未来を



「今でもいるんだ、鉄砲玉。知らなかったなあ」

神乃木を狙って突っ込んで来た男を、あっさりと捕えて。
場にそぐわない、感嘆とも取れる口調で話す。

特徴的な尖った黒髪、黒のスーツ、黒いネクタイ、黒い靴唯一、ワイシャツだけが白く、葬式帰りとしか思えない出で立ち。
これで瞳の色も黒ければ「アンタ、どこの黒猫だよ!」とツッコミも出来ようモノだが、生憎の『蒼』

一見、優男にしか見えないその姿で――顔には笑みさえ浮かべて――鉄砲玉(笑)の腕を、掴んでいる。

そう、掴んでいるだけ・・・なのに、被害者(加害者?)は痛みに苦悶の表情を浮かべている。
どのくらいの握力が、課せられているのか・・本人にしか解らない。

「誰の差し金か、今、喋った方がイイと思うよー?このヒト、短気だから」
拷問に、掛けられちゃうよ?ニコニコと語られる、その内容は笑えない。
狙われた男――神乃木は、呆れた声で反論した。

「ナニ言ってやがる、嬉々として拷問すんのはオマエだろうが」人の所為にするんじゃねえ。
・・・拷問自体は、本当らしい。相手は変わるようだが・・
「あっはっは、バレちゃいました?・・・大丈夫、痛くしないよ?」

最後は、掴んでる男に向けて発せられた、誘いの言葉。
(痛くない拷問なんて、あるのかよ!?)ココロの中の叫びは、口から出ることなく消えた。
パシュッ!軽い、だが抑えられた音と共に、永久に。

「あー・・・・つまんないなあ、もっと遊びたかったのに・・」
物言わぬ骸となったモノに、冷めた視線を投げかける。
興味を失った玩具を、捨て去るように何の感慨もその眼には浮かんでいない。

側にいたSPにポイッと渡し、処分するよう告げる。
ややもすれば、神乃木も、自分の命さえ奪われただろう狙撃に動ぜず、サッサと歩を進めていく。

「おいっ!まだ狙われてるかもしれないのに、傍を離れるなど・・」

SPの呼び止める声に、振り返ることもせず答える。
「もう、イイんじゃない?狙われてないカラ」
「何言って、そんなこと解る訳な・・・・」
「んー、ごめん。ぼく"ワカル"んだよねー。体質ってヤツ、かな」
便利でしょー?あっはっは

「じゃあね、神乃木サン。お仕事終わったら、遊んでよ?」
ひらひらと、後ろ手に振りながら別れの挨拶をする。
「クッ!イイ子で待ってな、コネコちゃん。存分に遊んでやるから、なァ」
「ふふ、楽しみに待ってるよ。荘龍」

そう言って黒いコネコは、街に消えて行った。


「社長!何ですかっ、あの男は。"ワカル"体質だなんて、訳の分らない事言って!」
今日だって、急に来てサッサと帰って行くし!
怒りが頂点に達したのだろう、いつもは冷静なSPが頭から湯気を出して喚いている。

(アイツは・・・逆撫ですんの得意だからなァ・・)
・・それにしてもなんでオレが、アイツの尻拭いをしなきゃいけねぇんだ。
社長ってのは偉いんじゃなかったのかい?

「いるんだよ"ワカル"ヤツってのが。一部にしか知られてないがな」
聞いたこと、ないかい?≪future recognizer≫未来を認識する男。
それがアイツ≪成歩堂龍一≫というワケさ。




キリリク「危機回避」の、前作(本編)にあたるお話です。ご厚意に甘えて、飾らせていただきましたv
「危機回避」の続編が、naoさまのサイトに掲載されていますので、今すぐgo!