星の数だけ
庶民派の成歩堂が青ざめる程の税金を払っている資産家だし。
舌は肥えているが、成歩堂の作ったものが一番美味しいとニコニコするし。
身に付けるものは、誕生日に贈ったばかり。
さて、初めて『家』で過ごすクリスマスを、どう演出したらよいのだろう?
「クリスマスはパスしても、いいんじゃないかな。―――悪魔だから」
最後に聞こえないよう、しかしぎりぎり聞こえる音量で付け加えられた言葉に、成歩堂は一瞬詰まった。成歩堂にとっては神にも引けを取らない位愛情深い巌徒でも、『悪魔』呼ばわりされる一面がある事は否定できないから。
「うーん。でも、日本のクリスマスって宗教色は薄いですし」
苦し紛れに、そう言ってみる。
偶然(と成歩堂は思った)出会った直斗からお茶を誘われ、ちょうど聞きたい事があった為に承諾したのだが。
『最近、局長は何か欲しいとか言ってませんでしたか?』
との問いに返ってきたのは冒頭の台詞だった。勘の良い直斗は、たとえ12月に入ったばかりでも、成歩堂の目的を勘付いたのだろう。
「でもねぇ。あの人の望みといったら、無能な人類は全滅シロ、とか。今すぐ世界が暗闇で覆われればイイのに、とかだよ?」
「いやいやいや、そんなスケールの大きい願いではなくて!!」
地球規模の望みなんて成歩堂には到底叶えられないし、万が一実行できる力を持っていたとしても、『叶えられない』という答えは同じだ。
「ま、そっちは本気なら自力でやるだろうから、放置しておいて」
直斗もスルーしていたが、スルーの仕方が成歩堂とは大きく異なり、成歩堂は冷や汗をたらりと流した。しかし、直斗がその程度で収まる訳もない。
「確実に局長が喜ぶモノ、知ってるよ?」
ニコッと爽やかに笑うものだから。ついつい―――何となく嫌な予感を覚えつつも―――チョイチョイと招かれるまま直斗の側に寄れば。
「局長、成歩堂くんに関しちゃ古風なトコあるからね」
ここで、思わせ振りに、もっと顔を寄せる。
「裸にぐるぐるリボン、コレだよ! ああ、もしやり方が分からないのなら、俺が予行練習に付き合って―――」
「アドバイス、ありがとうございます! 参考にさせてもらいますっ!」
成歩堂は話の途中で退席するのは、非常に申し訳ないと思ったけれど。ニッコリ笑顔で(内心ビリジアンで)挨拶して立ち去った。そこまでピンクのプレゼントを贈る勇気はなかったので。
で、最終的に成歩堂が何を贈ったのかというと。
『家』には昔ダンスホールとして使われていた広い広い部屋があり。そこへ巌徒を連れてきた成歩堂は、予め運んでおいたソファに並んで座り。
電気を全て消し。
高い天井一杯へプラネタリウムを投影させたのである。
「本当は野辺山とかに行ければいいんですが、明日もお仕事ですし」
あまり知られていないが、巌徒が星空を見るのが好きだと聞いた事のある成歩堂は、人工の天体をプレゼントした。家庭用でも、今は侮れない性能のプラネタリウムが販売されている。
「本格的な天体観測はまたいつか、って事で・・僕に、星とか教えてくれませんか?」
「ナルホドちゃん・・」
金額的にも巌徒からすれば子供騙しもいい所だが。
巌徒の好きなものを考え。
巌徒とそれを分かち合いたいと思う成歩堂の気持ちは。
それこそ宇宙と引き替えにしても惜しくない位、巌徒にとっては貴重で。いつもな雄弁な巌徒も言葉少なになり。
成歩堂を抱き込んでポツリポツリと星々の話をしていった。
その後、自然な流れでピンク色の世界に流れていったのだが。
明日の事を考えて名残惜しげに身体を離そうとする巌徒に、成歩堂は半分熔けた思考でもう一つのプレゼントを贈った。
頑張って今日で仕事納めにしたので、大丈夫です、と。
毎日でも成歩堂と睦み合っていたい巌徒が、それでも成歩堂の事を慮って休み以外は、幾分多少なりとも手加減してくれているのを知っているから。
成歩堂がそう告げた瞬間、巌徒の雰囲気はさぁ・・と変わった。
嫌な疼きを齎す『黒い血』が目覚めたのではないにせよ、何かが変わったのは事実で。
「ふぅん、困ったねェ。そんなコトを聞いたら―――オサマラナイよ」
穏やかすぎる声を聞いたような気もするが。
それ以降、成歩堂の意識は判然としない。
恋人達の聖夜、の翌日。
つまりは25日のクリスマス。
警察局長室は、いつもと雰囲気が違っていた。
というより、別世界だった。
部屋の主である巌徒は、珍しくソファに座って執務をこなし。その膝には、もっと珍しいものが存在坐していた。
公の場所で二人の関係性を示す事をしない成歩堂が、ブランケットに包まり、巌徒の膝枕で熟睡しているのだ。局長室は年末(仕事納め)ともあって、普段より人の出入りが激しいのだが、全く目覚める気配がない。
何だか見ている者までほんわかさせてしまう、長閑な表情で眠り、ずっと巌徒の傍らにいる。
『裸にリボン』以上のインパクトのあるプレゼントをしたのかな、と勘繰る者も約一名いたが。
探りを入れられても。
部下がミスしても。
仕事が遅れても。
普段なら『ちょっと死んでみル?』とニコヤカに言う場面でも。
黒い所が皆無の、まるで心底人が良いように見える対応を出局時からずっと崩さず。
見るからに上機嫌で、持ち込まれる案件を次から次へと鮮やかに捌いていくので。普段からこのモードで仕事して下さいと突っ込むより前に、巌徒と直接関わらなければならない者達は、こぞって『サンタは実在するんだ!!!』と甚く感動し。
思いもがけない、成歩堂というサンタさんからのプレゼントに感謝感激雨霰で、祈りを捧げる者が続出したとか。
巌徒さんの影が薄いような・・・(汗) でも、星を吐く程甘々にしてみましたv お気に召して下さるといいのですが。
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