
「お前に見とれて私がしびれて動けなくなって、しゅくふくのつえが使えなくなってもよいのか」
って言うか。
魔法戦士の自分はあまりすばやくないから、それでなくてもジュリアスの手当てが間に合わないんじゃないかって気が気じゃないのに、さらにしばらくの間動けなくなるなんてことになったら。
その間にジュリアスが死んでしまうかもしれないではないか!
そんなことになってたまるか!
たとえせかいじゅのはがあったって、パーティの誰かが復活の呪文を使えたって、ジュリアスが死ぬなんてこと自体が許せない!!
クラヴィス、ものすごく真剣。
ジュリアスはその様子を見て困った様子でため息をついた。
「わかった、気をつけるとしよう。だが……」
口ごもったジュリアスに、クラヴィスは問いかけた。
「何だ?」
「いや、よい。大したことではない」
「…本当に?」
「ああ」
それでも不審そうな表情のままのクラヴィスににっこりと笑いかけると、「そろそろ夕食の時間だ、食堂に行くか」と促したのだった。そんなジュリアス様の思っていたこと。
私とて、まものがそなたに見とれているのを目の当たりにして、腹立たしく思わないわけではないのだぞ、クラヴィス。
あーあ、それ言ってあげればいいのに。ジュリアス様のことだから、どうせ「私の個人的感情など大したことではない」とか思っていらっしゃるに違いない。
すれ違い通信でいろいろな地図をもらえます。だけどこれがよーわからんのです。そういう話。
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「この地図はもう少し何とかならぬものか!」
ジュリアスがむかっ腹を立てて、それまで世界地図と照らし合わせながらガン見していた宝の地図をまるめて壁に向かって投げつけた。
ジュリアス様にしてこんな坑道を、もとい、行動を取ってしまうとは、相当にイラついていらっしゃる模様。
「地図とは名ばかり、まるで子どもの落書きではないか! そなたも場所の特定を手伝ったらどうだ!?」
クラヴィスはそんなジュリアスを横目で見て、フッと笑った。
「だから適当にしておけと言っているのに。わかりやすい目印があるものや、独特の地形ですぐに特定できるものだけ攻略していけば十分ではないか。その『子どもの落書き』のような地図では、場所がはっきりわからずとも仕方なかろう」
「だいたいだな、この世界地図も世界地図だ。もう少し大判であれば見やすいと思うのだが、このサイズでは」
テーブルの上に広げていた小さな冊子の中の世界地図のページを指で弾いて、ジュリアスはため息をついた。
「細かい部分がさっぱりわからぬ。これでは地図とは呼べまい。天の箱舟で上空から地上を眺めて位置を特定しようにも、箱舟が飛ぶ高度が高すぎて地上の様子がよくわからぬのは参った……」
「落ち着け、ジュリアス。そこまで躍起になるほどのことでもあるまい。別にすべての地図を制覇しなければならぬわけではないのだからな…」
「だがせっかく手に入れたものをただ捨てるというのも気が引ける」
そんなところが苦労性っていうか、生真面目すぎるジュリアス様である。
「どちらにしても携帯できる宝の地図の数は限られているのだ。ある程度のところで見切りをつけて処分するほかあるまい」
「そうは言うが使ってもおらぬものを捨てるのは……どうもな」
まだ思い切れない様子である。
実はジュリアスが寝入った後で、クラヴィスはレベルの低い地図を適当に選んでは丸めて投げ捨てている。
「本当に、あれの性分にも困ったものだ…」
と呟きながらせっせと地図の仕分けをするクラヴィスのことを、ジュリアスは知らない。
- 続くかどうかは未定 -