All You Need Is Love


3. どないせいっちゅーねん

取り残された首座様、そこでいつまでも突っ立ってたって仕方がない。正気づいてみれば自分のこの様子はお間抜けすぎることに思い至り、一人ひそかに赤面した。こそこそと辺りをうかがって(威厳なさ過ぎ(笑))誰にも見とがめられていないらしいのを確認すると、しゃんと背筋を伸ばして何事もなかったように自分の執務室に入って椅子に腰を下ろした。途端にどっと疲れが襲ってくる。光の守護聖ジュリアス、純情一途の25歳、恋しい相手から受けたハートの傷に、今日はもうとても動けない気分だった。
朝からこのように疲れていては、一日保たぬかもしれぬな……。
ぼうっとそんなことを考え、そしてそんな場合ではなかったのだと気を取り直そうとした。なにしろ原因不明で守護聖の一人が女性化してしまったのだ。これを事件と言わずして何と言おう。
それも……女性化したのがよりによってクラヴィスときている。

ジュリアスは頭を抱えた。先ほどのクラヴィスからの愛の告白を待つまでもなく、二人は男同士という障害をものともせず愛し合う間柄だ。お互いの気持ちを確かめ合ってからすでに数年、キスだけじゃ物足りない大人としては当然やるべきこともやってたりする。男同士でだってできるとクラヴィスに教えられたときには驚き、「できる」というその行為の実体が純粋培養ジュリアス様の知っている自然の理からは大きく逸脱していることに戦き、しかも自分がいわゆる「受け」をさせられると知ってそのようなことができるかと抗議した。「愛し合っているというその事実だけで充分ではないか、何もそのようなことまでしなくても……」というのがジュリアスの言い分だったが、クラヴィスに抱きしめられて耳元で「愛しているからこそお前とひとつになりたい」と囁かれては抵抗もできなくなった。
そんな具合で不承不承飛び込むことになった新たな世界だったが、経験してみて愛の行為は二人の絆を深めてくれるものだと理解した。愛し合う者同士がキモチイイことするのに男も女もないことは体験学習済みだ。

男とだってあれだけ……その……心地よいのだから、より自然だと言える女性相手ならさぞかし(どきどき)……というのも良いかもしれぬ……。
いやいやいやいや。←思わずぶんぶん頭を振ってたりする
肝心なのはそういうことではなくて。
………………………………。←しばし、沈思黙考
いや。やはりそういうこと……も、含めて考えるべき問題ではあるが。←真面目に「攻守交代」についても考えていたりする
愛があれば相手の性別などどちらでもよいこと。何をうろたえる必要がある?←ジュリアス様、うろたえている自覚あり
私はクラヴィスを愛している。女性になってもクラヴィスはクラヴィスだ。私の愛する相手だ。ならばかまわないではないか。
……むしろ、これまでは周囲には絶対に秘密の仲だったのが、晴れて男女の恋人になれるなら、その方が好都合と言えなくもない。世の中やはり男と女の組み合わせが幅を利かせているのだし、この際だから公表してしまって一気に結婚、という可能性だって考えられる。だがクラヴィスの女性化は永久的なものかどうかはわからぬ。
そんなことをぐるぐるぐるぐる考え続け、堂々巡りの輪の中にはまりこんでいた。

その朝、クラヴィスが女性になったという噂は宮殿中を駆けめぐった。守護聖全員、その噂の真偽を確かめるために入れ替わり立ち替わり闇の執務室を訪れる。
オリヴィエは顔を合わせて開口一番「クラヴィスびっじーん! お化粧させてよね☆」とやって追い出されたが、それでめげるような神経ではオリヴィエ様は務まらない。「あらま、そういう態度取るワケ? だったらいいよ、こっちにも考えがあるさ」にんまり笑うと、その足で女王補佐官のところへご注進にと及んだ。
「クラヴィスが女になっちゃった噂は聞いてる? なら話は早いよ。今会ってきたんだけどね、見とれちゃうような美人なんだコレが☆
なのにさ、クラヴィスってばまともなドレスはおろか、ちゃんとしたランジェリーも着けずにいるなんて、美を愛する私としては許せないね(触ったわけでも尋ねたわけでもないのにランジェリーのことまでしっかり観察しているあたり、さすがと言うべきか)。
あのままじゃせっかくの体のラインが崩れちゃう。何か見繕ってちゃんと身なりを整えさせないと」
それを聞いたロザリアは「まあそれは大変!」という口実で闇の執務室に押しかけた。有能な女王補佐官は、しぶるクラヴィスを説き伏せててきぱきとスリーサイズを測り、チャーリーの手持ち商品の中から合いそうなものを回してもらい、着替えさせた。こういう事態になることを予測していたかのような、今のクラヴィスのサイズにぴったりの、胸元の大きく開いたシルバーグレイのロングドレスは恐ろしいほどよく似合った。

「すてきですわ……」
ほれぼれとその姿を眺めたロザリアだったが、画竜点睛を欠いていることに気づいて、眉を曇らせた。
「せっかくドレスアップしているのですもの、オリヴィエ様に軽くお化粧していただいたらもっと映えますわ」
「…待て。この上化粧までさせるのか? それはかんべ」
クラヴィスの言葉をさえぎって、闇の執務室の扉がばーんと派手な音を立てて開かれた。
「んふふっ! いよいよ私の出番ってわけだね」
オリヴィエ様の登場である。もちろん化粧道具一式を入れてあるボックス持参だ。
「ほらやっぱり、あんたってばドレスがよく似合う。プロポーションもカ・ン・ペ・キ。……さてと……お化粧は明るいところでやらなきゃね」
と、闇の執務室の分厚いカーテンを引き開けた。そうしておいて、文句を言う暇も与えずにクラヴィスを窓に近いところまで引っ張ってくる。まぶしい光が射し込み、まるで別の場所のようになった闇の執務室で、オリヴィエは楽しそうにクラヴィスに化粧を施した。これで真に完璧な美女の一丁上がり。
その後やってきたオスカーは思わずクラヴィスの手を取って熱い愛の言葉を囁き始めたし、リュミエールはうっとりとクラヴィスを見つめながらつきっきりで世話を焼いている(それっていつもと変わらないって気もするが)。お子様三人組はそろってやってきて、ドレス姿のクラヴィスを見て胸の谷間に目が釘づけ。異変が起こったと聞いてやってきたルヴァはクラヴィスを見て血を吹いた鼻を押さえつつ、「あ゛ー、すびばせん……ばたあとで来ばすで〜(=あー、すみません……またあとで来ますね〜)」と速攻で帰っていった。
日頃は静かな闇の執務室が、大騒ぎになっているのだった。

そんなこんなで、その日の闇の執務室は一日中人の出入りがあって何かとうるさかった。クラヴィスは、退屈しのぎをはるかに通り越したレベルで周囲が騒ぎ立てるのにうんざり。こんな騒ぎになるくらいなら朝はもう一度寝直して、そのまま休みを取るべきであった、と後悔していた。
最初のうちこそ楽しかったが、ロザリアに強制されて体を締めつけるランジェリー及びぴったりぴちぴちのドレスを着せられて窮屈この上ない。そしてオリヴィエは「お化粧直しだよ」と言っては入り浸る、ついでと言っては髪をいじられる、当然部屋のカーテンは開け放たれたままで、形容矛盾を恐れずに言うならば明るい闇の執務室になってクラヴィスは落ち着かない。さらに、オスカーは色目を使う、リュミエールはまとわりつく、お子様トリオは興奮状態で出たり入ったり、ゼフェルは顔を赤くしながら半分にらむように見る、ランディはとんぼ返りをする(なぜ?)、マルセルはひたすら手作りクッキーを勧め続ける、鼻の穴に丸めたティッシュを詰めたルヴァは事情聴取に来る、そして果ては女王陛下までがロザリアを伴って台風のように訪れ、きゃいきゃいとひとしきりはしゃぎ回って去って行く、みんな揃って部屋の主の気持ちなんかおかまいなしの大騒ぎである。
クラヴィスは長椅子でぐったり。でもそれはいつものけだるげな様子と見分けがつかないものだから、実はぐったりして死にそうだなんて誰にも気づいてもらえず、周囲の大騒動は果てしなく続くのだった。
このような騒ぎになっているというのに……普段ならばお前は日に数回は顔を見せるというのに……なぜ今日に限って姿を現さぬ、ジュリアス!
私を……助けてはくれないのか……?

一方、クラヴィスにこんなに助けを求められているというのに恋人ジュリアスはどうしていたのかといえば、頭を抱えっぱなしで悩んでいた。
クラヴィスとの今朝のやりとりによる精神的な疲れに加えて隣室の絶え間ない騒ぎが聞こえてくる。ついには悩みすぎてオーバーヒートした頭が痛み出す、何だか熱まで出てきたような気がする、もうよれよれである。守護聖の首座様がそんなヤワな神経で務まるのか?とつっこみたいところだが、それもこれもクラヴィスを愛するがゆえであった。他のことならば常に冷静でいられるジュリアスも、クラヴィスが絡むと意外に動揺しやすい。隣室の騒ぎだって、本来ならば職務に励むべき執務時間にパーティかと疑うほどのてんやわんやぶり、首座としては一喝しに行きたいところなのだが、女クラヴィスと顔を合わせなくてはならないことを思うとその気持ちが萎えてしまう。
なぜだ。
顔を合わせたくないのはなぜなのか、自分でもよくわからなかった。そう言えば、男だった頃のクラヴィスのことはあまり気をつけて見たことがなかったことに、今さらのように気づいた。何しろ幼なじみで呆れるほど昔から知っている人間を、そうしげしげと眺めたりはしないものだ。
それでも恋を自覚したころは相手のことが気になって仕方がなくて、でも堂々と正面から見つめるなんていうことは恥ずかしくてとてもできずに、しょっちゅう変な角度から無理やりクラヴィスの姿を視界におさめては目がおかしくなったりした。そして晴れて愛を確かめ合った当初は頬を染めて見つめ合ったりもしたものだが、わりない仲となってすでに数年、いくら見つめてもクラヴィスはクラヴィスでしかないからいつの間にか顔を注視することなんかなくなっていた。ふとした拍子にきれいだと思うことはあったのだが。
ところが女になったクラヴィスときたら、ジュリアスの目を惹きつけてやまぬほどの美しさだ。隣室の騒ぎから察するに、ジュリアスの目だけではなく他の者たちの目も惹きつけてやまないようだ。女になったクラヴィスが珍しいということもあって群がっているのだという点を割り引いても、自分の恋人がそんな美人なんだからひそかにうれしく思いこそすれ気まずく思う理由はないはずだ。いや実際、本音を言えばジュリアスだってずっと眺め続けていたい。眺めるだけじゃなくてそれ以上だってしたい。けれども執務時間に鼻の下を伸ばして見とれたり、「それ以上」をするわけには行かない。
それよりも問題なのは、隣室に踏み込んで他の男達にちやほやされる恋人の姿なんかを目の当たりにしようものなら、自制心なんか消し飛んじゃって、独占欲むき出しで他の者たちを追い払いそうだということだ。「なんでジュリアス様はあんなにムキになるんだろう?」と疑われ、今まで秘密にしてきたクラヴィスとの仲が公になるという、絶対に避けたい事態に陥る危険があった。あれこれを考え合わせると、確かに今のジュリアスはとても隣室に行ける心理状態ではないようである。

私は……ただ慣れていないだけなのだ、女性になったクラヴィスに……。
クラヴィスは変わらずクラヴィスで、性が変わっただけだと本人も言うし、その通りだとは思う。だがしかし。
そなたの姿が変わったために私自身の気持ちの整理をする必要が生じたのだ。
心変わりをしたわけではない。断じてそれはない。そうではなく、愛しているからこそいろいろと考えてしまうではないか。

今度は何を考えたのか、だだっ広い執務室の中、ジュリアスは一人で顔を赤らめていた。


4. めっちゃええ感じ

その夜、光の館の私室でジュリアスはこの先女クラヴィスとどう接したらいいのかと悩みながら、めったに飲まない強い酒を口にしていた。予想もしなかった事態に、酒の力でも借りなければ眠れないような気がしたのだ。
結局その日は朝会ったきりクラヴィスとは顔を合わせていない。王立研究院の人間やルヴァがクラヴィスの異変についてあれこれ調べていたが、何もわからずじまいだった。なぜ女になったのか、いつ元に戻るのか、それより何より「戻る」ことはあるのか、何も解明されていない。
一日で片がつくことだとは思っていなかったが……。
グラスを傾けつつ物思いに沈んでいたが、バルコニー側の窓に微かなコツコツという音を聞きつけ、そちらに目を向ける。クラヴィスだった。彼は時おりこういう訪問の仕方をする。館正面の扉など無視して、直接ジュリアスの部屋へとやってくるのだ。
「どうした?」
バルコニーに続く窓を開けて中に入れてやりながら、ジュリアスは問うた。答えはない。アメジストの瞳がジュリアスを見上げたかと思うと、抱きついてきた。(注:クラヴィスの主観ではジュリアスを抱きしめたつもりだったのだが、身長差があるので、どうしてもジュリアスに抱きついて胸に顔をうずめる形になる(笑))
うわ。

いきなり胸に飛び込んできたクラヴィスに、ジュリアスは大いにうろたえた。そりゃ今までだって何度も抱きしめ合った仲だけど。胸の中にすっぽり入るサイズのクラヴィスを抱きしめるという経験は初めてだった。それに……やっぱりどうしたってクラヴィスの胸のほわほわむにゅむにゅが気になる。気にするまいと思えば思うほど気になって仕方がない。
ジュリアスだって生身の男だし。
相手は愛する恋人だし。
深夜の訪問は昼間のそれとは自ずと意味も違うし。
ジュリアスの胸に自分から飛び込んでもきているし。
ってことは、何されても文句はありませんってことと同義と言えるわけで。
そのやわらかい部分に触れたいと思ったって、誰も彼を責めることはできまい。今なら朝の宮殿と違って他人の目に触れる心配もないのだから。それでもジュリアスは鉄の自制心で、腕をクラヴィスの背中に回すだけにとどめたのだった。
「どうしたのだ、このような夜半に? そなたのような……女性(←ものすごく言いにくいらしい)……が、一人歩きをするのにふさわしい時間とは言えぬぞ」
「…なぜ?」
「なぜ、だと!? わかりきったことだ。それは今のそなたが見目麗しい女性だからだ! いくら聖地が安全な場所だからといって油断は禁物だ!」
「……私が聞きたかったのは、そうしたことではない。
なぜ、昼間は私の執務室へ立ち寄らなかった? あれほどに皆がうるさくしていたのが聞こえなかったはずがなかろう?」
どき。女クラヴィスから逃げていたことがバレバレらしい、と内心で焦るジュリアス様である。焦りまくりながらも、何とかもっともらしい言い訳をひねり出した。
「それはだな……皆が騒ぎたくなるのも仕方のない事態ではあるし……今はさして大きな問題は起こっておらぬゆえ、たまには自由にさせておくのもよいかと……」
「だが私は…うるさくて頭がおかしくなりそうだったのだ。が、あれほどの騒ぎになればお前が来てくれて皆を追い払ってくれると思っていたのに、肝心なときに全く姿を見せぬし…。
やはり女になった私などもう愛していないから、そのように冷たい態度が取れるのだな…」
しっかりと抱きつかれて、少女漫画的お星様きらきらの瞳で見上げられつつそんな風に言われて、しかも押しつけられているほわほわむにゅむにゅにも刺激を受け続けて、ジュリアスの理性はぷつんと切れた。普通だったら絶対に言えない、頭に血が上っている今じゃなきゃ死んでも口にできないような気恥ずかしい台詞が飛び出した。
「今朝も言ったではないか、愛していると! 何度言わせれば気が済むのだ!
私はそなたを愛している。誰よりも何よりもそなたを。そなただけを愛している!
そなたがクラヴィスだから私は愛した。性別など関係ない。
それを問題にするなら、そもそも男であるそなたと恋に落ちたりするわけがない!!
今さら私の愛を疑うのか?
はぁはぁはぁ。
ジュリアス様、一気にそれだけを言い切ると、肩で息をついている。息継ぎも忘れてまくし立てたらしい。
クラヴィスはジュリアスの一気呵成の愛の言葉にふわりと笑った。めったにそんなことは言ってくれない相手の怒濤の告白はクラヴィスを酔わせた。
女になってよかった……。
「では…口づけを…」
目を閉じてキスを受ける態勢になったクラヴィス様。
食べちゃいたいほどカワイイっ! きつーく抱きしめて貪るようなキスをしたいっっっ! と思っても、この期に及んでなんか気後れのジュリアス様。どうも女性に積極的に出られるのは苦手なようなのだった。
なかなかジュリアスの唇が触れてこないのでクラヴィスが目を開いた。なぜしてくれないのか?とその瞳は問いかけている。
「クラヴィス……」
「私の方からしたくとも、届かないのでな…お前がかがむか、そちらから口づけてくれなければできぬ。…フッ…不便なことだ…」
その言葉に弾かれたようにジュリアスが動いた。頬を両手で包んで、最初はそっと。そして激しく。唇を触れ合わせ、舌をからめ合う。長い長いキスのあと、ジュリアスはすっかり力の抜けたクラヴィスの体を抱き上げた。

なんかこれ、めっちゃええ感じや〜〜〜〜!

という俗な言葉でこそなかったが、ジュリアスが思っていたのはまさにそういうことだった。だって今のこの状態、これこそが、クラヴィスと恋愛関係になる以前にジュリアス様が漠然と思い描いていたところの「正しい恋愛」であり、この先には「正しい情事」が待っているんだから。
男同士でも行為自体は男女とそうたいした違いはない。
でもでもでもっ。保護欲をそそる華奢な骨格、腕の中にすっぽり収まる柔らかい体は男の筋肉質の体とは全然違う。天と地ほどにも違う。月とすっぽんほどにも違う。風が吹けば桶屋が儲かる、猫に小判、豚に真珠、五十歩百歩で大器晩成。興奮のあまり、今のこの状況とは全然関係のない言葉がジュリアスの頭の中をものすごい早さでスクロールしている。
彼の頭の中を駆けめぐるどうでもいい言葉の群れは放っておこう。
生まれて初めて自らの腕に抱いた妙齢の女性が愛するクラヴィス、今は色っぽい美人と化している恋人だ。女になってからは手を握ってキスしただけだけど、男だったときに同じベッドで朝を迎えたことは多分273回くらいはあるはずだ。いかに自制心の強いジュリアスだって、そこまでよく知りあっている相手とこうなったからには、やることはひとつ。当然の如く彼の足の向かった先は、寝室であった。
天蓋付き巨大ベッドにクラヴィスを横たえると、ジュリアスはもう一度口づけた。先ほどのキスで充分に官能を刺激されていたクラヴィス、ジュリアスの下半身に響くような声で喘いだりなんかして。頤、首から鎖骨へと唇が下りていく。クラヴィスの喘ぎは止まらない。ジュリアスの鼓動は激しさを増し、頭の中をスクロールする無関係語群もまた増殖の一途をたどるばかり。
その夜二人はノーマルな男と女のカップルとしての歓びを満喫した。
注:18禁描写はありません。隠してあるわけでもないので、探さないように(笑)

そうして一時の嵐が過ぎ去ったあと、なおもベッドの中でキスしてるんだか話をしてるんだかという状態が続いていた。
「しかしジュリアス…私はいつまでこの体なのだろうな」
「さあ……私はこのままでも一向にかまわぬが」
「お前がかまわなくとも、私の方がかまうのだ…。私とてお前を抱きたい」
女になって良かったと思ったのはついさっきのことなのに、今度は女であることを残念がっているクラヴィス。 美女の口からあまりにストレートにそんなことを言われて、ジュリアスはまっかになり、次いで青ざめた。
「まったく、なんということを言うのだ。……今のそなたに不満はないが、女である自覚がないところが欠点だな」
「フッ…にわか仕立ての女だ、自覚を持てと言われたところで、そう簡単にできるものか…」
ベッドの中で身を寄せ合い、互いの熱を感じながらの会話は官能の熾火をかきたてる。誘うようなアメジストの瞳に吸い寄せられるように熱く口づけると、そのまま二人は再び快楽の海へ一直線。

周囲には内緒のままの恋人たちは、それまでとはひと味違う夜の歓びに目覚めてからというもの夜毎求め合うのだった。



この後クラヴィス様がどうなったかって?
えー、この異変は一ヶ月ほどで自然に終息して、クラヴィス様はめでたく男として聖地再デビュー。
彼(女)に恋する男どもをがっかりさせたのでした。
そして恋人ジュリアスとの仲ですが。
「愛する人を抱く」歓びを覚えてしまったジュリアス様に二度目のバージンを奪われたらしいです。
クラヴィス様は余裕の笑みで「経験してみれば受けも悪くはないな…」と言ったとか言わないとか。
愛あればこそでしょうか。人間、必要なものは「愛」でございます。

さらに、すそを切られた私服がどうなったか気になるという方へ。
クラヴィス様、侍女にすその始末をしてもらって、私室で着用なさっています。「その格好で外をうろつくのはやめろ」とジュリアス様に厳命されて散策の時などに着るのは諦めざるを得なかったようです。
「風通しが良くて気持ちがよいのに…」とはクラヴィス様の弁でした。




【memo】守護聖様女性化ネタ。2002年に書いたもので、今回例によって少し手を入れてます。男×男で攻めが女になっちゃったら困るかなと思って書いてみたのですが、クラヴィス様は全然お困りじゃないようでむしろジュリアス様が(笑)。
女性化の原因は特にありません。聖地はふしぎなことが起きる場所だから、そういうこともあるサってだけ(考えるの面倒だったからそれで許してください)。
タイトルはビ○トルズの曲からの拝借でした。




■BLUE ROSE■