闇様&光様ご生誕記念小話


2014ジュリアス様ご生誕記念: Happy Birthday

守護聖の誕生日には、補佐官主催の昼食会が行われることになっている。宮殿の特別食堂に守護聖たちが集って、誕生日を祝う。
クラヴィスが聖地に来て初めてのジュリアスの誕生日にも、恒例の昼食会が行われた。これはパーティというほどの大げさなものではなく、昼食を共にして、その日の主役に皆からそれぞれプレゼントが手渡されるという大人仕様の祝い方であるのも、いつも通り。

ジュリアスは生家にいた当時もそれ以後も、子どもらしい誕生日のパーティというものを経験したことがなかったので、そうした祝い方について何の疑問も抱いていなかった。そんなジュリアスを不憫に思っていた光の館の者たちは、せっかく同年代の守護聖様が新しくいらしたのだから、とクラヴィスだけを招いて、子どもオンリーでジュリアスの生誕の日を祝おうと思い立ったのである。

子ども二人だけの誕生祝いは、単に二人が存分に遊ぶためだけにセッティングされたもの。この日はクラヴィスは初めて光の館に泊まることになっていて、ジュリアスは顔には出さないもののわくわくしながらその日を待っていた。誰かが光の館に泊まってくれるなんて、これまでになかったことだ。一緒に食事をして、一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って。何もかも二人で一緒にすることが物珍しくて楽しくて、あっという間に一日の終わりが来た。
「そろそろお休みになりませんと」
と言われて、ジュリアスは残念そうにクラヴィスに、
「ではまた明日。おやすみクラヴィス」
と就寝のあいさつをした。するとクラヴィスがひしっとすがりついて、
「また明日ってなに? いっしょにねようよジュリアス」
と言うのだ。一緒に寝る? それまで誰かと一緒に寝たことなどないジュリアスは、困惑の表情になった。
「寝るときは一人になるものであろう?」
「やだ。いっしょにねる!」
腕にしがみついたクラヴィスをどうしていいかわからず、助けを求めるような瞳で執事を見た。
「ご一緒におやすみになられたらよろしいのでは?」
微笑と共に言われて、ジュリアスはうなずいた。クラヴィスのために客室も用意されていたが、結局その部屋は使われることなく、ふたりはジュリアスのベッドに一緒に入った。

ではごゆっくりお休みなさいませと側仕えも下がってベッドの中で二人きりになったところで、クラヴィスはジュリアスの耳元に何ごとかをささやきかけた。それはジュリアスの知らない言葉だった。
「何と言ったのだ、クラヴィス」
クラヴィスは少し考えてから答えた。
「生まれてくれてありがとう、って。ぼくたちのことばではそう言うんだ。たんじょうびをお祝いすることばだってかあさんが言ってた。だいじなだれかがこの世に生まれてくれたことにありがとうっていうイミなんだよ」
生まれてくれてありがとう、そんなことを言われたのは初めてだった。実の親からですら、そんな言葉を言ってもらったことはなかった。単に文化的な違い、民族による習慣の違いであると言ってしまえばそれだけのことかもしれない。それでもその言葉はジュリアスの心の中に大切にしまわれた。クラヴィスが心底そう思ってその言葉を口にしてくれたのが伝わってきたからだ。初めての友達から誕生日にもらった、とてもとてもあたたかくて嬉しい言葉。
自分も、クラヴィスの誕生日にはその言葉を返そう。

「クラヴィス、もう一度言ってくれないか」 少しためらいがちにジュリアスが頼むと、クラヴィスは「生まれてくれてありがとう」と笑顔で言った。
「……できれば、そなたたちの言葉で。もう一度聞きたいのだ」
クラヴィスはジュリアスの耳に唇を寄せて、祝いの言葉をささやいた。


2014クラヴィス様ご生誕記念: 大人げない大人の言い分

ジュリアスが、彼らしくない悩みにとらわれるようになったのは、通いの家政婦の些細な一言がきっかけだった。
「クラヴィス様やジュリアス様のお子様だったら、おかわいらしいことでしょうね」
それに対してジュリアスは曖昧な微笑を浮かべた。
どう答えれば良いというのだろう? クラヴィスとジュリアスは人生のパートナーではあるが、二人の間に子どもができることはあり得ない。
「あら私ったら。よけいなことを申しました。ふと思ったものですから」
彼女に悪意のないことはわかっている。が、時として悪意のない言葉が鋭い刃物となって胸を刺すこともあるのだ。それは常日頃は考えないようにしていることをジュリアスに意識させた。

子ども。
私もクラヴィスも互いを選んだ時点でそれはあり得ないこととして考えなかった。

どうしても子どもが育てたければ養子を取ることもできる(男性同士のカップルがそれほど奇妙な目で見られることのないこの時代でも、養親となることが認められるケースは比較的少ないことにはとりあえず目をつぶってはいたのだが)。どちらにしても、子を育てることが自分たち二人にできるかということもあり、まずあり得ない選択であった。人生のパートナーは子を作るために選ぶわけではないのだ。相手が自分にとってかけがえのない存在だと思うから共に暮らしたい、そこが出発点だと二人は考えている。たまたま相手が同性であったから二人の間に子ができることはない。だがそんなことは二人の関係に何の影響も及ぼさない。そのはずだった。
しかし家政婦に言われたその一言は、割り切っていたはずのジュリアスの心に少なからぬ影響を及ぼした。クラヴィスが自分を選ばず普通に女性と結婚していたら、その胸に赤ん坊を抱いているかも知れない。血を分けた、我が子を。

夜の睦言の果てに、そんな心情を吐露していた。するとクラヴィスが言った。
「子ども? なくてよい」
本当に、ためらいもなく一言の下に。意外なほどにあっさりと、子どもなど要らないと言う。今までの自分の悩みは何であったのかとおかしくなるほど、クラヴィスの言葉には迷いがなかった。
「そなたは意外と子ども好きだと思って見ていたのだが」
公園などでボール遊びをしている子どもに笑顔で投げ返してやったり、思っていたよりもずっと接し方が優しいということに気がついたのは、外界で暮らすようになってからだった。聖地にいた頃、二人の周囲に幼子はいなかったために、そんな姿を見ることがなかったので知らなかった。自分よりもずっと、クラヴィスは子ども慣れしているように見えた。子どもの相手をするのが様になっている。父となり、赤子を抱き上げる姿すら容易に想像できるくらいに。
「子どもは嫌いではない。だが家族として迎えるのは別の話だ」
養子を取っても、とまで思いつめた自分の気持ちを知っての言葉だろうか。
「お前は私だけのものだ。たとえ子どもでも、私と同等に近しい人間ができるのは許せぬな」
真面目な顔をして、そんなことを言う。思わずジュリアスは吹き出した。
「……大人げない奴だ」
それに対してフッ、と笑った顔は大人の顔で。それでも言うことは子ども並みで。
「お前に関してだけはな。誰にも譲る気はない」
だからこのままで良い、という言葉が耳をくすぐる。
「それに私と共にあることで子を成せぬのは、お前とて同じではないか。私はいくら愛するお前のためであっても、子を産んでやることはできぬ。お互い様だ。お前が気に病む必要など微塵もない」
互いを選んだ時からわかっていたこと。
それを今更言い出して何になる…?
私はお前がいてくれればそれでよい。
お前は…そうではないのか。

答えようとしたら、優しいくちづけで唇をふさがれた。

ああ、私も。そなたさえいてくれるのなら、他には何も要らぬ。


2015ジュリアス様ご生誕記念: 二度寝

薄闇が明るんでいく。目が覚めてからしばらくの間、周囲が次第に色鮮やかに変貌していく様を何とはなし眺めていた。普段はこんな風に何も考えることなくベッドの中で過ごすことはない。目覚めれば即座にスイッチが入ってその日やるべきことが頭に浮かび、てきぱきと動き出すのがジュリアスの常だ。
日の曜日であることも影響しているかもしれない。といってもジュリアスに関して言えば、日の曜日だからといって何の予定もないなどということはまずないのだ。休みの日には愛馬の様子を見に行こう、あの本も読みたい、そう言えばチェスの新しい棋譜を手に入れたのだったなどという具合に、職務を離れたところでやりたいことはいろいろある。けれども恋人を傍らにしているとなれば、さっさとベッドから出ようという気になりにくい。

黒髪の恋人は静かに寝息を立てている。
よく寝る男だと思い、ふっと口元に笑みが浮かんだ。本人の弁によれば眠りは浅い方であるらしいのだが、ジュリアスがいるときはその限りにあらず。特に朝は必ずと言っていいほど熟睡している様を見せつけられることになる。
以前、寝ぼけ眼の恋人にからかいをこめて言ってみたことがあった。
「眠りが浅いたちだとか言ってはいなかったか?」
「なぜか知らぬがお前がいるとよく眠れる…」
と悪びれたふうもなく言う。
「またそのように適当なことを言って」
「と言われても、本当のことなのだから仕方なかろう」
片肘をついているジュリアスにじゃれついてくる男の背をなでてやりながら、この図体で甘えられてもな、とため息をついたものだ。
「甘ったれで悪かったな。だがこれはお前のせいだ。お前がいつも兄貴風を吹かすからこうなった」
「いったいいつの話をしている」
「さて…15年ほど前のことであったか…」
「その後そなたはすっかり可愛げがなくなってひねた男に育ったくせに」
と、そんな会話をしたのだったが、ひねた男であっても寝顔は案外と可愛い。
平和な寝顔を眺めているうちに、ジュリアスもまた、いつの間にか眠りに落ちていた。恋人といるといつになくよく眠るのは、クラヴィスだけではないらしい。





■BLUE ROSE■