pioggia



「………止みませんね」

空から落ちて来る滴を眺め、成歩堂は溜め息を吐いた。先程から、何回繰り返したのか。急に降り出した雨に、閉じ込められたまま。

「直に止むでショ」

こちらは意に介した風もなく。むしろ、この状況を楽しんでいるようだ。がっちりとした体躯は運動によって鍛えられたものか。

「少し、寒くなって来ましたよ」

ぶるりと。
身を震わせ、自分を抱くように腕を回した。

サーサーと、軽い雨の音。洗われた木々の葉は、緑を濃くして。伝わり落ちる雫さえ、緑を纏っているように見える。

ふわりと背に掛かるのは、温もり。今し方、身に着けていた者の。熱と匂いを共に連れ、心をも温める。

「巌徒さん」

見上げる先には、柔らかな笑み。他の者が見たら目を疑うこと間違いなしだろう、そんな鮮やかな感情を載せて。

「これで寒くないね」

己の掛けた上着ごと抱き締める。腕の中、大人しく身を委ねる青年に込み上げる愛しさ。黒髪に顔を埋め、雨の匂いと共に彼自身を嗅ぐ。

甘い、花の蜜のようでいて。爽やかな森の香りのような。どちらにしろ、自分を捉えて離さない。そんな心地良い香り。

「何も見えないんですけど……」
「ボクだけ見てればいいよ」

くぐもった声が、可愛い異議を申し立てて来た。キミは何も見なくていい。だから、キッパリと伝える。

「巌徒さん……」
「ナニ?」

それ以上何か言うつもりなら、塞いじゃうよ?そんな思いで返事をすれば。

「貴方の顔も見れないなんて…僕は嫌です」
それに―――
「それに?」
「キスが出来ない」
ッ!
まったくこのコは…。
「我儘だね、龍一」
細い顎を掬い上げれば、挑むような目をして。
真直ぐにこちらを見上げて来た。
「キス―――しましょう?」
何回でも。
「キスしてあげるよ」
キミが音を上げるまでね。
そう言えば
「巌徒さんこそ」
チラリと流し目をくれた。
「ナニ?」
「息が続かないから……」
゛もう無理゛だなんて、情けないコト言わないで下さいね。

――――フゥ。
まったくもって、ふてぶてしいとはこの事だ。噛み付くような口付けで、可愛くない事を言う唇を塞ぐ。

熱い口腔を荒らしながら、手を滑らせる。肉の薄い臀部を撫で、次いで揉みしだく。途端、息の上がる身体を宥めすかし。グッと密着させれば、高ぶりに気付いたのか。今度は息を詰めた。擦り合わせ、刺激を与え続けると かくり。膝の力が抜けた。

「おっと」

腰を支え、トロリと潤んだ瞳を覗き込む。映る男は、笑っていた。さも楽しげに。

「龍一」

浮かれた声音は呼んだ。
腕の中の唯一の存在を。

「巌徒さん」

濡れた声音は応えた。
抱き締める唯一の存在に。
再び交わされる接吻。
サーサーと降り頻る雨の音は。


もはや、
二人の耳には――届かない。


end。


pioggia=雨。





お世話になりっぱなしのnaoさまのサイトが、目出度く1周年を迎えられたという事で、お祝いに巌ナルを頂いてきました!←お祝いを差し上げるのが、普通だろ… 
巌ナルを書いて下さり、ありがとうございますvv これからも、ストーカーします(笑)